俺の個性はサイキョー   作:鈴木颯手

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第二十一話

 職場体験を終えて久しぶりの雄英への入学日を迎えた。一週間ぶりだというのに随分と来ていない感じがする。何もかもが懐かしい。

 

「あ! 業火君おはよー!」

「透、おはよう。職場体験では良い経験を得られたか?」

「勿論!」

 

 教室に入れば透が一週間前と同じように話しかけてきてくれた。うん。最高だな。

 

「業火君も大変だったでしょ? 聞いたよ。ステインに襲われたって」

「……あー、ま。そうだな」

 

 襲われたというには微妙な相手だったがな。俺は後からやってきて獲物をかっさらっていっただけだし。正直大変だったのは飯田君だろうな。さっきちらりと見てみれば飯田君は元の調子に戻っていた。何かしらの折り合いをつけたという事だろう。

 それよりも透だ。透はどんな経験できたのかそっちの方が気になる。

 

「透はどうだったんだ?」

「え? 私? 基本的に訓練とパトロールがメインだったよ。パトロールの時は何故かびっくりされちゃったけど」

「そりゃ仕方ないよ」

 

 誰だって手袋が浮かんでいればびっくりすると思うよ。……待てよ? 透は全裸にならないといけないというのは雄英体育祭で誰もが分かっているはずだ。つまり、透のコスチュームも邪推する奴は出てくるはずだ。……誰かしら透に欲情した奴がいる?

 

「ご、業火君? どうしたの? 元からだけど顔はものすごく怖いよ?」

「……透。職場体験先って何処? 今から行って地域ごと燃やしてくる」

「何やろうとしてんの!? 駄目に決まってるでしょ!!??」

 

 透は確か会津の方のヒーロー事務所だったな。よし、いつか燃やそう。透の裸を見て欲情する奴らはこの世から塵一つ残らずに消し炭にしてやる……!!

 ……待てよ? そう邪推する俺も消し炭になるべきなのではないか?

 

「業火君!? 今度は死んだと思ってた大切な人がヴィランとして生きていたのを知ったヒーローみたいな絶望顔になってるけどどうしたの!!??」

「なんか異様に具体例だね。いや、単純に自分が消し炭になるべき人間だと自覚しただけだよ」

「本当に何言ってるの!!??」

 

 やばい。泣きたい。1年間一緒に過ごしたクラスメイトがヴィランだったのを知った時くらい泣きそうだ。……いや本当になんだろうこの具体例。

 

「皆そろそろ時間だ!! 席に着き給え!!!」

 

 そんな風に話していたら飯田君がフルスロットルで席に着くように声を上げている。うるせぇ……。元気になり過ぎだろ……。

 

 

 

 

 

「はい。私がきたー」

 

 午後のヒーロー基礎学だがオールマイトのやる気のない、というか気の抜けた声と共に始まった。1週間ぶりの授業の掛け声がそれでいいんですか?

 

「今回のヒーロー基礎学だが職場体験明けという事で遊びの要素を加えた、救助訓練レースをしようと思うよ」

「救助訓練、レース?」

「救助訓練ならUSJでやるべきなのではないでしょうか?」

 

 そりゃそうだ。今いる場所はUSJではなく数ある演習場の一つである運動場γだ。でかい工場のような舞台となっているここで救助訓練とは一体……。それにUSJならあらゆる災害救助を想定した訓練が出来る場所だからな。一番最初の授業で襲撃を受けたせいで良い思い出はないけどな。その後にオールマイトがくだらないサプライズを用意したせいで余計だろう。

 

「あそこは災害時の訓練になるからな。だが、今回やるのは“レース”!!! この運動場γを部隊に1組ずつ各スタート地点からゴールまで駆け抜けてもらう! 5人4組で行うからそれぞれ準備するように! あ、因みにだけど組み分けは既に決まっているから確認するように。それと、あくまで救助訓練! 不必要な破壊は避けるように!」

「俺を指さすんじゃねぇよ……」

 

 あらら。爆豪が名指しで言われりゃぁ。そりゃあいつなら爆破で破壊しながら突き進むとかやってもおかしくはないからな。

 しかしレースか。俺なら噴射で飛んで一気にゴールできるがこの複雑に入り組んだ地形なら()()を試すのにちょうどいいかもしれない。これは授業であり雄英体育祭のような勝たないといけないものではない。勝敗は関係なく更なる個性の応用の練習の舞台とさせてもらうか。

 そうして最初の組が準備に入った。最初は芦戸、飯田君、尻尾の奴、瀬呂君、緑谷だ。素早い動きや立体的な動きを得意とする奴らが固まったな。緑谷以外。これは誰が一位になってもおかしくはないな。緑谷以外。

 

「業火君は誰が勝つと思う?」

「瀬呂君じゃないか? このγは入り組んだ配管とかが多い。立体機動出来るあいつが有利だと思うぞ」

「私は飯田君が勝つんじゃないかなって思うけど瀬呂君も勝ちそうだね」

「そして最下位は簡単に予想が付くな」

「……あー、緑谷君凄いパワーだけど体怪我しちゃうし今回は使いどころが難しそうだよね」

 

 そう、誰が勝ってもおかしくはないけど緑谷がビリなのは確定で間違いないだろう。超パワーで工場地帯を破壊して進めればワンチャン行けるかもしれないけど今回はそれは禁止されているからな。ま、アイツがビリで間違いないだろうな。

 

『それじゃぁ! スタート!!!』

 

 オールマイトのスタートの言葉に始まったがやはり一位に躍り出たのは瀬呂君だった。こういった場所では立体機動が出来る彼が有利なのは間違いない。

 

「うわぁ! 瀬呂君が今の所一位だね!」

「ま、このまま彼が……!!??」

「えっ!!?? 緑谷君!!??」

 

 なんと瀬呂君の脇を悠々と通過していったのは緑谷だ。配管や屋上などをピョンピョンと飛んでいる。身体は、怪我をしていない。まるで全身にオーラを纏っているかのような姿をしている。いつの間に……。

 

「すごい動きだね! 緑谷君あんなことできるようになったんだ……!」

「……」

 

 緑谷がこれまでに見せた超パワーに比べるとあれは大きく見劣りするが確かに身体能力は向上している。つまりこれまでは腕や指だけで纏っていた力を全身に張り巡らせたという事か? そして体が壊れないギリギリの出力を見極めて使用していると。

 それにあの動き、まるで爆豪のようだ。爆破でやっている動きを足場を飛ぶことで再現している。確か中学が同じだと聞いた事があったけどそれだけの仲ではないな。幼馴染レベルで意識をしていないとあそこまで自然な再現は難しいだろう。

 ……緑谷。あれがどれだけの出力かは分からない。10%? 50% それとも()()? 全力ではないのは確かだ。……もし、あれをフルで使えるようになった場合、それはまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 元々オールマイトに匹敵する超パワーだったがそれを自由に操れるようになるならまさしくそうだ。

 

 

 

「……クハ」

「? 業火、く……ん……」

 

 

 

 ああ、ものすごく戦ってみたい。オールマイトのような力を持った緑谷。どうやったら戦える? 授業中? 訓練と称して呼び出すか? 何時になるかは分からないが是非ともお互いに()()()()()()()()()()()()

 

「……」

「緑谷、凄いなアイツ……」

 

 っと、いかんいかん。透が隣にいるんだ。笑みを引っ込めろ。上がり切った口角を下げろ。何時もの表情を作れ。演技をしろ。

 

「……業火君」

「ん? 透、どうかしたか?」

「……ううん。何でもない。ごめんね、いきなり声をかけちゃって」

「別に構わないよ」

 

 ……見られた、か? 透明化の透は表情が分からないが見られていないと願おう。流石に嫌われたくはないからな。

 

 

 因みに、表情を戻している間に緑谷は足を踏み外して最下位になっており、結局予想通りの結末を迎えていた。

 

 さて、次は俺の番だな。メンバーは焦凍、耳郎さん、常闇君、切島だ。これなら楽勝だな。

 焦凍はそれなりに早いが個性の使い方がなっていない。常闇君も動きは悪くはないが瀬呂君程立体機動が出来るわけではない。あれの練習だとしても余裕だろう。

 

『それでは第二組目、スタート!!』

「行くぞ! 赫灼熱拳ヘルスパイダー!!」

 

 俺はヘルスパイダーを出すとそれを使ってターザンのように空中を移動する。個性が出現する前にアメリカで流行った蜘蛛男の動きをまねたものだ。それ以外だと瀬呂君の動きに似ているか。とはいえ今回は使用しないが足裏からの噴射と合わせる事で高速移動と立体機動を可能とするものだが練習としては上々の成果だな。物を掴むと同時に体へと引き戻し、それを繰り返して動く。更に熱の層を形成してスピードがかかる事による呼吸の問題も改善している為に呼吸が乱れる事も無い。

 

「ウィナー!! 轟少年兄! 一位おめでとう!!」

「ありがとうございます。オールマイト」

 

 結果、俺は余裕で一位を獲得できた。これなら一組目の方がまだいい勝負が出来ただろう。相性の問題とは言え張り合いがなくて困る。そう考えるとヒーロー殺しは中々満足できる相手であったんだな。また戦ってみたいものだ。

 

 

 

 

 

閑話—更衣室の歴史—

「おい、緑谷。これ見てみろよ」

 

 救助訓練レースが終わり、緑谷が更衣室にて着替えを行っていた時の話だった。突如として峰田が緑谷を呼んだのだ。彼の先には少しだけはがれたポスターとその下に開いた小さな穴があった。

 

「峰田君? どうかしたの?」

「これ見てみろよ。諸先輩方が頑張ったんだろうぜ。分かるか? この先は女子更衣室だ」

 

 瞬間、男子一同が固まり、峰田の方を、正確には楽園へとつながる穴を見た。それはまさに男子ならだれもが一度は夢を見ると同時に罪となりかねない代物だった。

 

「止めるんだ峰田君! のぞきは立派な犯罪行為だ!」

「オイラのリトル峰田はもう立派な万歳行為なんだよ!!」

 

 そう言うと彼は残っていたポスターをはぎ取り、その穴を除かんと壁に張り付くがそんな彼の頭を鷲掴みにする人物がいた。

 

オイ

「ピェ……」

 

 見なくても分かるほどに怒りの感情が込められた声を発した人物、轟業火はまるで汚物でも見るかの如き冷たい視線を峰田へと向けていた。それはまさに轟家らしい氷結の個性が瞳に込められていると言われても過言ではない絶対零度の視線であり、母方の個性の遺伝がここに現れていると言えるものだった。

 

「何透の下着を覗こうとしてんだコラァ。焼き殺すぞ」

「「「「「(葉隠さん限定なんだ)」」」」」

 

 業火が葉隠と仲が良いのは周知の事実となっており、好意を持つ人物の裸を見せたくないと思うのは当然の思考だろう。ただし、普段のコスチュームは考えないものとする。

 しかし、峰田とてここで諦めきれるものではない。今目の前に楽園は存在するのだから。故に峰田は頭をフル回転させて業火を巻き込もうと技能:言いくるめを発動した。技能値は90だ。

 

「業火、お前そんなに見せたくないなら先に見ればいいだろ」

「なんだと?」

「確かに俺も葉隠の浮かぶ下着に興味がないわけではないさ。だけどお前が先に見て葉隠がいないタイミングを教えてくれれば俺は見ないで済む。そしてお前も好きな葉隠の下着を見る事が出来てお互いwinwinだろう?」

「……」

 

 峰田の必死の言いくるめに業火は考えむと険しい目つきで言った。

 

「…………………………………………………………………………………………ダメ、だ。覗かせることは、出来ない……!!!」

「駄目だったか……!」

 

 ダイスは91。失敗に終わった。業火は長い葛藤の末に正しい道を歩むことを決意したのである。その結果として血涙と血が出る程拳を握りしめたが彼は漢としての欲望よりも人間としての道徳を優先した立派なヒーローとなったのだ。

 

 因みに、この一部始終は女性陣に丸聞こえであり、即座に穴はふさがれると同時に「業火君なら……」と迫る透と顔を真っ赤にする業火が後日目撃されたというが完全なる余談である。

 




因みに作者の中学校ではプールの更衣室で女子更衣室へとつながる穴が掘られている最中でした。水泳部員たちによって少しずつ穴が掘られていたようです。卒業までに開通はされませんでしたがその後の事は知りません。
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