なんてことの無い陽気な夏の日僕は前世の記憶を取り戻した。
取り戻したとは言っても特別なにかしたわけでもなく不肖の七歳児として活気ある街で同年代の子と好奇心のまま駆け回っていただけだ。
きっかけも無く、ただ七歳児の自分と前世の25・6のころまでの自分が程よくそれぞれの形を保ち、残りは混ざり合っているそんな状況。
生まれる前から自我があるわけでもないのに今も昔も性根に違いがないのは性善説やら性悪説やらの証明の一助になったりするかだとか、夢が「朝昼晩それぞれ風呂に入って、一日の半分を床で過ごし、本を読むことだけに他全ての時間を捧げる」のままの理由とか、なんとも益体のない事ばかりを考えてしまう。
きっとのんびり屋な魂をしているのだろう。そうしている内貴重な子供としての一日が終わった。
翌朝、眠くて仕方ない中両親の言葉に従い布団をはねのけ顔を洗いに洗面所へ向かう。寝不足なのは、前世の最後の記憶が曖昧で引きニートの日常を過ごしているだけで特にその後死ぬなんて想像もできないくらい平和一色だったからだ。好奇心旺盛な子供の体は疑問を抱えて明日へとスキップするのが許せなかったらしい。
記憶の終わりで死んでいるわけではない、ミサイルなんかの兵器で死を知覚できず死んだ、特に意味はない等いくつか仮説を立てて疑問が解消されたかの如く肉体を騙し夢の世界へと飛び立ったのだ。
自分が文化形態の移行なんてものを勉強していないせいで何時の何処なのかすら分からない。
ただ、本が読めない以外は十二分に豊かな暮らしぶりだろう。
印刷技術が安価で安定したのは何時代のころか。今世も夢は叶いそうにない。
無知ゆえに暦は西暦を除きわかるはずもないが場所は可能性が有る。朝食を食べ終えた僕は外に出て街を駆け回る代わりに主婦してる母に尋ねた。21世紀まで残る有名な街であることに期待たい。
「オラリオ」 そういう名前らしい。名物としては「
「ダンまちかー」なんて不満げに言ってしまうのも無理はないだろう。
「試練を数多に踏破してきた英雄が敗北し、死にかけるのが当たり前。……そもそも原作時点が最も英雄に恵まれた時代というわけでもなし」「価値観の違いすぎる神々。裁けず、人に寄り添わず、身内で律するわけでもなし」「危機感の欠如。ゼウス・ヘラが何故黒竜討伐を行ったのかまだ明かされてなったと思うが、それでも理由はあったはず。それなのに失敗した8年後には堕落している」etc……
今挙げたのは「冒険者として生きる場合」だ。その道を拒めば冒険者、そしてギルドが障害となる。……地獄の六道の何れかか?酷いにしても限度がある。これで活気ある街並みなのはホラー案件だよ。「ラキア」や「テルスキュラ」じゃないだけまし……なのかなあ。心の内が曇天なのを強く感じた。
そうだ。まずは原作から何年前もしくは
雲が晴れ、足取りが弾む。今すぐにでも聞きに行こう。
大好きなRPGの敗北BGMが木霊する。現在のオラリオは「暗黒期から7年後」らしい。
一年で最低でもラノベ40冊分の濃い事件がたくさんある、現地民泣かせの時代だ。
暗黒期よろしくスキップさせればいいものを、なんて意地の悪い。
兎にも角にも冒険者になる道はないな。
どうしろと?錐で頭蓋骨を穿られるかのような頭痛がする。子供の精神にこの現実は劇毒すぎる。
数年猶予があるならば冒険者になって力を蓄えただろうさ。どこの七歳児なら1年で何かをなせると?……ダイスを毎日ふってファンブル引かないよう祈る日常が始まろうとしている。頭痛がました。ドリルで削られているみたいだ。救いは何処に?
ひとまずヘスティアやタケミカズチのような詮索せず話を聞いてくれそうな御仁に協力を申し出るか?
悩み悩む僕の五体は防衛反応的にポジティブな事実を頭に呼び起こす。
「産まれたばかりの赤ん坊が周囲をどれだけ認識できるのか知らないけど、暗黒期の惨劇惨状がいつ迫るかと自我ある状態で命の危機にビビり続けたりはしなかっただけまだ情が有るのかな?」
悪意を持つ誰かが僕を弄んでいるという可能性が無くなった気がして深く息をつく。どうしようもない中死ぬまで恐れを抱き続ける様を愉快気に眺める誰かがいないならば、やることなすこと全て失敗に終わるなんてことはないだろう。希望がどこからか現れ背筋を伸ばさせ、真正面を向くことを強要する。希望…そうか希望か。
実現性はともかくやるべきは定まった。口角が上がり皮肉気な笑みを形作る。
冒険者、この街の住人、神々、果てはこの世界全てに絶望を直視させ乗り越える強さをくれてやる。
……さて胸の内で宣誓したもののどんな手段があるのか。つまるところプロパガンダなわけで手段の候補としては新聞、歌、音楽、演説、物語…あたりか。
新聞や似たような情報誌はそもそも多刷り技術がない。歌や音楽は前世のものをパクるのはともかく学んだ経験もなし、当然演説も経験はなく集団心理学なんて創作や史実であった有名なものを通してしか知らない。
物語 悪くない。むしろ良いと言って差し支えない。主人公たるベル・クラネル自身が祖父から読み聞かされた英雄譚により折れかけた心を立ち直したなんてこともある。何より吟遊詩人に謡わせ、カリスマを持つ者に煽らせることで効果倍増。
僕が思いつく範囲で効果も十二分に見込める。なら
あとは実現しちまえ
詰められる所は詰めてしまおう。
題材、黒竜なんかの危機。原作主人公ベル・クラネル、またそれに類するもの。古代以外であれば最悪なんでも良し。
見せ方、人形劇や紙芝居は一人では負担が大きいのでまずは書くだけで良し。
協力者、邪神から守ってくれて現状を正しく認識している者。伝手も広く詮索癖が無いこと
こうしてみると協力者しだいじゃ自分が書かずにいれそうだな。伝聞をちょこちょこ誇張してかっちょいい英雄譚にするだけだし。
肩から力が抜ける。1年間ずっと走り続けるものだとばかり考えていたから、今を頑張れば残りは果報を寝て待つだけ。なんて思いもしていなかったのだ。条件を満たし、真摯に対応してくれる存在を書き出して今日はもう休もう。もうすぐ晩飯の時間だ。居間に向かおう、きっと美味しく食べられる。
ウラノス、ヘルメス、ガネーシャ、ヘファイストス、ディアンケヒト、ヘスティア、ミアハ、タケミカズチと書き連ねる。ロキやフレイヤは地雷。というか幹部達に直接思いの丈をぶつけた方がまだ成果ありそう。ゼウスがいたら一択なんだがなー。
初めのほうは書いた順に頼もしいと言えるだろう。どう接触可能か考えてみよう。
ウラノス、基本会えないのでギルドで無邪気に大きな声で「ゼノス?ってなんですかぁー」と尋ねる必要がある。リスク高杉晋作。最終手段。
ヘルメス、外を飛び回ることも多く、主神の命に絶対な組織構造的に会えないと二度手間。会えたら説得は容易と思われる。アスフィ、協力の暁にはたくさん働いてもらうね。
ガネーシャ、ウラノスと同じくゼノスを話題に挙げれば最低限話は聞いてもらえそう。そしてその案件で忙しいだろうに負担が増えちゃう。
ヘファイストス、…あんまり加点要素も減点要素もない。
ディアンケヒト、やり方次第で儲けることも出来るためプレゼンだけで良さそう。
ヘスティア、今更気づいたがステイタスは感情や信念なんかの影響を強く受けるわけで、ベル君のスキルを知っているヘスティアは最も理解を示してくれそう。
ミアハ、タケミカズチ 真摯にしてくれると思うが、人心の誘導や障害となる存在の排除とか汚いことができない。
こんなところか。それと危なかったーと呟きが漏れる。悪事や小狡いことをやめさせて世界一丸となって災厄へと立ち向かわせる。それだけが目的だったためステイタスのことは頭になかったのだ。成長促進スキルはベル君のを参考にすると追いつきたい、ああなりたいと思わせるのが重要そうだ。これもリクエストしておこう。
…よくよく考えてみればまだベル君はこれといった活躍をしていない、
三大クエストのベヒーモスとリヴァイアサンはともかく現最強のロキ、フレイヤのトップ達なんかのを書いたって効果は薄いだろうし。
そもあいつらが停滞してるからケツ叩こうってわけで。広がった選択肢が見せかけのはりぼてという事実に寝転がり、駄々を捏ねることで抗議する。
所謂政治ができる枠組みのウラノス、ヘルメス、ガネーシャ、ヘファイストス、ディアンケヒトあたりか。ええい、これ以上悩んだって無駄だ。わからないなら最後は勘だ。…ヘルメス。ヘルメスにすることとしよう。明日朝からかちこんでやる。
明朝両親や近隣の人に尋ねまわり無事ヘルメスファミリアに辿り着く。運よくヘルメスは空けておらず背を見せ、持ち物検査をしただの子供と証明すればすんなりと通してくれた。用件も伝えてないぞ。基本話は聞くみたいな方針なのか?
「それでこんな朝早くからどうしたんだい?ファミリアじゃなく俺に話があるらしいけど」
机をはさみ座ったまま柔和な笑みを作って問いかけてくる。
「英雄譚を作りたいんです。昔のおとぎ話じゃない、今を生きる新しい英雄のものを」
プレゼンは結論から。具体的に。戦記物で読んだようなあやふやな記憶の知識を順守して答える。
「おいおいうちにはアスフィがいるとはいえ何だって出来るわけじゃないんだぜ?本とか知識を司る…あー、そういったものに詳しい神を紹介してやるから」
思ったより芳しくない。理由は見当もつかないけど頑張って興味をもたせるしかない。
「いやです。ここじゃないと嫌です」無邪気に我儘を言ってみる。
「それは、どうして?」目の奥に光が生まれた気がする。琴線がどこなのか想像すらできない。
「まず初めに僕は冒険者が嫌いです」特に口をはさむ様子もないので続ける。
「ギルドが嫌いです。神が嫌いです。この街が嫌いです。住んでる人が嫌いです。他の国も全部嫌いです。この世界が僕は大っ嫌いです」まだ開口しそうにないので勢いのまま吐き出す。
「なんで人以外の、和解できない敵がそこらじゅうにいて、何時牙を向けて来るかもしれないのに、対策どころか、見て見ぬふりしてっ、知らんぷりしてっ。金だの酒だの趣味だの、どうして遊んでいられる。いざその時が来て後悔するんだろうに、そんなものの為にぃ」
ギリギリと歯ぎしりが頭の奥から聞こえる。なんて他人事のように感じていると己が七歳児だということを思い出した。うんうん唸っている間ストレスが溜まっていたらしい。こんな状態で謁見できたのが不思議だ。逆にそれが重大の案件だと思ってもらえた感じか?
「それで、それがどう新たな英雄譚に繋がるんだい?」
未だ子供への対応。察してはいるが慮ってくれているらしい。
「今から冒険者の急成長なんて現実的じゃない。魔導書の大量生産成功とか唐突の朗報は期待できない。それでもまだ希望は残されてる」
「ベル・クラネル。前時代の英雄たちの末裔。あなたはご存じでしょう?」
「ポカしたのでもうバレているでしょうし、素直に告白します。私はこの先の世界を多少…知っています。そうですね、カオスのくしゃみに巻き込まれたとでもそう思ってもらえれば」
開き直ったようでそんなことのない僕の精神同様なんとも半端な回答。無性に恥ずかしくなり少し俯くが、目だけは相手のほうへちらりとやる。
「いいだろう。君が何時の何処から来たかなんて問いはしない。君が必要とするなら必要なのだろう、新たな英雄譚が。残酷な現実に何の力も無いまま抗おうとするその心意気こそが手形だ。その熱を信じさせてもらおう」
瞳がギラギラと輝いている。上手いこと導火線に火を移せたようだ。プレゼンの心得、ほとんど参照せず終わっちゃったな。結果がすべて。と慰めながら部屋を後にする。
「君が書いてくれ」
足を止め振り返ると、そこには途轍もない悪戯を思いついた子供のような楽し気な顔があった。
「なんで?」
経緯がわからず淡泊な返事をしてしまう。しかしそんなこと気にしないとばかりに
「いいからとにかくだ。その代わり詮索も迷惑もかけない。むしろ要求を飲むし、君を守ろう。何より君しか書けないものがある。そうだろ?」
確信を持った自信ありげな表情。僕が最も効果的に必要な要素のある作品を作れるということだろうか。初心者の可能性も考慮しているであろうし、活躍を見込める個人個人への助言めいた事とかでも期待してるのかな。未来の出来事は書けないし二次創作てきなやつとか。
思考を脇に、とりあえず要求を飲むらしいので我儘を三つ。
「一つ、書き手の稚拙さを埋めるために絵をたくさん描ける人を手配すること。
二つ、本を大量に作れる道具を作成すること。
三つ、世界中に読ませること。
飲んでくれるなら鋭意先進書かせていただきます」
ぺこりと頭を下げそのまま出ていく。
一人残されたヘルメスはくつくつと笑いを溢れさせる。「世界すべてを英雄にする、だから手伝え。」こんな風に言われたも同然だった。極上の美女に誘われた時よりも胸が高鳴る。
カオスのくしゃみなんてものではないのは察していた。あの少年が何者なのか興味はある。しかしそんな事は些事だ。ん?少年。少年?
連絡手段やらなんやらまだ話があるのに帰してしまったことに気づき、慌てて部屋を出る。
「おーい。さっきの子どこ行ったー?帰ったー?なら追いかけて呼んできてくれ。アスフィー、アスフィー何処にいる?ああいたいた。頼みごとがあるんだけど――」
これは命を賭して英雄になる物語ではない。英雄たちに余裕をくれてやる人情噺でもない。
ただ、世界を守り救う世界を生み出すだけの娯楽三文話だ。
丁寧にやろうとして、でも楽もしたくて。たぶんどっか連続性のない部分があったと思います。
ごめんなさい。
タイトルの二次創作は次回以降から原作の時系列の本編やシリアス味のないサイドストーリーで書いていきます。
そこでサイドスートーリーの方は読者参加型というか面白い展開や掛け合い、IF、絡みなんかのネタを思いついた。しかしわざわざ書くのは面倒、といった方の思い付きを形にしていこうと考えています。
興味ありましたらリクエストお願いします。