期末試験が終了した週末、葉隠や業火を始めとする大半の1-Aのクラスメイト達はショッピングモールの中にあった。ここにいないのはつるむ気はないと断った爆豪と入院中の母親の見舞いに行く焦凍くらいである。ちなみに、業火は母親が入院してから一度も見舞いに行ったことはなかったし、これからも行く気はなかった。
何故この場に1-Aの面々が勢ぞろいしているのかというと林間合宿をするうえで必要な物を買いそろえるためである。
「とはいえそれぞれ買うもんとか違うしそれぞれ別行動って事で! ここに3時に集合な!」
「「「「「異議なーし!!!」」」」」
様々な店が入っている巨大なショッピングモールなだけあってそれぞれが必要とする物品を揃える事が出来た。故にそれぞれ買いたい物が似通っている者同士でペアを組んで買い物をする事になったのだ。
「業火君、一緒に行こ!」
「透……。悪いな。俺が欲しい物がある店反対側でさ」
「え? そうなの? ……あー、確かにこれなら別々の方が良いかもね」
「これ買えれば俺は欲しいもんないしそれから一緒に回ろうぜ」
「っ! うん!」
一方で葉隠は業火を買い物に誘っていた。それはまさにデートのようだったが悲しい事に葉隠が欲しい物と業火が欲しい物が売っている店はショッピングモールの反対側に位置していた。一緒に回っていては集合時間までに買い物を終わらせる事は難しいかもしれない。故に一度互いの買い物を終わらせてから集合する事になった。
因みに、その様子はばっちり他のクラスメイトに見られている事に若干浮かれ気味の葉隠は気づいておらず、女子たちからはニヤニヤとした視線を、男子たちからは羨望の視線を注がれていた。そして、それぞれが別行動をとり始めた瞬間に葉隠は女子たちに囲まれてようやく気付き、輪郭が分かるほどに顔を真っ赤にするのだった。
「……」
そして、そんな葉隠を苦笑しながら見た業火は自信の目当てがある店には向かわずに人ごみに紛れるとクラスメイト達からは見えないようにとある飲食店へと入っていった。
「いらっしゃいませー。予約はされていますか?」
「してある」
話しかけてきた店員に業火は数字を言うと奥へと案内される。そこは少し高級そうな装いの飲食店であり、店員に案内されるがまま奥の部屋へと向かっていく。そして、一つの部屋へと案内されるとそこには暑くなってきたこの時期に似合わない厚手のフードに身を包んだ男性、外典がソファに座っていた。
「来たか。待っていたぞ」
「俺も用事があるんだよ」
業火は外典の前に置いてあるソファへと座る。彼らの間には軽食が幾つか置かれており、外典が食べたらしく料理は少し食べ散らかされていた。あまり食事の態度は良くないのか綺麗とは思えない食べ方をしているようだった。
「それで? 異能解放軍に属する決意はついたのか?」
「……」
外典の言葉に業火は何も答えない。期末試験前に接触された時には直ぐに返事がする事が出来ずに回答を後回しにしたがこうして改めて外典に呼び出されて付くか否かを迫られているのだ。
「リ・デストロはお前が解放軍に入らないとしても報復はしないと言っている。本来ならば口封じが妥当だがかなり甘い対応をしてくれている。さっさと入ると言え」
「随分と上から目線な態度だな。正直なところまだ迷っているよ」
業火にとってみても異能解放軍からのスカウトは興味を惹かれるものだった。異能の抑制を解放し、誰でも使用できるようにする。業火にとってこれほど魅力的な事は無かった。
しかし、同時にスカウトを受けるには雄英での生活が長すぎた。もしこれが雄英入学前、それこそ葉隠と親しくなる前であれば外典の手を取り、異能解放軍へと身を投じていただろう。今の業火には心残りが多くあり過ぎたのだ。
「……リ・デストロは期限を設けていない。じっくりと考えて答えを出してくれればいいと仰っている」
「そうかい。なら精々じっくり時間をかけて考えさせてもらうよ」
業火はそう言うと立ち上がり、何も食べずに部屋を後にした。一人、残された外典はつまらなそうな表情をしながら業火が出ていった扉を見つけるのだった。
その後、緑谷出久がヴィラン連合のリーダーである死柄木弔と接触した事でショッピングモールは一時的に閉鎖された。緑谷は事情聴取の為に警察署へと向かう事になり、残りのクラスメイト達は各々帰路へとつく事になった。
そんな中、業火と葉隠は互いに歩いていた。気を利かせたのか二人以外にクラスメイトはおらず、二人は静かに道を歩き続けていた。
「……透」
「どうしたの?」
「バカな話をするが聞いてくれるか?」
「……わかった」
業火は意を決したように話す。
「もし、俺がヴィランになったとして、透は俺を止めてくれるか? それとも、俺についてきてくれるか?」
「……」
その言葉に葉隠の脚は止まった。聞かれた意味が分からずに業火を見るが彼の表情は悲し気でありながら葛藤しているようで何処か諦めているようにも見えた。
「……私は、ヒーローになりたいんだ。だから、業火君が間違った道に進むなら全力で止めるよ」
「……そっか。分かった。変な事聞いてごめんな」
業火は力なく笑う。その笑みは死にゆく者のような穏やかな笑みだった。
「業火君?」
「何でもないさ。ほら、帰ろうぜ」
その笑みを浮かべたのは一瞬の事であり、気づけば何時もの表情に戻っていた。見間違いかと、思うもそれは無いと葉隠は断言できた。そして、それと同時に自分は明確な間違いを犯したと、感じていた。明確に選択肢を間違え、バッドエンドへと向かって歩み始めたような感覚を覚えてしまったのだ。
「(業火君……)」
葉隠は隣を歩く業火をちらりと見る。何時もの表情に戻った彼の内心は分からない。そして、なぜあんな質問をしたのかさえ。葉隠はどうか、自分が感じた嫌な予感が的中しない事を祈りながら、業火と共に帰路へとつくのだった。
次回は林間合宿に入ります。