期末試験も終わり、雄英高校にも夏休みが到来した。とはいえ今年はヴィランの襲撃を受けたという事で日帰りで帰れない場所への旅行や遠出は自粛するようにと通達されている。故に誰もが今年の夏は何処か物足りなさを感じてしまっていた。
「うわー!! 凄い凄い!!」
「そんだけ喜んでもらえりゃ俺も連れてきた甲斐があるってもんだ」
しかし、そんな中で唯一例外として認められた場所があった。1万人の研究者が住むと言われている人口移動都市I・アイランドにて行われる様々なサポートアイテムが展示されるI・エキスポへの参加である。
クラスメイトの半数が様々な伝手でプレオープンのチケットを貰い楽しんでいるが残りのクラスメイト達も開催に合わせて前乗りしていたのだ。
そして、業火も葉隠を誘い、I・アイランドへと来ていた。
「流石にプレオープンのチケットは焦凍に渡したから普通に開催されるのを待つ事しか出来ないけどな」
「それは仕方ないよ。こうして一緒に来れただけでも嬉しいよ」
「……ありがとう」
透明化故に見えないが確実に屈託ない笑みを浮かべているだろう葉隠に業火は少し悲し気に笑う。期末試験前から業火は何処か影のある笑いしかしなくなっていた。前まであればこのように葉隠が笑えば顔を真っ赤にしてあたふたしていたが今ではそんな様子は一切なくなっていた。
因みに、業火の弟である焦凍はエンデヴァーの代理としてプレオープンのチケットを貰っており、その他一部のクラスメイト達と共にとんでもない事態に巻き込まれる事となるが二人は完全に蚊帳の外であり、その事件に関わる事は無かったのだった。
I・アイランドから帰宅した業火は再びつまらない夏休みの生活に戻った。とはいえその間にも訓練を欠かすことはなく、都合がついたエンデヴァーのサイドキック達に訓練を付けてもらうなどして比較的充実した日々を送っている。
更に時々ではあるが葉隠とも訓練やデートを楽しみ、互いの実力を確かめ合ったりしていた時だった。
「緑谷から? 学校のプールで訓練か……」
その日、緑谷からメールが届いていた。それは学校のプールで訓練許可を貰えたので一緒に参加しないか、というものであった。業火は葉隠経由で同日に女子たちが遊び目的でプールの使用許可を取っている事を聞いていた。
業火としても参加しない意味などない。それと葉隠の水着が見れるかもしれないという邪な思いも後押しし、業火は即座に参加する意思をメールで返信していた。
「あ、バーニンさん。申し訳ないのですが今日の訓練は中止にさせていただきたく。……ええ、クラスメイト達が一緒にプールで訓練しないかと誘ってくれたので……。はい、はい。すみません、ありがとうございます」
業火は今日の訓練に付き合ってくれるはずだったバーニンに断りの連絡を入れると学校指定の水着やタオル、その他必要な物をバッグに詰めると雄英に向かう為に家を飛び出すのだった。なお、あまりにも急いでいたのか同じようにメールを受け取った焦凍が家を出るより一時間近く早かったとだけ言っておく。
「透……」
「あ! 業火君も来てたんだね! 男子は訓練?」
「ああ、プールでの訓練は使用許可を取らないといけないから中々出来るもんじゃないからな」
水着に着替えて入念な準備運動をしていると同じくスクール水着を着た葉隠が近づいてきた。女子たちはあくまで遊びでの使用許可なので男子たちのような入念な準備運動はしていなかった。
「俺は炎熱系の個性だからな。こういった場面でどう立ち回るかが重要になるからな」
「確かに! 水中じゃ炎出せないもんね!」
「ああ、それに出そうとすれば蒸発して水の温度が高くなるだろう。そうなれば水難救助とかで溺れている人が火傷する可能性も出てくる。コントロールできるようにならないとな」
葉隠と業火が会話をしていると最後に上鳴と峰田、そしてメールをくれた緑谷がやってきた。何やら上鳴と峰田が悔しがっていたが業火は特に気にする事もなく訓練へと入っていく。男子たちは基本的に泳ぐことで訓練を行っていく。水中での動きはまた地上とは違う形で力を消耗するために男子たちもまた必死に訓練を行っていた。
一方で業火は1レーンを借りて個性の訓練を行っていた。掌で生み出した炎を維持したままゆっくりと水に付けていくがジュゥ! という音と共に消えた。当たり前だが炎を水の中で維持するのは不可能だった。
「うーん。やはり無理か」
業火は誰に聞かせるでもなくそう呟くとそれ以上の訓練をやめて周囲を見渡した。男子たちは休憩を行っているようで飯田が持ってきた差し入れのオレンジジュースを日陰で飲んでいる。女子たちはボール遊びをしており、特に葉隠の姿を見た業火の頬は自然と緩んでいた。だらしがない顔とも言う。
「みんな! 男子全員で誰が50mを早く泳げるか競争しないか!?」
そうしていると飯田がそんな提案をしてきた。いつの間にか遅れていた爆豪と切島が到着しており、緑谷と言い合いになっていた事からそのような話になったのだろう。それは業火とて望むところだった。
5人一組となり、泳ぐことになったが序盤から酷いものだった。個性を使用して良いという事で一番手の爆豪が爆速ターボで一切泳ぐことなく飛び越えてしまったのだ。とはいえ個性を使用して良いと言われている為にこれを普通に問題なしとなったが結果として次の組から泳がなくていい奴は泳がないで行く事になったのだ。
続いては業火と焦凍も参加する組でスタートの合図とともに業火は足裏から炎を噴き出し、爆豪よりも早く渡り切ったのだ。
「「だから泳げよ!」」
「個性を使っていいからな。こうなるのは目に見えてただろ」
上鳴と峰田の突っ込みに業火は冷静にそう返した。そして、最後の組は緑谷が飯田に辛勝したことで最後は爆豪、業火、緑谷で決勝戦を行う事になった。この三人の中で唯一ちゃんとまともに泳いでいる緑谷への声援が一番多かったが一番張り切って応援していたのは葉隠だった。
「行くぞ! 位置に付いて! よーい……」
飯田が笛を鳴らすと同時に三人は前へと出て、個性を使用しようしたがそれらが発動される事は無かった。
「は?」
「え?」
「なっ!?」
予想外の事態に三人はそのままプールにダイブしてしまう。
「たった今を持って17時は経過した。今日のプール使用時間はここまでだ。今すぐ帰宅しろ」
担任の相澤先生が個性【抹消】を用いて三人の個性を消したのだ。決勝が始まる直前だったばかりにクラスメイト達は抗議の声を上げるがそんなものは相澤先生の前では意味が無かった。彼の眼力と共に低い声で終わりだと言われれば従うしかなく、結局男子の中で一番早く泳げる? 人物が決まる事はなく着替えて帰宅する事になった。
「惜しかったね、業火君」
「まぁ、時間と言われてしまえば仕方ないさ」
今日以降はプールは予約で一杯であり、決着をつけることは当分の間不可能だろう。とはいえ業火は特に気落ちした様子もないため決着をつける事を重要視していないように見えた。
「……」
現在、葉隠は業火と二人っきりだ。周囲にクラスメイト達がいない事は入念に確認済みであり、今なら話が出来ると、葉隠は意を決して言った。
「業火君」
「ん? どうした透?」
「……何か、悩んでいるの?」
その言葉に、時が止まったかのように葉隠は錯覚した。覚悟を決めて話したという事もあるが業火から今までに感じたことのない、圧力のようなものを感じていたからだ。
それはまさにこれ以上踏み込ませないという意思が込められた拒絶のようにも感じられたが葉隠はこの程度で折れる程決意は軟ではなかった。
「期末試験の勉強会、その時から思ってた。業火君がずっと変だって。夏休み前のショッピングモールの時だってそう。業火君、一体何を抱えているの?」
「透……」
それは後戻りが出来ない道だった。ここまで言った以上業火は葉隠に隠し通す事は難しいと感じ、口を開こうとして……。
「あれ? 業火君じゃない。久しぶり」
第三者の言葉が割り込んできたことで中断された。葉隠が声の方を見れば真夏だというのにコートを着た白髪の女性が立っていた。年は自分達よりも同じか上くらいの人で雰囲気も合わさって何処か冷たい感覚を覚えさせる人物だった。
「貴方は?」
「業火君の母方の従姉妹だよ。夏休みだから会いに来たんだ。こんなところで会うなんて偶然だね」
「……そうだな」
そう答える業火は何処か諦めたかのような表情をしていた。そして、ふ、と笑うと葉隠に言った。
「俺は何も隠し事なんてしていないよ。ただ個性の事で悩んでいただけだから気にしなくていいよ」
「……」
明らかに誤魔化している。それは葉隠にも理解できた。故に問いただしたい気持ちに駆られたが業火は先ほど以上に拒絶の感情があらわになっており、これ以上聞いたところで業火が答えてくれる事は無いと察する事が出来てしまった。
「……そっか。ごめんね。変な事を聞いて」
「良いよ。俺も心配させて悪かったな。んじゃ俺こいつと話がしたいから悪いけど今日はここまでって事で……」
「分かった。……またね、業火君」
葉隠はそう言って業火に背を向けて歩き出した。業火もまた背を向けて歩きだす互いに姿はまさに二度と交わる事が無いことを示しているかの如き姿となっているのだった。
お察しの通りオリ主君は異能解放軍によりつつあります。更に言うなら業火が余計な事を言わないように常に外典等の解放軍メンバーが見張りを利かせており、自分たちの存在を言おうものなら粛清されてしまうでしょう。そして、それが始まったのはショッピングモールあたりからです。
つまり、葉隠さんは勉強会の時に話を切り出していればまだ何とかなったかもしれないのです。まぁ、葉隠さんを悲しませる業火が悪いのですが。
それと次話から今度こそ林間合宿に入ります。