「浅野家に生まれて壊れずに生きていくなんて無理無理」 作:クリオネf。t
中間テスト前にクラスメイト数名が失態を犯した。烏間から禁止されていたのにも関わらず、裏山以外の場所でフリーラーニングに臨み、その末道行く老人に怪我を追わせてしまったのである。老人は保育施設を経営していて、誰よりも彼自身が一番労働していた。彼が復帰するまでの2週間をE組全員で担い、それで慰謝料と損害分の責任を取るという運びになり。その間、テスト勉強は禁止となった。
29人で2週間。子供達の心を掴んだほか、老朽化した建物をリフォームするという普通では出来ない貴重な経験もさせてもらった。この
テストの結果はほとんどの者が惨敗だったが。
「拍子抜けだったなァ」
「やっぱり前回のはマグレだったようだね〜」
「棒倒しで潰すまでもなかったな」
そのせいか、下校時刻山を降りた先でE組生徒は五英傑絡まれる事となる。順位を落としてしまっただけに何も言い返す事が出来ずにいた。
「言葉も出ないねェ。まぁ当然か」
「この学校では成績が全て。下の者は上に対して発言権は無いからね」
それに気を良くした五英傑が更に煽ってくる。そこへ背後からザッと現れたのがカルマだった。
「へーえ。じゃ、あんた等は俺達に何も言えないわけね。ねー、修ちゃん」
「……私は別に……」
たまたま帰りが一緒になってその後ろからひょこっと顔を出した修の肩にぽんと手を乗せて同意を求める。
「えー、そこは乗っかってよ。…まーどうせうちの担任は『1位じゃないからダメですねぇ」とかぬかすだろーけど」
総合成績はカルマが492点で2位、修が491点で3位。修は生まれて初めて学秀以外の人間に順位を抜かされた。しかし、そこまで悪い気分ではない…気がする。
「…カルマ君」
「気づいてないの?今回本気でやったの俺と修ちゃんだけだよ。他のみんなはおまえ等の為に手加減してた。おまえ等も毎回敗けてちゃ立場が無いだろうからって」
「なにィ〜〜〜」
しかし次は全員容赦しない。同じ条件で受ける最後のテストである2ヶ月後の二学期末。そこで決着つけようとカルマが宣戦布告する。
「…チ…上等だ」
「…宣戦布告は別にいいと思うけど、カルマ君はちょっと相手を煽りすぎ…だと思う。よくない」
「えー、修ちゃん厳しい」
「あと…なんで呼び方、いつもと違うの」
いつもは「浅野ちゃん」と呼ぶのに、何故か今は「修ちゃん」に変わっている。呼ぶにしても、何故今このタイミングなのだろうか。
「別に?何となくだよ」
「…そう。別に、呼びやすいなら…それでいい」
呼び方にこだわりは無い。すぐに興味を失った修はそれ以上何も尋ねる事をしなかった。
「次の、期末。…私も頑張る……一緒に」
目線はどこを向いているのか分からない。しかし、最初にE組に来た頃の瞳の昏さはもうそこには無いようにカルマには感じられた。彼女もきっと、少しずつ前へ進んでいる。
しかし、カルマ達と共に立ち去る修の後ろ姿を見ながら困惑している者達がいた。
「なぁ…あれ修、だったよな?」
「ああ…あの可憐な姿は間違いなく修ちゃんだ。だがあれは…」
初めて見る表情の動かない、抑揚の無い話し方の修の姿。五英傑が困惑するのも無理のない事で。
「……。浅野君?」
中でも学秀は…これでもかという位に目を見開き、衝撃を受けた表情を浮かべながら修の歩いていく方を見ていた。