私、ルリカ・マクスウェルは、降りしきる雨の中で焦燥感に駆られていた。
アリトンによって王城から突き落とされたジャンさんと、姿を消したプンさん。二人を行方不明のままにしておくわけにはいかない。
「ここにいるのはサスケの力を持った女だぜ」
「ふん……もうウチらはお前を『大将』だなんて思わねえよ」
雨の煙る路地裏から現れたのは、音隠れの四人衆――左近と多由也だった。
足元には絶え間なく降り注ぐ雨水が溜まっている。ルリカは静かに息を吐き、自身の魔力を研ぎ澄ませた。
(雨が降り注ぎ、周囲が水だらけのこの状況……なら、あの完成したばかりの新技を試させてもらいますよ)
ルリカが集中すると、全身から猛烈な『風』の魔力が吹き荒れ、そこに青白い『雷光』が激しく交錯し始めた。
「嵐魔法――『千鳥嵐(ちどりあらし)』!!」
風属性による圧倒的な速度と範囲の強化に、千鳥の絶大な威力を乗せた高広域の複合術。解き放たれた極大の雷嵐が水面を伝い、爆音と共に路地裏全体を呑み込んだ。
「ぐわああああっ!?」
抵抗する間すら与えず、左近と多由也を一瞬にして叩きのめし、光の粒へと変えさせた。
「ルリカ!」
「っ……! プンさん!」
背後から駆け寄ってきたのは、無事だったプンだった。
「ぼくちんは地下街『アトランティス』から迎えに来たのだ! ジャンがあそこにいるから、それを伝えに来たのだ!」
「ジャンさんが地下街に……! プンさん、私もすぐにそこへ連れて行っていただけますか!?」
「もちろん、そのつもりなのだ!」
視点変更
僕――ジャン・サンダルフォンは、地下街アトランティスでの猛特訓を終え、呼吸を整えていた。
汗を拭う僕の前に、上品な手つきで湯呑が置かれた。
「まずは一度お茶でも飲んで休息なさってくださいな。この先の作戦について、わたくしと考えましょう」
「その作戦会議、私も混ぜてもらえませんか?」
部屋の扉が開き、そこには息を切らしたルリカの姿があった。
「ルリカ!」
「ジャンさん! 良かった……無事だったのですね!」
「あ、そうか。二人は初対面だったね。ルリカ、こっちが僕を助けて治療してくれた、この国の王族のセレナさんだよ」
「よろしくお願いします」
「こちらこそですわ」
ルリカとセレナさんは握手をした。
「ところで、ルリカさん? あなたのこと、もう少し詳しく教えてくださらない?」
セレナさんが、値踏みするように目を細めた。
「そうですね……。私は本来の属性である『水魔法』に加えて、私の中に宿る英霊の力で『火』と『雷』の魔法を使えます。さらに最近は『風属性』も身につけ、風と雷を組み合わせた『嵐魔法』を完成させました」
ルリカが胸を張って答える。実質4つの属性を操るという、圧倒的なポテンシャルの提示だ。
だが、セレナさんは余裕の笑みを崩さなかった。
「ふふっ。魔導士の才能は、持っている魔法の『数』ではなくてよ。要は、どう使いこなすかですわ」
「……どういう意味ですか?」
「わたくしは生まれつき、水と風の複合属性を持っていますの。つまり、それを極めた『氷魔法』と、水と風の融合魔法である『吹雪魔法』も完璧に使いこなせますわ。」
この二人の張り合いを見ている僕とプン
「平民のお前より魔力が高い王族同士で張り合っているのだ」
「いいライバルになりそうだね」
その頃アリトン率いる英霊達とアリトンは一緒にいる。
「見つけたわよ、私達を結界から出る方法を」
アリトンは結界から出る方法をみつけたらしい。
「行くわよ」
地下街アトランティスの練武場。
僕は集中を極限まで高め、青い波紋の刻まれたオリジンソードに全魔力を注ぎ込んでいた。
水の呼吸で極めた『柔』の流動と、僕本来の地属性による『変化』の魔力。その二つの相反する力を一振りの剣の中で融合させようとするが――刀身から猛烈な冷気が噴き出すものの、すぐにバチバチと魔力が反発し合い、安定しない。
「くそっ……まだまだだ、これじゃあうまく噛み合わない……!」
「苦戦しているようだな、ジャン」
腕を組んで見守っていた特級魔導士グリードが、呆れたように、だがアドバイスを送るように声をかけてきた。
「地の『剛(変化)』と、水の『柔(流動)』。全く異なる二つの概念を、一筋の魔力回路で同時に完璧に扱うなんてのは至難の業だ。右と左で全く別の事をするくらい難しいぞ」
「グリードには、そんな器用なこと出来るの?」
「……フッ、俺を誰だと思っている」
グリードは不敵に笑うと、右手に握った愛槍『グングニル』に地の魔力を込めて柄をグニャリと伸縮させ、同時に左手にはバチバチと強烈な雷光を纏わせてみせた。左右で全く異なる魔力操作を同時にこなしてみせたのだ。
「こういうことだろう?」
「うわぁ……やっぱり特級魔導士は規格外なのだ」
かたわらで見ていたプンが「あちゃちゃちゃ」と頭を抱えながら、熱いコーヒーの入ったカップに冷たい牛乳をドボドボと注ぎ入れた。
「熱すぎるなら、冷たいものを混ぜて常温(ちょうどいい塩梅)にすればいいのだ」
牛乳が黒いコーヒーに混ざり合い、綺麗なマイルドブラウンへと変わっていく様子を見た瞬間――僕の脳裏に雷が落ちたような衝撃が走った。
(そうか……! 混ぜ合わせるんじゃなくて、役割を分ければいいんだ!)
「……分かった! 分かったぞ!」
「何が分かったの!?」
グリードが驚く中、僕はオリジンソードから、かつて同化させた青い日輪刀をズバァッ!と引き抜いた。二本の刀を左右の手にそれぞれ構える。
右手のオリジンソードには、地属性の黄金のオーラを――強固で絶対的な『鋼』の剛剣。
左手の日輪刀には、水属性の深く青いオーラを――水のように流麗で、全てを凍てつかせる『氷』の柔剣。
「なるほどな! 同時に一つの剣で扱えないなら、左右の手に分けて『二刀流』として使えばいいってわけか!」
グリードがニヤリと口元を歪める。
「うん! 右手で敵の攻撃を鋼で受け止め、叩き潰す。左手で水の呼吸のしなやかさで攻撃をいなし、氷で凍らせる!」
強固な鋼の剛剣と、水のようにしなやかな呼吸法、そして全てを無に帰す氷の刃。
『地』と『水』、二つの相反する属性を両手に宿した新たな「二刀流」の境地に達し、僕は力強く頷いた。
「それじゃあ、行こう!」
結界の外へ打って出ようとするアリトン軍と、地下から地上へと立ち上がる僕たち。
アクエリアス王国の運命を賭けた決戦に向け、僕たちは地上への階段を駆け上がっていった。
その頃外では額の左側に傷がある男と金髪のおかっぱ頭の男と半裸のイノシシの被り物を被った男がいた。
地下街から地上へと繋がる長大な階段。その重厚な鉄扉の前に差しかかった時、背後から荒々しくも頼もしい足音が響き渡った。
「待ってくれ! 俺たちも一緒に戦わせてくれ!」
振り返ると、そこに立っていたのは三人の少年たちだった。
緑と黒の市松模様の羽織を纏い、背中に木箱を背負った赤髪の少年――竈門炭治郎。
黄色い羽織を着て、どこかおどおどと周囲を警戒している少年――我妻善逸。
そして、猪の頭骨をかぶり、二本のギザギザな日輪刀を構えた筋骨隆々の少年――嘴平伊之助。
「炭治郎! 善逸に、伊之助も……!」
日輪刀と同化した僕のオリジンソードを見て、炭治郎が柔らかな笑みを浮かべて頷いた。
「鱗滝さんから話は聞いたよ。君が『水の呼吸』を修得してくれたこと、そしてこの国の人たちを救うために立ち上がっていることもね。俺たちの全集中の呼吸が、少しでも君の力になるなら一緒に連れて行ってほしい!」
「えぇぇっ!? 待ってよ炭治郎、地上って雨が凄くて激しい戦いになってるんでしょ!? 俺また死んじゃうよぉぉっ!」
善逸が頭を抱えて泣き叫ぶが、その隣で伊之助がブフゥッ!と猪の鼻息を荒く吹き出した。
「猪突猛進ッ! 猪突猛進だぁぁッ! 水だろうが雨だろうが、俺様の『獣の呼吸』でまとめてブッタ斬ってやるぜ!! どっちが子分を多く倒せるか勝負だ、山小僧(ジャン)!!」
「ジャンです! でも……ありがとう、三人とも!」
炭治郎の圧倒的な「匂い」の察知能力と優しい熱意。
善逸の極限状態で発揮される『雷の呼吸』の神速。
そして伊之助の『獣の呼吸』による野生の直感と異次元の触覚。
地下街で僕が身につけた『水の呼吸』や『氷の剣術魔法』とも、間違いなく最高のシナジーを生むはずだ。
「心強い仲間が増えましたね、ジャンさん!」
ルリカが微笑み、セレナも扇子を優雅に揺らしながら頷く。
「ふふっ、賑やかになってよろしいですわね。地上で待つアリトンたちに、この地下街の底力を見せてやりましょう!」
「よし……みんな、行くぞ!」
僕が合図を出すと、重い鉄扉が解き放たれた。
激しい雨が降り注ぐ地上――そこには、結界を破ろうと待ち構えるアリトンと英霊たちの軍勢が姿を現し始めていた。
アクエリアス王国を奪還するための大決戦が、ついに幕を開ける!