俺の個性はサイキョー   作:鈴木颯手

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第十三話

 緑谷出久は眼下にて行われた試合を見て言葉を失っていた。轟焦凍の双子の兄である轟業火と常闇踏影の試合。圧倒的な力を持っていると思われる業火と騎馬戦ではチームメイトとなった常闇という事で緑谷は分析ノートを片手に試合を見ていた。

 当初の予測では炎を使い中遠距離での戦いをしてくるだろう業火とそれらの炎を掻い潜り、ダークシャドウの攻撃をいかに通すかという試合展開になるだろうと考えていた。常闇がチームメイトにだけ明かしたダークシャドウの弱点である光に弱いという弱点が業火とは相性が悪く、ダークシャドウは不利な戦いを強いられると思われていた。

 しかし、いざ試合が始まってみれば当初の予想とは裏腹に業火は一切炎を見せなかった。そのためにダークシャドウの猛攻を受ける事になるがそれらを紙一重で避けていく。武道の心得のない緑谷はそれらが何とかよけられているように見えたが後ろ怒鳴りに座っていた尾白がぽつりと漏らした。

 

「……全部見切って避けてる」

「え? どういう事? 尾白君?」

「業火のあれはギリギリの所を見極めて避けてるんだ……! あのままじゃダークシャドウの攻撃は当たらない……!」

 

 武道の心得を持つ尾白だからこそ理解できた業火の動きだった。実際、実力者を中心に業火は楽に避けているように見えていた。そしてそれは常闇も同様に感じていたのだ。

 

「すごい……! 全然当たらない……!」

 

 緑谷は焦凍の兄という事で自然と戦闘スタイルが似ていると無意識で思い込んでいたが実際はそうではないのかもしれない。そう思わせるだけの動きを業火はしていたのだ。

 そして、突然その攻防は終わりを迎えた。業火はまるで失望したとでも言いたげな冷たい表情になると炎を足裏から吹き出し、ジェット噴射すると一瞬にして常闇の懐に潜り込み、腹部に深々とパンチを繰り出したのだ。

 ダークシャドウという攻防一体のモンスターを従えている常闇だがそれと同時に本人はそこまでの戦闘能力がないことを意味していた。今のように一瞬で間合いに入られては常闇ではどうする事も出来なかったのだ。

 結果、常闇は勢い良く吹き飛ばされ、スタジアムの壁に激突した。大きく罅が入るほどに勢いよくたたきつけられた常闇はそれ以上動く事はなかった。

 

「常闇君場外! 轟業火君の勝利!」

 

 それはまさに圧倒的だった。炎を使うまでもなく業火は勝利を掴んで見せたのだ。勝利した業火は特に喜びを見せるわけでもなくさっさと戻ってしまっている。まるで勝つのは当然だったと言わんばかりに。

 

「……あれが、轟君のお兄さんの実力……」

「緑谷、もし2回戦を勝ったらあれと戦うのか?」

「……」

 

 尾白の言いたい事は理解できる。常闇は消して弱い生徒ではない。むしろ1-Aの中でも戦闘能力は高い方だろう。そんな彼を一方的にたたきふせた業火は間違いなく1-Aでも最強の存在だった。

 それに勝てるのか? 緑谷は脳内でどう考えても勝つビジョンが浮かんでこなかった。爆豪勝己や轟焦凍にさえ感じたことのない絶望的なまでの敗北のビジョンだけが浮かんできた。

 

「……まずは轟君からだよ」

 

 業火との試合を考える前に焦凍との試合に集中する。今の自分の実力では焦凍に勝つ事さえ難しいのだから。その先の事にまで頭を使う余裕はないのだ。

 緑谷は焦凍に勝つための方法を考えながら以降の試合にも集中するのだった。

 

 

 

 

 

 エンデヴァーにとって業火の強さは完全に予想外だった。自らのサイドキックを通じて業火の訓練内容や模擬戦の結果などは聞いていた。しかし、業火の実力はその報告のどれからも逸脱していた。サイドキック相手に似たような事をしたことはあった。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それも最後に行った()()()()()()()()()()だ。それが意味する事はただ一つ。エンデヴァーに知られないようにサイドキック相手にさえ業火は()()()()()()()のだ。

 ギリッ、と自然と拳を握りしめていた。ここに来てエンデヴァーは業火が何を考えているのか分からなくなってしまったのだ。

 

『父さんが焦凍に構うのはなんとなく理解できるよ。あんだけ強い個性を持っていればね』

『だから父さんは焦凍の訓練に集中すればいいよ。代わりに俺にはサイドキックを紹介して欲しいな』

『大丈夫だって。長男みたいに自分の力を図り間違ったりはしないからさ。安全第一で頑張るよ』

 

「業火……! お前は何を考えている……!?」

 

 熱気で壁が歪む。エンデヴァーの周囲の温度が急激に上がっていく。だが、そんな彼を冷静にさせるように後ろから声をかけられた。

 

「父さん。こんなところにいたんだね」

「業火……!」

 

 それは先ほどまで試合をしていた業火だった。業火はいつもと変わらない様子でエンデヴァーに近寄っていく。だが、今のエンデヴァーにはそれすら作り者のように思えて仕方なかった。

 

「……どういうことだ。いつの間にあんな力を手に入れた?」

「え? うーん、中学生に上がる頃にはあれくらいは出来るようになっていたよ。……あ! もしかしてサイドキックとの模擬戦と違うって考えてる? それはそうじゃん。一応プロヒーローなんだよ? ()()()()()()()()()()()()()()()?」

「っ!!??」

 

 舐められている。そう言っているかのような業火の言葉にエンデヴァーはカッと目を見開くと炎をまき散らす。それは№2に相応しい圧力であり、業火でさえ、冷や汗をかき後ずさるほどの重さを持っていた。

 

「お前は、何がしたいのだ?」

「……別に、何も? 安心してよ。立派、かどうかは分からないけどヒーローにはなるつもりだしヴィランになったりなんてしないからさ。エンデヴァーの名に傷はつけないよ。ああ、もしかして焦凍の引き立て役を全うしていない事に怒ってる? 俺はちゃんと役目を全うしようとしているよ? ただただ焦凍が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。流石にその辺を俺のせいにされても困るよ」

 

 そう言う業火は嗤っている。それはいつも弟の身を案じている兄の姿ではなく、出来損ないをあざ笑うヴィランの如き笑みだった。そして、エンデヴァーは何故か今は亡き長男である燈矢の面影を重ねていた。燈矢は一度としてそんな嘲笑する笑みを浮かべたことなどないというのになぜかその様子がありありと想像できてしまったのだ。

 

「……おっと、そうだった。俺、自分の組の席に戻るから。父さんも焦凍が勝ち上がれるように応援していると良いよ」

「ま、待て!」

「待たないよ。それじゃぁね」

 

 慌ててエンデヴァーが呼び止めるも業火は背中を向けて離れていった。エンデヴァーは何故かそこにまたしても燈矢の面影を感じ、呆然と見送るのだった。

 

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