俺の父さんは凄い人らしい。
“個性”や“ヒーロー”が当たり前に存在するこの世の中において父さんは日本のヒーローのトップ2に君臨する実力者として活躍している。
その活躍はすさまじく俺が生まれた時、というか父さんが結婚する時には既に2位の座を獲得しており、その地位を何十年も維持し続けているらしい。なのでここ暫くは1位と2位はずっと同じ人がなり続けている。
だが、そんな父さんはヒーローとしては立派でも父親としては最悪だった。俺には2人の兄と1人の姉、そして双子の弟がいる。大家族だと思うかもしれないがその理由が理由だけにあまり良い事ではないのだろう。
父さんと母さんは所謂個性婚らしい。個性婚とは強力な個性を持った男女が結婚することで子供により強力な個性を発現させる目的で行うものらしい。あまり褒められた事ではないようで父さんと母さんの結婚理由は普通のお見合いで通されている。
そして、これだけの人数を産んだという事はそういう事だ。望んだ個性を持った子供が出来なかったせいだ。実際、長男は父さん以上の火力が出せる個性が発現したが肉体は母よりのせいで満足に扱う事が出来ない。次男と長女はそもそも弱個性で論外と来ている。ちなみに、母さんの個性は冷気系であり、父さんは炎系だ。父さんの理想としては炎を高出力で出しつつ燃えるように熱くなる肉体を冷気で冷ますというものらしい。
そんな父さんの理想を叶えるようにして生まれてきたのが双子の弟の焦凍だ。焦凍の個性は“半熱半冷”、右手で氷を、左手で炎を操る素晴らしい個性だ。おかげで焦凍が個性を発現して以来父は焦凍に過剰に期待するようになり、虐待と言わんばかりの訓練を行うようになった。
そのせいで元々最悪だったうちの家庭は地獄となった。父さんの個性が“ヘルフレイム”というだけあって家庭もそれに相応しい地獄の様相を見せている。
母さんは心労が祟って入院中だ。長男は死んだし、次男は大学に行って一人暮らしを満喫中。姉さんだけが家を何とかしようと藻掻いている。弟はこんな環境のせいで荒れに荒れて父さんと同じ炎を使わないと言って氷だけでヒーローになりたいようだ。
……ああ、そういえば忘れていたな。俺の名は轟
「脆いなー」
雄英高校の入試会場。そこの一つはまさに地獄とも言うべき状況となっていた。市街地を模した会場は炎と瓦礫で死の街と化しており、あちこちで入試試験用のロボットが破壊されて倒れている。
試験を受けに来た受験生たちはあまりの光景に絶句し、試験だという事も忘れて立ち尽くしている。
「これで一体何が測れるというのか。雄英高校、期待しない方がよさそうだな」
この惨状を引き起こした元凶は炎の中心地で何かを呟きながら絶えず火を放ち続けている。彼の周囲は地面すら溶けかけるほどに温度が上昇しており、近づいてくるロボットを炎と熱のダブルコンボで破壊している。
「んー、でもまぁ、所詮はこんなもんか? これでも国内最高峰だしここ以外なら論外でしかなさそうだな」
既に炎は試験会場を埋め尽くす勢いで広がり、その熱により試験後半から登場する予定だった0ポイントヴィランを稼働する前に機能停止に追いやっていた。この調子でいけば試験会場が二度と使えなくなるレベルの損害を与えてしまうだろう。
「やめだ。これ以上はつまんねぇしこれで落ちるならそれはそれでいいな」
だが、男は投げ捨てるような言い方をすると炎の噴出を止めて近くの瓦礫に座り込む。まるで固まった溶岩のように黒く変色した瓦礫に座った男は眉をひそめたまま上を見た。
炎が消えたことで慌てて他の受験者たちがロボットの破壊を目指すが既に男によって破壊しつくされた後であり、彼らは1、2体倒せればいい方だろう。
このような惨状を引き起こした男、轟業火はあくびをしながらつまらなさげにしている。その様子にヒーローとしての姿はない。その姿はまさにヴィランの如き姿であった。
「これは酷いね……」
深夜。雄英高校では入試試験の採点を行っていたがその中で一人の様子に教師の誰もが絶句していた。
その男、轟業火は総合ポイント200という驚異の数値を叩き出し、2位に対して倍以上の点差を出していたがそれも会場での彼の様子を見れば一目瞭然だった。
「開始と同時に足裏から出した炎で飛び上がり、会場の中心地に着地すると市街地への被害を一切考慮しない炎の範囲攻撃で周囲のロボットを破壊。そのまま炎を吐き出し続けて会場のほぼ全体に炎をまき散らす。その影響で用意した0ポイントヴィランは稼働する間もなく機能停止。同じ会場にいた他の受験者たちのポイントはほぼ0点。……雄英高校始まって以来の出来事ね」
「正直なところヒーローとしては相応しくはない行動です。模範的なヴィランの動きと言っても過言ではないかと」
「オイオイ。だからと言って入学を拒否なんて出来ねーぞ」
「確かにそうだね。炎の攻撃も受験者の行動を阻害するためのものだったようだし妨害目的だったとしたら咎める事は出来ない。無論、彼の凶暴性に目をつぶればだけど」
「ですがそれを正すのも我々の仕事ではないでしょうか? それに、私としては彼を不合格にして社会に解き放つ方が危険だと思いますが……」
誰もかれもが彼の行動に頭を抱えていた。しかし、結果を残している以上合格にするしかない。それで不合格にするのであれば過去にも同様の事例があってもおかしくはないのだから。
「もともと推薦入学を蹴って態々一般枠から受験した子だからね。合格してもおかしくはなかった。……相澤君。悪いけど彼は君に担当してもらうよ」
「構いませんよ。ただ、ヒーローに相応しくないと判断したら、その時は容赦なく切り落としますよ」
「勿論さ。それも含めて君にお願いするよ」
雄英高校の校長の言葉に相澤と呼ばれた教師は淡々と告げた。轟業火、雄英高校をトップで合格した瞬間だった。
轟
轟家の三男。焦凍とは双子の関係で兄。エンデヴァーそっくりな容姿と個性を持つ。そのせいで焦凍との関係は最悪。
個性:ヘルフレイム?
父親とそっくりな個性を持つ。ただし、様々な面で父親以上のスペックを持っている。