地下街アトランティスでの過酷な特訓を終え、僕たちは重い鉄扉を押し開けて地上のアクエリアス王国へと飛び出した。
僕、プン、ルリカ、グリード。そして、この国を護るために立ち上がった王女・セレナさん。
さらに、我愛羅、ノエル、ルキア、炭治郎、善逸、伊之助、しのぶさんといった強力な仲間たちが、激しい雨の降る王都の石畳にしっかりと足を踏みしめた。
「俺達も行くぜ」
背後から頼もしい声が響く。ナルト、サスケ、サクラ、カカシ、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、シカマル、チョウジ、いの、アスマ。
さらにアスタ、ネロ、ミモザ、レオポルドといったクローバー王国の魔導士たちに加え、一護、織姫、茶渡、村田、義勇、夜一までもが、僕たちの反撃に呼応するように並び立つ。
「みんな……!」
かつてないほどの大所帯となったジャンプ連合軍。だが、敵側もすでにお出ましのようだ。
「……来たか、虫ケラども」
雨の向こう側から現れたのは、虚圏(ウェコムンド)の破面(エスパーダ)たち。
第9十刃アーロニーロ、第8十刃ザエルアポロ、第7十刃ゾマリ、そして第5十刃ノイトラ。
さらに鬼の陣営からは、上弦の肆・半天狗、上弦の伍・玉壺、そして上弦の陸・妓夫太郎と堕姫の兄妹。彼らに従う無数の悪の魔導士たちが、不気味な殺気を放って立ち塞がった。
そして、その凶悪な軍勢の最後尾。王城のバルコニーから、深くフードを被った男の静かで低い声が響き渡った。
『……始めろ。全てを蹂躙しろ』
その指示を合図に、十刃たちが一斉に刀を構え、自身の真の力を解放(帰刃)する。
「喰い尽くせ――『喰虚(グロトネリア)』!!」
異形の姿へと変貌するアーロニーロ。
「奴は、喰らった虚の記憶や経験すらも取り込み、自身の力にする能力を持っています!」
過去の因縁を断ち切るように、ルキアが純白の袖白雪を構えて真っ直ぐに飛び出した。
「啜れ――『邪淫妃(フォルニカラス)』!!」
不気味な触手を広げるマッドサイエンティスト、ザエルアポロ。
「キモい野郎だな。行くぞ、サクラ!」
「ええ、しゃーんなろーっ!!」
サスケが写輪眼を光らせて千鳥を構え、サクラが地面を砕くほどの剛腕を振るって突撃する。
「鎮まれ――『呪眼僧伽(ブルヘリア)』!!」
全身に無数の目を浮かび上がらせるゾマリ。
「うわああああっ! 目がいっぱいあるぅぅっ!」
「泣き喚いてないでさっさと行くよ、善逸!」
雷の呼吸で帯電する善逸と、神速(カンムル)を発動させたキルア。二人の超速の雷使いが、ゾマリの支配の目を掻き乱すように雷光となって駆けた。
「祈れ――『聖哭螳蜋(サンタテレサ)』!!」
六本の腕と巨大な鎌を生やしたノイトラが狂笑する。
「猪突猛進ッ! 腕が多いなら全部ブッタ斬るまでだぁぁッ!」
「……俺も行く」
獣の呼吸で荒々しく斬り込む伊之助と、巨大な悪魔の左腕(ブラソ・イスキエルダ・デル・ディアブロ)を顕現させた茶渡が、ノイトラの鋼皮(イエロ)へと真っ向から激突する。
「みんな、鬼の頸にも気をつけて! 半天狗は本体を斬らなきゃ死なない上に、本体はネズミみたいに凄く小さいんだ! それと妓夫太郎と堕姫は、二人同時のタイミングで首を斬らないと死なないよ!」
炭治郎の的確なアドバイスが戦場に響き渡り、仲間たちがそれぞれのアドバンテージを活かして敵陣へと散っていく。
乱戦の幕が開く中、フードの男の前に残ったのは、僕、セレナさん、ルリカ、そして一護の四人だけだった。
「……君達は、私の手で直接葬ってやろう」
男がゆっくりとフードを外す。そこに現れたのは、目を覆うようなバイザーを装着し、ドレッドヘアを後ろで束ねた死神――東仙要(とうせん・かなめ)だった。
「テメエ……東仙か!」一護が斬月を構えて睨みつける。
「封印、解除」
東仙が冷たく呟いた瞬間だった。
ズゴゴゴォォォッ!!
大地が激しく揺れ、アクエリアス王国を囲む海が真っ二つに割れた。海底から姿を現したのは、山ほどもあろうかという超巨大な『水蛇』の怪物だった。
「あれが……この国を支配する精霊獣、リヴァイアサンだ」
東仙の言葉に、僕たちは息を呑んだ。
その時だ。僕の腕にはめられたオレンジ色の『ブレイブリング』が、かつて我愛羅を喚び出した時以上の、強烈な冷たい輝きを放ち始めた。
空から絶え間なく降り注いでいたアクエリアス王国の冷たい雨が、フワリと真っ白な『雪』へと変わっていく。
そして、その雪が地面に触れた瞬間――カシャッ、と美しい『氷の華』となって咲き誇ったのだ。
「レジェンド英霊……君が」
吹き荒れる吹雪の中から、背中に氷の翼と尻尾を生やした、小柄な銀髪の少年が姿を現した。
「冬獅郎……!」一護が目を見張る。
「『日番谷隊長』だと言いたいところだが……まあ、今回俺を喚び出したのはお前だからな。俺は日番谷冬獅郎だ」
氷雪系最強の斬魄刀『氷輪丸』を携え、レジェンド英霊・日番谷冬獅郎が静かに僕を振り返った。
「お前がジャン・サンダルフォンか」
「はい!」
「……ここは俺に任せて、お前らは先に行け」
巨大な斬月を肩に担ぎ、一護が東仙とリヴァイアサンの前に立ちはだかった。
「一護!」
「サンダルフォン、こっちは任せて行くぞ」
冬獅郎の言葉に、僕は力強く頷いた。
「頼んだよ、ルリカ!」
背後で激突する一護と東仙の凄まじい霊圧を背に感じながら、僕、セレナさん、一護、そして日番谷冬獅郎の四人は、全ての元凶である六魔神・アリトンの待つ王城の最上階へと駆け出していった。
激しい雨と雪が入り交じる王城の最深部。玉座の間に踏み込んだ僕たちを、六魔神・水のアリトンが冷たい笑みで出迎えた。
「アリトン……ここで決着を付けよう」
僕が二刀流を構えて真っ直ぐに睨みつけると、アリトンは面白そうに目を細めた。
「まあ、前に見た時よりはずいぶん良い顔つきになったわね。どう? 惨めに死ぬくらいなら、私と手を組まない?」
「嫌だ」
「ふふっ、即答ね。勿体ないわ……なら、その強がりごと魅了して、美しく死なせてあげる」
アリトンが指を鳴らした瞬間、玉座の間に濃密な『霧』が立ち込めた。
「来るぞ、幻の魔法だ!」
「霧魔法――『鏡花水月』」
五感が全て濃霧に奪われ、上下左右の感覚すら失っていく。
この絶対的な幻惑空間の中に閉じ込めた上で、見えない死角から確殺の一撃を放つ。それが彼女の必殺のコンボだった。
「水魔法――『明鏡止水』」
背後から、命を刈り取る水の刃が迫る。
(見えない……! どこから来る!?)
曇りや汚れが一切ない明の斬
波のない静かな水のこと鏡の斬
心に邪念や迷いがなく止の斬
澄み切って落ち着いた穏やかな心境水の斬
四つの極致を束ねた、絶対不可避の必殺剣が僕達に迫った――その時だった。
死の刃が僕の首筋に触れる直前――時間が、ピタリと停止した。
周囲の霧が晴れ、僕はあの『異次元空間』に立っていた。
目の前には、腕を組み、不遜な笑みを浮かべて見下ろしてくる紫がかった灰色の髪の男。
「あーん? 俺様を呼び出すなんて、ずいぶん待ちくたびれたぜ」
「あなたは……!」
「いいか、よく聞け。俺様は歴代継承者その六、六代目のケイゴ・アトベだ」
男――アトベは、指をパチンと鳴らして優雅に言葉を続けた。
「霧とは、無いものを在るものとし、在るものを無いものとする下等なまやかしの幻影だ。そんなものに惑わされているようじゃ、まだまだだな。……俺様が身に付けたのは、真実を捉える『見る力』だ」
「見る力……」
「そうして極めた俺様の眼力(インサイト)の前には、相手の弱点も、魔術の仕組みすらも……全てスケスケだぜ!」
アトベが自信に満ちた鋭い視線を僕に向ける。
「お前のその眼に、俺様の眼力(インサイト)をくれてやる。それに呼応して目覚める、お前だけの『二振り』の剣……さあ、その名を呼んでみろ!」
「――神剣セルシウス!!」
現実世界。
止まっていた時間が動き出す。
僕の右手に握られたオリジンソードと、左手の日輪刀。その二振りが眩い冷気を放ち、一対の美しい氷の双剣『神剣セルシウス』へと姿を変えた。
「氷の呼吸、壱ノ型――」
僕の眼に、アトベから受け継いだ『眼力(インサイト)』が宿る。
周囲を覆い尽くす鏡花水月の霧。だが今の僕には、その幻影を形作る魔力の流れと、その奥に隠れたアリトンの『本当の本体』の位置が、はっきりと透けて見えていた。
「そこだッ!!」
「――『氷刃一閃(ひょうじんいっせん)』!!」
死角から放たれた明鏡止水の刃を弾き返し、氷柱のように鋭く澄み切った双剣の斬撃が、アリトンの肩口を深く斬り裂いた。
「くっ……!?」
血飛沫と共に後退するアリトン。驚愕に目を見開く彼女に、僕は言い放った。
「僕の眼力(インサイト)の前には、もう幻は効かないぞ」
「……そう。小癪な真似を」
アリトンは傷口を押さえながら、憎々しげに僕を睨みつけた。
「なら、幻など使わず直接その腕を壊してあげる。私は水属性の特性を活かした、三つの魔法を持っているのよ」
アリトンから尋常ではない冷気が放たれ、周囲の霧が白く凍てつき始めた。
「氷魔法――『アイスミスト』!!」
凍りついた霧が僕たちに襲いかかる。剣で払おうとした僕の右腕に、その霧が触れた瞬間だった。
「っ!? 腕が……!」
霧に触れた部分が急速に凍結し、手首から先の神経が完全に麻痺してしまった。握力を失い、右手のセルシウスが床に取り落とされそうになる。
「触れた対象の神経を凍らせ、鈍らせる氷の霧よ。これで剣は振れないわね」
アリトンがトドメを刺そうと踏み込んだ、その時。
「お任せあれですわ!!」
背後からセレナが飛び出し、僕の凍りついた腕に手をかざした。
パキィィンッ!
彼女の温かい水魔力が氷を砕き、麻痺した神経を一瞬にして除菌・治癒していく。
「セレナさん、ありがとう!」
「王族のサポート、舐めないでほしいですわ!」
そして、アリトンがセレナに気を取られたその一瞬の死角。
「テメエ、俺たちがいることを忘れるなよ」
「よそ見してんじゃねえぞ」
アリトンの背後に、死神代行・黒崎一護と、十番隊隊長・日番谷冬獅郎が音もなく回り込んでいた。
「月牙天衝(げつがてんしょう)!!」
「群鳥氷柱(ぐんちょうつらら)!!」
巨大な黒い斬撃と、無数の氷の刃が、背後からアリトンの体を同時に十文字に斬り裂いた。
――ズバァァァァンッ!!
「やったか!?」
一護が声を上げるが、斬り裂かれたアリトンの体から血は出なかった。
ガラガラと音を立てて崩れ落ちたのは、精巧に作られた『氷の彫像』だった。
「幻じゃねえようだな……!」
冬獅郎が警戒して周囲を見回す。
「ええ。水魔法の水分身を、さらに凍らせた『氷分身』よ」
玉座のさらに奥、無傷のアリトンが冷たい笑みを浮かべて立っていた。
「氷分身を見破ったくらいで、勝った気にならないことね。……私の本気、見せてあげるわ」
アリトンが両手を広げると、王城の玉座の間を埋め尽くすほどの莫大な水と冷気が渦を巻き始めた。
「氷の造形魔法――『アイスドラゴン』!」
咆哮と共に顕現したのは、純白の氷で形作られた巨大なドラゴンだった。
「あれは……グリードの造形魔法(武器)とは違う。自立して動く『生き物型』の造形魔法か!」
「ええ。でも、ただ形を作っただけじゃないわよ。消えなさい――『コキュートスブレス』!」
アイスドラゴンの大口から、絶対零度の氷と激流の水が混ざり合った、破壊的なブレスが放たれた。
「うわあああっ!」
僕たちは咄嗟に左右へ散開し、壁を蹴って回避する。だが、ブレスが直撃した床から凄まじい勢いで水が溢れ出し、それが瞬く間に広がりながら分厚い氷の床へと変わっていった。
ツルツルに凍りついた床面。だが、僕たちは誰一人として転倒することなく、その氷の上にピタリと着地して立ち上がった。
「魔導士ならこれくらい当然ですわね」
セレナが優雅に扇子を広げる。魔導士は足裏に魔力を集中させることで、忍者の『木登り』や『水面歩行』と同じように、どんな足場でも姿勢を制御して立つことができる。これは魔導士の基礎中の基礎だ。
「アリトン、あなたの相手はわたくしですわ!」
セレナが前に躍り出た。彼女の持つ『水』と『風』の複合属性が、極限の冷気となって竜巻を起こす。
「吹雪魔法――『フロストテンペスト』!!」
猛烈な氷の竜巻がアイスドラゴンごとアリトンを飲み込み、その広範囲の全てを一瞬にして凍結させた。
「くっ……生意気な王女が……!」
身動きを封じられ、アリトンが氷漬けになる。
「今ですわ、ジャン様!!」
「いくぞ!」
僕は二振りの神剣セルシウスを強く握りしめ、極限まで魔力を練り上げた。
アトベから授かった神剣と、水の呼吸、そして地の魔力。その全てを一太刀に込める、僕の究極の型。
「氷の呼吸 奥義――『氷皇絶界(ひょうおうぜっかい)』!!」
放たれた斬撃は、吹雪を纏う巨大な『氷龍』となって敵へ襲いかかった。
ズバァァァァァンッ!!
神剣の斬撃と氷龍の牙が、アイスドラゴンごとアリトンの体を完全に粉砕する。技が放たれた後の戦場は、まるで一瞬だけ白銀の氷原へと変わったかのような、美しくも幻想的な光景が広がっていた。
「私の……負けね……」
アリトンは生きたまま倒れているのを見逃す。玉座の間での死闘は、僕たちの勝利で幕を閉じた。
* * *
時を同じくして、外の戦場でも決着の時が訪れていた。
「これで終わりです! 雷魔法 奥義――『麒麟(きりん)』!!」
ルリカがサスケの力を借り、天に轟く巨大な雷の獣を落とした。
凄まじい落雷が巨大な精霊獣リヴァイアサンを脳天から貫き、完全に蒸発させる。
その瞬間だった。
王城の頂で、水の精霊『ウンディーネ』の印が眩く光り輝いた。
アクエリアス王国を覆っていた分厚い雨雲がみるみるうちに晴れ渡り……数年ぶりに、眩しい『太陽』が顔を出したのだ。
「ギャアアアアアッ!!」
「太陽だァァ!! 日光がァァッ!!」
太陽の光を浴びた瞬間、戦場にいた『鬼』たち――半天狗、玉壺、妓夫太郎、堕姫の体が激しく燃え上がり、灰となって消滅していく。
破面たちや敵の魔導士軍団も、形成不利と悟り、すぐさま撤退していった。
アクエリアス王国に、ウンディーネの加護が戻ったのだ。
* * *
「ジャン様!!」
結界が解け、地上へと戻ってきた僕に、セレナが真っ直ぐに駆け寄ってきて、そのまま思い切り抱きついてきた。
「えっ、ちょ、セレナさん!?」
「ジャン様……いいえ、わたくしの英雄(ヒーロー)様ですわ!」
満面の笑みで抱きつくセレナ。そこへ、少し遅れてルリカが駆けつけてきた。
「ジャンさん!」
「ルリカ! そっちも無事だったみたいだね」
「はい。……ジャンさんこそ、無事ですか? お怪我は……」
ルリカが心配そうに僕の腕を見る。前回の戦いで限界を超えてボロボロになったことを気にしているのだろう。
「うん、今回は『柔』の戦い方を覚えたから、全然大丈夫だよ」
僕が笑って答えると、ルリカは心底ホッとしたように胸を撫で下ろした。
「良かったです……本当に」
こうして、アクエリアス王国の戦いは、僕たちの完全勝利で幕を閉じた。
* * *
その日の夜。
復興の準備が進む街を見下ろしながら、僕が外の風に当たっていると、背後から足音が近づいてきた。
「ジャン様」
「セレナさん」
「セレナ、でいいですわ。……明日、この国を発ってしまうのですわね」
「うん。他の精霊たちも助けなきゃいけないし、やるべきことがたくさんあるからね」
セレナは少し俯いた後、決意を込めた瞳で僕を見上げた。
「わたくしも、同行しても構いませんか?」
「えっ? 僕は全然良いけど……アクエリアス王国のみんなや、お兄さんは何て言うかな」
「それなら心配無用ですわ。お兄様にも、騎士団の皆さまにも、もう許可は取りましたもの」
「そっか。それならいいんじゃない? これからよろしくね、セレナ」
僕が手を差し出すと、セレナはその手を取り――ふわりと膝を折り、僕の『手の甲』に静かに口付けを落とした。
「……ジャン様に、わたくしの生涯の忠誠を誓いますわ」
王族としての誇りと、一人の少女としての熱い想いが込められた、騎士のような美しい誓いだった。
* * *
翌朝。
ジャンプ号の前に集まったメンバーを見て、僕は思わず目を丸くした。
同行を決めた冬獅郎とセレナだけではない。
一護、ルキア、織姫、茶渡
アスタ、ノエル、ネロ、ミモザ、レオポルド
炭治郎、善逸、伊之助、義勇、しのぶ
さらに、頭脳役としてシカマルまでが、「めんどくせーけど、行くしかねえか」と首を掻きながらジャンプ号に乗り込んできたのだ。
(アクエリアス王国編 完)