「私のターン! 《エトワール・サイバー》を召喚! さらにカードを1枚セットしてターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!」
湖の上に、ボートが2つ揺れていた。
1つには明日香、もう1つには十代が立っていた。不安定な足場で、2人とも器用にバランスを取っている。
「……あら、余所見なんて余裕ね」
そう言われて、遊奈は前方の相手に注意を戻した。
「ボクを相手にしてるんだから、もっと緊張しなさいよ」
「……してますよもちろん………」
不敵に口の端を吊り上げるツァン。腕を組んで胸を張り、仁王立ちするその姿からは凄まじいほどの自信が伺えた。
「“
3年生の中でも、特にデュエルに優れた7人に与えられる2つ名、“七星の守人”。ツァンはその第六席、つまりは3年生で6番目の実力をもつということだ。
だがツァン本人は、その呼び方に顔をしかめる。
「……第六席って言い方、あんまり好きじゃないのよね。たしかに亮クンや成功クンは強いけど、その下はほとんど差はないのよ。なんでボクがアイツらの下に立たなきゃいけないんだか……とくにアホウガには負けたくないわ……」
「色々あるでんすね………」
表面では聞き流すフリをしながら、遊奈は心で呟いた。
(“七星の守人”第一席“
“七星の守人”はそのあまりの有名さゆえに、かなり踏み込んだ内容の噂まで出回ってしまっている。具体的には、名前、誕生日、血液型……ひどい者は使用デッキに至るまで(そもそも“
(第二席のことだけ、誰も知らないんだよな……さすがに、“七星の守人”の構成員のディレ先輩なら知ってるか……?)
口をついて質問が出そうになったが、今訊くべきことではないと遊奈は言葉を飲み込む。代わりに、
「光栄ですよ、学園トップクラスのデュエリストとデュエルできるなんて」
「薄っぺらいわね」
吐き出した遊奈の言葉を、ツァンはぴしゃりと一蹴した。
「初めて見たとき、思った。アンタが他人に見せる“アンタ”は本物の“アンタ”じゃない。薄っぺらい表情と薄っぺらいお世辞、薄っぺらい優しさを被って姿を隠した本物の“アンタ”は、腹の中で何を考えてるの?」
「……………………………」
突然、目の前に刃をつきつけられた感覚に陥る遊奈。
(な、……何だ? この人はいきなり何を…………)
「誰からも嫌われず、かといって誰にも好かれようとはしない。初対面の人間にも友好的に接しようとする割には、親しい人間とも距離を置こうとする。この一週間で“友達”が随分増えたみたいだけど、同時に彼らと仲よくなるのを遠慮してるように見えるわよ?」
(…………なぜだ)
「そんなことありませんよ。遊城に丸藤、三沢、笹嶋さん、イエローの同期達と、それに貴方がた……友達と仲よくなるのは俺だって嬉しいですから」
「アンタは本当にそう思ってるの?」
「俺は……」
(なぜだ……………)
「アンタじゃなくて本物の“アンタ”よ。“アンタ”の本心は、どう思ってるの?」
(
ツァンの口ぶり、それは常日頃から遊奈を観察していないとわからないようなことを話していた。
(本心を晒したくない、だから俺は他人に必要以上に近づかないようにしている……俺が腹の中で何を考えているか知られたくないから、相手が腹の中で何を考えているか知りたくないから………)
止まない独り言を綴りながら、遊奈はなんとか笑顔を浮かべようとする。だが裏腹に、遊奈の表情はどんどん険しくなっていった。
「……それが本物の“アンタ”の顔なんだ」
勝ち誇った、そしてどこか見下したような目でツァンは言った。その視線が、言葉が、遊奈に突き刺さる。
「俺は…………」
(どうする、どうする……………)
いつもはすぐに湧いてくる建前が、一言たりとも出てこない。
「思ったより……酷い顔ね」
「お、俺ーーーーー」
「もういいよ、ツァンちゃん!」
悲痛な声が、夜空を切り裂いた。
遊海のものだ。
「ご、ごめんなさい、遊奈……ツァンちゃんに頼んだの、私なの……遊奈くん、たまにすごく悲しそうな顔するから……いつも私が話しかけたらお喋りしてくれるし、デュエルを申し込んでも嫌な顔せずに受けてくれるけど、無理して合わせてくれてるんじゃないかと思って…………」
震えながら、しかし目だけはまっすぐ遊奈を見つめながら、遊海は少しずつ言葉をこぼしていった。
その言葉を聞いて、遊奈の頭が一気に冴えていく。混乱状態が嘘だったかのように、正常な思考がすぐに戻った。表情が一瞬だけ完全に消失し、やがてその顔に戸惑ったような笑顔が浮かぶ。
「大丈夫だよ、笹嶋さん。無理するくらいなら無視してるさ。笹嶋さんと喋るのもデュエルするのも俺が楽しいからだ。無理なんてしてない」
遊海の顔に笑顔が戻る。
「じゃあーー」
「だけど、」
遊海の言葉を遮って、遊奈は困ったような笑みを浮かべる。
「距離を置こうとしてるのは事実だ。俺は人間と接することがあんまり得意じゃないから。誰だって、知られたくないことや隠したいことがあるだろ。だから、俺は君にあまり踏み込んでほしくないし、君にも踏み込まない。そのくらいのわがままは聞いてくれ」
「あ……うん」
その答えを聞いて、遊奈はまた優しく微笑んだ。
「……お姉様、」
遊海に聞こえないように、雪乃がツァンに囁く。
「やりすぎよ」
「うん、ボクもそう思う。ちょっとやりすぎちゃった……」
ツァンは見定めるような目で遊奈を睨む。
「……まあ、アイツは平常に戻ってるし大丈夫なんじゃない?」
遊奈は、先程の鬼神のような表情ではなく、いつもどおりのどこか弱気な、困ったような表情をしていた。
ツァンが日常的に“監視”していた“東雲遊奈”の顔に。
「アンタ、」
「ごめんなさい」
ツァンの言葉を遮って、遊奈が頭を下げた。
「仰る通り、俺は薄っぺらい嘘つきです……だから、許してください」
「……え?」
「嘘をつくななんて言われても、俺にはそんなことはできません。だから、薄っぺらい嘘つきでいることを許してください。もし先輩のお気に召さないのであれば、俺は2度と先輩の前には現れません。……もし、許してくださるのなら、俺は先輩と友達になりたい」
「…………」
ツァンは遊奈を睨む。
見定めるように。見極めるように。
その口が、おもむろに開いた。
「いいわ」
遊奈は何も言わなかったが、その目が一瞬揺らいだ。
「ただし、」
続けて、ツァンは自分の左手を示す。正確には、そこに装着されているデュエルディスクを。
「デュエルよ。アンタが私の友達にふさわしい相手かどうかはデュエルで判断する。アンタの全力を、本当の“アンタ”を見せてみなさい」
「……望むところです。俺も、貴女には興味がありますから……“七星の守人”の力、見せてもらいますよ」
にやり、と口角をあげて笑う遊奈。いつの間にか、その目には光が戻っていた。
ツァンとのデュエルが楽しみだ、と言わんばかりに。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「先攻は譲るわよ」
お互いに手札5枚を引いたところで、ツァンがそう言った。
「……いえ、先輩どうぞ」
対応には迷ったが、遊奈は抗えるだけ抗う方針をとることに決めた。遊奈のデッキにとって先攻は不利だ。後攻で回すほうが倍は動きやすいだろう。
だが、ツァンも引き下がらない。
「遠慮しなくてもいいわ。それとも、手を抜いてでもボクに勝てるって言いたいの?」
「後攻ドローとバトルフェイズ欲しいだけです」
「……アンタもワンショット勢か……」
「……先輩もですか……ここは公平にデュエルディスクに任せましょう」
「そうね」
2人がそれぞれデュエルディスクのボタンを押すと、ディスクのランプの1つが交互に点滅する。
点滅が止まったのは遊奈のディスクだ。少し不満そうな顔をしながら遊奈は「俺の先攻」と宣言する。
「……このデュエル、あまり長くはならないわね……」
2人の様子を横で見ていた雪乃が呟いた。その言葉に、遊海は首を捻る。
「なんで?」
「東雲のボウヤのデッキは展開力を重視したデッキらしいじゃない。お姉様のデッキも同じ、展開力重視のデッキ……ダメージを与えることに特化したデッキ同士のデュエルは短期決戦が多いのよ……」
「……ワンキル対ワンキルってこと?」
「そう。並のデュエリストならお姉様相手に2ターン目を行うことすら難しいのよ……」
遊奈は自分の手札を見る。微妙な顔からため息がこぼれた。
「モンスターとカードを1枚ずつセットして、ターンエンド」
東雲遊奈 LP4000 手札3
セットモンスター1
セットカード1
「静かな初動ね……これは東雲のボウヤ、今回のデュエルは厳しいかも……」
「えっ、もう!?」
「遊海、お姉様の顔を見てごらんなさい」
「……普通だよ?いつもより優しい顔」
「お姉様は相手を倒す算段がついたとき、眉間のシワが消えるの」
「嘘、もう揃ってるの!?」
「ボクのターン、ドロー!」
ツァンの細い指が、手札のカード1枚を掴んだ。
「魔法カード、《強欲な壺》! デッキからカードを2枚ドローする!」
手札は7枚。ワンショットキルのデッキで7枚の手札は脅威以外の何者でもない。
「永続魔法、《六武衆の結束》! 永続魔法、《紫炎の道場》! 永続魔法、《六武の門》! 3枚を同時発動するわ!」
ツァンの背後に、和風の大きな門をもつ建物が現れる。その中心には円形の紋章があった。
「ろ……っ、《六武衆》!?」
思わず遊奈は声を張り上げてしまった。
雪乃も頭を振る。
「あれは、東雲のボウヤ大ピンチね……」
「え、あの永続魔法そんなに強いの?」
「ボウヤの顔を見ればわかるでしょ。とくに《六武の門》なんて制限カードよ……一時期、“最強”と呼ばれていた武士団、その力の中心を担うカード。あの3枚は《六武衆》が召喚、特殊召喚される度に武士道カウンターを乗せて、取り除くことで様々な効果を発動するのよ」
ツァンの指は次なるカードへと伸びる。
「魔法カード、《紫炎の狼煙》! デッキから《真六武衆-カゲキ》手札に加え、そのまま召喚!」
紫の煙が立ち上る。その煙が合図だったかのように門が重苦しい音を立てて開いた。その中から、全身を鎧で固めた武士が現れる。黄色い鎧の武士は両手、そして機械の腕それぞれに1本ずつ、4本の刀を構える。同時に門の灯火が1つ灯り、紋章の半分が鈍い光を放った。
「いェア! 俺、参上!」
ヒュンヒュン、と4本の刀を巧みに操る《カゲキ》。
「《カゲキ》、早速働いてもらうわよ! 《カゲキ》は召喚に成功したとき、手札の《六武衆》を特殊召喚できる! 来なさい、《シナイ》!」
「オラ、姫のお呼びだ《シナイ》! 嫁とイチャコラやってねェで出てきやがれェーーッ!」
《カゲキ》の叫びで、再び門が重苦しく開く。今度は水色の鎧を着た筋骨隆々の大男だ。
「…………」
《シナイ》の登場と同時に門の灯火がさらに増え、紋章のもう半分も光も灯した。
「《六武の門》の効果を発動! このカードと《六武衆の結束》に乗っている武士道カウンターを全て、合計4つを取り除くことでデッキから《六武衆》を手札に加える! ボクは《六武衆の師範》を手札に加えるわ!」
《六武の門》カウンター2→0
《六武衆の結束》カウンター2→0
門の紋章が光を失い、灯火2つが消える。どうやら灯火が《六武の門》、紋章の半分が《六武衆の結束》の武士道カウンター1つ分を表しているようだ。
「さらに手札の《真六武衆-ミズホ》の効果! フィールドに《シナイ》がいる場合にこのカードは特殊召喚できる! 《ミズホ》、絆の強さを見せつけてやりなさい!」
また、門が重苦しく開く。赤い鎧で身を固めた女武者は《シナイ》の隣に並び立った。《シナイ》と《ミズホ》、2人には同じ意匠のペンダントが見える。
「……」
心なしか、《シナイ》の頬が朱くなった。その様子を見た《カゲキ》が唇を尖らせる。
「オイ、ここは戦場だぜェ?女にうつつを抜かしてねェで戦いに専念しろィ」
「それだから貴様は女に嫌われるのだ」
「あァ!? 《ミズホ》てめェ今……」
「はい、お喋りはそこまで。《シナイ》、《ミズホ》。いくわよ!」
「「御意」」
ツァンの一声で《ミズホ》と《シナイ》はそれぞれの武器を構える。
「《真六武衆-ミズホ》は1ターンに1度、フィールドの《六武衆》をリリースしてフィールドのカード1枚を破壊できる! 《シナイ》をリリースしてそのセットカードを破壊!」
《ミズホ》は《シナイ》を抱えると、凄まじい力で投げ飛ばした。《シナイ》はその手の金棒を構え、遊奈のフィールドのセットカードを狙う。
「……く、チェーン発動、《針虫の巣窟》! 自分のデッキトップを5枚墓地に送る!」
《シナイ》の金棒が振り下ろされる寸前、セットカードから飛び出した芋虫が5匹、体から生えた針を遊奈のデッキに突き刺した。
「……フリーチェーンか……でも、これでアンタのフィールドにバックカードはなくなった! 魔法カード、《戦士の生還》! 墓地の《真六武衆-シナイ》を手札に戻す! さらに《シナイ》の効果! フィールドに《ミズホ》がいる場合、手札から特殊召喚できる!」
門が開く。水色の巨漢が再び現れ、門の2つめの灯火が灯り、紋章が光を取り戻した。
「ボクは《六武の門》の効果を発動! このカードと《六武衆の結束》の武士道カウンターを合計4つ取り除き、デッキから《真六武衆-キザン》を手札に加える!」
《六武の門》カウンター2→0
《六武衆の結束》カウンター2→0
「えっ!? 《六武の門》ってターン1じゃないの!?」
「言ったでしょう、遊海。あのカードは制限カードよ。《六武衆》の展開力を使えば、武士道カウンターは大量に溜まる……素早い展開と息切れしないスタミナ、《六武衆》はその2つが同居したデッキなの」
驚きの声をあげる遊海と、冷静に解説をする雪乃。観戦者としてはかなり優秀なコンビだ。
「手札の《真六武衆-キザン》の効果発動!自分フィールドに《キザン》以外の《六武衆》がいるとき、手札から特殊召喚できる!」
さらに、門が開く。黒い鎧を纏う武士が、腰に携えた刀を引き抜いた。
「いざ、参る!」
「これで、《紫炎の道場》の武士道カウンターは5つ!《紫炎の道場》を墓地に送ることでデッキからレベル5以下の《六武衆》特殊召喚するわ! レベル4、《真六武衆-エニシ》を特殊召喚!」
さらに、門が開く。緑の鎧の武士は握った刀で天を差し、叫んだ。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!悪を倒せと我を呼ぶ!聞け、敵兵ども! 我こそは六武衆が先鋒にして最強の兵、《真六武衆-エニシ》なるぞ!」
登場を決めて「ふふん……」と得意げな《エニシ》に、《カゲキ》が口を挟む。
「敵兵いねェよ」
「なっ……!?」
モンスターが1体だけセットされた遊奈のフィールドを見て、その場で凍りつく《エニシ》。《カゲキ》は「バカじゃねェの!!」と盛大に笑い、《キザン》は哀れみの視線で《エニシ》の肩を叩く。《ミズホ》は呆れ顔で目を逸らし、その隣で《シナイ》だけが無反応を貫いていた。
「……なんだか、面白いモンスター達だね!」
その様子を見ていた遊海が笑顔で言った。
「……まあ、彼らの掛け合いは見ていて面白いけど……精霊の見えない人にはあそこまで細かくは見えないから、あまり人前では言わないように……」
雪乃は声を低くして遊海に言い聞かせる。ちらりと遊奈を見ると、遊奈は驚愕の表情で固まっていた。
(……見えてるの!? それとも、展開力に驚いているだけ……?)
雪乃は注意深く遊奈を観察する。
(もし見えてるとしたら、彼は
ひとまずは、そう判断する雪乃。ツァンに視線を戻すと、デュエルはさらに進もうとしていた。
「ボクは《六武衆の結束》の効果を発動! このカードを墓地に送り、乗っている武士道カウンターの数……つまり2枚のカードをドローする!」
《キザン》と《エニシ》の特殊召喚によって再三光を取り戻した紋章が、一際大きな光を放って消失する。その力でツァンは2枚のカードを得た。
「……全ての攻撃が通ればお姉様の勝ちね……バックは無し、壁モンスターも1体………これじゃ、東雲のボウヤに勝ち目は……」
「ううん、遊奈はまだ負けないよ」
ツァンのフィールドに並ぶ5体の武士を見て、雪乃が静かに呟く。さらに、雪乃を遮るように遊海は言った。
「遊奈はまだ諦めてない。多分、この攻撃をしのぎ切る策があるんだよ」
「バトルフェイズ! まずは《真六武衆-エニシ》でセットモンスターを攻撃!」
ツァンはエニシを指差す。
「よしきた!」
《エニシ》の刀が緑の光を纏う。
「《エニシ》は自分以外の《六武衆》がフィールドに2体以上いるとき、攻撃力を500アップする!」
その攻撃力は、実に2200。ノーコストで召喚できるデメリット無しの下級モンスターでは本来、あり得ない数値だ。
「御免!」
一閃、《エニシ》は遊奈のセットモンスターを斬り伏せる。
「《ライトロード・ハンター・ライコウ》のリバース効果、発動!」
そのセットモンスター……白い毛並みの犬が、《シナイ》に噛みついた。
「ぬ、《シナイ》殿!?」
「お前様!!」
「ぐ…………」
《エニシ》と《ミズホ》が声をあげる。《シナイ》は振り払おうとするが、そのまま倒れてしまった。
「《ライコウ》はリバースしたとき、フィールド上のカード1枚を破壊する。その後、デッキの上からカードを3枚墓地へ送る」
遊奈のデッキがさらに墓地へ送られる。そのカードを見て、遊奈はニヤリと笑った。
ツァンは苦い顔をしながら、自分の武士団に次の指示を飛ばす。
「だけど、残ってる《キザン》、《カゲキ》、《ミズホ》の攻撃が通ればボクの勝ち! 《ミズホ》、《シナイ》の仇を取ってやりなさい! プレイヤーにダイレクトアタック!」
「……御意ッ!」
武器を構え、遊奈にむかって突撃する《ミズホ》。その目は怒りに燃えているようにも見える。
「……この瞬間、罠カード《
「と、罠カード!?」
「嘘、遊奈のフィールドには何もないよ!?」
雪乃と遊海が驚きの声をあげた。
「この期に及んで無駄な悪足掻きを……ッ!」
ツァンもあからさまに悔しがっている。
「さて……本当に無駄かな?」
遊奈本人だけが涼しい顔をしていた。
どこからか、軽快な蹄鉄のリズムが近づく。
「《シャドーベイル》は相手の直接攻撃宣言時、
遊奈の頭上を跳び越えて、颯爽と現れた騎馬は3騎。その全てが遊奈の前に立ちはだかり、遊奈を守る構えをとった。
「……威勢がいい割に守備力はたったの300じゃない! 《ミズホ》、構わずに斬り殺しなさい!」
「御……ッッ!?」
突然、不可視の障壁に阻まれるかのように《ミズホ》の動きがとまった。
「《ミズホ》!?」
目を丸くするツァンに、遊奈はやはり静かにカードの効果を告げる。
「墓地の《超電磁タートル》の効果を発動」
「また墓地から……ッ!」
「相手バトルフェイズ中にこのカードを除外し、バトルフェイズを終了する」
見えないハンマーで殴り飛ばされたかのように、《ミズホ》がツァンのフィールドに吹き飛ばされた。
「……このための《針虫の巣窟》と《ライコウ》だったのね……ボクはカードを1枚セットし、ターン・エンド」
東雲遊奈 LP4000 手札3
幻影騎士団シャドーベイル Def300
幻影騎士団シャドーベイル Def300
幻影騎士団シャドーベイル Def300
ツァン・ディレ LP4000 手札2
真六武衆-カゲキ Atk1700
真六武衆-ミズホ Atk1600
真六武衆-キザン Atk2100
真六武衆-エニシ Atk2200
六武の門(永続魔法) カウンター0
セットカード1
「俺のターン、ドロー」
前のターンに、勢揃いした《真六武衆》5人の猛攻を防ぎきったあととは思えないほどに涼しい顔の遊奈。雪乃はその姿勢に恐怖すら覚える。
(お姉様を相手に一歩も退いていない……それどころか、むしろお姉様相手に押している……? あの布陣を前にしてマトモに戦えた人なんて“帝王”に“聖光王”、それに“
雪乃の頭に浮かんだ顔は、いずれも“七星の守人”でツァン以上の実力を誇る猛者だ。
(……まさか、彼の力は“七星の守人”にすら及ぶというの……!? なら、そんな彼に勝った遊海や、十代ってコの力は一体……)
雪乃の知る限り、ツァンのデッキはよい回りを見せている。決して不調というわけではない。
(お姉様も言ってたけど、今年の新入生は……本当に、規格外ね)
その“規格外”が、動く。
「速攻魔法、《サイクロン》。セットカードを破壊する」
竜巻が、ツァンのセットカードを砕いた。
「手札の《ジャンク・シンクロン》を捨てて墓地から《ジェット・シンクロン》を特殊召喚。この方法で特殊召喚された《ジェット・シンクロン》はフィールドを離れる場合、除外される。」
遊奈の傍らのゴミ箱からジェットエンジンが飛び出す。
「自分が墓地からの特殊召喚に成功したとき、《ドッペル・ウォリアー》を手札から特殊召喚できる」
軍服姿のヘルメット男が現れる。遊奈のフィールドはこれで埋まった……が、
「レベル4《幻影騎士団シャドーベイル》とレベル2《ドッペル・ウォリアー》にレベル1、《ジェット・シンクロン》をチューニング」
彼にだけ許された絆の力が解放される。
「集いし力が、
光球の数は6、光の輪は1つ……
「レベル7、《ダーク・ダイブ・ボンバー》!」
黒い金属が冷たい光を放つ。戦闘機を模した巨大なロボが、両肩のジェットエンジンから空気を吐きながら遊奈のフィールドに着陸した。
「《ダーク・ダイブ・ボンバー》の効果を発動! 自分フィールド上のモンスターをリリースし、そのレベル×200ポイントのダメージを与える。《ダーク・ダイブ・ボンバー》自身をリリースし、1400のダメージ!」
《ダーク・ダイブ・ボンバー》は自分の姿を戦闘機に変える。ドォ! と煙を噴き出して加速した戦闘機は一瞬で猛スピードに達し、ツァンの前の地面にぶつかって大爆発を起こした。
ツァンLP4000→2600
「ぐ……っ」
襲い来る熱風と衝撃に、ツァンは思わず2,3歩ほど退がる。
「姫!」
「てめェ!」
《キザン》はツァンに駆け寄り、《カゲキ》は遊奈を睨みつけた。
(お姉様相手に先制を取った……やっぱり、彼はただ者じゃない……)
彼女自身も気づかないうちに、雪乃は目を輝かせて笑っていた。
「墓地の《ラッシュ・ウォリアー》の効果を発動。このカードを除外し、墓地の《シンクロン》を手札に加える。《ジャンク・シンクロン》を手札に」
遊奈は依然として涼しい顔でプレイングを続ける。
「《ジャンク・シンクロン》を召喚。効果で墓地の《チューニング・サポーター》を特殊召喚」
シンクロ召喚によって空いたフィールドが、また埋まる。
(まだ動くの!?)
4体の壁モンスターをかいくぐり、1400の大ダメージを与える……それだけでは遊奈は止まらない。雪乃はいつしか、彼女が唯一認めた男の影を遊奈に重ねていた。
(これは……この感覚は“彼”以来だわ……彼は……東雲遊奈は、強くなる……)
「レベル4《幻影騎士団シャドーベイル》、レベル1《チューニング・サポーター》に、レベル3の《ジャンク・シンクロン》をチューニング! 集いし力が、全てを滅する劫火を放つ!」
レベルの合計は8。召喚口上は《レッド・デーモンズ・ドラゴン》と同じ。
しかし、
「万物を
天から、1つの火球が落ちた。
轟音とともに降り立った紅蓮の竜は、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》によく似ている。
《レッド・デーモンズ・ドラゴン》と似て非なる、もうひとつの存在。
「レベル8、《琰魔竜 レッド・デーモン》!!」
『ーーーーーーーーーーッッ!!』
《レッド・デーモン》が猛々しい咆哮をあげる。すると同時に、ツァンのフィールドの《六武衆》たちに異変がおこった。
「ぬぅ……ぉ……」
「ぐ……」
あまりの衝撃に耐えかねたか、4人の足が地面から離れる。咆哮の勢いは収まらず、吹き飛ばされた4人はそのまま消滅、ツァンの墓地へと送られた。
「とりあえず、《チューニング・サポーター》が素材となったので1ドロー……さらに、《レッド・デーモン》は1ターンに1度、自身以外のフィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊できる」
守備表示モンスターを全て破壊する《レッド・デーモンズ・ドラゴン》とは対になる効果。そして、他のモンスターは攻撃できない誓約をもつものの、《レッド・デーモン》自身の攻撃は残っている。
「バトルフェイズ……《琰魔竜 レッド・デーモン》でダイレクトアタック!」
紅蓮の竜が放ったブレスが、
「“
ツァンのライフポイントを焼き払った。
ツァンLP2600→0
Winner 東雲遊奈
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「約束通り、翔は返してもらうぜ」
十代のほうも、見事勝利をもぎ取ったらしい。翔は十代のボートに乗っていた。
「おジャマし」
そのボートに遊奈も乗り込む。
「おっ、どうだった?遊奈」
「ああ、なんとか勝てたよ。十代、お前も勝ったみたいでよかった」
拳を合わせて笑い合う2人。
「……東雲、遊奈」
自分の名を呼ぶ声に、遊奈は声のした方向を向く。
ツァンが、細い人差し指で遊奈を差していた。
「次は絶対負かしてやる! 首を洗って待ってなさい!」
「えっ、まさか東雲くん、ツァン先輩に勝ったの!?」
明日香が驚いた顔でツァンと遊奈を交互に見る。その問いに答えたのは遊奈ではなく、ツァンだった。
「……悔しいけど、それくらいしてもらわないと困るわ。ボクの友達を名乗るからには、その程度の強さくらい持ち合わせていてくれないと」
「…………じゃあ……」
目を輝かせる遊奈。ツァンはぷい、とそっぽを向いた。
「アンタが淋しそうだったから仕方なく友達になってあげただけよ」
「……ありがとうございます」
「…………………」
何も言わずに、ツァンは女子寮へ向かって歩いていった。
「……それじゃ、これからヨロシクね、東雲のボウヤ」
「……またね、遊奈」
雪乃は意味ありげな微笑みを、遊海は笑顔を浮かべて、遊海は複雑な表情で、それぞれツァンを追う。
「じゃあ、私たちも帰るわ。……楽しいデュエルだったわよ、十代」
明日香も、最後の一言を置いて女子寮へと帰っていった。波止場に男3人が残る。
「……じゃあ、俺たちも帰ろうぜ! ここからレッド寮に帰る道に露天風呂があるんだけどさ、3人で入らねえか?」
十代の提案に、翔と遊奈は笑顔で頷いた。
「行こう行こう!」
「いいな、それ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「……あークソ腹立つ! 次は絶対勝つんだから!」
「…………お姉様、言葉遣いが下品よ」
「ツァンちゃん惜しかったねー」
「ってかなんでアンタらはボクの部屋にいるの! ここ3年のエリアよ!?」
「……真面目な話なのだけれど……お姉様、気づいた? あのボウヤ、動いてる“六武衆”を見たかもしれないわ」
「……え? 普通の人には見えないって雪乃ん言ってたよね?」
「……雪乃、アンタは東雲が“力”を持ってるっていうの? そりゃ、背中にすごいのが憑いてるけど……」
「……東雲のボウヤには“アレ”が憑いてる……もし、東雲のボウヤに“力”があったとしたら……」
「……雪乃、本気?」
「いいえ。でも、可能性は0じゃない……もし仮に、本当に彼が“力”を手に入れてしまったら…………」
「被害は“この世界”だけじゃすまないかもしれないわ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
かぽーん、と小気味好い音がする。
「あー…………これぞ日本人の至福……一汗かいたあとの風呂は最高だぜ……」
遊奈は石を並べて作られた浴槽に入っていた。肩まで湯に浸かり、完全に温泉を楽しんでいる。
「……遊奈」
すると、十代が少し気まずそうに言った。
「その、背中の傷って……」
「ああ、生まれつきだよ。傷ってよりアザだな」
十代の言うとおり、遊奈の背中には大きな傷があった。
円形を描く赤いアザ。その形はどこか、細長い龍に似ていた。
どうも埜中です。手袋を失くしました。
遊奈くんのゲス顏を画像にできないのが残念です……そろそろ色んな伏線(と、言えるのかどうか微妙な感じですが)を立てていきたい時期、とりあえずは遊奈くんの背中の傷とかやってみました。どんな形の傷なんでしょうね(棒読み)。
VS六武衆は一瞬で終わらせるつもりだったのですが、2人ともソリティアデッキだということを完全に忘れていました。ソリティアはターン数はかからない代わりに1ターンが長いですね。
個人的にですが、真六武衆の皆はあんな感じというイメージを持っています。ああやってふざけ合ってますが、まあ仕事はきっちりこなす人たちなのでご安心ください。
……そろそろネタがなくなってきたので、今回のあとがきはそろそろ終わります。最後になりましたが、こんな駄文を読んでくださった皆様に感謝しつつ、筆を置きたいと思います。皆様にささやかな幸せがありますように。
2015年1月某日 埜中 歌音
質問、アドバイス、デュエルミス等あれば是非是非コメントへお願いします。キャラやデッキのリクエストも受け付けております。