「えー、そろそろ夏休みも近いが、勿論君らが一か月休める道理はない。
夏休み、林間合宿やるぞ」
「「「「「知ってたよ!!! やったぁぁぁぁぁっ!!!」」」」」
男子を中心に野太い雄たけびが響く。相澤先生がそんなことを言うもんだから男子たちのテンションが高くなっている。いや、芦戸とか透も嬉しそうにしているから一部女子もか。
「肝ためそー!!」
「風呂!!」
「花火」
「行水」
「カレーだな」
「湯! 浴! み!」
「自然環境ですとまた活動条件が変わってきますわね」
皆が興奮のままに叫んでいる。一人、邪な感情しか籠っていないバカもいるがな。風呂に行水に湯浴みってどれも一緒じゃねぇか。というか覗くつもりだろ、やめんか。……透の風呂……。
「あれ? 業火君どうしたの? 顔が真っ赤だけど……」
「……何でもない。いや、緑谷。全力で俺の頬を殴ってくれ」
「いきなりどうしたの!?」
「邪悪な煩悩を俺の頭から追い払うためにも……!」
「クラスメイトにそんな事出来ないよ……!」
ダメか。なら尾白でも良い! 俺を殴って煩悩ををををををををををっ!!!!!
「うわ!? 業火!? めちゃくちゃ変な顔してるぞ!? どうした!?」
「バグった!?」
結局頭を机に打ち付ける事で煩悩を打ち払う事が出来た。これで透の部分だけお湯が無いという想像をしなくて済む。
「静かにしろ、お前ら……!
林間合宿だが、その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は、補習地獄だ」
補習か。中間テストとは違って実技もあるって聞いたし内容次第では難しくなるだろうなぁ。中間は楽だったが期末はそうもいかないだろうし。
「それじゃ授業を始める……」
「「全く勉強してねー!!!」なーい!!」
授業後、そんな悲痛な叫びが教室に響き渡った。声の主は上鳴と芦戸だ。確か二人は中間テストでビリとブービーだった奴等だ。期末まで一週間程しかないのにそれとか終わったな。
「上鳴、補習頑張れよ」
「諦めんなよ!! 俺だって林間合宿行きてーんだよ!!」
「人間、時には諦めも肝心だぜ?」
「プルスウルトラの精神がどこに行ったーーー!!!???」
だって無理じゃん。上鳴見るからにバカっぽいし無理でしょ。
「ただでさえ体育祭や職場体験やら行事が立て続けだったのに……!!」
「それにかまけて勉強を怠ったお前の失態だ」
「くそ! 正論が胸に刺さる……!」
「そう言えば業火君は中間何位だっけ?」
そんな風に上鳴で遊んでいると透が話しかけてきた。確か透も中間はそこまで順位は良くなかったはずだ。
「俺は6位だな。授業聞いていれば分かる問題ばかりだったし楽勝だったよ」
「すごいね! 私授業だけじゃ全然分からなかったよ」
「畜生……!! 天才はこれだから……!!」
上鳴がショックでorzの格好になっている。十分楽しめたし無視しよう。怠け者の相手より透の相手だ。
「良かったら勉強教えようか? 透もそこまで順位良くなかっただろ?」
「良いの! やったー!!」
「あ、だけど家はちょっとあれだからファミレスとかになるけど」
「全然いいよー!」
家に透を連れて行ったら姉さんがうるさそうだ。父さんも帰っていたら家の空気も最悪になっているだろうしな。
因みに上鳴は八百万が教えてくれるらしくはしゃいでいた。他にも数名教わりに行っていた。八百万もめちゃくちゃ嬉しそうにしているし頼られるのが好きなのだろうか?
「んじゃ週末に近くにファミレスで勉強だな。となると問題は演習試験の方か」
「何やるんだろうねぇ?」
相澤先生曰く1学期でやった事の総合的な試験らしいが色々と濃い1学期だったから予測が難しいな。先輩に聞いた限りだと去年まではロボとの戦闘らしいが襲撃もあった今年がそれとは思えない。何かしら別の試験になる可能性が高いだろう。
そうなると考えられるのは対人戦闘……。ヴィランに扮した教師との対決とかか? それに加えて救助要素を加えたり逃げる要素があったり、ただ戦うってだけでは無さそうな感じがする。無論これはあくまで予想であって考えすぎの可能性は多少あるだろうがおおむねこの方向性で間違いないだろう。
教師との対決。是非とも一度はやってみたい事だ。プロヒーローとして活躍しながらも教師として働く彼らがどれだけの実力を持っているのか。少なくともヒーロー殺し程度には高い実力を有しているはずだ。それに個性の相性次第では苦戦は免れない。相澤先生やセメントス先生が天敵か。セメントを操れるセメントス先生は中々に強敵だ。炎でセメントを溶かそうにも時間がかかりすぎる。その間に四方から攻撃されておしまいだな。
相澤先生も抹消という個性を使えなくさせる個性を持っている。そうなれば俺はただの人になり、格闘術のみで戦う事になる。格闘術で後れを取るとは思わないがそれでも油断は出来ないし全力で挑まないと勝つ事は出来ないだろうなぁ。
「業火君? 凄い顔してるけどどうしたの?」
「……ん? 何でもないよ。ただ試験について考えていただけさ」
ま、余程尖った内容でもない限りは問題は無いだろうな。今は範囲が分かっている勉学の方に集中するとしますか。
「切島は爆豪に教わると言っていたけどファミレスでかち合いたくないしそれとなく話を聞いて別に……」
一日の授業が終わり、日課となりつつある雄英高校での自主訓練を終えた轟業火は夕暮れどころか夜になりかけの中自宅へと帰宅していた。何時もに比べて遅い時間となってしまい、相澤先生に軽く説教された業火は週末に控えた透との勉強会について考えながら足早に歩いていた。
「……一応姉さんに連絡しておくか」
既に焦凍は先に帰宅し、夕飯の時間を少し過ぎてしまっている為に業火は姉である冬美に連絡をしようとスマホを取った時だった。くらい路地裏から誰かが姿を見せたのだ。
その動きは明らかにたまたま出てきた、という動きではなかった。明確に業火がやってきたのを見て出てきたという動きであり、ダイヤルボタンに触れようとしていた業火の動きを硬直させ、彼の表情を険しいものにさせていた。
「……誰だ?」
「……轟業火だな?」
業火の質問に答える事なく影の人物は聞き返す。女性らしい高音の声だが業火には聞き覚えはない声だった。更にその声はとても冷たいと感じさせる程感情が籠っていなかった。
それはつまり少なくとも好意的な相手ではない事を示しており、ヴィランのそれに準ずる者だと予測した業火は何時でも戦えるように戦闘態勢へと入った。
しかし、そんな業火の動きに影の人物は淡々と答えた。
「戦うつもりは無い。ただお前に用事があるだけだ」
「信じられないな。そう言って奇襲をするのはヴィランの常套句だろう? 見ず知らずの、それもこんな時間に話かけてくるやつを信用する事は出来ないさ」
「それもそうだな」
影の人物はポケットからスマホを取り出すとどこかへと電話をかける。数コールのちつながった。
「私です。……はい、その通りです。申し訳ありませんがお願いします」
「目の前で電話とは余裕だな」
「こちらは何もする気が無いというアピールだ。それよりもお前に電話だ」
陰の人物はそう言うと通話画面を向けてくる。スピーカーへとなっていたスマホより聞こえてくるのはボイスチェンジャーを通したであろう機械によって変えられた声だった。
『初めまして。轟業火君』
「ボイチェン? 誰だお前。そんなに声を知られるのが嫌か?」
『私は立場ある人間な身なのでね。一応の身バレ対策だ。正体については私の手を取ってくれた時にでも話そう』
「ふーん。それで? 何処の誰だ? 俺はこう見えて学生だからな。何時までも夜中に出歩くのはいけないんだよ」
『それもそうだね。では単刀直入に言おう』
『私は“異能解放軍”最高指導者“リ・デストロ”。轟業火君、君を我が解放軍に招待しよう。どうだろう? ともに歩まないかね?』
そういう訳で第二十話の声はリ・デストロでした。AFOだと思った? 残念違います。本当はもっと後に接触させる予定でしたが我慢できずにまきで登場させました。