遊戯王GX イレギュラー・シンクロン   作:埜中 歌音

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白翼の竜と黒牙の竜が交錯する

月一テスト、というものがある。

デュエルアカデミアはデュエルを専攻する学校だが、定期テストに『デュエル』という科目はない。

デュエルの能力は、定期テストとは別に毎月1度行われる月一テストによって評価され、この月一テストの成績が寮分けに深く影響する。月一テストの成績が優秀であればより上位の寮に移ることも可能であり、同時に月一テストの成績が悪ければ下位の寮に落とされる危険もある、ということだ。

その月一テストの前日、レッド寮の一室にて……………

 

「遊奈くーん! ここはどうすればいいのー!?」

「初手エクゾの確率!? いやそんなもん三沢にしかわからないから捨てていいよ。たしか60万か100万分の1くらいだったと思うけど」

「じゃ、じゃあこれは!?」

「“タイミングを逃す”のことはクロノス先生がテストに出すって言ってたぞ……えーと、十代エアーマンとリビデ貸して。あとサイク」

「なあ遊奈デュエルしようぜ!」

「「今それどころじゃないよ!」」

翔、遊奈、十代の3人は明日の月一テストに向けて勉強に励んでいた。

といっても、勉強に励んでいるのはほぼ翔だけだ。遊奈は翔の隣についてアドバイスを出し、十代がその2人を横から眺める構図になっている。

「……てか遊城、お前勉強しないなら寝ろよ」

遊奈は呆れ顔でため息をつく。

対して十代は不満そうな顔で、

「元々お前を呼んだのは俺じゃん。なんで翔にかかりっきりなんだよ」

と唇を尖らせた。

たしかに、遊奈は「デュエルしようぜ」という十代の誘いでこの部屋にやって来た。しかし、勉強机に向かう翔の姿を見て、あれこれとアドバイスをしているうちに今の構図ができあがったというわけだ。

「俺だってテスト前日くらい勉強するさ。人に教えるのは自分の勉強になるし」

「教科書なんて読んでも強くなれないだろ……やっぱデュエルは実戦だって!」

「それには同意だけど、座学も役に立たないってわけじゃないし……あ、丸藤このテキストは《暗黒魔族ギルファーデーモン》だよ。“タイミングを逃す”ってルールが作られたのはこいつのせいだから、この表記だとタイミングを逃すことを覚えておくといい」

「わかったよ遊奈くん! 『時〜できる』って書いてあるカードがタイミングを逃すんだね!」

「OK、その調子で詰め込んでいこうぜ」

「翔ぉー……お前まで俺を見捨てるのか……」

うだー……と机に突っ伏す十代。

「……仕方ないな……遊城、丸藤の勉強が一通り終わったらデュエルしてやるから、あと1時間くらい静かにしててくれないか?」

「本当か!?」

遊奈の妥協案に十代は表情を一転、明るくした。

(単純だな……………)

思わず頬が緩み、遊奈は「フッ」と笑ってしまった。

「なんだよ、その笑い方……」

「悪い悪い。終わったらちゃんとデュエルしてやるからさ」

突っかかる十代を、遊奈は困ったように曖昧な笑みで受け流す。そのまま、翔の指導に戻った。

 

一時間後、

 

「……っと、そろそろ約束の時間だな……」

遊奈が大きな伸びをした。その背中からゴキゴキという音がする。

「遊奈くん、ありがとう」

「いや、俺もけっこう勉強になったし……あとは明日、いかにしてケアレスミスを回避するかだ。お互い頑張ろうな」

「うん!」

遊奈と翔はハイタッチを交わした。小気味よい音が響く。

「さー、て。待たせたな遊城。早速始めるか!」

「おう! この前は負け越しだったからな。今回は勝つ!」

「返り討ちにしてやるよ!」

「「デュエル!!」」

 

その後、深夜2時まで部屋の電気が消えなかったという。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

物々しい雰囲気の船が、海上を進む。傍らに小さな船を6隻、さらには軍用ヘリを12機ほど連れて一直線にデュエルアカデミアへと突き進んでいた。

「こちら、旗艦操縦室。目標を肉眼で補足した。全艦、最警戒態勢に入れ」

司令官が指示を出すと、船団を取り巻く空気がいっそう鋭さを増す。

「上陸は予定通り8:30(マルハチサンマル)、隊列はBプランだ。ここからが正念場だぞ、気を引き締めろ、なんとしても()()()を守らねばならん」

司令官の手には、小さめのアタッシュケースがあった。

デュエルアカデミアのロゴが入ったアタッシュケース。これほどまでに厳重に守られねばならないものとは、はたしてーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「遅刻遅刻遅刻遅刻するーっ!」

「バカ野郎もう遅刻してんだよ!テスト開始は10分も前だ! 君のせいだぞ遊城! 昨日俺が何回『もう寝よう』って言ったと思う!?」

「覚えてるわけないだろ!」

「にじゅう、なな、回だ27回!」

月一テスト当日。

十代と遊奈はレッド寮から講堂への道を猛ダッシュしていた。

寝坊、単純にその一言だった。昨夜、かなり遅い時間までデュエルしていた十代と遊奈はその眠りから覚めることができず、翔は2人を見捨てて先に行ってしまったらしい。

「普通テスト前夜は遅くても12時には寝るだろうが! 2時って!」

「お前も乗り気だったじゃないか!お互い様だろ!」

醜い論争をする遊奈と十代。

「だいたい……って、おい遊城、あれ」

遊奈が、何かに気づいたようだ。その方向を指し示した。

「トラックの……立ち往生?」

その方向を見て十代も首を捻る。

十代の言うとおり、小型のトラックが立ち往生していた。さらに注目すると、初老の女性がトラックを動かそうと押している姿が見える。

「……動いてないよな?」

「そりゃ、女性1人でどうこうなるモンじゃないだろ……地味に上り坂だし」

「……遊奈、どうする?」

「どうするって…………」

十代と遊奈は数秒だけ目を合わせると、2人同時にトラックへと駆けだした。

「手伝いますよ」

「手伝うぜ、おばちゃん!」

初老の女性は驚いた顔で「遅刻するよ。今日、テストじゃないのかい」と言った。

「困ってる人は助けるのが当たり前だろ」

十代の言葉で、女性の顔が明るくなる。だが、2人が加わってもなお、トラックは動く気配を見せない。

と、そこに、

「遊海参上! うりゃー!」

3人目の助っ人の力が加わり、徐々にだがトラックが坂を登り始めた。

「……笹嶋さん、何してるの?」

ため息混じりの遊奈の問いに、遊海はバツの悪そうな笑顔で返した。

「昨日、雪乃んと夜遅くまでデュエルしてて……朝起きたらピンチな時間で、しかも雪乃んはもう行っちゃってたし……」

(馬鹿だ……遊城と同レベルの馬鹿がいる……)

遊奈は喉まで上ってきた言葉を飲み込む。こうやって遅刻している自分も人のことが言えない、と。

そうこうしているうちに、トラックは上り坂の頂点にたどりついた。

「ここまで来れば大丈夫よ。ありがとうね、3人とも」

女性はそう言うとトラックに乗りこむ。

「本当にありがとうね」

「気にすんな、おばちゃん!」

笑顔の十代はそう言って校舎のほうに走り出した。

「どういたしまして」

「どういたしまして!」

遊奈に遊海も、十代に続く。

そんな3人の姿を見送った女性は、微笑みながら呟いた。

「これは、あの子たちにお礼をしなきゃいけないねぇ………」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それじゃ、試験終了ですにゃー。なお、実技のテストは午後2時から本館2階デュエルスペースで行うので、遅れないように」

レッド寮の寮長、大徳寺がテスト用紙を回収する。

と、同時に、

 

『急げ急げ急げ急げ急げ!』

『邪魔だァ、どけ!』

『おい押すなよ!』

 

生徒たちが一斉に、講堂の出口へと殺到した。講堂内はあっという間にガラガラの状態になってしまう。

そんな中、自分の後方で起きている修羅場などに目もくれず、遊奈は「うだー……」とため息を吐き出して机に突っ伏した。

「遅刻なんて君らしくないな」

隣から聞こえた声に首を捻ると、三沢が心配そうな目で遊奈を見ていた。

「30分も遅刻して、テストは解けたのか?」

「あー、7割半ってところかな……テスト自体はそこまで難しくはなかっただろ? ただ、急ぎ足で解いたから凡ミスが多めになってるかも。三沢は?」

「9割は取れたと思うが……模範解答が配布されるまではわからないな」

「自己採点してるのか……熱心だねえ……」

遊奈は陸に揚がったクラゲのように脱力している。

その背に、

「うりゃー! 起きろー!」

「ぐふぅっ!?」

平手がめり込んだ。びたん! ではなく、メリッ……と。

「が……っ、かはっ……」

「ってあれ!? 遊奈!? ご、ごめん!」

突然の襲撃者……遊海は遊奈の肩を揺する。

「り、リアルファイトは苦手なんだ手加減してくれ……」

背中をさすりながら、遊奈は突っ伏したまま話す。どうやら命に別状はないらしい。遊海が安堵するとともに、三沢が心配そうな色を増した顔で訊いた。

「……遊奈、本当に大丈夫か?」

「あ、ああ…………」

咳込みながら、遊奈は体を起こした。

「……それにしても、皆血相変えて出て行ったけど何かあったのか?」

遊奈が講堂を見回す。彼ら3人の他に講堂に残っている人物はブルー生徒の数人と、

「……丸藤、それに遊城か……?あいつら、超寝てるじゃないか……」

大きなため息をついて、遊奈は立ち上がる。その動作には『面倒臭さ』が満ち満ちていた。

遊奈はそのまま歩いていくと、十代と翔の背中に思いきり平手を叩き込んだ。

びたん! という痛々しい音が響き、2人は体を跳ねさせて飛び起きる。

「何すんだよ!」

十代が眉を釣り上げて食ってかかった。優奈は呆れ顔で、

「バカがだらしなく寝てるから起こしてやったんだ。……丸藤、ヨダレ垂れてるぞ」

「えっ? ああっ! ティッシュティッシュ!」

「ほら」

つっかかる十代を軽く流し、翔にティッシュを投げてよこす。三沢はその様子を見て微笑んだ。

「だいぶ、2人と馴染んできたじゃないか遊奈」

「週に1回はこいつらの部屋に泊まってるしな……」

遊奈の言葉に、遊海が顔を曇らせる。

「むー……」

「いや、こいつらはあまり深いところに踏み込んでこないから……」

遊海にだけぎりぎり聞こえる音量で囁く遊奈。

「……あれ、皆は?」

辺りを見回した十代が呟いた。呆れたように三沢が答える。

「テストはもう終わって、とっくに昼休みだ。今日は新しいパックが入荷する日だからな……皆は購買に行ったんだろう」

「新パック!?」

翔が目を丸くして驚く。

「へえ、そんなイベントあるんだ」

「なんで遊奈くんは他人事でいられるのさ! 新しいカードだよ!?」

「って言われてもなあ……俺のデッキにシナジー合うカード中々ないんだよ」

「三沢くんは?」

「僕は自分のデッキを信頼している。それに、今の編成はここ1週間で最高の状態に調整したものなんだ。下手に新しいカードを入れると戦術が崩れるからな」

「笹嶋さんは?」

「私も遊奈と同じ理由かなー……それに、このデッキはおじいちゃんと、おじいちゃんの友達の皆からもらったカードでできてるんだ。だからあまりいじくりたくないの」

「あ、アニキは?」

「興味ある! どんなカードが入ってるのか見たくてたまらねえぜ!」

自分の味方を見つけて、胸を撫で下ろす翔。もっとも、購買に殺到している生徒たちを見れば、遊奈たちのほうが圧倒的に少数だが。

「行こうぜ、翔!」

「うん、アニキ!」

と、2人は購買へと走りだした。遊奈、三沢、遊海の3人が講堂に取り残される。

「……たしかに、収録カードは気になるな……」

遊奈のその一言に、遊海もうんうんと頷く。

「どうする、遊奈に大地。見に行ってみる?」

「俺は……行くよ。運試しに買ってみるのもいいかも。新しいデッキも組みたいしな」

「僕は遠慮するよ。その時間を使ってデッキの調整でもしようかな」

「…」

(……?)

遊奈には、三沢の言葉を聞いて、遊海が少し残念そうな顔をしたように見えた。だが、遊海はその顔を一瞬で塗り替えて笑顔を浮かべる。

「じゃ、行こうか遊奈。早くしないと売り切れちゃうよ!」

「お、おう……って、笹嶋さん速いちょっと待って!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「売り切れぇ!?」

遊奈と遊海が購買に着くと同時に、十代の声が響いた。2人は顔を見合わせて残念そうに笑う。

「どした?遊城」

「遊奈か……新しいパック、売り切れだってさ……」

十代は本当に悔しそうだ。

すると、購買のカウンターの奥から、初老の女性の声が聞こえた。

「お待ちよ!」

カーテンの向こうから顔を出したのは、遊奈と十代、それに遊海が今朝出会った女性だった。

「おばちゃん!」

十代の呼びかけに、女性は片目を閉じて答えた。

「おばちゃんじゃないわよ。トメって呼んで。ト・メ」

「トメさんは購買のスタッフだったんですか」

遊奈の呼び方に、トメは満足そうに頷く。

「そうだよ。3人とも、今朝は本当にありがとうね」

トメはカウンターの中から手招きをする。

「こっち、いらっしゃいよ。いいのがあるのよ、お客さん」

言われるがまま、4人はカウンターの奥、購買のバックグラウンドまで連れられた。

そこには、

 

「「「「新パック!!?」」」」

まぎれもなく、新しいパックだ。しかしその数は3つ。

それを確認した瞬間に、翔が1歩退がった。

「僕には受け取る資格がないよ。アニキと遊奈くんと笹嶋さんでどうぞ」

「……翔……」

「……悪いな、丸藤」

「ありがとね、翔」

3人はパックを手に取った。

封が切られ、15枚のカードが外気に触れる。

「おっ……これは……」

十代が何かを引き当てたらしい。

遊奈も手元のカードを確認する。

(《仕込みマシンガン》、《バニーラ》、……《幽鬼うさぎ》……? これは知らないカードだな……お、《星見獣ガリス》か……面白いカードが当たったな)

5枚目。普通、パックでは5枚目にレアカードが封入されている。たいていはレア度の低い、所謂『字レア』と呼ばれるカードなのだが……

「…………っ、」

5枚目を目にした遊奈の目つきが変わる。

(……冗談だろ、おい……)

何の変哲もない……強いて言うなら、ウルトラレアというあまり見ないレア度の、普通の遊戯王のカードだ。別のゲームのカードだとか白紙のカードだとか、何かしらの欠陥があるわけではない。

 

ただ1つ、

シンクロモンスターであること除いては。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「シニョール東雲」

実技テストの少し前、デュエルスペースにたどり着いたところで、遊奈は声をかけられた。

「それに、シニョーラ笹嶋。ちょっとこっちに来るノーネ」

クロノスだ。彼は遊奈と遊海を教室の隅に連れて行くと、2人にしか聞こえない音量で言った。

「今日の実技テストのことで少し話があるノーネ」

クロノスの言うところによると、教師陣から『東雲遊奈と笹嶋遊海を一般生徒とぶつけてもいいのか』という声が出ているらしい。

「……そこーで、今回の月一テストは2人でデュエルしてもらうことになりましたーノ。この特別措置を理解してほしいノーネ。それーと、シニョール東雲には昇格の話を挙がっているーノデス。今日のテストで、持てる力を全て発揮するーノ」

2人は顔を見合わせる。

「私はそれでいいよ。クロノス先生」

「……俺も、教師陣の決定なら異論はありません」

その答えを聞くと、クロノスは満足そうに頷いて立ち去った。

「遊奈とデュエル……よく考えれば私たち、1回しかデュエルしてないね」

遊海は人差し指をまっすぐ遊奈に向ける。

「今回も負けないよ!」

その言葉に、遊奈は握り拳を突きつけて答えた。

「絶対リベンジしてやる」

しばらくの間そうしていた彼らは、2人同時に微笑んだ。

『オベリスクブルー、笹嶋遊海。ラーイエロー、東雲遊奈。デュエルコートAに集合』

2人の名を呼ぶアナウンスが響き、彼らは同時に歩き出した。

 

 

「「デュエル!!」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「私の先攻、5枚ドロー!」

お互いにデッキの内容はほぼ割れている。今回は遊海も、遊奈のデッキを意識したプレイングをしてくるだろう。

「……私は、《オノマト連携(ペア)》を発動! 《ゴゴゴゴースト》をコストに、デッキから《ガガガマジシャン》と《ゴゴゴジャイアント》を手札に加えるよ!」

(この布陣は……)

遊奈の止まない独り言が始まる。

《ゴゴゴジャイアント》。召喚に成功したとき、墓地の《ゴゴゴ》を特殊召喚する効果をもつ。遊海の墓地には、コストで捨てられた《ゴゴゴゴースト》がいる。

(しょっぱなからランク4か……ここで、止めるか……?いや……)

「《ゴゴゴジャイアント》を召喚! さらに効果発動! 《ゴゴゴジャイアント》の召喚に成功したとき、墓地から《ゴゴゴ》を特殊召喚できる! 《ゴゴゴゴースト》を特殊召喚するよ!」

2体の巨兵が遊海のフィールドに並び立つ。《ゴゴゴ》の名のとおり、レベル4モンスターにしてはかなりのサイズだ。

「まだまだいくよ!」

レベル4のモンスターが2体。この構えを見て、警戒をしないデュエリストはいない……遊奈の地元では。

「レベル4、《ゴゴゴゴースト》と《ゴゴゴジャイアント》でオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

『来た、来たぞ!』

『エクシーズ召喚だ!』

 

2体の《ゴゴゴ》が銀河に吸い込まれる。同時に、観戦者から歓声が湧き上がった。

「来て! ランク4、《ガガガガンマン》!」

テンガロンハットを目深にかぶったガンマンは、両手に持った拳銃を遊奈に向ける。

「《ガガガガンマン》が守備表示のとき、1ターンに一度、オーバーレイ・ユニットを1つ使って相手に800ポイントのダメージを与えることができる! 行くよ、《ガガガガンマン》!」

《ガガガガンマン》の周囲を漂っていた光球の1つが、拳銃に吸い込まれた。

「させない! 手札の《エフェクト・ヴェーラー》の効果発動! 相手メインフェイズにこのカードを手札から捨てて、相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする!」

かちん、という間抜けな音がして、《ガガガガンマン》は首を傾げる。

「むー……カードを1枚セットしてターンエンドだよ……」

 

笹嶋遊海 手札2 LP4000

ガガガガンマン Def2400 ORU1

セットカード1

 

「俺のターン、ドロー」

引き込んだカードを見て、遊奈の口の端が上がった。

「魔法カード、《手札抹殺》。お互いに手札を捨て、その枚数だけドローする」

「え、ええー!?」

「《ジャンク・シンクロン》を通常召喚。《ジャンク・シンクロン》の効果で墓地の《チューニング・サポーター》を特殊召喚。魔法カード、《機械複製術》発動。自分フィールドに存在する《チューニング・サポーター》を指定し、デッキから同名モンスターを2体特殊召喚」

この間、わずか30秒。あっという間に遊奈のフィールドにモンスターがひしめく。 古ぼけたフライパンを頭に乗せた小型ロボが3体、エンジンを背負った寸胴の小型ロボが1体。レベル4から8、どのレベルのシンクロ召喚も可能な布陣だ。

「いくぞ! レベル1、《チューニング・サポーター》とレベル2扱いの《チューニング・サポーター》2体に、レベル3、《ジャンク・シンクロン》をチューニング!」

レベルの合計は8。高レベルモンスターの召喚に、会場が湧いた。

 

『今度はシンクロ召喚だ!』

『2人とも最初から飛ばすなあ!』

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる!」

フィールドに降り注ぐ星屑。

「シンクロ召喚! レベル8、《スターダスト・ドラゴン》!」

光輝く白銀の竜に、観衆が言葉を失った。

その静寂を切り裂いて、《スターダスト・ドラゴン》の咆哮が轟いた。

(《奈落》や《激流葬は》……ない!)

「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材として墓地に送られたので、1枚ドロー×3だ」

「うえっ、3ドローかぁ…………」

遊海が苦い顔をする。

「さらに、《おろかな埋葬》。デッキから《レベル・スティーラー》を墓地に落とす。手札を1枚切って、墓地の《ジェット・シンクロン》の効果を発動。墓地からこのカードを特殊召喚する」

遊奈の手札の1枚を吸い込んだゴミ箱がガタガタと震える。ボフッ! と黒い煙をあげて飛び出したのはジェットエンジンを模したロボットだ。

「自分が墓地からの特殊召喚に成功したとき、手札の《ドッペル・ウォリアー》の効果を発動。このカードを手札から特殊召喚する」

残像を生じる瞬間移動で、軍服姿の男が現れた。

「《スターダスト・ドラゴン》を対象に、墓地の《レベル・スティーラー》の効果を発動。《スターダスト・ドラゴン》のレベルを1つ下げて《レベル・スティーラー》を特殊召喚。さらに墓地の《レベル・スティーラー》の効果を発動。《スターダスト・ドラゴン》のレベルを1つ下げて《レベル・スティーラー》を特殊召喚する」

 

《スターダスト・ドラゴン》

レベル8→7→6

 

機械を思わせるフォルムのテントウムシが2体、《スターダスト・ドラゴン》に体当たりをかます。再び、遊奈のフィールドが埋めつくされた。

「レベル2、《ドッペル・ウォリアー》とレベル1《レベル・スティーラー》2体に、レベル1の《ジェット・シンクロン》をチューニング!」

 

『まだ出るのか!?』

『も、モンスターが減らねえ……』

 

「集いし夢の結晶が、新たな加速への地平を開く! 光差す道となれ!」

レベルの合計は5。どこからか、バイクのエンジン音が近づいてきた。

「シンクロ召喚! レベル5、《アクセル・シンクロン》!」

真紅のバイクは遊奈のフィールドで急停止すると、変形して人型になる。

さらに、シンクロ素材として墓地へ送られたはずの《ドッペル・ウォリアー》が、2体に分裂した。

「……そっか、シンクロ素材になった《ドッペル・ウォリアー》はトークンを2体残すんだっけ……」

「そういうことだ。《スターダスト・ドラゴン》のレベルをさらに下げて《レベル・スティーラー》を特殊召喚。バトル! 《スターダスト・ドラゴン》で《ガガガガンマン》を攻撃! “シューティング・ソニック”!」

《スターダスト・ドラゴン》がその首を引き、ブレスの予備動作に入る。この攻撃が決まれば、数値にして僅か100の差とはいえ《ガガガガンマン》は破壊されてしまう。

「させないよ! 罠発動、《ハーフ・アンブレイク》! 《ガガガガンマン》はこのターン戦闘によって破壊されず、その戦闘で発生する自分へのダメージは半分になる!」

《ガガガガンマン》を、七色に輝く膜が包んだ。シャボン玉のようにも見える膜は不思議な柔らかさで《スターダスト・ドラゴン》の攻撃を受け流す。

く、と遊奈は歯噛みした。

(伏せカードを読み違えたな。《ガガガガンマン》にしろ《スターダスト・ドラゴン》にしろ破壊はさせてくれない、か……《スターダスト》じゃなくて《ブラックフェザー》を呼ぶべきだった……? いや、どちらにせよ《ガガガガンマン》を攻撃表示にされると突破されるな。悔しいけど、仕方ないか)

「ターン、エンドだ」

 

笹嶋遊海 手札2 LP4000

ガガガガンマン Def2400 ORU1

 

東雲遊奈 手札2 LP4000

スターダスト・ドラゴン(☆5) Atk2500

アクセル・シンクロン Def2100

ドッペル・トークン Atk400

ドッペル・トークン Atk400

レベル・スティーラー Def0

 

「私のターン、ドロー!」

にひひ、と笑う遊海。

「楽しいね、やっぱり」

その無邪気な表情に、思わず遊奈の顔もほころんだ。

「ああ。君や遊城とデュエルするのは楽しい」

「よかった。遊奈もちゃんと楽しいんだ」

「デュエルは好きだよ。人付き合いが苦手なだけで」

「そっか……とにかく、反撃開始だよ! 《強欲な壺》発動! デッキからカードを2枚ドローする!」

遊海はデッキから2枚のカードを引き抜き、その1枚をディスクに乗せた。

「《ゴブリンドバーグ》を召喚!このカードの召喚に成功したとき、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる! 《タスケナイト》を特殊召喚!」

人一人がやっと乗れるような小型飛行機が、飛行機雲を伴って飛来した。その下部のタイヤ部分に、鎧兜を身につけタスキをかけた戦士がつかまっている。

「レベル4、《ゴブリンドバーグ》と《タスケナイト》でオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

2体はそのままの姿勢で銀河に飛び込む。光の噴水が飛び出し、その中から漆黒の竜が首を出した。

「ランク4! 愚鈍なる力に抗う反逆の牙、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

『かっけえええええええ!!』

『すげええええええええ!!』

 

シャープなフォルムに、トゲを思わせる翼や顎で男子の心を鷲掴みにする《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》。その繰り手である遊海は得意げな顔だ。

(あいつは……)

遊奈は思い出す。遊奈がこの世界に来る直前に発売された、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の効果を。

(《フォース》を内包した、実質2500ダイレクトの効果をもつモンスターか……)

相手モンスターの攻撃力を半分にし、その数値だけ自身の攻撃力をアップさせる……つまりは、確実に相手モンスターの攻撃力を2500上回ることができるモンスターだ。

(……く、ここはやるしかない!)

遊奈の決意とともに、《アクセル・シンクロン》がその姿をバイクに変化させる。エンジン音が轟き、タイヤが高速回転を始めた。

「俺は《アクセル・シンクロン》の効果を発動! 相手のメインフェイズに、シンクロ召喚を行う!」

「あ、相手ターンに、シンクロ!?」

遊海が目を見開いた。観衆も、《アクセル・シンクロン》に秘められた効果に驚いている。

「レベル1《ドッペル・トークン》2体にレベル5《アクセル・シンクロン》をチューニング! 集いし願いが、光速の翼に輝きを宿す! 光差す道となれ!」

フィールドを、眩い光が貫いた。

「シンクロ召喚! レベル7、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

光り輝くオーラを放つ竜が、《スターダスト・ドラゴン》の隣に降り立った。

 

『なんなんだよあのデュエル! 』

『東雲、あいつ敵のターンにシンクロしやがった!』

 

「うわぁ、綺麗…………」

遊海は《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》に見とれているようだった。

「……だけど、倒させてもらうよ! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の効果を発動! オーバーレイ・ユニットを2つ使って、相手モンスターの攻撃力を半分まで下げる! さらに、下げた分だけ《ダーク・リベリオン》自身の攻撃力を上げるよ!」

《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の翼から、雷撃が紐のように伸びた。先端の尖った部分が《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》に向かって突き進む。

遊奈は《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》に目を向ける。

それに応えるように、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》が短く吠えた。

「俺は、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の効果発動!」

凛とした遊奈の叫びが響き、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を光のバリアが包む。

「《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》は1ターンに1度、レベル5以上のモンスターを対象として発動したカードの効果を無効にし、破壊することができる!」

雷撃の鎖は《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》には届かず、不可視の障壁によって跳ね返された。

かに、思えた。

「速攻魔法、《禁じられた聖杯》! ターン終了時まで《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の攻撃力を400アップする代わりに、効果を無効にするよ!」

《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を守る不可視の障壁は溶けるように消え去り、無防備の《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》に雷撃の鎖が突き刺さる。

「……っ、シナジーもクソもない汎用カードじゃないか!」

先ほどの遊海の言葉を思い出した遊奈は思わず叫んだ。

(……そういえば《奈落の落とし穴》とかも使ってたよな……おじいちゃんからもらったデッキ、いじくりたくないんじゃないのかよ……そりゃ俺も汎用とか使うけどさあ……)

雷撃の鎖からエネルギーを吸い取った《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》が咆哮をあげる。

「さらに、《ガガガガンマン》を攻撃表示に変更し、効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使って、《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力を500ポイント下げ、《ガガガガンマン》の攻撃力を1000ポイントアップさせるよ!」

遊海は攻め手を緩めない。《ガガガガンマン》の手から放たれたナイフが《スターダスト・ドラゴン》を戒め、澄まし顔のガンマンは拳銃に弾丸を込める。

「バトルフェイズ! 《ガガガガンマン》で《スターダスト・ドラゴン》を攻撃!」

銃声が迸り、《スターダスト・ドラゴン》が凶弾に倒れる。

 

遊奈LP4000→3500

 

「っく……《スターダスト》……」

「まだだよ! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》で《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を攻撃!」

黒い炎が《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を包む。苦しそうに身を捩りながら、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》は倒れた。

 

遊奈LP3500→1000

 

「メイン2………んー、ターンエンドだよ」

 

笹嶋遊海 手札1 LP4000

ガガガガンマン Atk1500 ORU0

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン Atk3950 ORU0

 

東雲遊奈 手札2 LP1000

レベル・スティーラー Def0

 

「俺の、ターン」

劣勢だ。

勝負の主導権はどう見ても遊海が握っている。今の遊奈の手札では、この戦況を覆すことはできないだろう。

「……モンスターを1体、カードを1枚セットして…………ターンエンド」

 

笹嶋遊海 手札1 LP4000

ガガガガンマン Atk1500 ORU0

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン Atk3950 ORU0

 

東雲遊奈 手札1 LP1000

レベル・スティーラー Def0

セットモンスター1

セットカード1

 

 

「為す術なし、かな? 今回も私が勝っちゃうよ?」

遊海はいたずらっぽい笑顔を浮かべる。

対して遊奈は、

「やってみろよ」

と、不敵な笑みで遊海を睨んだ。

「私のターンっ、ドロー!! 」

デッキからカードを引き抜くなり、遊海はよく通る声で宣言する。

「バトルフェイズ! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》、セットモンスターを攻撃!」

「く……、スタンバイフェイズくらいさせろよ! 攻撃宣言時、罠発動《針虫の巣窟》! デッキトップ5枚を墓地だ! さらにリバース効果、《ライトロード・ハンター・ライコウ》! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を破壊してデッキトップを3枚墓地へ送る!」

「げっ!?」

遊海が浮かべる、勝ち誇った笑みが一瞬崩れた。《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》のブレスを受けた白い犬が、ボロボロの体を引きずって黒い龍へ噛みつき、2体同時に砕け散る。

「……だ、だけど《ガガガガンマン》の攻撃は残ってるよ! 《ガガガガンマン》で《レベル・スティーラー》を攻撃!」

気取ったポーズの《ガガガガンマン》が《レベル・スティーラー》を撃ち抜く。吹き飛ばされた勢いでゴミ箱に帰った《レベル・スティーラー》だが、なにやらゴミ箱の中でガタガタと騒がしい。

「……お前ら、すぐ出番やるからちょっと待ってな」

苦笑いの遊奈の声で、ゴミ箱はピタリと静かになった。

「さ、て………俺のフィールドはガラ空きだけど、攻撃モンスターももう残ってないだろ?こっから、引き合いになりそうだな」

「……墓地アドは圧倒的に遊奈のほうが有利なクセに……」

「あ、バレたか」

「ちゃんと見てたよ……?《ラッシュ・ウォリアー》と《シャドーベイル》が墓地に落ちるの」

「ははは、下拵えは順調だぜ」

「うー……ターンエンドだよ」

 

笹嶋遊海 手札2 LP4000

ガガガガンマン Atk1500 ORU0

 

東雲遊奈 手札1 LP1000

 

「俺のターン、ドロー。エンド」

 

笹嶋遊海 手札2 LP4000

ガガガガンマン Atk1500 ORU0

 

東雲遊奈 手札2 LP1000

 

「私のターン、ドロー!んー……そのままバトルフェイズ、《ガガガガンマン》でダイレクトアタック!」

「手札から《速攻のかかし》を捨てて効果発動!バトルフェイズを終了する!」

「むぅ…………カードを2枚セット、して、永続魔法《悪夢の蜃気楼》!次の遊奈のスタンバイフェイズに4枚ドローするよ!」

「うげっ…………」

 

笹嶋遊海 手札0 LP4000

ガガガガンマン Atk1500 ORU0

悪夢の蜃気楼(永続魔法)

セットカード2

 

東雲遊奈 手札1 LP1000

 

「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズ、4ドロどうぞ……」

引き合いは遊海の勝利のようだ。

「……何もないならメイン行くよ?」

「あっ、速攻魔法《非常食》!《悪夢の蜃気楼》を墓地に送ってライフを1000回復するよ!」

 

遊海LP4000→5000

 

(これは、次のターンに動かなきゃ死ぬな……そろそろ耐える手段も尽きてきたぞ……)

とはいえ、遊奈の手札は2枚。展開こそできるが、“勝つ”には程遠い。

「……魔法カード、《貪欲な壺》。墓地の《ジャンク・シンクロン》《クイック・シンクロン》《ドッペル・ウォリアー》《チューニング・サポーター》《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》をデッキに戻し、2枚ドローする」

これで、遊奈の手札は3枚。

(……うん、悪くない。……けど、次ターンかな)

「ターン、エンド」

 

笹嶋遊海 手札4 LP5000

ガガガガンマン Atk1500 ORU0

セットカード1

 

東雲遊奈 手札3 LP1000

 

「私のターン、ドロー!」

ニヤリ。遊海の唇が不気味に微笑む。

「魔法カード、《オノマト連携(ペア)》!《ゴゴゴゴーレム》をコストに、デッキから《ガガガシスター》と《ドドドバスター》を手札に加えるよっ! さらに永続罠《リビングデッドの呼び声》! 墓地の《ゴゴゴゴースト》を特殊召喚して、《ゴゴゴゴースト》の効果発動! このカードの特殊召喚に成功した場合、墓地の《ゴゴゴゴーレム》を特殊召喚できる! 」

無骨な風貌をした粘土の巨人が2体、遊海のフィールドに陣取った。

「いくよ! レベル4、《ゴゴゴゴーレム》と《ゴゴゴゴースト》でオーバーレイ!」

このデュエルで3度目となる銀河の渦に、2体の巨人が吸い込まれた。

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!《No.(ナンバーズ)55 ゴゴゴゴライアス》!」

巨大。

素材となった巨人よりもさらに巨大な姿はまさに、《ゴゴゴ》の名にふさわしい。“巨人”というよりは、もはや“歩く要塞”だ。

「《ゴゴゴゴライアス》が存在する限り、自分フィールドのモンスターの守備力は800アップするよ! さらに《ゴゴゴゴライアス》の効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使い、墓地からレベル4、岩石族、地属性モンスターの《ゴゴゴジャイアント》を手札に加えて、召喚するよ! 《ゴゴゴジャイアント》の効果発動! 墓地の《ゴゴゴゴーレム》を特殊召喚!」

再び、遊海のフィールドに2体の巨人が並び立つ。

「…………レベル変更効果による柔軟なエクシーズ召喚を得意とする《ガガガ》に対して、ランク4の連続エクシーズを得意とする《ゴゴゴ》か……そのデッキでターンに2回エクシーズするとは思ってなかったよ」

「へへん! いくよ、遊奈! レベル4の《ゴゴゴゴーレム》、《ゴゴゴジャイアント》でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

銀河の渦から、きらりと光る透明な欠片が覗く。

「《No.(ナンバーズ)52 ダイヤモンド・クラブ・キング》!」

飛び出したのは、甲羅にダイヤモンドを生やした蟹。

 

『攻撃力……0!?』

『なんで攻撃表示なんだ……?』

 

《No.52 ダイヤモンド・クラブ・キング》の攻撃力は0、一方で守備力は3000。普通なら守備表示で召喚するべきモンスターだ。

だが、

「《ダイヤモンド・クラブ・キング》の効果発動!」

甲羅のダイヤモンドが(はさみ)の部分に移動する。

「1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使い、このターンの間、守備力を0にするとこで攻撃力を3000にする!」

ダイヤモンドに覆われた、巨大な螯を振り上げる《ダイヤモンド・クラブ・キング》。

 

『こ……っ攻撃力3000!?』

『すげえ、あのブルーアイズと並んだ!』

 

「バトルフェイズ! 私は……」

「墓地の……ッ!」

意気揚々と手を振り上げる遊海の言葉を、遊奈が遮った。

「《超電磁タートル》の効果を発動! このカードを墓地から除外することで、バトルフェイズを終了する!」

「えっ!?あっ、《ダイヤモンド・クラブ・キング》が攻撃してないのに!」

「させるか! 攻撃すればそのモンスターは守備表示になって、ターン終了時には守備力が元に戻るんだろ……」

「むぅ…………メイン2、《ガガガガンマン》を守備表示に変更。カードを2枚セットしてターンエンドだよ。この瞬間、《ダイヤモンド・クラブ・キング》の攻撃力は0に戻る」

 

笹嶋遊海 手札3 LP5000

ガガガガンマン Def3200 ORU0

No.52 ダイヤモンド・クラブ・キング Atk0 ORU1

No.55 ゴゴゴゴライアス Atk2400 ORU1

リビングデッドの呼び声(永続罠)

セットカード2

 

東雲遊奈 手札3 LP1000

 

「俺のターン、ドロー…………」

ドローカードを見た、遊奈の表情が変わる。

「速攻魔法、《サイクロン》。右のセットカードを破壊する」

竜巻に呑まれ、砕け散ったカードは《奈落の落とし穴》。遊海は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「相手フィールド上にのみモンスターが存在する場合、《太陽風帆船(ソーラー・ウインドジャマー)》は自分フィールドに特殊召喚できる。さらに墓地の《ゾンビキャリア》の効果を発動。手札を1枚デッキトップに戻すことで、このカードを墓地から特殊召喚する」

上下に帆を持つ歪な船の隣に、腐臭を撒き散らす怪物が並んだ。

レベルの合計は、7。

「レベル5《太陽風帆船(ソーラー・ウインドジャマー)》に、レベル2《ゾンビキャリア》 チューニング」

どこからか、冷たい風が吹きすさぶ。赤黒い花弁(はなびら)を乗せて。

「集いし涙を糧として、大輪の花が希望をもたらす! 漆黒の花よ、開け! シンクロ召喚!」

遊奈を中心に、紅の花弁が渦巻いた。

「レベル7、《ブラック・ローズ・ドラゴン》!」

吹きすさぶ冷たい風は、勢いを増してフィールド全域を包む。その中心に、薔薇の花を思わせる刺々(とげとげ)しい鱗をもつ竜が舞い降りた。

「《ブラック・ローズ・ガイル》!」

遊奈の叫びをうけて、花弁を乗せた風はさらに勢いを増した。

その力に耐えられず、《ガガガガンマン》は苦しそうに歯を食いしばる。《ゴゴゴゴライアス》のボディや、《ダイヤモンド・クラブ・キング》の甲羅にはヒビが入っていた。

「……えっ、皆!?」

遊海は驚いて自分のモンスター達を見回す。

「《ブラック・ローズ・ドラゴン》はシンクロ召喚に成功したときに発動する効果を持っている」

吹き荒れる風の中で、遊奈の声は不思議な存在感をもって響いている。

「自身を含め……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

《ブラック・ローズ・ドラゴン》が、その身を散らした。

《ブラック・ローズ・ドラゴン》だった赤黒い花弁は風に乗り、遊海のフィールドに立つ《ガガガガンマン》、《ゴゴゴゴライアス》、《ダイヤモンド・クラブ・キング》、さらには《リビングデッキの呼び声》やセットカード……《聖なるバリアーミラーフォースー》すら切り刻んでゆく。

そして……風が止んだあとには、何も残っていなかった。

「……うそ………」

「俺は手札から魔法カード……」

一瞬ほど躊躇(ためら)ってから、遊奈はディスクにカードを差し込んだ。

「《命削りの宝札》を発動。手札が5枚になるようにカードをドローし、その後5回目の自分スタンバイフェイズに、手札を全て捨てる」

 

『い……《命削り》……!?』

『あんな使いにくいカードを……たしかに、《宝札》カードの中じゃ安いほうだけどさ……』

 

《命削りの宝札》。

手札を全て捨てる……強力な手札補充効果を持ちながら、(あわ)せ持っているかなり大きなデメリット効果により敬遠されているカードだ。

遊奈の目は語っている。

『5ターン後など、ない』

『このターンで、終わらせる』

その意思を感じたのか、遊海もその目に鋭い光を宿して言った。

「…………こい!」

「墓地の《ラッシュ・ウォリアー》の効果を発動。このカードを除外し、墓地から《ジャンク・シンクロン》を手札に加える。《ジャンク・シンクロン》を召喚」

古ぼけたエンジンを背負う寸同の戦士が飛び出した。トテトテと遊奈の傍らに鎮座するゴミ箱へと駆け寄った彼は、その中を漁りはじめる。

「《ジャンク・シンクロン》の効果を発動。このカードの召喚に成功したとき、墓地に存在するレベル2以下のモンスター、《ライトロード・ハンター ライコウ》を特殊召喚。自分が墓地からの特殊召喚に成功したとき、手札から《ドッペル・ウォリアー》を特殊召喚。さらに、自分フィールドにチューナーモンスターが存在する場合、《ボルト・ヘッジホッグ》は墓地から特殊召喚できる」

凛々しい表情の白い猟犬が、軍服にヘルメットの戦士が、背中から大量のネジを生やしたハリネズミが、遊奈のフィールドに並び立つ。

「レベル2、《ライトロード・ハンター ライコウ》、《ドッペル・ウォリアー》、《ボルト・ヘッジホッグ》に、レベル3《ジャンク・シンクロン》をチューニング! 集いし願いの結晶が、聖なる輝きとなって闇を貫く! 光差す道となれ!」

レベルの合計は、9。謎の冷気がフィールドに満ち、白銀の霜が地面を覆う。

 

「レベル9、《氷結界の龍 トリシューラ》!」

 

3つの(あぎと)から発せられる咆哮が空間を(つんざ)く。大きく開けられた顎から、3つの氷柱が発射された。

「《氷結界の龍 トリシューラ》の効果発動! このカードのシンクロ召喚に成功したとき、相手のフィールド、墓地、手札のカードを1枚ずつ選んで除外する! フィールドにはカードはないけど、墓地の《タスケナイト》、手札の真ん中のカードを除外!」

《トリシューラ》の氷柱が貫いたカードは《タスケナイト》、そして《ガガガガードナー》。遊奈は小さくガッツポーズをとった。

そして、

「墓地の《ジェット・シンクロン》の効果を発動。手札を1枚墓地へ送ることで、このカードを特殊召喚する」

「まだ動くのっ!?」

遊海は目を見開いて驚いた。

先程の展開は墓地から回収した《ジャンク・シンクロン》が起点。《ドッペル・ウォリアー》を消費したものの、遊奈にはまだ4枚の手札がある。今の一手で1枚減ったが。

「さらに、コストとして墓地へ送られた《リミッター・ブレイク》の効果発動。墓地から、《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する」

手足の生えたジェットエンジンの隣に、近代的な防護服で身を固めた戦士が颯爽と現れる。

「手札からフィールド魔法、《スターライト・ジャンクション》発動。自分フィールドのチューナー、《ジェット・シンクロン》をリリースし……デッキから、《クイック・シンクロン》を特殊召喚する」

遊奈の発動宣言と同時に、フィールドの景色が塗り変わった。

立体的に交差する幾多の道路。その1つに《ジェット・シンクロン》が消えてゆき、別の道路から《クイック・シンクロン》が現れる。

「《レベル・スティーラー》の効果を発動。《クイック・シンクロン》のレベルを下げて特殊召喚。さらに《レベル・スティーラー》の効果を発動。《氷結界の龍 トリシューラ》のレベルを下げて特殊召喚」

またしても埋め尽くされるフィールド。そして、フィールドにはチューナーと非チューナーが存在する。

「レベル1《レベル・スティーラー》に、レベル4扱いの《クイック・シンクロン》をチュー二ング! 集いし星が、新たな力を呼び起こす! 光差す道となれ!」

レベルの合計は5。

「シンクロ召喚! レベル5、《ジャンク・ウォリアー》!」

青いパワードスーツの戦士が、背中のジェットエンジンから火を噴いた。

「《ジャンク・ウォリアー》の効果発動。このカードのシンクロ召喚に成功したとき、自分フィールドのレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計値、このカードの攻撃力をアップさせる。 俺のフィールドにはレベル1の《レベル・スティーラー》とレベル2の《スピード・ウォリアー》が存在する。よって上昇値は1500、《ジャンク・ウォリアー》の攻撃力は3800になる! バトルフェイズ!」

《トリシューラ》は3つの顎を大きく開き、《ジャンク・ウォリアー》は勢いをつけて高く飛び上がる。

「《トリシューラ》でダイレクトアタック!」

白銀のブレスが遊海に迫る。

「っく…………」

遊海は両腕をクロスさせて受けきった。

 

遊海LP5000→2300

 

だが、

「《ジャンク・ウォリアー》のダイレクトアタック!」

天井近くまで跳び上がった《ジャンク・ウォリアー》は、バックパックのエンジンを作動させる。

「“スクラップ・フィスト”!」

自由落下のエネルギーにエンジンの出力がプラスされ、隕石のようなスピードで《ジャンク・ウォリアー》の拳が遊海のフィールドを叩いた。

 

遊海LP2300→0

Winner 東雲遊奈

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「遊奈、隣いいか?」

「んあ、三沢か。大丈夫だよ」

無言でカレーをかき込む遊奈の隣に腰掛け、カツ丼を頬張る三沢。

「君はいつもカレーだな」

「樺山先生のカレーは飽きないんだ。薄味なわけでもないのに軽く食べられるし、朝昼晩全部これでも1週間は飽きないよ」

「……そうだ、十代がオベリスクブルーへの昇進を蹴ったらしいぞ」

「……マジ?」

今まで口とカレー皿を往復していた遊奈のスプーンが止まる。

「昇格は間違いないと思ってたけど……蹴ったの? 悪い話じゃない……というか、メリットしかないだろうに」

 

十代は前回の月一テストで、格上であるはずのブルー生、万丈目とデュエルして見事勝利を収めた。誰からも抗議される(いわ)れのない、完全な勝利だった。

ブルー生の中でもトップを争う万丈目に勝った……つまりは、十代の実力はオベリスクブルーでも充分に通用するということだ。当然、教師陣も昇格の話を持ちかけたらしいが……

「『やっぱ俺はレッドだ!』と言って戻ったんだとさ……彼らしいな」

「ああ、あいつらしいよ」

三沢と遊奈は可笑(おか)しそうに笑う。

「……そういえば、だ。遊奈、君には昇格の話は来なかったのか?」

「ああ、来たよ。断ったけど」

「そうか…………………なに?」

今度は三沢が、カツを取り落とした。

「断ったのか……?」

「イエローの雰囲気は悪くない。設備もいいし皆優しいし、そもそも俺はエリート気質じゃないし……ブルーはなんかギスギスしてそうじゃん?俺、ブルー男子嫌い」

「そうか……」

「それに、さ」

丁寧に、遊奈はスプーンで最後の一口をすくい取る。

「このカレー、食えなくなるじゃん」

 




お久しぶりです。凄まじくお久しぶりです。埜中でございます。
1週間ペースなんて無理でした。本当に申し訳ごさいません。これからはできれば1週、せめて隔週くらいの更新にしようと思います。よろしければ、もう一度私、埜中歌音と『イレギュラー・シンクロン』にお付き合いください。
さて……今回はVS遊海(2戦目)です。デッキに大きな変更はありませんが、遊奈のエクストラデッキには《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》が、遊海のエクストラデッキには《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》が入りました。もちろん、新パックに何か超常識的な力がはたらいて紛れこんだ、この世界には存在しないはずのカードです。「カードは書き換えた」。
ついに遊奈が鬼畜宝札の一角を……あと、エクストラデッキの枚数が無制限っていうのが遊奈と遊海にとってはアドバンテージですね。遊海のエクストラデッキなんて、95番以下のナンバーズ全部入ってるんですよ。《フォーク・ヒューク》や《クリスタル・ゼロ》は素材指定上呼べませんが…………マジシャンとシスターでだいたい呼べちゃうんですよね、ナンバーズ………
というわけで、次回は……何でしたっけ?廃寮回だった気がしますが……んー、誰に戦ってもらおうかな……

では、最後になりましたが、こんな駄文を読んでくださった皆様に感謝しつつ、筆を置きたいと思います。皆様にささやかな幸せがありますように。

2015年4月某日 埜中 歌音

質問、アドバイス、デュエルミス等あれば是非是非コメントへお願いします。キャラやデッキのリクエストも受け付けております。
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