中間テストが1週間後に迫った5月16日の放課後。オレは今日も図書室で勉強会を開いていた。
受け持った3人の内、健は比較的楽に指導出来た。健はバスケ部所属のため10分という区切りを設け、勉強と休憩させたところ上手くいった。
山内と池に関しては教科によるが、範囲を小学校や中学校まで遡り出来たという経験を積み重ねることで対応した。
解ったという成功体験により学習意欲を向上させたのだ。
だがそんな彼らとは裏腹に、オレの中ではある疑念があった。
学先輩と2年の先輩から貰った過去問の内、4月の小テストと一学期中間は一言一句一致し、小テストはオレ達が受けた物と同じだった。
そのため今回の中間試験も例年通り同じ物が出ると判断し、文章等を弄った模擬テストを2種類用意したのだが、試験が1週間後に迫る今日に至るまで範囲が変更なったという通達はされてない。
今年は最初に通達した範囲通りにやるのか、それとも担任の伝え忘れなのか。
その答えは他クラスの生徒によって知ることとなった。
「おい、お前らDクラスか?」
声を掛けてきたのは知らない奴だ。
恐らく1年だとは思うが、何の用だろうか。
「そうだが、何か用か?それとお前は誰だ?」
ひとまずオレが前に出て対応する。
「俺はCクラスの山脇だ。不良品共が試験範囲以外のとこを勉強してるからちょっと声を掛けただけだよ」
「試験範囲以外?お前何言ってんだ?俺らは範囲が変更になったなんて話聞いてねえぞ!」
「そうだ!出任せ吹いてんじゃねえ!」
試験範囲は変更になってないと言う健たちを見て、山脇の目が馬鹿にするような、あるいは可哀想なものを見るような目になる。
「おーおー。本当に知らねえみてえだな。不良品共が可哀想過ぎて、涙が出そうだぜ」
「んだとテメェ!」
もし、Dクラスだけが知らされてない場合、考えられるのは伝え忘れか意図的になるが…。
もし、後者だったならあの担任はゴミ教師になるな。
「お前の目的はオレ達に声を掛けることだろ?だったら、用は済んだことだし早く帰ってくれないか?」
とはいえ、まだ後者だと決まったわけではないし、この場はさっさと山脇を片付けて確認に行くべきだな。
「あ?おいおい、不良品のくせに何スカしてんだコラ」
こいつ…。
目的はもう済ませた筈なのにまだ絡んでくるのか。
相手をするのは面倒だし、丁度近くに破滅女がいるから、こいつを引き取ってもらうとしよう。
「なあ、これ以上絡んでくるなら『黄』に引き渡して『紫』と遊ばせるようう口利きするが、それでいいのか?」
「ジョーク?ヴィオラ?誰だか知らねえが、やれるもんならやってみろよ不良品!」
「はあっ。本人もこう言ってることだし掃除は任せたぞ───『原初の黄』」
オレは彼女がいる方に向かって声を掛ける。
「ああっ?誰に向かって言ってんだ?お前」
「──安心しなよ。そこの山脇は責任を持って片付けてやるさ」
視線の先から現れるのは金髪がまぶしい少女。
『黒』の勧誘を機に同僚となった『原初』の1柱。
“破滅王” カレラ。
「なっ!?カ、カ、カレラ!?なんでお前がここに!?」
「おかしなこと言う奴だな君は。私もこの学校の生徒なんだから、勉強するために図書室にいるのは普通だろ」
『黄』の登場により山脇の顔が恐怖や焦りで彩られる。
あの様子ではアイツは色々やらかしているのだと推察できる。
「山脇、彼の要望通りウルティマの元に連れて行くけど、何か言いたいことはあるかい?」
『黄』は視線を此方に向け山脇に確認を取る。
「ウ、ウルティマ!?なんで俺をあの女のとこに連れてくんだよ!?」
「さっき自分が何を言ったのか忘れたのか?彼が“ウルティマの遊び相手になってもらう。それでいいか?”と訊いたら、君は“やれるもんならやってみろ”って了承の意志を示したじゃないか」
「そ、それは…。し、仕方ないだろ、ジョークとかヴィオラがお前らのことだなんて知らなかったんだからよ!」
『紫』に対しても怯えるか。
やはり2日のあれは彼女達2柱によるものとみて間違いなさそうだ。
「ジョークとヴィオラじゃなくて
山脇に近づいた『黄』は、彼の耳元でなにかを囁く。
「────、──、──────」
この距離では何を言っているか聞き取れないが、彼の顔が青ざめていくのを見るに絶対に碌でもないことの筈だ。
それを聞いている山脇はとうとう限界が来たようで──
「す、すみませんでしたー!」
逃げていった。
何を言われたかは知らないが、『黄』によって怖い思いをしたあいつを少しだけ哀れんだ。
邪魔者が消えたことでオレは彼女に向き直る。
「ハエの駆除の協力感謝する、『黄』」
「…さっきも思ったが、私を色呼びするなんて随分寂しい奴だな君は。
「すまない。お前も自分の名に誇りを持っているのは解っているが、今の所お前達を名前や愛称で呼ぶ気は無い」
「……そう。残念だよウル」
オレが名を呼ぶことも愛称で呼ぶことも無いと理解してとても悲しい思いが彼女の顔に表れる。
『アイツ』がいないからそうすると決めたとはいえ、
「ギィから聞いてはいたが、君がそうするのは我が君がいないからなんだろ?だったら私はそれに口を挟まないよ」
「そうか。話は変わるが、お前の方で昔の知り合いに似た声の奴はいたか?」
重苦しい空気を解消するため、名前に関する話を一度切り別の話題を出す。
「声か…。ウチのクラスにウルティマに似た奴と法皇をやってた吸血鬼に似た奴がいたな。そっちは?」
「こっちはルミナスとエスプリ、それと弟クンだな」
「!へぇ、エスプリか。 それに、弟クンっていうと君の側近やってた双子の片割れで合ってるかい?」
「ソイツで合ってる。ちなみにエスプリに似た奴だが、面倒な性格をしてるから深く関わらずに適当に扱うことを推奨する」
「忠告を感謝するよウル」
会話に花を咲かせるオレ達だが、そこに池が割って入った。
「なあ、ちょっといいか?綾小路」
そう言えば池たちもいたな。
山脇の対応や再会した『黄』と会話をしてるうちについ忘れてしまった。
「なんだ?池。コイツを紹介してほしいって話ならナシだ。この女、見た目は良いが気性の荒い暴走車みたいな奴だから、そういう関係の対象としては0点通り越してマイナスだぞ」
「ウル、私に対して少し失礼じゃないか?」
『黄』が苦言を呈しているが事実なんだから仕方ないだろ。
「そうなのか。気性が荒い子はさすがに遠慮してぇな……ってそうじゃねぇよ!テスト範囲だよ、テスト範囲!さっき逃げてった奴が、俺等が勉強してるとこはテスト範囲じゃねぇって言ってただろ!」
そう言えば、オレ達に絡んできた山脇は逃げたんだったな。
話の通じる代わりがいるし、コイツに範囲等を聞いてから職員室に行くとしよう。
「ウル、話の流れから察するに、君達のとこは範囲の変更を知らされてないのかい?」
「残念ながらそうなるな」
オレは先程の状況も含め、掻い摘まんでDクラスの現状を話す。
2週間前にテストの告知があり、その後範囲の変更の通達はされていないこと。
範囲が変更されている等露にも思わず、最初に通達された範囲を勉強していること。
先程の山脇によって、Dクラスだけが通達されていない可能性があること。
それら話し終えると『黄』は顔を顰めていた。
彼女もある可能性に思い至っているのだろう。
「通達されてないのが意図的なら、教師も不良品ということになるし、文字通りゴミ捨て場になるねDクラスは」
「単に知らせるのを忘れただけの可能性もあるから、不良品でないことを祈るばかりだがな」
意図的であるなら目的は何なのかという疑問があるが、この場で答えは出ないので考えるだけ無駄だ。
『黄』にいつ知らされたのか聞いたところ、1週間前の5月9日に変更の知らせがあったようだ。
勉強会の解散を指示し、確認のために職員室に向かおうとしたオレを『黄』は呼び止めた。
「ウル、それに君たちも。忠告したいことがあるから少し時間をくれるかい?」
「出来れば手短に頼む」
「安心しな。ちょっとしたおせっかいさ」
そう言って彼女はオレ達を見渡す。
「君たちが中間テストを乗り越えたら、ウチの王様が名乗ってる奴が何かしら仕掛けるかもしれない。だから、呼び出しを受けたりしても複数で行動したり、いつでも録音や録画が出来るよう準備はしとくといい」
『黄』のクラスの策略を自ら明かすも同然の行為に、山内たちは呆気にとられる。
それはオレも同様で、オレは『黄』の真意を計りかねていた。
「『黄』、どういうつもりだ?」
「さっき言った通り、ちょっとしたおせっかいだよ。君にというより、彼らに対して、ね」
そう言って『黄』は視線をオレから健たちへと移す。
それを見たオレは彼女の真意をある程度察する。
「君なら火の粉が降りかかっても問題なく対処出来るだろうけど、そっちの彼らは違うだろ?」
確かに。オレだけなら対処は可能だが、その矛先が山内たちに向いた場合、彼らが適切に対処出来るかは怪しい。
「そんなわけで私は注意喚起したのさ。ウルが育成している3人にね」
もしこの会話がCクラスの誰かに聞かれていて、健たちが実際に対処出来た場合、『黄』に矛先が向くが……心配するだけ無駄だろうな。
そこらの高校生相手に、この女が遅れを取る所なんてのは想像出来ない。
「呼び止めて悪かったね。そろそろ職員室に向かうといい」
「そうさせてもらう」
『黄』の言葉にそう返して背を向けて図書室を出ようする。
が、『黄』に伝えてないことがあったのを思い出し、すぐにその足を止めた。
「…?ウル、職員室に向かうんじゃないのか?」
「『黄』、言い忘れたことがあるのを思い出したから、別れる前に言うぞ」
「言い忘れたこと?」
背中越しになるが、心当たりのない『黄』は首を傾げているのだろう。
「他の奴も含めて名前や愛称で呼ぶ気は無いと言ったが、毎回ではないが称号絡みの呼び方をするから、それで勘弁してくれないか?破滅女」
「いいよ。それで手を打とうか、
『黄』から塵男と呼ばれ、思わず笑みがこぼれる。
先程『黄』が言った塵男はオレの称号に由来する。
祝勝会の場で聖魔十三守護王に任命された折、『アイツ』から賜った称号。
“
その懐かしさを噛み締めながら職員室へ向かった。