「浅野家に生まれて壊れずに生きていくなんて無理無理」   作:クリオネf。t

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家族の会話

 家族4人で食卓を囲んだ時。

 母にも父や兄に話したのと同じ事を打ち明けたら、「話してくれてありがとう」と言われ抱きしめられた。久しぶりに家族全員で囲んだ食卓には、かつてないほど穏やかな時間が流れているのを感じる。

 

「時に修」

 

 父に名前を呼ばれたのはいつぶりだろう。父親が娘の名を呼ぶ、そんな当たり前の事がどうしようもなく嬉しく思えてしまう。

 

「うん……お父さん、何……?」

「君は本校舎へ戻るか否か、自分で決めたいと言っていたね」

 

 どうしたい?と問われる。

 隣の学秀が修を見た。学秀としては戻って来て欲しい気持ちが強い。だが、修の気持ちを尊重したい気持ちもあった。

 

「私……最初は、戻ろうかとも考えてた……本校舎の皆とも、ちゃんと向き合いたいって、思ったから……でも……」

 

 E組の生徒達は外部生扱い。中学を卒業してしまえば、そのほとんどは椚ヶ丘とは別の高校に進んでしまう。今のE組と同じ学校で過ごせるのは、卒業するまでの短い期間だけだ。

 

「私、E組の皆が好き……本校舎の皆とは、入り直せばまた、同じ学校で過ごせるから……私、E組に残る……」

「……そうか」

 

 修の答えに、學峯はそう短く返した。

 何となくE組に残る気はしていた。していたけれど、いざそれを口にされると何だか修に選ばれたE組が、学秀には少しだけ妬ましく思えた。

 

「ああ、そういえば。修、蓮達もお前の事を心配してたぞ。今度時間のある時にゆっくり話をしたらどうだ?」

 

 食事が終わった後、学秀からそう聞いて、そう言えばE組への転入以来彼等とまともに会話を交わしていないな、と思った。二学期中間テストの後に少し顔を合わせたけれど、会話という会話はしていない。

 

「うん……蓮君達とも、話したい……」

「……お前、蓮の事そんな風に呼んでたか?」

「ん……本校舎にいた頃は、皆の事平等に苗字で呼ぶようにしてた、から……心の中では、蓮君って呼んでた……こっちの方が、呼びやすい……」

 

 それにいつも学秀が「蓮」と呼んでいるから、それがうつったというのもあるかもしれない。

 

「……まぁ、お前の都合のいい時間にでも会いに行けばいい。何なら来るタイミングで連絡をくれたら僕からあいつ等に伝えておいてやる」

「あ……私、蓮君とは、個人的に連絡先持ってる、から……自分でする……」

 

 学秀の顔から表情がスン…と抜け落ちる。

 

「蓮とはいつ連絡先を交換したんだ…?」

 

 両肩にそっと手を置かれ、何やら神妙な面持ちでそんな事を聞かれた。

 

「えっと……2年生の時……?」

 

 そんなに前から……と学秀は頭を抱えた。まさか修にまで手を出していたとは。榊原は決して変な事をしようとしたとかそういうわけではないものの女性との距離が近く、校内で関係を持った女子生徒も数え切れないほどいるので、兄としては心配にもなるのである。

 

「蓮の奴…」

 

 どうしてくれようか、と学秀は心の中で思案する。

 連絡先を交換しただけで特に何かをしたわけでもないのに、榊原も不憫な男である。だが修はそんな榊原の行く末も、学秀の心中も、何も知る由はないのであった。




兄の方からも妹の方からも下の名前で呼ばれる榊原君大勝利。
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