次話は0816までには投稿出来ると思います
ネタばらしとゲームの説明から1週間が経った。
先日まで無法地帯の動物園状態だったDクラスは、打って変わるように真面目に授業を受けていた。
但し、それは全員ではなく健などはノートを取らず、熟睡していた。
(この学校の実態を知ってもなおあの有様か。現状ポイントはこれ以上減らないとは言え、健たちを指導するのは骨が折れそうだな)
午前の授業が終わり食堂に向かおうとするオレに声をかけるものがいた。
「綾小路くん、待ちなさい」
高圧的な言葉からわかると思うが堀北だ。
「……何の用だ?」
「お昼は食堂で食べるよよね?奢ってあげるわ」
「…………」
普段から高圧的で排他的な態度のこいつが、誰かに無償で何かをするハズがない。
面倒事を押し付けられそうな予感がしたので断りを入れる。
「悪いが、誰かに奢ってもらわないといけない程金欠じゃないんだ。遠慮しておく」
「そんなことを言っても本当はポイントが少ないんでしょう?遠慮する必要はないわ」
(こいつ、やけにグイグイくるな。こいつが奢ったとして一体何のメリットが……………)
そこまで考えて一つの可能性にたどり着いたオレは一言「ダルいな」と呟く。
「お前、自分が奢ると言って渡したものに口をつけた瞬間、何かしらの要求をする腹積もりか?」
「…………」
「沈黙は肯定と受け取るぞ」
予想通り、こいつは詐欺紛いの手口で自分の要求を通すつもりだったようだ。
このまま無視してもいいかとは思ったが、何かしらのプランがあるならと、とりあえず聞いておくことにした。
「まあ、いい。話だけは聞いてやる。食堂に行くぞ」
「それじゃあ協力してくれるのね?」
「耳がイカレたか?話だけは聞いてやると言ったんだ。都合良く解釈するな」
自分に都合良く解釈し要求を通そうとする堀北に辟易しながらも食堂に向かった。
オレは日替わり定食を、堀北は山菜定食を頼みお互いに席についたのを確認して話を切り出す。
「で?詐欺擬きで何をさせたかったのか、さっさと話せ」
オレの喧嘩腰の口調に苛立ちながら堀北は語る。
赤点で退学した場合、何らかのペナルティを受ける可能性。
それを防ぐには当然赤点を取らないようにすること。
小テストでワースト3の山内、池、須藤は自分が教えること。
その3人を集めるのにオレに協力してほしいこと。
それらを聞き終えて一応考えてはいるなとは思った。
だが同時に疑問も出た。堀北はあの3人に勉強を教えられるのかと。
「一応聞いておくが、お前は誰かに何かを教えた経験は?」
「無いわ。でも私ならあの3人を赤点を取らないように教えられるわ。あなたは3人を勉強の場に連れてくるだけでいいの。簡単でしょ?」
人に何かを教えるのが簡単だと言いきる見通しに甘さにため息が出る。
「話はわかった。その上で言わせてもらうが、やりたいなら勝手にやれ。健たちを連れてきて欲しいなら桔梗でも使え」
元から付き合うつもりは無かったが、失敗する可能性の高い勉強会に少しでも関わるのは面倒だ。
何か言いたそうな堀北をよそに昼食にありつく。
*
堀北は桔梗の協力で健たちを呼び出し、図書室で勉強会を開いた。
その様子を少し離れた場所から眺めていたが、案の定、10分足らずで雲行きが怪しくなった。
「あまりにも無知、無能過ぎるわ」
堀北が健たちの学力の低さに辟易する気持ちは分かるが、言葉も悪く、見切りを付けるのも早すぎる。
『アイツ』や『あの御仁』ならこれ程早く見切りを付けないとは思うが断言は出来ない。
あの2人が師として教えているのを見たのは数える程しかなくそもそも分野が違う。
「うっせえな。お前には関係ないだろ。勉強なんかするくらいならバスケのプロ目指した方がいいぜ」
「・・・くだらない。あなたにとって、バスケットは勉強から逃げる理由なのね」
「なんだと?」
健の額に青筋が浮かんでいるので、そろそろ爆発しそうだ。
「あなたのように、嫌なことから逃げる人間がプロになれるとは到底思えないわ。どうせ練習に対しても真面目に参加していないのでしょう」
「テメェ!!」
堀北の勉強会が失敗するのを眺めながら、健たちをどうやって勉強会の席に着かせるかを思案する。
(健はやはりバスケで釣るとして、池と山内はどうしたものか。桔梗で釣って失敗している以上同じ手が通用するとは思えない。………力で屈服させる方が早いか?)
今後の方針をおおまかに決め図書室を出たところで、桔梗が人気のない校舎の方へ向かうのが見えた。
急ぎの用も無いので興味本位で桔梗のあとを尾けることにした。
向かう方向からして屋上だな。誰かと逢い引きでもするのだろうかと暢気なことを考える。
やがて屋上への扉がある所で立ち止まると
「あーーーーーー、ウザい」
ガンッ
目の前の扉を蹴りつけた。
「マジでウザい。ムカつく。死ねばいいのに」
ガンッガンッガンッ
扉を何度も蹴りつける。
「自分が可愛いと思ってお高くとまりやがって。どうせアバズレに決まってんのよ。あんたみたいな性格の女が、勉強なんて教えられるわけないっつーの」
随分とストレスが溜まっているようだな。
やはり桔梗も堀北の相手をするのは嫌なようだ。
「あー最悪。ほんっと最悪最悪最悪。堀北ウザい堀北ウザい、ほんっとウザい」
それにしても、二面性が強いな。これだけ表と裏の差が激しいのを見ると、まるでタ◯マみたいだと思う。
桔梗にとってこれは見られたくない類だろうから、念の為に録音の準備をする。
扉を蹴りつけていた桔梗はある程度吐きだしてスッキリしたのか、蹴りつけるのを止めオレがいる方へ向いた。
「なっ!」
ここは他に人はおらず人通りがない為、桔梗は予期せぬオレの存在に目を見開き驚愕していた。
「綾小路くん…聞いていたの?」
「ああ、聞いていた」
「っ……あんた、今聞いたことを誰かに言いふらしたらただじゃおかないから」
「具体的にどうするつもりだ?」
「あんたにここでレイプされたって言いふらす」
「冤罪だな、それは」
「安心して。冤罪じゃないから」
そう言ってオレがいる踊り場まで降りてくると、桔梗はオレの手に目掛けて自身の手を伸ばした。
「っ!……」
それを弾くと再び手を伸ばしてきたので、今度は叩き落とした。
オレの手を掴み制服に指紋を付けることで濡れ衣を着せるつもりだったようだが、目論みが失敗したことで顔をしかめこちらを睨みつけてくる。
「あんた、一体何なの?」
「ごく普通の高校生だが?」
「へえ?ごく普通、ねぇ。それにしてはこんな状況でも表情はいつも通りなんだね?」
「生憎と、オレの表情筋は昔から怠惰だからな」
「そう……」
桔梗の言葉を最後に睨み合いの状態になる。
このまま睨み合っても埒が明かないのでこちらから話を切り出す。
「さっきの桔梗は普段の桔梗と随分違ったが、あれが本来のお前か?」
「それ、あんたに答える必要ある?」
「答えたくないなら答えなくていい。話す話さないは桔梗次第だ」
実際、桔梗がどちらを選択しようがオレにとってはどっちでもいいからな。
既にオレに知られた以上、知られても大して変わりないと判断したのか、桔梗は自身の事を語り出す。
桔梗は昔から承認欲求が強いこと。
幼稚園や小学校では何でも一番でとても満たされていたこと。
中学に上がるとそれが通用しなくなり、代わりにみんなから好かれることで承認欲求を満たしたこと。
「これがみんなの前でいい子にしてる理由。あんたには理解できないでしょ?」
「確かに理解できないな。オレにとって『アイツ』からの評価は重要だが、それ以外の有象無象からの評価なんてどうでもいいしな」
これは本当だ。
多くの人間に好かれようとする生き方は理解に苦しむ。
実際、桔梗はいい子を演じることでさっきのように溜まったストレスを吐き出す必要があるみたいだしな。
大分面倒な生き方をしているなというのが正直な感想だ。
「『アイツ』?誰それ」
「………そうだな。オレが忠誠を誓い忠義を捧げる仕える主。そんな奴だ」
「忠誠?忠義?ダッサ。それに主に仕えるとか、あんたいつの時代の人間?」
桔梗は心底可笑しそうに笑う。
まあ、実際に忠誠や忠義といったものは、現代の人間からすれば時代錯誤も甚だしいからな。
笑われるとしても甘んじて受け入れよう。そう思っていたが───
「あんたみたいな暗くてつまんない奴が仕える主なんて、どうせビクビクしながら顔色を窺うような自分から何も言えないどうしようもないマヌケ──」
桔梗、いや、櫛田の言葉は最後まで続かなかった。
櫛田の首を掴み締め上げたからだ。
「………がぁっ……ばな…ぜ……」
櫛田の首を掴んだまま背後の壁に叩きつける。
「……………………」
まだ大丈夫そうなので、もう一度叩きつける。
「かはっ!……ぁ…………」
二度も叩きつけられたことで肺から大量の空気を吐き出す。
オレとしてはここでバラすことに抵抗は無いが、それだと後始末が面倒なので、ひとまず溜飲を下げ櫛田の首から手を離す。
「……げほっげほっ……げほっ…げほっ…………」
オレが窒息状態から解放したことで肺に酸素を取り込み息を吹き返す。
呼吸が安定し、落ち着いた頃合いを見計らい話しかける。
「おい、言葉はちゃんと選べメスガキ」
これがオレで良かったと思う。
ここにいたのが『黒』達なら確実にバラしているだろうし、そこまでいかなくても『アイツ』というストッパーがいないなら痛めつけただろうからな。
「お前、大分運が良いな。この程度で済んで」
「この程度?殺しかけたくせに随分軽く言うんだね」
「だから言っただろ。運が良いな、と。オレも過激派ではあるんだが、他の奴と比べたら穏健的な方でな。さっきのを聞いたのが知り合いの4柱なら、殺すか拷問の2択になるはずだ」
「はっ。殺すとか拷問とか、あんたもあんたの知り合いも頭のネジ外れてイカレてるじゃん」
(辟易した口調ながらもこちらを睨みつけてくるか。
幾分か余裕が戻ったみたいだが、これはどうしようか…)
何か良さそうな案はないか思考を回しちょうど使えそうな事があったのを思い出す。
あれは確かファルムスを乗っ取る際の出来事だったか。
『黒』の奴がエド…なんとか王とそれに雇われた傭兵、ルミナス側の2人に対して魔王覇気でテストをしたんだったな。
(人間に転生した影響で魔王覇気は出せなくなったが、殺気ならテストの代替として充分か……?)
「櫛田、お前に提案がある」
「提案?何かさせるつもり?」
「安心しろ、簡単なテストだ。テストに合格すれば証拠作りに協力してやる」
「は?何言って……」
「ふむ、理解できるように改めて言うぞ。綾小路清隆を退学させる証拠を一緒に作ろう。制服に指紋を付けたり、オレがお前を強姦している映像を撮ったりしてな」
「!?……あんた、正気?」
目を見開き訝しんでいるが当然の反応だな。
自分が退学する為の証拠作りに協力するなど、櫛田からすればとち狂ったとしか思えないだろう。
もっともオレは至って正気だ。なぜならこれは結果がわかりきっている出来レースみたいなものだ。
おそらく2割にも耐えられないはずだ。
「正気だよ。さあ、テスト開始だ。しっかり耐えてみろ」
言い終わると同時に指を鳴らし殺気を放つ。
小手調べで放った殺気に当てられた櫛田は膝を付き、震えを抑えようと両手で上腕を抱きしめている。
(小手調べの段階で不合格か。この世界でのサンプルは目の前の櫛田だけだが、大分拍子抜けだな)
ヨウムやヒナタはともかくユニークに振り回されて貧弱なマサユキも帝国との戦争前ならいざ知らず、羽虫とのドンパチが終わる頃には骨のある漢になり、この程度の殺気には耐えられたのに。
「合格出来ないとは思っていたが、この段階で不合格とはな」
「お前ぇ……一体、何をしたっ…!」
「特別なことはしていない。ただ、殺気を放っただけだ」
「殺気?……これ…が?」
平和な島国でぬくぬくと過ごしてきた櫛田には刺激が強いようで、その表情は恐怖で彩られていた。
無理もないだろう。
例えこれまでの人生で悪意に曝されることはあっても、そんなものはオレからすれば子供のお遊び程度でしかない。
生死を賭けた殺し合いをしてきたオレの殺気と比べたら、所詮は児戯だろうな。
まあ、それはさておき。
ここで爆弾を一つ投下する。
「櫛田。お前にとって残念な事実だ。今、お前が感じている殺気だが、オレはまだ
「…1、割……?」
その表情から色が抜け落ち蒼白となる。
1割でこれならこれ以上出せばどうなるか想像したのだろう。
恐らくだが、6割も出せば精神が耐えきれず死ぬだろうな。
「選べ。死ぬ可能性があると知りながらテストを続けるか、生きる為にここから逃げるか」
選択肢は提示した。
あとは櫛田がどちらを選ぶかだが───
「……あ……あ……っ!」
脇目も振らず逃げることを選択した。
櫛田が去るのを見届けた後、この場に用がなくなったのでオレも立ち去る。