林間合宿の初日の夜、1-Aはプッシーキャッツが用意した食事をむさぼるように食べていた。昼食も取らずに6時間もの間ピクシーボブが繰り出す土魔獣と戦い続けていたこともあり、誰もが腹ペコだったのだ。特に彼女たちの作る料理が雄英のランチラッシュにも劣らない絶品料理だったことも拍車をかけていた。
とはいえプッシーキャッツが世話を焼いてくれるのは初日である今日だけである。明日からは自分達で作らないといけない。それもあってか誰もがかみしめるように料理を食べていた。
業火もまた透と隣同士で料理に舌鼓を打っていた。最早二人が隣で仲良く食べている事に突っ込みを入れる者はいない。見慣れた光景になりつつあったからだ。そのことを自覚していないのは当の本人たちだけであった。
「おいしー!! ランチラッシュくらいおいしいかも!!」
「確かに……。人生で食べた料理の中で3番目に美味い……」
「3番目!? 私なんて2位だよ! ランチラッシュが1位として業火君のは?」
「姉さんの料理。意外と美味いんだよ」
「そうなんだー」
№2のプロヒーローに育ち盛りの弟二人の胃袋を満足させる料理を作れる冬美はランチラッシュにも匹敵する腕前を持つのだろう。業火は密かにそう考えていた。
「フーン」
そのことで葉隠は少しだけ自分の料理してみようかなと感じていた。そして、そんな葉隠の感情は透明化でありながら目の前に座る芦戸にばっちりと把握されており、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
そうして穏やかな食事が終われば今度は風呂の時間となる。当然ながら男女別で露天風呂へと入っているのだがこの男、峰田実は一味違った。彼は男女の風呂を仕切る木製の板に張り付き、聞き耳を立てる。すると板の奥から1-A女性たちの声が聞こえてきた。
「今時、男女の入浴時間をずらさないなんて覗いてくれ、と言っているようなもん、スよ」
ごくり、と峰田は喉を鳴らす。峰田の言葉に男子たちも顔を赤くして彼を見る。彼らとて思春期の男子である。女子の裸に興味は無いと断言などできなかった。とはいえ、そこで覗きに走ろうとするのは峰田だけであったが。
「これは、もう。行くしかないっスよ!!」
「止め給え峰田君! 覗きは立派な犯罪行為だ! ヒーロー科の学生として恥ずべき行為だと……!!!」
峰田のやろうとしている事に気づいた飯田が慌てて叫びながら止めようと動き出すが一歩遅かった。峰田は既に板の向こう側に広がる楽園の事で頭がいっぱいであり、飯田の言葉を聞いていなかった。
「壁とは、超えるためにある! プルスウルトラ!!」
峰田は自らの個性【もぎもぎ】を使って壁を登り始めた。彼は一度I・アイランドの騒動にてここよりもはるかに高い外壁を登った事がある。この程度を登るなど造作もない事だったのだ。
「女! 裸! 女! 裸!」
最早性欲に取りつかれた悲しきモンスターを止める事は出来ない。誰もがそう思った時、モンスターを討伐する勇者が二人現れた。
「ヒーローを目指す前に、人としての常識を学びなおせ」
「峰田、燃やすぞ?」
一人はプッシーキャッツのリーダーであるマンダレイが引き取っている出水洸汰くん。とある事件をきっかけにヒーローを忌み嫌っている少年である。そしてもう一人が業火であった。洸汰が板の上に手を置こうとした峰田の手を払い、バランスを崩した所を業火が鷲掴みにしてしたのである。両腕でアイアンクローを行い、指が顔にめり込んでいるあたり、どれだけ力を入れているのか理解することが出来るだろう。
「仮にもクラスメイトの入浴シーンを覗こうとするなど許される行為じゃない。死んで恥じろ!」
「ぎゃああぁぁぁぁぁっ!!!」
怒りのこもった表情で業火はそう言うと勢いよく峰田を風呂の中に叩き込んだ。地面に叩きつけないあたり良心は働いたのだろう。峰田は叫び声を上げながら大きな水柱を上げて撃沈された。性欲に支配されたモンスターはこうして討伐されたのだ。
「やっぱり峰田君は最低ね」
「洸汰君! それと業火もありがとうね!」
「業火君ありがとー!」
空を飛んだ業火が戻ろうとした時、板の向こう側から女子たちの感謝の声が聞こえる。その時だった。きゃぁっ! と葉隠の悲鳴があがり、バシャバシャとした音が聞こえると芦戸が叫んだ。
「業火に褒美だよー! 葉隠のおっぱいめちゃくちゃ大きくてやわらかい! もう手が沈みそう!」
「み、三奈ちゃん!? ちょ、あん、やめ……!」
どうやら芦戸が葉隠の胸をもんだらしい。女子たちのそんな声を聞いた業火は静かに降り立つと悲壮感に溢れた表情で瀬呂に懇願した。
「瀬呂君。今すぐ俺を縛って風呂に沈めてくれ」
「業火!? いきなりどうした!?」
「俺は今峰田のように見てみたいと思ってしまった。恥ずべき行為なのに。こんな俺は今すぐに死んでわびた方が良い」
「何言ってんだ!?」
「そうだよ業火君! 峰田君はともかく君は悪くないよ!」
「誰だってあんな声聞けばそうなってもおかしくないって! 峰田は悪いがお前は何も悪くないんだから早まんな!」
「うるせー! 静かに入る事も出来ねぇのか! 殺すぞ!」
「俺は……最低だ……」
男女ともににぎやかな風呂。高校生らしい青春のひと時を送る裏で教師たちは明日以降の訓練内容について話し合っていた。
「……それじゃ、AB両方とも事前に話し合った通りという事で」
「問題ない」
「OKよ」
「任せてニャ!」
先ほどまで1-Aが食事をとっていた場所にて相澤先生とB組の担任であるブラドキング、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのメンバーであるマンダレイにピクシーボブ、虎とラグドールが勢ぞろいしていた。
「それと事前に説明した通り、轟業火に関しては未だ実力が見えない事を考慮して色々とさせるつもりです」
「それについてだけどイレイザー、あんたどんな教育してるのよ」
相澤先生の言葉に真っ先に反応したのはピクシーボブだった。彼女は真剣な表情で業火について語った。
「あの子、普通じゃないわよ? 身体能力、個性の使い方、立ち回り、どれをとっても学生とは思えない程高い身のこなしをしているわ。エンデヴァーの息子らしいしサイドキックとかに訓練を付けてもらったと考えられるけど明らかに
「……やはりそう感じるか」
雄英教師の誰もが理解している事。それは業火がヴィランと言われてもおかしくはないことをしているという事。証拠がなく、下手に問い詰めた結果本当にヴィランに落ちた時の事を考えて誰も言葉にしないものの、既にそのことは共通認識となっていた。
相澤とて自らの教え子になったからにはヒーローといかずともヴィランに落ちるような事にはさせたくないと考えている。最後まで責任を持って教えると決意していた。
「彼ね、私の土魔獣と戦っていた時、
「……個性を使用した戦いが出来ずに不満が溜まっていると?」
「少なくともその兆候はあると思うわよ」
ピクシーボブはあの時の事を思い出す。次々と襲い掛かってくる土魔獣に対して業火は楽しそうに笑っていた。本気こそ出していないのだろうがクラスメイト達が苦戦する土魔獣を一撃で葬り、次々と叩き伏せていく姿は彼の素が見えているように感じられた。少なくとも、ピクシーボブが雄英体育祭で見た業火よりも本心で動いているように見えたのだ。
「……」
故に、それは不味い兆候だった。ヒーローも個性の使い方を制限される。自由に使えない場合がほとんどであり、好きなように使うには今の社会は窮屈と言えた。
「はぁ、彼は日本では活躍できなさそうね。アメリカ留学とか考えた方が良いんじゃない? 向こうはヒーローも場合によってはヴィランを殺してしまえるみたいだし。少なくとも日本で活躍するよりは向いていると思うわよ」
「一応それは考えています」
今の世界でヴィランの犯罪率はどの国でも軒並み高い数値を叩き出している。ただし、日本だけがオールマイトによって目に見えて低いのだ。オールマイトという象徴がいない外国ではヒーローの在り方も大きく違っていた。特にアメリカ等は元から警察による犯罪者の殺害が頻発していた事からヒーローもまた同じ権限が与えられている。業火は明らかにそちら向きの性格をしていた。
それは相澤先生とて理解しており、根津校長と話し合いながら卒業までに留学を検討し始めている所だった。アメリカとてヴィランの活動には悩まされているのだ。業火という明確に強い存在を受け入れないという事はないだろう。
「ですがそのためにもある程度は何が出来るのか、どういうオリジンを持っているのかを把握しておきたい。この合宿でそれが見れるとは考えていませんが注意を払っていきたいと思っています」
「了解にゃ!」
「任せておけ」
「私らにお任せ!」
プッシーキャッツの面々は相澤先生の頼みに快く応じた。轟業火という不発弾とも言える存在への対応。それは間違ったものではなかった。しかし、彼らのその動きはあまりにも遅すぎたのだ。相澤先生をそれをこの林間合宿やそれに続く大惨事から理解させられることになる。
改めてアニメでプッシーキャッツのポーズを見ていたんですが三十路でやるにはちょっとキツいのではないかなと思ってしまいました。コスチュームも……
因みに業火は峰田を〆るのに飛んでいますが決して女子風呂が見えないように高さを調整しています。なのでうっかり葉隠の姿を見る、何てことはありません。葉隠なら業火に見られても許してしまうでしょうけど。