「浅野家に生まれて壊れずに生きていくなんて無理無理」   作:クリオネf。t

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学秀君視点。



慌てる兄

「君はE組へ行ってから更に腑抜けた。強者でなければ何の意味も価値も無いという事は分かっている筈なのにね」

 

 そう言われた瞬間の修に表情は無かった。素を知る前ならば、ただの真顔だと思ったかもしれない。

 

「そう。話がそれだけなら私は戻らせてもらうわ」

 

 ()()()()()()()で修は理事長室を出て行った。学秀がその後を追う事は叶わなかった。まだ、話が残っていたからだ。しかも友人4人が學峯の洗脳術にかかるという事態。父が何を考えているのか全く理解出来ない。

 父には、娘である修の姿がどう映っているのだろうか。どこまで気づいているのだろう。……分からない。

 何がしたいのかさっぱり分からない父、すっかり変わり果てた姿となった友人達、途中で退室して行った妹の事を悶々と考えながらも帰り支度をしていた時。学秀のスマホに着信が入った。ディスプレイに映し出される「修」という名前。

 

「修。お前、大丈夫なのか」

 

 丁度心配していたタイミングでかかってきたので、考える間もなくすぐに応答した。

 

『…あの、浅野君』

 

 しかし受話器越しに聴こえる声は妹のものではなかった。思わず「誰だ」と声色が険しくなる。電話先の声の主は修のクラスメイトである矢田桃花という女子生徒だった。

 

『あのね、落ち着いて聞いて欲しいんだけど』

 

 ──あーちゃん、旧校舎に来るまでの道の途中で血塗れで倒れてたの。

 

 矢田の一言に、思わず息を飲んだ。

 誰が、どうしたって?修が血塗れで倒れていた?

 頭の中が真っ白になりかけた。しかしここで取り乱しても何も解決はしないと、冷静さを保ちながら何とか「…それで、今どこに」と声を絞り出す。

 

『旧校舎の保健室だよ』

「……。分かった。今すぐそっちに行く」

 

 普段ならば絶対に寄りつこうとも思わない旧校舎(ばしょ)。しかし、そんな事今はどうだってよかった。一刻も早く、妹の無事をこの目で確認したかったのだ。学秀はこれ以上ない位に全速力で山を駆け登った。流石の学秀も片道徒歩20分の舗装もろくにされていない山道を全力で駆け登れば旧校舎へ辿り着く頃には息を切らしていて、校庭にいた数人のE組生徒から驚愕の視線を向けられる。普段の学秀ならば不遜な態度を取っていただろうが、今の彼にそんな余裕は無く。ただ一言、「修は」と聞いただけだった。聞かれたE組生徒の一人──菅谷創介が「保健室ならあそこ」と指を差して保健室の位置を教えた。

 

「…ありがとう」

「えっ?お、おう」

 

 まさか学秀がE組に対し礼を口にするなどとは思わず、一瞬戸惑う。学秀はそれどころではなく、そんな菅谷達には目もくれずに保健室を目指していたが。

 

「……あいつ、E組(おれら)に礼言えるんだな」

「確かに。てかめっちゃ息切れしてたな」

「相当急いで来たんだろうな。余っ程妹の事心配なんだな。意外だ」

 

 旧校舎の保健室へ向かう学秀の背中を見つめながら、彼等はそう呟くのだった。

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