「雄英高は1学期を終え、現在夏休み期間中に入っている。だが、ヒーローを目指す諸君に安息の日々は訪れない。この林間合宿で更なる高みを、プルスウルトラを目指してもらう」
「「「「「はい!!」」」」」
林間合宿当日。1-Aは雄英高校前に止められたバスの前で相澤先生からの話を聞いていた。夏休みだが制服を着た彼らはこれから行われる林間合宿に思いを馳せていた。無論、雄英高校の林間合宿が厳しい物であることは明白だがそれでもその合間に行われるイベントを楽しみにしていたのだ。
それは業火や透も同様であり、楽しみにしているとB組の物間が絡んできた。
「あれれ~? A組って補習がいるの? おかしくない? A組は優秀なはずなのになぁ」
「誰だお前」
「業火君。B組の卑屈な人だよ」
「初めて見たわ」
しかし、絡む相手を間違えていた。雄英体育祭等でB組とも交流はあるのだが未だA組もまともに覚えていない業火に他クラスを知る事など無かったのだ。精々が普通科の心操とサポート科の発目くらいだろう。
加えて、騎馬戦では業火の妨害やそれによるA組が2位狙いをしたためにB組は2回戦に進出する事が出来なかったのだ。
「ぐっ! 流石は決勝戦で余裕ありながら降参する人だ。僕たちの事なんて眼中にないってわけか」
「そりゃ話題にならない相手の事なんて覚える事は出来ないからな。俺らが目立っているというよりもB組がヒーロー科とは思えない程目立っていないだけだろ?」
ピシリ、と空気が凍った気がした。少なくとも葉隠はそう感じていたし近くにいた緑谷や麗日も同様だった。業火のあんまりな言い方に顔を引きつらせながらB組の方を見る。そこには物間だけではなく、B組全員から物凄い視線が業火に注がれていたがそれに対して業火は涼しい顔で応じて見せた。
「目立てないって事はヒーロービルボードでも上位になれないと言っているのと一緒だろ。それに、見た感じ大した力も無さそうな奴等だ。A組は皆実力を高くしているぞ。特に緑谷とかな」
「僕!?」
「こいつは雄英体育祭までなら超パワーが打てるだけの雑魚だったがそれをコントロールする事が出来るようになった。透も透明化を用いた近接格闘術を学び強くなっている。
対するお前らは? 雄英体育祭から変わったところはないように見える。まぁ、もしかしたら内々で強くなっているのかもしれないがそれは薄いだろうな」
業火は冷たい目を向ける。それは殺意とも憎悪とも、違う。相手の意思をくじいてしまうような圧力が込められたものであり、強者が弱者にかけるもののそれであった。
「ひがむのは自由。貶すのも好きにすればいい。口先だけの奴らが何を言おうとこちらは関係なく前へ進むだけだからな。
ああ、補習が出たことの嫌味だったか? どうぞ好きなだけ言うと良い。A組数少ない醜態だ。嫌味しか言えない君にはピッタリのネタだろう?」
業火は鋭い視線を向ける物間の肩にポンと手を置くと笑った。それは強者が弱者を見下すときに見せる冷酷な嘲笑であり、業火が物間をどう思っているかを物語っていていたのだ。
「っ! 今日はこの辺で失礼するよ!」
「おう。そうか」
肩に置かれた手を払い物間は自分たちのバスへと乗り込んでいく。B組の面々も業火を睨みつけてから乗車する。久しぶりのABの交流は業火によって無惨な結果として終わってしまった。そして、やらかした本人である業火は特に気にした様子もなく葉隠と共にバスへと乗り込んでいくのだった。
バスに乗り込み早一時間以上。A組は山奥にある路肩にバスが停車したことで降りてきていた。しかし、そこはサービスエリアでもパーキングも無い場所であり、こんなところに止められた意味が分からなかった。
「ただ移動するだけってのも芸がない故に……」
「私たちの出番ってわけ!」
その時、バスの隣に止まっていた車のドアが開き、二人の女性が出てくるとポーズを決める。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・ぷっしーキャッツ!!」」
登場したのは山岳救助を得意とするヒーローチーム、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのメンバーの二人、ラグドールとピクシーボブだった。そのほかに子供がいるがそれよりもプロヒーローがここにいる事の驚きの方が大きかった。
「今日からお世話になるプッシーキャッツの皆さんだ。お前ら、挨拶をしろ」
「「「「「よろしくお願いします!!!」」」」」
「よろしく。それと、ここら一帯は私らが所有している土地なんだけどあんたらの宿泊地はあの山の麓だよ」
それは目視では建物が見えない程に遠い場所にあった。加えて、何故そんな説明を今のうちにされるのかも分からず、困惑し、中には嫌な予感を覚えている者もいた。
「今は午前9時30分。早ければぁ、12時前後かしら。12時30分までかかったキティはお昼抜きねー」
その言葉は嫌な予感を決定づけるには十分すぎる物だった。ラグドールの説明も聞いていられないと一斉にバスへと戻るがその行く手を阻むようにピクシーボブが動いていた。彼女の個性で地面が盛り上がり、A組の面々を崖下へと落としたのである。土まみれで落ちていった彼らにラグドールは叫ぶ。
「ココは私有地! 故に個性の使用はオッケーよ。自分達の脚でこの“魔獣の森”を抜けてごらんなさい!」
ラグドールは楽し気にそう宣言する。その一方で、相澤先生はため息をつくと上空を見上げた。そこには葉隠をお姫様抱っこして飛ぶ業火の姿があった。
「業火、お前も下に降りて参加して来い」
「あー、俺もですか? よけられたしセーフかなと思ってました」
「これも訓練の一環だ。それと私有地とは言え炎を生み出して大火災を起こす様な真似はするなよ」
「了解ですよ」
「あわわわわわわわわわわわ/////」
業火は顔を真っ赤にする葉隠を連れて崖下へと降りていく。崖下ではピクシーボブが生み出す土で出来た魔獣たちと交戦し始めていた。
「成程、土を操作する個性か。中々強力だな。セメントス先生の土バージョンだがあの人よりも個性の使い方は上手そうだな」
ふわりと地面に降り立った業火は葉隠を下すと丁度良く自分たちに向かってくる魔獣を蹴りで吹き飛ばすと炎を生み出して弓矢の形状に変化させるとそれを勢いよく引き絞り、魔獣へ向けて放った。
瞬間、矢尻からバーナーが放たれ矢は音速を軽く超える速度で魔獣を貫通すると宿舎までの鬱蒼とした森を吹き飛ばして一本道を作り上げた。
「なっ!? うそ……」
「これで渡りやすくなったな」
業火の攻撃に誰もが驚きを露わにする中、上空から冷静な相澤先生の言葉が放たれた。
「業火……それも禁止だ。なるべく木々を傷つけるな。そしてその道を使うな」
「了解でーす」
業火も許されるとは思っていなかったのかあっさりと相澤先生の指示に従い、次々と現れる魔獣たちを見て笑みを浮かべた。
「透、悪いけど俺は一人で行くからお前は女子たちと合流してくれ」
「う、うん。分かった。業火君も気を付けてね」
「ああ、安心しろ。あの程度にやられはしないさ!」
そう言うと合否は炎を腕に纏わせていく。それはやがて巨大な拳へと変貌し、熱い事を思わせるように煙が出ていた。
「“スルトの熱拳”。行くぞ!」
業火は一番近い魔獣に走りだす。魔獣は様々な形をしているうえにそれぞれがでかい身体を持っていた。しかし、そんなものは関係無いと業火は右の拳を魔獣の顔にお見舞いする。それは大した抵抗も出来ずに焼けながら顔を四散し、破壊した。後ろへと倒れる魔獣の身体を蹴り、上空へと躍り出た業火に空を飛べる魔獣が襲い掛かる。鋭いくちばしで突き刺そうとする魔獣を余裕をもって回転して避けるとその回転速度を上げて魔獣の頭に裏拳を叩きこんだのだ。
二体の魔獣の撃破は僅か10秒程度の時間の話であり、地面に着地した業火は次々と現れる魔獣を見て心の底から楽しそうな笑みを浮かべると次の得物へと襲い掛かるのだった。
午後5時20分。合宿所の前に漸く1-Aは到着した。三時間と言われていたが実際には6時間もかかってしまったがそれはあくまでワイルド・ワイルド・プッシーキャッツがやる場合の話だった。自慢をしたいがための言葉だったのかと誰もが降びれている中最後に出てきた業火だけは何処か物足りなさそうだった。
「でも正直もっとかかると思ってた。私が作った土魔獣が簡単に攻略されちゃった。いいよ君ら。特にそこの四人と最後の一人! 躊躇の無さは経験値によるものかしら? それに一人だけハンデあるなかで物足りなさそうにしているのもポイント高いわ!」
「いや、実際物足りないですし」
合否の言葉はA組を驚かせるには十分すぎた。誰もが疲労困憊の中で確かに業火は動いた事で服が汚れたり多少息が上がっているがまだまだ余裕を残しているように見えた。
実はクラスメイトには行っていないが相澤先生は事前に業火の実力を測れるようにピクシーボブには業火に殺す気で襲わせるようにお願いを出していた。当初こそその言葉に困惑して様子見をしていたピクシーボブだが余裕で土魔獣を退ける業火を見て本気を出していた。結果的にA組全体が相手にしていた数の数倍が業火に襲い掛かっていたがそれは業火の前にあっけなく沈んでいった。どんな姿の魔獣も業火は対応して見せ、最小限の力でありながら一撃で倒すことを心がけていた。それはまさに実戦経験を積んでいないと出来ない動きに見えた。
「(いつもなら唾を付けておきたいけどパスね。なんか透明化の子と仲良さそうだし嫌な予感を感じるもの)」
30を超えたことで婚期に焦るピクシーボブは飯田、爆豪、緑谷、焦凍には物理的に唾を付けていくが業火にはせずに終わった。ちらりと業火を見れば葉隠と話しており、何処か楽しそうにしているように見えた。
その後は相澤先生の指示の元バスから荷物を降ろし、それぞれの部屋に置き、食事の時間となり、合宿一日はあっという間に過ぎていくのだった。
女子風呂覗き騒動は次話になります。
スルトの熱拳
炎を両腕に巻き付かせて巨大な拳のようにするだけの技。普通に殴るより強い。熱を持っている為に触れさせれば火傷は確実。