「バカな……!!!!!」
エンデヴァーは目の前で行われた試合に衝撃を受けていた。自分の息子同士の試合という事でこれまで以上に期待を込めて見ていた。とはいえ彼は焦凍が勝つと疑っていなかった。
焦凍はエンデヴァーが望んだ炎と氷を操る事の出来る個性であり、熱によって長時間の戦闘が出来ない弱点を氷で補う事が出来る理想的な力を有していたのだ。そのために個性が発現してからというもの厳しい訓練を焦凍に課し、自らが望んでも得られなかったオールマイトを超えるヒーローに育て上げてきたのだ。
一方で、業火は完全に自らに瓜二つだった。容姿も個性もまるで若いころの自分を見ているような気分となり、かつての自分のオールマイトへの劣等感を否が応でも思い出させるために視界にすら入れないようにしてきたのだ。とはいえそれだけ似ているのであれば自分程度には強いヒーローとなれると判断したエンデヴァーは自らのサイドキックに訓練を丸投げしていた。
——エンデヴァーさん。業火君についてですが……
——奴の話は聞きたくはない。強くなっているのならばそれでいい
——そ、そうですか……。
最初の頃は何度かエンデヴァーに報告をしようとしたサイドキックもいたがそう言い続けるうちに誰も何も言わなくなっていった。それは同時に業火は順調に成長しているという証明でもあり、エンデヴァーはそれだけで満足してしまったのだ。
彼は業火の強さをきちんと把握する事が出来ていなかった。その結果が眼下に広がる光景だ。氷結の大質量攻撃をものともせずに終始余裕を崩さなかった業火。自らが編み出した必殺技をまるで通常攻撃のようにポンポンと打ち出す様は自らの努力を否定されている彼のように錯覚してしまう程にこちらを嘲笑しているように感じさせた。
そして、業火は炎の弓矢で焦凍の氷結をあっけなく貫通してそのまま吹き飛ばして勝利を掴んでしまった。それが意味するのは最初から手を抜いていたという事であり、業火はその気になれば焦凍をいつでも倒せる状態にあったという事だ。
「いつの間に、いつの間にあれほどの力を……!!!」
ふと、業火と目線が合う。彼は嗤っていた。まるで「貴方の理想はこの程度なんですか?」と言いたげな感情を笑みと共に浮かべているように見える業火にエンデヴァーは怒りよりも大きな衝撃を受けていた。彼の中で業火とは少しおちゃらけた処がある普通の子供であり、こんな風に挑発的な、ともすればあざ笑うような表情を浮かべるとは思ってもいなかったのだ。
あれは本当に自分の息子なのか? とさえ感じる程に。確かに自分の息子だというのに疑ってしまう程に彼は今、エンデヴァーの知らない面を見せていた。
「————」
パクパクと、何かを呟く。歓声で何を言っているのかは聞き取れないしエンデヴァーに読唇術の心得はない。が、それでも何と言っているのか分かってしまった。
——10年間の育成。無駄でしたね。
準決勝第1試合が轟業火の勝利に終わり、続いて行われた第2試合。飯田天哉対爆豪勝己の戦いは即座に決着がついた。
飯田はスタート開始と共に自らの必殺技であるレシプロバーストを発動した。これは短い時間限定であるが圧倒的な超高速移動が可能であり、それによって爆豪勝己に短期決戦を挑んだのである。爆豪勝己の個性は汗を燃料としている為に時間が経てばたつほど爆破が激しくなってきてしまう。それを防ぐために短期決戦を挑んだのである。
しかし、結果的にそれは裏目に出る事になってしまった。何と爆豪は飯田との直接戦闘を避けたのだ。上空へと飛び上がる事で飯田の時間切れを狙ったのである。まさかの逃げの一手に誰もが驚かされ、飯田が時間切れとなると同時に猛攻を仕掛けて場外へと吹き飛ばされ、爆豪が勝利したのである。
これにより、決勝は轟業火対爆豪勝己となり、誰もが期待を膨らませた。それもそうだろう。何しろ戦う二人はここまで圧倒的な実力を見せつけて勝利してきた強者である。上級生にも劣らない戦闘能力を有する二人がどんな戦いを見せてくれるのか、誰もが期待して決勝の時を待っていた。
「漸くだなァ!! 舐めプ野郎……!」
「そうだね。それにしても舐めプなんて酷いじゃないか」
決勝戦。向かい合う爆豪勝己と対峙するが相手はやる気満々な様子だ。表情はどう見てもヴィランにしか見えない。これがコスチュームならまんまヴィランだろうヴィランと間違えてヒーローから攻撃されてもおかしくはないだろう。
「アアァッ!!?? 舐めプだろうが! あんな動きしておいて気づいてねぇと思ってンのか!!」
「……」
ありゃりゃ。気付かれてたのかね? 確かに俺は
「舐めプのクソカス野郎に勝っても嬉しく何てねぇんだよ!! 俺が取るのは完膚なきまでの1位だ! 本気出せや!」
「うはっ。実力不足でそれ言うのは滑稽だよ」
「~~~~~~っ!!!! ……殺す」
怒らせ過ぎたか? 別に問題は無いだろうけど。
『決勝戦!!! スタート!!!』
「オラァッ!!! 死ねぇ!!!」
先手を取ったのはあっちか。爆破で吹っ飛んでくるようにこちらに来て爆破を放つ。それも一発ではなく何発も何発も。そう、連打だ。だが俺はそれを炎の盾で防ぐ。それもただの盾じゃないぜ。
『轟、爆豪の爆破を炎を盾にしてふせ、ってなんじゃありゃ!!??』
『まるで液体だな』
質量を持たせられるという事はその硬さも自由自在よ。故に炎の盾はまるで水のように柔らかいものとなっている。結果、爆破の衝撃を限界まで吸収して防ぎきってしまう。
これを出来るようになるのは苦労した。どれだけ頑張っても柔らかくできなかったがバーニンさんの髪を触らせてもらってイメージを固めて去年出来るようになった。ありがとうございましたバーニンさん。触らせてもらう時にそのことを言ったら「私の髪は柔らかくて使い物にならないってかぁ!?」と怒らせてしまったが。バーニンさん。細かいことは気にしないしめっちゃくちゃ話しやすいけど元ヤンかよって思うような言動をする時があるんだよなぁ。
「てめぇ!! 何よそ見してやがる!!」
「それだけ余裕があるんだよ」
バーニンさんの事を考えていたら突如として爆豪が爆破で盾を回り込むようにして出てきた。爆豪は俺が余計な事を考えている事に怒っている様子だけどそれだけ俺たちの間には差があるんだよ。自覚しなよ。あ、今の実力差じゃ無理かな。
「オラァッ!!!」
「はい残念」
爆豪は移動しながら不意を突く形で爆破を叩きこむ事にしたのか動き回ってこちらの隙を窺おうとしてくるが全て炎の盾で防ぐ。どんどん動きが速くなっていくがそれで俺の防御が間に合わないって事は起こらない。
「クソがぁっ!! いい加減本気を出しやがれ!! 舐めプ野郎!!!」
「んじゃそっちももっと本気でやりなよ。あ、それが爆豪の本気なら無理か」
「っ!!!」
軽く煽ってみるけど爆豪は怒りこそすれ冷静なままだ。怒りに身をゆだねる事もなくこちらを潰そうと的確な動きをしてくる。才能マンとは誰が言った言葉だったか。こうして戦っている間も成長を遂げている。
「だけど、まだ遅い!!」
「っ!!」
『ああーーっと!! ここで轟、爆豪の動きに合わせてパンチを繰り出したぁぁっ!!! 顔面に諸に入ったぞ!!』
『分かっていた事だが爆豪の動きは完全に見えているようだな。爆豪も凄いがそれでも轟業火はその何倍も先を行っている。恐らく、ヒーローの中でも上位レベルの実力を既に持っているだろう』
『ほうほう。つまり爆豪はプロヒーローと戦っていると言っても過言ではないと?』
『流石に経験では劣るだろうがおおむねその通りだろう』
「聞いたか? プロヒーロー級の、それも上位レベルの実力があるってよ。爆豪、お前格下だな」
「うるせぇ!!! 黙って俺の踏み台になれ!!」
「いやだよ」
パンチ一発程度じゃ倒れないか。本気で殴ったつもりだったんだけどなぁ。やっぱ腰が入っていないせいか? まだまだそっちの練習もしないといけないな。
「オラァッ!!!」
「残念」
「オラァッ!!」
「はい残念」
「死ねぇ!!!」
「無理でーす」
うーん。そろそろ飽きて来たな。1-Aで一番強いと思われる爆豪でこれならもうみる必要も無いか。よし、決着を付けよう。
俺は引きはがす為に全身から炎を噴き出す。それは熱風もこみで放たれる一撃で炎熱系の人でもないと火傷しそうな熱さだ。
「なっ!? くそっ!」
爆豪も耐え切れずに離れたところで俺は両手に炎を纏わせていく。やがてそれは巨大なかぎ爪へと姿を変える。
「炎龍のかぎ爪」
使い勝手はまあまあ良い俺の技の一つだ。色々な理由から失敗作の一つの技だけど爆豪相手には丁度いいだろう。
「……へっ! 上等じゃねぇか! それで倒せると思ってンならやってみろ!!」
「ならやってやんよ!」
俺は爆豪へと近接戦闘を仕掛ける。ここからは俺も無傷ではない。爆破を諸に浴びる事になるがかぎ爪で着実にダメージを与えていく。
爆破、切り裂く、爆破、切り裂く、爆破、爆破、切り裂く、爆破、爆破、爆破、切り裂く、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、切り裂爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破、爆破。
「オラオラオラァ!!!!」
『ば、爆豪!! ここに来てラッシュが止まらない! 体中の出血なんて気にしないと言わんばかりに爆破をしまくっているぞ!! これ大丈夫なのか!?』
『……いや』
「オラァッ!!! 止めだ!!!」
そうしたら爆豪が少し離れて両腕をクロスしたかと思うと錐揉み回転してこちらに向かってくる。
「ハウザー・インパクトォ!!!!」
瞬間、俺の全身が特大の爆発に包み込まれた。
『爆豪!!! 麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加えたまさに人間榴弾!!! 流石の轟もこれには……!!!』
「ゴホッ! 煙が酷いな……」
「なっ!!??」
少しせき込みながら煙を振り払いながら登場すれば爆豪は驚いた顔をしている。ま、必殺技っぽいしね。
「なんで……!!」
「そりゃ、俺に爆破は効かないからね。正確には炎か」
俺の熱耐性は異常だ。そうなるように身体を酷使したからな。おかげで
「故に俺が気を付けないといけないのはこの爆風ってわけよ。ま、踏ん張っていれば問題は無かったな」
「……!!!」
『と、轟!!! 無傷で現れたぞ!! あれを耐えるのかよ!! やばすぎだろ!!』
『見たところ爆破の熱を感じていないようだな』
「相手が悪かったな」
「クソがぁぁっ!!!」
爆豪は凄い形相でこちらを見ながらもう一度放とうとしてくるがそれよりも先に俺はミッドナイト先生に声をかける。
「ミッドナイト先生。俺、降参します」
「……え?」
「は?」
「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!??????」」」」」
凄い。スタジアムが一丸となって驚いている。それも仕方ないか。
「良いのかしら? まだ戦えるみたいだけど」
「良いんですよ。俺は満足しましたし。それにほら、選手宣誓の時に言いましたし。
「て、てめぇ……!!!」
うわーお。爆豪が凄い顔をしている。眼力だけで人を殺せそうなインパクトを持っている。そんなに睨まなくてもいいのに。
「そ、それじゃぁ……。轟君降参! 爆豪君の勝利!!」
『な、なぁんと!! 轟業火、まさかの降参!!! 今年度の優勝は爆豪勝己に決定だぁぁぁっ!!!』
『あいつ……!』
「ふ、ふざけんじゃねぇ!!! 俺が取んのは完膚なきまでの1位だ! こんな、こんな勝利認められっかよ!!!」
爆豪がわめいている。凄い顔をしているが俺がそれに耳を傾ける必要は無い。
「お前の望みは通らねぇよ。何故って? お前は俺よりも弱いからだ。弱者は常に勝者の言いなりでしかない。勝者が下す決定に唯々諾々と従う事しか出来ないのだから。今回、お前は俺よりも弱く、俺の望むとおりに動くしかないのだよ」
「~~~~~~っ!!!!!」
そんな風に言えば爆豪がこちらに攻撃をしようとしてきた。しかし、それをミッドナイト先生の個性らしき霧によって阻まれる。……確か嗅いだ奴を眠らせる個性だったか? 呼吸をしないといけない以上強力な個性だな。
とはいえこれで雄英体育祭の全種目は終了し、俺は2位に、爆豪が1位となる事で終了したのだった。
炎龍のかぎ爪
両手に炎のかぎ爪を出すだけの技。
それと夏アニメが始まり更新が止まるかもしれません。バンドリの新アニメや幼女戦記の2期……。色々と楽しみがあり過ぎます。