帰還とアクエリアス王国
旅立ちと、終わらない雨の国
アルト王国を襲った未曾有の危機から数日後。
僕たちを乗せた水陸両用車『ジャンプ号』は、無事に故郷であるイストク王国の王都へと帰還した。
戦いの後、英雄(英霊)たちの道は少しずつ分かれた。
悠仁と五条先生、サイ、ヤマト、そしてガイ班の面々は、復興の手伝いも兼ねてアルト王国に残ることになった。イタチとヒソカは、気がつけばどこかへと姿を消していた。
……ちなみに、左之助はいつの間にかはぐれていたらしく、アルト王国に完全に置いてけぼりになってしまったようだが、彼ならたくましく生きていけるだろう。
王城の玉座の間。
「報告します。アルト王国の災厄を退け、無事に大精霊ノーム様の加護を取り戻すことができました」
僕が真っ直ぐに報告すると、マリー王女殿下はふっと柔らかな微笑みを浮かべた。
「お疲れ様でした、ジャンさん、ルリカ。そして皆さんも。あなた方の勇気ある行動に、心から感謝いたします」
謁見を終え、城の廊下を歩いていると、不意に腰の『オリジンソード』が微かに脈打つように光った。新たな精霊の気配を感知し始めている証拠だ。
「……ジャン」
振り返ると、フィーネさんが静かな佇まいで立っていた。その表情は、いつもの厳しい教官のものではなく、どこか晴れやかなものだった。
「フィーネさん?」
「裏魔導士試験、合格おめでとう」
「……え? 裏魔導士試験?」
思いがけない言葉に、僕は目をパチクリとさせた。
「君は見事に合格したんだ」
フィーネさんは優しく微笑み、言葉を続ける。
「魔法の真髄を会得することは、プロの魔導士にとって不可欠だ。だが、強すぎる力は時として災いを生む。公の授業で教えるにはあまりにも危険すぎるため、独自の『魔法』は、真に資格を持つと認められた者にしか教えられない。それが『裏魔導士試験』だ」
「じゃあ、あの岩を掘り抜く修行も、剣術魔法の特訓も……全部、その試験だったんですか?」
「ああ。君は私の厳しい試験を乗り越え、自分だけの『鋼の魔法』を手にした。……ジャン、今日で私の弟子は卒業だ。私は、この国に残る」
「フィーネさん……!」
フィーネさんが一歩近づき、僕の体を力強く、そして優しく抱きしめた。
かつて大切な部下たちを失い、一人で暗闇を抱えていた彼女の温もりが、今はとても穏やかに感じられた。
「もう大丈夫だ。自分の力と、仲間たちとの絆に自信を持って進みなさい」
「はい……! ありがとうございました、フィーネさん!」
感動的な師弟の別れを噛み締めていた、その時だった。
「――はい、そこまでですっ!」
突然、ルリカが僕の腕をグイッと引っ張り、フィーネさんから強引に引き剥がした。
「ル、ルリカ?」
「もう出発の時間ですから! 行きますよ、ジャンさん!」
顔をほんのりと赤く染め、ぷくっと頬を膨らませたルリカに手を引かれ、僕は慌てて歩き出した。背後から、フィーネさんがクスクスと笑う声が聞こえた。
「次はどこに行くの?」
「方角だと、アクエリアス王国ですね」
剣心、薫、弥彦、恵の四人は、このイストク王国に残ることになった。
代わりに今回のアクエリアス王国への旅に同行するのは、ナルト、サスケ、サクラ、カカシ、我愛羅。さらに第十班のチョウジ、いの、アスマ。そしてゴン、キルア、クラピカ、レオリオという、とんでもなく心強く賑やかなメンバーだ。
アクエリアス王国は、水の精霊ウンディーネの加護が失われてからというもの、太陽が一切顔を出さず、絶え間なく雨が降り続いているという。
【アクエリアス王国・到着】
「ここがアクエリアス王国……人っ子一人いないね」
ジャンプ号を降りた僕たちは、降りしきる雨の中、ゴーストタウンと化した街を見回した。
その時、僕の足元でプンがピタリと立ち止まった。
「……っ! この近くに英霊がいるのだ!」
「プン、すごいな! 全身びしょ濡れなのに毛が立ってる!」
「感心してる場合じゃないのだ!」
「どこにいるんだ?」
僕が尋ねると、ルリカが指を差した。
「あそこ……浜辺に、男女が二人いるわ」
視線の先、灰色の波が打ち寄せる浜辺から、二つの人影がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
「こいつら、英霊なのだ!」
プンが警戒する中、灰色の髪をした少年が、底抜けに明るい声で名乗った。
「俺、アスタ! で、こっちがネロだ!」
彼が指差した先には、鳥のようなツノを生やした、無表情で小柄な女の子が立っていた。
「お前達は夫婦か?」
プンが直球すぎる質問を投げかけた瞬間。
スッ……とネロが無表情のまま手を伸ばし、プンの耳を容赦なく上に引っ張った。
「そんなわけない」
「いてててて!! 取れるのだ! 耳が取れるのだ!」
「……どうやら違うみたいだな」
アスタとネロの漫才のようなやり取りに、僕たちは思わず毒気を抜かれていた。
そんな中、ふと横から嬉しそうな大声が響いた。
「おおおお! 見てよみんな、あんな所に大きなスイカが落ちてる!」
声の主はチョウジだ。彼は目を輝かせながら、浜辺の奥に転がっている巨大な丸い物体に駆け寄ろうとする。
「いや、あれはタコだってばよ」
ナルトの言う通り、それはスイカのような模様の頭部から、ヌルヌルとした巨大なタコの触手を生やした、異様な姿のモンスターだった。
「今日の晩御飯だってばよ!」
「デザートもだ!」
巨大なスイカタコを前にして、ナルトとチョウジは完全に食欲を暴走させていた。
「倍化の術、肉弾戦車!!」
巨大な肉球と化したチョウジが、猛スピードでスイカタコへと突進する。しかし――。
バチンッ!
「何っ!?」
怪物は太い触手で肉弾戦車を真正面から受け止めると、そのままの勢いでチョウジを街の奥へと大きく投げ飛ばした。
「あーれーーっ!」
「チョウジ!」
彼が瓦礫の山に突っ込むのを見て、ナルトが顔を引きつらせる。
「速い上に、とんでもねえ力もあるぞこいつ……!」
「サスケ君、カカシ先生!」
サクラの呼びかけに、カカシとサスケが瞬時に印を結ぶ。
「雷遁・紫電(しでん)!」
「千鳥千本(ちどりせんぼん)!」
周囲は雨。全身ずぶ濡れの怪物相手なら、雷遁は確実に通るはずだ。しかし、無数の雷の針と紫色の電撃が直撃した瞬間、怪物の表面がグニャリと波打ち、すべての電気を吸収してしまった。
「効いてない……だと!?」
驚くサスケの横で、防水シートで包んだ分厚い魔物図鑑をめくっていたプンが声を上げた。
「ジャン、わかったのだ! こいつは魔術や忍術の類を無効化し、吸収してしまう特性を持っていると書いてあるのだ! 直接的な物理攻撃でしか倒せないのだ!」
「なるほどな。ジャン、ここは俺とカカシで敵を引き付ける。その隙にお前が死角から斬れ」
サスケの的確な指示に、僕は力強く頷いた。
「分かった!」
カカシとサスケが体術を駆使してスイカタコの触手を次々と捌き、その注意を完全に引きつける。
僕は大地を蹴り、高く跳躍した。
「顕現せよ――神剣ユグドラシル!!」
圧倒的な質量と硬度を誇る大剣を構え、怪物の頭上から渾身の力で振り下ろそうとした、その時だった。
「うおおおおおっ!!」
僕の真横から、巨大な黒い剣を振りかぶったアスタが同時に飛び出してきたのだ。
「えっ!?」
「はあああっ!!」
僕の『神剣ユグドラシル』と、アスタのアンチマジックの剣。
二つの規格外の大剣が、十字を描くようにスイカタコの脳天に同時炸裂した。
ズバァァァァンッ!!
魔力ごと両断された怪物は、断末魔を上げる間もなく光の粒となって弾け飛んだ。
「ふぅ……! 君、凄いね!」
見事な太刀筋を見せたアスタに僕が感心すると、彼はニカッと白い歯を見せて笑った。
「へへっ! 俺は魔法帝だからな!」
怪物が消滅した跡地には、見覚えのある物体が転がっていた。
「エレメンタルコアだ。さっきの怪物が体内に取り込んでいたのか」
僕がユグドラシルでコアを両断すると、パリンッという音と共に、中から一人の少女が姿を現した。オレンジ色の髪に、修道服のようなローブを纏った可憐な少女だ。
「……ミモザ!」
「アスタさん!」
ミモザと呼ばれた少女はパァッと花が咲いたような笑顔になり、アスタを見つめた。
「どうやら、あの怪物の中のコアに君が封印されていたみたいだよ」
「もしかして、アスタさんがわたくしを助けてくださったのですか?」
ミモザが嬉しそうに尋ねると、アスタはブンブンと首を横に振り、僕を指差した。
「いいや、メインで助けたのはコイツだよ!」
アスタに紹介され、少女は僕に向かって優雅に一礼した。
「あの……わたくし、ミモザ・ヴァーミリオンと申します。助けてくださり、本当にありがとうございます」
「うん、僕はジャン・サンダルフォン。よろしくね、ミモザ」
挨拶を交わすと、ミモザは不思議そうにサスケやナルトたちを見回した。
「この方達は、アスタさんたちの新しいお仲間ですの?」
「いや、俺もさっき会ったばっかりで全然違うんだけど……そうだ!」
アスタは僕の肩をガシッと掴み、真剣な顔で頼み込んできた。
「ジャン! クローバー王国に戻る方法が見つかるまで、俺たちを一緒の旅に置いてくれないか?」
「アスタ。それなら、今の君たちの置かれている状況について説明するね」
僕は、かつて剣心やナルトたちにしたのと同じように、アスタとミモザ、そしてネロに向かって、「ここが異界であること」「君たちは英雄の記録から具現化された存在であること」を包み隠さず話した。
それを聞いたミモザは絶句していたが、アスタは腕を組んで「うーん」と数秒唸った後、ポンと手を打った。
「そっか! つまり、ここが今の俺たちの世界ってことだな!」
(相変わらず、異常な適応力だ……!)
「アスタのお願いなら、もちろんいいよ。これからよろしくね!」
「おお! よろしくな、ジャン!」
続く