僕の、フィーネさんによる新たな修行が始まった。
「ジャン。これからは君だけの『魔法』を身につけてもらう」
「はい!」
「まずは基本だ。魔力の使い方は分かっているな?」
「はい」
僕はいつものように、剣を握る腕にグッと魔力を込めた。青白いオーラが腕を包み込む。
「はい、そこまでだ」
フィーネさんの声で、僕は魔力をフッと解いた。腕を包んでいたオーラが霧散する。
「君はすでに『魔力の練り方』は分かっている。だが、実戦で魔力を出し続けるための秘訣は、気のコントロールと圧倒的な集中力だ」
そう言うと、フィーネさんは僕に一本の使い古されたスコップをポンと手渡した。
「これから君には、魔力を常に一定にコントロールしながら、あの巨大な岩に穴を掘り進めてもらう」
「……えっ、これでですか?」
「そうだ。さあ、始めろ」
僕は言われた通り全身に魔力を巡らせ、その力をスコップの先端へと集中させた。硬い岩肌にスコップを突き立てると、ゴリッという鈍い音と共に、岩がまるで粘土のように削れた。
(よし、いける……! でも、一体何時間やれば貫通するんだ……!?)
ひたすら岩を削り続けて数時間が経過した頃、岩陰で休んでいたプンがふいに飛び起きた。全身の毛が逆立っている。
「……英霊反応なのだ! ジャン、このまま掘り続けて向こう側へ行くのだ!」
「わかった!」
僕は残りの力を振り絞り、勢いよくスコップを突き立てた。ガコンッ!という音と共に岩壁が崩れ落ち、視界が開ける。気がつけば、すっかり日は落ちて夜になっていた。
「夜だ……。すごい時間がかかってたんだな」
息をつく僕の耳に、プンの声が届く。
「ジャン、あそこなのだ!」
視線の先には、四人の人影があった。
「どっちが英霊なんだい?」
「四人とも全員、英霊なのだ!」
見ると、巨大なモンスターの群れに囲まれているにも関わらず、先頭に立つ緑色の服を着た少年は全く怯えていなかった。少年は深く腰を落とし、右手に凄まじいオーラを集中させる。
「ジャジャン拳……グー!!」
少年の右拳がモンスターの巨体にめり込んだ瞬間、爆発的な衝撃波が吹き荒れた。殴られたモンスターは遥か彼方へと吹き飛び、恐れをなした残りのモンスターたちは一目散に逃げ出していった。
「す、すごい……」
僕たちが唖然としていると、少年が振り返って無邪気に笑った。
「君たち、この世界の人だよね? ここってグリードアイランドみたいなゲームの世界なの? お兄さんたちは?」
「僕はジャン・サンダルフォン。こっちは相棒のプン」
「僕ちんはプンなのだ!」
「俺はゴン=フリークス! よろしくね、ジャンさん」
「ジャンでいいよ、ゴン」
僕とゴンは固く握手を交わした。
ゴンの後ろから、銀髪の少年と、スーツ姿の青年、そして民族衣装を纏った金髪の少年が歩み寄ってくる。
「俺はキルア=ゾルディック」
「レオリオ=パラディナイトだ」
「クラピカだ。よろしく頼む」
挨拶もそこそこに、僕は気になっていたことを尋ねた。
「ところでゴン、さっき君が使っていた力は魔力なの?」
「ううん、違うよ。これは『念能力』だよ」
「念能力?」
「体から溢れ出す生命力をオーラにして、自在に使いこなす力のことなんだ」
(生命力のオーラ……なんか魔力に似ているな)
すると、後ろで聞いていたフィーネさんが口を開いた。
「ジャン、今度は私から質問だ。君はさっき彼らを『英霊』と呼んだな。それは一体どういうことだ?」
「あっ、そうか。まだフィーネさんたちには説明してませんでしたね」
僕はゴンたちに向き直った。
「実は、あなた達はこの世界の人間じゃないんです。異界の英雄たちの『記録』と『情報』を元に、この世界に具現化された存在なんですよ」
その言葉を聞いた瞬間、クラピカの目の色が僅かに変わった。
「……ならば、幻影旅団もこの世界に具現化している可能性があるということか」
クラピカは静かに踵を返した。
「ジャンと言ったな。私は旅団を探しに行く」
「おいおい、一人で行く気かよ!」
レオリオが慌ててクラピカの背中を追う。
「俺もクラピカについて行くぜ! どっちみち医大には戻れねえし、センリツもいねえ。俺がついててやらねえとな」
二人は足早に闇の中へと消えていった。
「ゴンとキルアはどうするの?」
僕が尋ねると、ゴンはニカッと笑った。
「俺はキルアと一緒に、ジャンたちについて行くよ! クラピカ、レオリオ、また会おうね!」
こうして、ゴンとキルアを『ジャンプ号』に連れ帰った。
「お帰りなさい、ジャンさん、プンさん」
出迎えてくれたルリカが、二人の少年を見て首を傾げる。
「その子たちは?」
「英霊なのだ!」プンが胸を張る。
フィーネさんが僕を見てニヤリと笑った。
「ジャン、貫通できたようだな」
「はい!」
「よし。それじゃあ明日からは、追加の基礎体力トレーニングだ」
翌日から地獄の特訓が始まった。
魔力を纏いながらのバーベルスクワット、巨大な岩運び、そして絶え間ないモンスター退治。
一週間後。
「それじゃあ、この一週間の成果を見せてくれ」
フィーネさんの合図で、僕は気を練り上げた。
「おおおぉぉっ!」
僕の全身から立ち上る魔力のオーラは、一週間前とは比べ物にならないほど分厚く、力強いものになっていた。
「よし、そこまでだ」
フィーネさんが頷く。
「君はすでに、高度な『魔法』を扱うだけの『器』が出来上がっている。ここからはいよいよ魔法の属性についてだ」
そこへ、ルリカが歩み出てきた。
「ルリカ、手本を頼む」
「はい」
ルリカはスッと剣を抜き放ち、左手にバチバチと青白い雷光を発生させた。
「千鳥!」
ルリカがその雷光を剣の刀身に這わせると、剣は強烈な雷を纏った魔剣へと変貌した。
「すごい……!」
「これから君には、魔力の放出と魔法のイメージ、その二つを同時に組み合わせて戦う術を学んでもらう」とフィーネさんが言う。
「なるほど。僕のオリジン流剣術に魔法を加えれば、すごい魔法剣士になれるってわけですね!」
「口で言うのは簡単だがな。それが容易にできるなら、皆そうしている」
フィーネさんは厳しく指摘した。
「それに、君はまだ自分の『属性』を分かっていないだろう」
「属性?」
「いいか。魔力には地・水・火・風・光・闇の六つの属性がある。これはこの世界を守護する六大精霊に由来する、魔法の絶対的な基礎だ」
「ふーん……」
「大抵の魔導士は、どれか一つの属性に特化した魔力を持っている。それぞれの属性による魔法のイメージはこうだ。
地なら『固体の変化』、水なら『液体の操作』、火なら『プラズマの放出』、風なら『気体の強化』、光なら『輝きの創造』、そして闇なら『影の破壊』となる」
「じゃあルリカは、自分自身の水属性と、うちはサスケの力による火属性(雷)の二つを持っていたってことですね!」
「私のことはルリカでいいですよ。同じ旅をする仲間ですし、私はほぼ非公式の王女ですから」
ルリカが少し照れたように微笑んだ。
「君の属性は未知数だ。これを使い、魔本で調べる」
フィーネさんが懐から一冊の古い本を取り出すと、表紙が淡く光り始めた。
「これは魔力に反応する特製の魔本だ。込められた魔力の属性によって色が変わる。地なら黄、水なら青、火なら赤、風なら緑、光なら金、闇なら紫だ。さあ、魔力を込めてみろ」
僕はゴクリと唾を飲み込み、魔本に手を触れて魔力を流し込んだ。
パァァッ……!
本は眩い『黄色』の光を放った。
「黄色……ということは」
「ああ。君の属性は『地』だ」
フィーネさんが告げる。
「地属性は、物質の硬化や軟化、地形の変化などを得意とする魔力属性だ。これからは、地属性の特性を活かした戦い方に専念してもらう」
「はい!」
その時だった。僕の腰にあるオリジンソードが激しく明滅し始めた。
「精霊反応だ!」
僕たちが反応のあった方角へ駆けつけると、そこには精霊を閉じ込めている忌まわしき器、『エレメンタルコア』が鎮座していた。
「あれを壊せばいいんだね」
剣を抜こうとした僕の横に、いつの間にかゴンとキルアが並んでいた。
「ゴンにキルア! ついてきたの?」
「だって、なんか面白そうだったからさ」とゴンが笑う。
ズシンッ……!
突然、地響きと共に巨大な影が現れた。背中に巨大な花を背負った、山のような大亀のモンスターだ。
「あれは『大花亀(おおはながめ)』なのだ!」
プンが叫ぶ。
「大花亀?」
「見た目通り、大花を背負った亀なのだ! しかも、あの花が撒き散らす痺れ粉を吸い込むと、二、三日は全く動けなくなる厄介なモンスターなのだ!」
大花亀が首を振り立て、周囲に黄色い粉を撒き散らそうとした、その瞬間。
「ふーん。でもさ」
キルアの姿がブレたかと思うと、一瞬にして大花亀の懐に潜り込んでいた。
「俺、そういう毒とか痺れとか、一切効かない体質だから」
ドグシャァァァッ!!
キルアの鋭い手刀が、大花亀の急所を的確に貫いた。巨体が音を立てて崩れ落ちる。
「……すげえ」
瞬殺劇に圧倒されながらも、僕はオリジンソードを振り上げ、エレメンタルコアを一刀両断にした。
パリンッ!と小気味良い音を立ててコアが砕け散ると、中から小さな砂の塊のような可愛らしい生き物が飛び出してきた。
「やった! これは砂の微精霊、『サンド』なのだ!」
嬉しそうに飛び回るサンドに向かって、僕は優しく声をかけた。
「もう悪い奴に捕まるなよ」
僕の『地』の魔法、そして頼もしい新たな仲間たち。
大精霊を救うための旅は、さらに熱を帯びていく。
(続く)