「俺の、ターン」
なぜ、と問うこともできず、遊奈はツァンに申し込まれたデュエルを受け入れた。
「……《手札抹殺》、互いに手札を全て捨てて、捨てた枚数ドローします。4枚捨てて、4枚ドロー」
「5枚捨てて、5枚ドロー」
遊奈は新たに引いた4枚のカードと自分の墓地を見比べ、口の端を真横に引っ張った。
「ターン、エンド」
東雲遊奈 LP4000 手札4
ツァン・ディレ LP4000 手札5
───────────────────
フィールドに何も出さなかった対戦相手を見て、ツァンの眉間に皺が寄る。
「手加減、してるわけ?」
「本当は後攻が良かったんですよ。どうもこのデッキ、先攻で動くのは苦手みたいで」
「ならいいけど」
ツァンの指がデッキトップに触れ、カードを引き抜く。
「スタンバイ、メイン。《六武の門》を発動。続いて《真六武衆-エニシ》を召喚」
『参上
ツァンの背後に浮かぶ巨大な門を蹴破って出てきたのは、
「バトル。《エニシ》でダイレクトアタック」
鶯色の武人が跳躍する。天高く振り上げられた長刀から繰り出される袈裟斬りを、
遊奈な何もせず受け入れた。
東雲遊奈 LP4000→2300
先手を取り、相手にダメージを与えた。
にもかかわらず、ツァンの表情は険しい。眉間の皺はさらに深く歪み、眼光はさらに鋭く遊奈を刺している。
「……手加減、してるわけ? ボクの機嫌を取ろうとして」
「そんなわけじゃ……」
「さっきの《手札抹殺》で墓地に《超電磁タートル》が落ちるのを見た……《エニシ》の攻撃は止められたはず」
「《真六武衆》相手に、それこそ手加減でしょう。《ネクロ・ガードナー》ならまだしも、《超電磁タートル》を下級モンスター1体の攻撃のために使いたくはないです」
「……カードを2枚伏せて、ターンエンド」
東雲遊奈 LP2300 手札4
ツァン・ディレ LP4000 手札2
真六武衆-エニシ Atk1700
六武の門(カウンター2)
セットカード2
───────────────────
「俺のターン、ドロー」
再び遊奈の手札は5枚に回復する。しかし、その顔はあまりいい表情ではない。
指先が逡巡するように手札を行き来し、ターンを始められずにいる。
見かねたのか、ツァンの右足が小刻みに上下し始めた。ざり、ざり、と地面を踏む音が遊奈の耳にも届いた。
「……メインフェイズ、相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、手札から《
瞬間移動をするかのように飛び出した2体のモンスターを、ツァンが眺めて舌打ちする。
「レベル3、《TG-ワーウルフ》にレベル2、《TG-ストライカー》をチューニング。……集いし叡智の結晶が、新たな境地の開花を告げる! 光差す道となれ──」
光の輪と星の合計は5。溶け合う光は小柄な人間の形に束ねられ、光の中から遊奈の身長の半分ほどの少女が飛び出す。
「Go、シンクロ召喚! レベル5、《TG-ワンダー・マジシャン》!」
少女はその指先に雷を宿し、ツァンの伏せカードのうちの1枚に向けて射出した。
「《ワンダー・マジシャン》はシンクロ召喚成功時に相手の魔法、罠カードを1枚破壊します。対象はその、デッキ側のカードで」
「……妙にモンスターを出さないと思ったら。そういうことなのね……アンタ、ボクの伏せカードが見えてるんだ」
「フィールドに《六武衆》が1体だけと言われたら……嫌でも気になりますよ。《六武派二刀流》」
「ならもう少し怯え続けなさい。カウンター罠、《
雷は勾玉が発する障壁に阻まれ、跳ね返された。《ワンダー・マジシャン》は自分の力に貫かれ、砕け散る。
「……《ワンダー・マジシャン》が破壊されたので、デッキからカードを1枚ドローします。……手札を1枚捨てて、《クイック・シンクロン》を特殊召喚。《クイック・シンクロン》のレベルを1つ下げて、《レベル・スティーラー》を特殊召喚」
「……ふーん……また、《六武派二刀流》が無駄になる組み合わせね」
「レベル1、《レベル・スティーラー》にレベル4となった《クイック・シンクロン》をチューニング。集いし願いの結晶が、新たな進化への速度を
合計レベルはまたしても5。遠くの空から、大気が裂ける音が接近する。
「シンクロ召喚!レベル5、《ジェット・ウォリアー》!」
飛来した戦闘機がツァンのフィールドの上空を旋回し、《エニシ》に機銃を浴びせかける。
「《ジェット・ウォリアー》の効果を発動します。シンクロ召喚に成功した時、相手フィールドのカードを1枚……《真六武衆-エニシ》を持ち主の手札に戻します」
「ならボクも《エニシ》の効果発動。墓地の《ご隠居》と《師範》を除外して《ジェット・ウォリアー》を手札に戻す」
互いのフィールドからモンスターが消えた。遊奈はこのターンでシンクロ召喚を2回行ったとはいえ、その全てをことごとく潰されている。手札の消費が激しく、どこかで補充しなければならないだろう。
「……モンスターを伏せて、永続魔法《星邪の神喰》を発動。そして、墓地の《ADチェンジャー》を除外して効果を発動」
「《ADチェンジャー》……?」
ツァンが怪訝な顔をする。
「《ADチェンジャー》の効果により、俺のフィールドの裏側守備表示モンスター……《メタモルポット》がリバースします。お互いに手札を全て捨て、カードを5枚ドロー」
「ふーん……やるじゃない」
「ディレ先輩相手に、油断できるわけないでしょ……さらに自分のモンスターが除外されたことにより《星邪の神喰》の効果が発動、デッキから除外された光属性以外のモンスター……闇属性の《ネクロ・ガードナー》を墓地に送ります。……これで、ターン終了です」
東雲遊奈 LP2300 手札5
メタモルポット Def600
星邪の神喰
ツァン・ディレ LP4000 手札5
六武の門(カウンター2)
セットカード1
────────────────────
「ボクのターン、ドロー」
相手はできているか、と遊奈はツァンの表情を見て少し安堵した。
相手のカードを読み、そのカードを発動させないように行動する。厳しい状況だが善戦はできているようで、ツァンも自分の手札を真剣に見始めた。
「スタンバイ、メイン。《真六武衆-カゲキ》を通常召喚。効果で手札の《六武衆の御霊代》を特殊召喚」
『いェア! ついでにシナイの魂もいェア!』
門を飛び越えて現れたのは、栗皮色の鎧に黄のラインを走らせた4本腕の武人。肩から飛び出した義手には天色の甲冑を抱えている。
天色の甲冑は《カゲキ》の手を離れると、淡く輝く青い光を自身の中に宿した。
「《六武の門》の武士道カウンターを6つ取り除き、墓地から《大将軍
《六武の門》から、紫色の炎が上がった。
炎上する門が重い動きで開き、真紅の甲冑が姿を見せる。彼が刀を抜くと、門の炎はその刀へと吸い込まれてゆく。
「自分フィールドに《六武衆》が存在する時、手札の《真六武衆-キザン》を特殊召喚」
『此処に』
《紫炎》の隣に漆黒の甲冑が並び立つ。さらに《キザン》が《御霊代》に手を伸ばすと《御霊代》は自身を変形させ、《キザン》の甲冑をさらに上から覆う。
「《御霊代》はユニオンモンスター。《六武衆》に装備することで攻撃力を500上げる。……バトル」
真っ先に刀を構えたのは《キザン》だった。
すかさず、遊奈の声が割り込む。
「墓地の《超電磁タートル》を除外してバトルフェイズを終了します。さらに《星邪の神喰》の効果で光属性以外のモンスター……風属性の《ラッシュ・ウォリアー》を墓地に送ります」
「その永続魔法……毎ターン《おろかな埋葬》が使えるような感じか。……ウザい。早く潰さないと」
冷たく尖る眼光とは裏腹に、ツァンの声はあくまで冷静で、平坦だった。
「カードを1枚セットして、ターンエンド」
東雲遊奈 LP2300 手札5
メタモルポット Def600
星邪の神喰
ツァン・ディレ LP4000 手札2
真六武衆-カゲキ Atk1700
真六武衆-キザン Atk2300
大将軍 紫炎 Atk2500
六武の門(カウンター2)
セットカード2
───────────────────
(ディレ先輩は攻勢に出た。……けど、あんなのはジャブみたいなものだ)
「俺のターン」
(展開した3体のモンスターは《超電磁タートル》を使わせるための駒。あの手札2枚は“余力”。……いつ、決めにくる……?)
「ドロー」
遊奈の手札には6枚、墓地には10枚のカードがある。《ジャンクドッペル》の真髄を発揮するにも十分な手札だ。
(まずは《六武の門》。あれを潰す)
「《ジャンク・シンクロン》を召喚。効果で墓地の《ドッペル・ウォリアー》を特殊召喚。レベル2《ドッペル・ウォリアー》とレベル2《メタモルポット》にレベル3《ジャンク・シンクロン》をチューニング──」
合計レベルは、7。黒に縁取られた紅色の
「集いし涙を糧として、大輪の花が希望をもたらす! 漆黒の花よ、開け!」
「シンクロ召喚! レベル7、《ブラックローズ・ドラゴン》!」
風に乗って飛ぶ花弁がツァンのフィールドのモンスターを傷つけてゆく。
「《ブラックローズ・ドラゴン》は──」
「『シンクロ召喚成功時にフィールドのカードを全て破壊する』でしょう? 遊海とのデュエルで使ったカード」
遊奈の言葉をツァンが奪い、吐き捨てるように続けた。
「《レッド・デーモン》といい《ブラックローズ・ドラゴン》といい……全体破壊が好きみたいだけど、1回食らった手を2回も許すかっての。カウンター
「なッ──!?」
《ブラックローズ・ドラゴン》の効果は阻まれ、吹き荒れる嵐はその勢いを失った。夜の森に再び静寂が戻り、遊奈とツァンは無言で睨み合う。
「……ディレ先輩」
声のない距離に耐えきれず、遊奈が先に口を開いた。
「どうしたんですか。こんな時間に、そんな、思いつめた顔をして……」
「何が、わかるの」
平坦な声が遊奈の口を噤ませた。表情こそ変わらなかったものの、ツァンの瞳の奥には何かが燃え上がっている──遊奈はその炎に竦み、続きを言い出すことができなかった。
「人付き合いが怖い。相手が何を考えてるかわからない。相手に嫌われるのが怖いから、自分から遠ざかっていく。……そんな臆病者の嘘つきに、ボクの何がわかるっていうの」
触れれば凍る、絶対零度の炎。
その炎を言葉の矢に乗せて、ツァンは遊奈を責め立てる。
「ムカつくのよ……そんな臆病者の嘘つきのくせに、一丁前にボクのカードを読んで、戦法を読んで、ボクを倒した。それどころかボクが倒せない相手を──アンタは倒した」
「それは、ディレ先輩とタッグだったから……」
違う、とツァンの語気が遊奈を斬り伏せる。
「ボクの《六武の門》がなくても、アンタは自分で《ヤリザ》なり《キザン》なり何なり引き込んでたでしょ。デュエリストってのは
「ディレ先輩だって──」
「こんな強さじゃまだ足りない。アカデミアの生徒
ツァンの言葉に、フィールドの《キザン》と《カゲキ》の身が強張った。
「無駄話は終わり。アンタのことだから、シンクロ1回程度じゃ終わらないでしょ? さっさと次のカードを置きなさいよ。それとシンクロ召喚に使用された《ドッペル・ウォリアー》の効果は発動してるんでしょう? まずはその処理から」
「……《ドッペル・ウォリアー》はシンクロ召喚の素材として墓地に送られた時、レベル1のトークンを2体、攻撃表示で特殊召喚します」
遊奈はデュエルを続行した。まずは勝つなり負けるなりして決着を見た後でないと、ツァンの闘気は治まりそうにない。
「《調律》を発動。《クイック・シンクロン》を手札に加え、デッキの一番上を墓地に送ります」
「いいけど、《紫炎》の効果でアンタはこのターン、これ以上魔法、罠の発動ができなくなった」
「承知の上です。手札を1枚捨てて、《クイック・シンクロン》を特殊召喚。《クイック・シンクロン》のレベルをひとつ下げて、墓地の《レベル・スティーラー》を特殊召喚。自分フィールドにチューナーがいるので、墓地の《ボルト・ヘッジホッグ》を特殊召喚」
ぬいぐるみのような風貌の《ドッペル・ウォリアー》の横に巨大なテントウムシ、寸胴のガンマンと針の代わりにネジを生やしたハリネズミが並ぶ。ツァンはモンスターで埋まった遊奈のフィールドを冷たい目でひと舐めし、身構えた。
「レベル1、《ドッペル・トークン》、《レベル・スティーラー》とレベル2《ボルト・ヘッジホッグ》に、レベル4となった《クイック・シンクロン》をチューニング! 集いし闘志が、怒号の魔神を呼び覚ます……光差す道となれ!」
合計レベルは、8。
4体のモンスターが呑まれた光の輪から、4本の腕が這い出した。
「シンクロ召喚!レベル8、《ジャンク・デストロイヤー》!」
4本腕の機械の戦士は、その腕のうちの3本をツァンのフィールドに向けた。肘のあたりから火花が漏れ出している。
「自身の効果で特殊召喚された《ボルト・ヘッジホッグ》は除外されます……モンスターが除外されたことで《星邪の神喰》が発動し、地属性以外のモンスター……闇属性の《ゾンビキャリア》を墓地へ。そして、《ジャンク・デストロイヤー 》はシンクロ召喚成功時に、シンクロ召喚に使用されたチューナー以外のモンスターの数までフィールドのカードを破壊します。《六武の門》とセットカード、そして《大将軍 紫炎》を破壊」
「《大将軍 紫炎》の効果で、《カゲキ》を身代わりに破壊を
《ジャンク・デストロイヤー 》肘の先が分離し、3枚のカードを打ち砕いた。しかし《カゲキ》が《紫炎》の前に躍り出て盾となる。
「バトルフェイズ、《ジャンク・デストロイヤー 》で《大将軍 紫炎》を攻撃。『デストロイ・ナックル』」
《ジャンク・デストロイヤー 》は再装填された拳を振るい、《大将軍 紫炎》を殴りつけた。甲冑にヒビが入り、《紫炎》の全身が粉々に四散する。
ツァン・ディレ LP4000→3900
「メインフェイズ2、墓地の《レベル・スティーラー》の効果を発動。《ジャンク・デストロイヤー 》のレベルを1つ下げ、墓地から特殊召喚します。さらに魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動。手札のモンスターを墓地に送り、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚します。《幻獣機オライオン》を墓地に送り、《ジェット・シンクロン》を特殊召喚。《幻獣機オライオン》が墓地に送られたので、フィールドにレベル3の《幻獣機トークン》を特殊召喚します」
《ジャンク・デストロイヤー 》の周囲にテントウムシと手足の生えたジェットエンジン、さらに小型の飛行機のようなモンスターが現れた。《ドッペル・トークン》と合わせて、またしても遊奈のフィールドが全て埋まる。
「レベル3《幻獣機トークン》とレベル1《レベル・スティーラー》に、レベル1の《ジェット・シンクロン》をチューニング! 集いし夢の結晶が、新たな加速への地平を開く!光差す道となれ……!」
レベルの合計は5。光の輪は帯状に解け、フィールド中に高速道路のような光の筋を形成する。
「シンクロ召喚! レベル5、《アクセル・シンクロン!》」
その光の筋をたどって、赤いバイクが遊奈のフィールドを走り抜けた。遊奈はデッキからカードを1枚抜き取り、過ぎ行くバイクに投げつける。同時にそのバイクが飛ばしたカードを受け取った。
「《ジェット・シンクロン》をシンクロ素材にしたシンクロ召喚に成功した時、デッキから《ジャンク》モンスターを手札に加えることができます。この効果で《ジャンク・シンクロン》をサーチ。《アクセル・シンクロン》は1ターンに1度、デッキの《シンクロン》を墓地に送って、そのレベル分だけ自身のレベルを上下させることができる……レベル5、《クイック・シンクロン》を墓地に送ることでレベルを5下げます」
「レベル0。データ上はレベル1扱い、ね……」
「はい。《ジャンク・デストロイヤー》のレベルを1つ下げ、《レベル・スティーラー》を特殊召喚。レベル1《レベル・スティーラー》にレベル1扱いの《アクセル・シンクロン》をチューニング! 集いし夢の結晶が、新たな速度の地平へ誘う!光差す道となれ……!」
《アクセル・シンクロン》のエンジンが唸りを上げ、光の道の彼方へ消える。
「シンクロ召喚! レベル2、《フォーミュラ・シンクロン》!」
代わりに現れたのはレースカーを思わせる四輪の車だった。《フォーミュラ・シンクロン》はドリフトを決めて遊奈のフィールドに停車し、遊奈に1枚のカードを飛ばす。
「《フォーミュラ・シンクロン》のシンクロ召喚成功時に、デッキからカードを1枚ドローします。……《貪欲な壺》を発動。墓地の《クイック・シンクロン》2枚と《ジャンク・シンクロン》2枚、それに《アクセル・シンクロン》をデッキに戻し、カードを2枚ドロー」
《貪欲な壺》を見たツァンの表情が少し歪んだ。感情は抑え込めても、デュエルの戦況は顔に出てしまうらしい。
一時は1枚まで減っていた遊奈の手札が、今は4枚に回復していた。
「……カードを2枚セットして、ターンエンド」
東雲遊奈 LP2300 手札2
ジャンク・デストロイヤー Atk2600
フォーミュラ・シンクロン Def1500
星邪の神喰
セットカード2
ツァン・ディレ LP3900 手札2
真六武衆-キザン Atk2300
───────────────────
「ボクのターン、ドロー。《強欲な壺》で2枚ドロー。《六武衆の結束》を2枚発動。さらにフィールド魔法、《六武院》を発動」
「……ウソでしょ……」
ツァンが引いたのはおそらく《結束》を2枚だろう。前のターンに使わない理由がないカードだ。
「装備状態の《六武衆の御霊代》を特殊召喚。さらに《真六武衆-ミズホ》を通常召喚」
『御意』
《キザン》が纏う《御霊代》が外れ、モンスターとして再びフィールドに舞い戻る。さらにツァンの背後から朱色の甲冑に身を包んだ長髪の武人が飛び出し、フィールドに着地する。
「武士道カウンターが2つ溜まった《六武衆の結束》を墓地に送り、2枚ドロー。もう片方の《結束》も墓地に送り、2枚ドロー」
ツァンの手札も4枚。通常召喚を消費しているとはいえ、攻め手には十分だ。
「《ミズホ》がフィールドにいる時、《シナイ》を特殊召喚」
朱色の武人に並び立つように、水色の武人がフィールドを踏んだ。
「……ならここで、《フォーミュラ・シンクロン》の効果を発動します。 相手メインフェイズに、シンクロ召喚を行う……!」
「出すのはどうせ、《ミズホ》の効果を警戒した《スターダスト》でしょ。……早くして」
「あっ……はい。レベル6の《ジャンク・デストロイヤー 》とレベル2の《フォーミュラ・シンクロン》で《スターダスト・ドラゴン》をシンクロ召喚します」
遊奈のフィールドに颯爽と降り立った銀色の龍をものともせず、ツァンはさらに自分のプレイを進める。
「フィールドに《六武衆》がいるとき、《六武衆の師範》を特殊召喚。フィールドに《六武衆》が2体以上いる時、《大将軍 紫炎》を特殊召喚」
白髪を総髪にした隻眼の武人と、マントを靡かせる真紅の甲冑がツァンの両隣に並ぶ。今度はツァンのフィールドが、モンスターで満ちた。
「《六武院》が発動されてから召喚、特殊召喚された《六武衆》は4体。よって《六武院》の武士道カウンターは4つ。相手フィールドのモンスターの攻撃力は、武士道カウンター1つにつき100下がる……今の《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力は、2100……だけど、まずは《ミズホ》の効果発動。《シナイ》をリリースして、《スターダスト・ドラゴン》を破壊」
「なら《スターダスト・ドラゴン》をリリースして、カードを破壊する効果を無効にして、破壊します……!」
《ミズホ》が投げつけた《シナイ》は不可視の障壁に弾かれ、《ミズホ》共々砕け散る。しかし、
「《シナイ》がリリースされたことで墓地の《キザン》を手札に加えて、特殊召喚。バトルフェイズ、《大将軍 紫炎》でダイレクトアタック」
「……墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外して、攻撃を無効にします」
「《師範》でダイレクトアタック」
「墓地の《SR三つ目のダイス》を除外して攻撃を無効に……」
「《キザン》でダイレクトアタック」
「《三つ目のダイス》が除外された時に《星邪の神喰》で墓地に送った《ネクロ・ガードナー》を除外して攻撃を無効にします……!」
「《キザン》でダイレクトアタック」
「墓地の《
「《キザン》で《シャドーベイル》を攻撃。《御霊代》でダイレクトアタック」
「く……ライフで受ける……!」
東雲 遊奈LP2300→1800
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「エンドフェイズに、《スターダスト・ドラゴン》はフィールドに帰ってきます……」
再び舞い降りる銀色の龍。しかしツァンはその姿を一瞥して吐き捨てた。
「《六武院》発動後に召喚、特殊召喚された《六武衆》は5体。《六武院》はその数×100ポイント、相手フィールドのモンスターの攻撃力を下げる。今の《スターダスト・ドラゴン》は、《紫炎》でも《師範》でも《キザン》でも破壊できる」
ツァンの猛攻は、なんとか耐えきった。しかし遊奈の墓地に眠る攻撃を止めるカードは、全て使い切ってしまった。
奥歯を噛み締め、遊奈は手札と場を見渡して考える。
この状況を覆す手が、自分のデッキに残されているのかを。
東雲遊奈 LP1800 手札2
スターダスト・ドラゴン Atk2000
星邪の神喰
セットカード2
ツァン・ディレ LP3900 手札0
真六武衆-キザン Atk2100
六武衆の御霊代 Atk500
六武衆の師範 Atk2100
大将軍 紫炎 Atk2500
真六武衆-キザン Atk2100
六武院(カウンター5)
セットカード1
───────────────────
「俺の……ターン」
遊奈の声に焦りが出てきたのは、遊奈自身にもわかっていた。
完全に劣勢である。簡単に覆すことができそうにない。
「ドロー」
遊奈の手札3枚。展開が可能な枚数ではある。
(……相手フィールドに《紫炎》がいる限り、こっちは魔法、罠カードを1ターンに1枚しか発動できない……破壊しようにも、《紫炎》はほかの《六武衆》を身代わりに破壊を免れる効果がある……攻撃表示の《御霊代》を4400以上の攻撃力のモンスターで攻撃すれば……いや、必要なパーツが揃ってない。ここは、守りを固めるべきかな……)
「《ジャンク・シンクロン》を通常召喚。効果で墓地の《チューニング・サポーター》を蘇生します」
エンジンを背負った小型の人形がトテトテと走り、ゴミ箱の中からフライパンを探し当てる。フライパンは裏返ると手足を生やし、《ジャンク・シンクロン》の横に並んだ。
「《チューニング・サポーター》を対象に《機械複製術》を発動。《チューニング・サポーター》を2体、特殊召喚します」
煤けたフライパンがさらに2つ増える。
「レベル2扱いの《チューニング・サポーター》にレベル3《ジャンク・シンクロン》をチューニング! 集いし思いの結晶が、未来の叡智を呼び起こす……光差す道となれ!Go、シンクロ召喚!」
レベルの合計は5。遊奈のフィールドに降り立ったのは、白衣姿で眼鏡をかけた長身の男だった。
「レベル5、《
「ここにきてドロー加速……早くしなさいよ、こっから長いんでしょ?」
「……まあそうですけど……自分のデッキの一番上を墓地に送って、墓地の《グローアップ・バルブ》を特殊召喚。レベル1、《チューニング・サポーター》とレベル1、《グローアップ・バルブ》をチューニング! 集いし思いが、時空を超える力を与える!光差す道となれ……!」
次に現れたのは、プロペラを回して浮遊する赤いトンボ。
「Go、シンクロ召喚!レベル2、《TG-レシプロ・ドラゴンフライ》!」
しっかりと《レシプロ・ドラゴンフライ》が召喚されたことを確認して、遊奈はデッキから2枚のカードを引き抜く。
「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材になった時、さらに《ハイパー・ライブラリアン》が存在する状態でシンクロ召喚に成功した時、デッキからそれぞれカードを1枚ドロー……さらに墓地の植物族モンスター《グローアップ・バルブ》を除外して《スポーア》の効果を発動します。除外したモンスターのレベル分だけ自身のレベルを上げ、《スポーア》を特殊召喚……モンスターが除外されたので《星邪の神喰》で地属性以外のモンスター……風属性の《ラッシュ・ウォリアー》を墓地に送ります。レベル2《レシプロ・ドラゴンフライ》とレベル2扱いの《チューニング・サポーター》にレベル2《スポーア》をチューニング! 集いし願いが、紺碧の海原に
水しぶきをあげて、鮮やかな珊瑚色の龍が尾を振るった。《瑚之龍》は牙が輝く口を開いて、ツァンのフィールドのカードを狙う。
「《ハイパー・ライブラリアン》と《チューニング・サポーター》で2ドロー……そして《瑚之龍》の効果発動! 手札を1枚捨て、相手フィールドのカードを一枚、破壊──」
「罠発動、《貪欲な瓶》。墓地の《六武の門》、《六武衆の結束》を2枚、それと《真六武衆-カゲキ》、《紫炎の狼煙》をデッキに戻して1枚ドロー。《瑚之龍》の効果は対象不在で不発ね」
「……くう、《ハイパー・ライブラリアン》のレベルを1つ下げて《レベル・スティーラー》を特殊召喚……レベル1《レベル・スティーラー》にレベル6《瑚之龍》をチューニング! 集いし光が、永遠に輝く命を生み出す……光差す道となれ!」
合計レベルは、7。遊奈に巻きつくように降り立った緑のドラゴンは、遊奈のフィールドを柔らかな光で満たした。
「シンクロ召喚! レベル7、《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》!」
「……一体何匹いるのよ、シンクロモンスター。ボクが見たことないのまで出てきた……」
「《ハイパー・ライブラリアン》の効果、さらに《瑚之龍》が墓地に送られた時の効果で2枚ドロー……そして《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》の効果を発動します。フィールド魔法を全て破壊し、自分のライフを1000回復。さらに、デッキからフィールド魔法を手札に加えます」
東雲 遊奈LP1800→2800
「守備力3000のうえに効果も盛りだくさん……インチキ効果も大概にしろ、っての」
悪態をつきながらも、ツァンは《六武院》のカードを墓地に置いた。《六武院》の効果は消え、《スターダスト・ドラゴン》と《ハイパー・ライブラリアン》の攻撃力が元に戻る。
「バトルフェイズ、《スターダスト・ドラゴン》で《六武衆の御霊代》を攻撃!」
《スターダスト・ドラゴン》の放つ白い光線が《六武衆の御霊代》を貫いて消しとばした。ツァンのライフポイントが大幅に削れる。
ツァン・ディレLP3900→1900
「《ハイパー・ライブラリアン》で《六武衆の師範》に攻撃!」
《ハイパー・ライブラリアン》が放つ稲妻が白髪の武人を打ち据えた。白髪の武人は武器を取り落とし、そのまま粉々に砕け散る。
ツァン・ディレLP1900→1600
「カードを2枚伏せて……ターン、終了です」
東雲遊奈 LP2800 手札6
スターダスト・ドラゴン Atk2500
TG-ハイパー・ライブラリアン Atk2400
エンシェント・フェアリー・ドラゴンDef3000
星邪の神喰
セットカード4
ツァン・ディレ LP1600 手札1
真六武衆-キザン Atk2100
大将軍 紫炎 Atk2500
真六武衆-キザン Atk2100
───────────────────
草木の揺れる音や、生物の鳴き声も聞こえない。
完全に静寂に支配された空間で、遊奈はツァンと対峙していた。
俯いたままのツァンは自分のターンを始めようともせず、デッキの上に手をかける様子すらない。
「……手札6枚、か」
無音の世界を突き破って、ツァンの声が遊奈の耳を揺らした。
「……勝てないんだあ、結局。あんだけモンスター並べて、墓地に落ちた攻撃止めるカードも全部使わせて、次のターンで決着って時に……こっちが優勢だったはずなのに、気がつけば劣勢になって、追い詰められて、負けるんだ……デュエリストって、
「ディレ先輩……?」
「
頰を伝う雫が、デュエルディスクに落ちる。
「なんで勝てないの、なんでボクが……“六番”なんて呼ばれなきゃいけないのよ!! どれだけ必死に頑張っても! 亮クンに、吹雪クンに、成功クンに……アホウガにも、ナターシャにも……!! それだけじゃない……遊城とかいう一年にも、遊海にも、アンタにも、勝てない……」
「そんな……ディレ先輩は、強いじゃないですか……」
「その言葉がボクを縛り付けるの!……『強い子』って言われたら、弱いツァン・ディレにはなれない……『賢い子』って言われたら、バカなツァン・ディレにはなれない……周りに期待される分、期待に応えなきゃいけない……こんなところで負ける弱いボクじゃ……こんなところで弱音を吐いてる弱虫じゃあダメなのに……」
ツァンは地面に膝をつき、両手で顔を覆う。その隙間から涙の粒がこぼれ落ち、デュエルディスクを伝って地面を濡らした。
「……先輩……」
「なに?お決まりの『一人で抱え込むんじゃない』とか『負けてもいいんだよ』とか『君には僕がいるだろう』とかいう口説き文句? 『君の苦しみを、僕にもいっしょに背負わせてくれ!』とか……ただの男が言っても吐き気がするけど、アンタが言うと一層薄っぺらいね」
ぐ、と遊奈は言葉に詰まる。
「図星でしょ」
「……先輩一人が背負うには、あまりにも荷が重すぎる……」
「この力、精霊を見る力は……悪用すれば、人の魂を奪うことだってできる。……この前廃寮で騒いでた、“闇のゲーム”みたいにね。だから精霊が見られるデュエリストは、デュエルで負けちゃいけないの……もし“闇のゲーム”で負けたら、この力を奪われて、悪用されて……きっと、
揺らいだ。
“それ”が何かは、遊奈には計り知ることができなかった。
「アンタがさぁ……東雲。アンタがボクより強いんなら、ボクの責任全部背負ってよ。ボク一人が背負えるものじゃないっていうなら、アンタが代わりに背負ってよ。……背負えるもんなら、ボクの責任とボクの
ツァンの背後の森。正確には、その森に落ちる影。光届かぬ場所。闇──
闇が、ツァンと遊奈を包み込んだ。
「……ディレ、先輩……?」
「アンタが真のデュエリストだってんなら……ボクより強いデュエリストだってんなら……勝ってみなさいよ。魂を賭けた、“闇のゲーム”に」
断崖絶壁、だった。
2人のプレイヤーが立っているのは、底の見えない奈落に生えた2つの塔。どちらも一部が崩れ落ち、その面積はツァンのほうが少し狭い。
その塔が、面積が表しているのはおそらくプレイヤーの
ダメージを受けるたびに、足場が崩れてゆくのだろう。
「ボクのターン」
決着は未だ、ついていない。
「ドロー」
どうしてこうなった。
どうも、埜中です。今夜中の2時です。書いてると楽しくなってきてついつい夜更かししてしまいました。一区切りついたので投稿しようと思います。
……どうしてこうなった。……いや、私の趣味なんですけど。
強い女の子が耐えきれなくなる瞬間って大好きなんですよね。しかしよりによってそれを、人気の高いツァンにやらせるか……叩かれても知らないぞ、明日の私。
最初は闇のゲームに2人とも巻き込まれるって感じのを書きたかったのですが、私の脳内のツァンちゃんがなぜかこんなムーブをしてくれやがりました。どう収拾つければいいの……
そして久しぶりの《ジャンクドッペル》ですが、遊奈くんのデッキがどんどんロマン化していく事件が。《星邪の神喰》とか初手に引かなきゃ事故るだけだし……ジャンドにネクガもダイスも、シャドーベイルもタートルも入らないでしょ……
シンクロモンスターの数もそろそら15超えそうですね。もう超えたかな?というか途中からドローしまくってましたけど、遊奈くん今デッキ何枚あるのかなーッ!?
……はい。迷走してます。次回、これをまとめられるかどうか……
次はあんまり長くならない気がします。六武衆とジャンドのデュエルは長引かせるとデッキ切れした方の負けなので……
では最後に、こんな駄文を読んでくださった皆様に感謝しつつ、筆を置きたいと思います。皆様にささやかな幸せがありますように。
2018年 10月某日 埜中 歌音