「浅野家に生まれて壊れずに生きていくなんて無理無理」   作:クリオネf。t

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声をかけられて、馴染んで

 竹林がE組へ帰還し、暗殺教室にいつもの明るさが戻った。そうなると、次なる問題は修との関わりだ。

 何を考えているのか全く分からない。しかし、授業は通常のものも暗殺訓練の体育も全て真面目に受けている。流石學峯の娘と言ったところか飲み込みが早く、あっという間にコツを掴んで烏間に一本入れるという才覚を見せていた。

 

「ねぇ浅野さん」

 

 声かけられた修は静かに顔をあげる。じっと顔を見つめて「…矢田さん」と小さく口にした。

 

「数学で分からないところがあるんだ。良かったら教えて欲しいなって」

「……」

 

 何故自分に、と思った。このE組(クラス)には殺せんせーという優秀な教師がいるのだから、そちらに聞いた方がわかりやすいのではと。

 

「…分かった。隣…座って」

 

 しかし頼られている以上断るわけにもいくまいと了承し、隣の空席へ座るよう促した。矢田は空席を修の席へくっつけると、教材を開いて席に着く。

 

「…聞きたいの、どこ」

「えっとね…」

 

 矢田が分からないと言った箇所を懇切丁寧に教えていく。何だか久しぶりの感覚がした。B組にいた頃、こうやって毎日のように誰かが何かを教えて欲しいと聞いてきては教えていた記憶がよみがえる。

 

 ──E組へ来てみてはどうでしょう。彼等ならきっとありのままの君を受け入れてくれると思いますよ。

 

 E組(ここ)へ来る前、殺せんせーから言われた言葉。本当にそうなのだろうかと、本来の自分で自己紹介をしてみた。あまり芳しくなかった。どこか遠巻きに見られるだけで、中々話しかけて来る者はいない。何も取り繕わない、本来の自分だからだろう。しかし今更取り繕ったところで、本来の虚無な自分の姿を知ってしまった彼等には通用しない。結局、本来の自分を出してはいけないのだと諦めかけていたけれど。

 

「わ、凄い。浅野さん、本当に教えるの上手だね。凄く分かりやすい」

 

 矢田はそれでも修に話しかけてくれた。もしかしたら見かねてそうしただけかもしれないけど、少し胸が軽くなった…ような気がする。

 

「…本校舎にいた時、毎日クラスメイトに教えてたから…」

「え、毎日!?それって大変じゃない?」

「…別に。それが私の役割だったから」

 

 役割。淡々とそう告げた修に、矢田は一瞬だけ複雑そうな顔をする。しかしそれはすぐに元の明るい表情へと戻った。ぱん、と何かを思いついたかのように両手を合わせて「じゃあさ」と言う。

 

「この後時間ある?一緒にカフェ行こうよ」

「…カフェ?」

「うん。教えてくれたお礼も兼ねて」

「…でも」

「それに浅野さんともっと仲良くなりたいなって。どうかな」

 

 クラスメイトとカフェへ行った事など、今までただの一度も無かった。誘った事も誘われた事もない。皆何やかんやで理事長の娘である修に気を遣っていた部分があったのだろうし、椚ヶ丘(ここ)の生徒は勉強に追われ放課後は学習塾へ通いつめる者も多いから。

 

「もしかして迷惑だった?」

「…迷惑とかじゃない。ただ…クラスメイトから放課後カフェに誘われたのが初めてで、びっくりしただけ…」

「そうなんだ!じゃあ尚更行こうよ。よく皆で行くお店あるんだ」

「……。…うん。行く」

 

 修はこの日初めて、クラスメイトと放課後お茶をした。

 その日を境に、修へ話しかけて来る者の数が少しずつ増えていく。最初は女子が多かった。やがて男子も話しかけてくる者が増え、一週間も経つ頃には修の周りにクラスメイトが集まるようになっていた。

 

「ね、あーちゃん。髪型アレンジしてもいい?」

 

 矢田からは「あーちゃん」と呼ばれるように。女子の何人かは「修ちゃん」と呼ぶ者が増えて、倉橋からは「あっちゃん」と呼ばれた。愛称で呼ばれるのは初めてだ。呼ばれ方に拘りはないので好きに呼んでくれていいと言ったらそうなった。

 

「…好きにすればいいと思う」

「わーい。じゃあアレンジするね」

 

 修は無表情でされるがままだ。その光景がシュールで、何人かがおかしそうに笑っている。変な気分だ。でも、悪くは無い。

 

「できた〜」

「おお、イイじゃん!流石矢田ちゃん、凝ってんねぇ」

「普段のシンプルなサイドテールもかわいいけど、こういう凝った髪型もかわいい〜」

 

 手渡された手鏡を覗けば、左側にシニヨン、右側に編み込みがなされていた。三つ編みの巻きついたシニヨンからは余った髪が垂れ下がっている。

 

「うん、やっぱりこっちの方がかわいいよ!」

「素材がいいしねぇ…」

「……。よく分からないけど…皆がそう言うなら、明日からこの髪型で来る…」

 

 髪型に拘りなどないが、何となくそうしたいと思った。

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