プンの魔力探知を頼りに、僕たちは再び過酷な砂漠地帯へと足を踏み入れていた。
「……おかしいのだ。ここでピタリと反応が途切れたのだ」
プンが立ち止まり、首を傾げながら周囲を見回したその時――。
「螺旋丸(らせんがん)!!」
突如、凄まじい轟音と共に青い光の球体が炸裂し、砂煙の中から巨大な魔物が吹き飛ばされてきた。
「あのう……」
僕が恐る恐る声をかけると、晴れていく砂埃の向こうから複数の人影が現れた。
「ん? お前達は誰だってばよ?」
先頭に立っていたのは、額当てをし、オレンジ色の服を着た金髪の少年だった。
「僕はジャン・サンダルフォンです」
「私はルリカ・マクスウェルです」
「僕ちんはプンなのだ!」
「俺はゴン!」
僕たちが名乗ると、金髪の少年もニッと人懐っこく笑って親指を立てた。
「俺はうずまきナルトだってばよ!」
「春野サクラです」
「僕はサイ」
「僕はヤマト」
「そして俺ははたけカカシ。このカカシ班のリーダーだ」
飄々とした態度で次々と名乗る彼らを見て、僕は少し驚いていた。
(この人たち、見知らぬ世界に飛ばされてきたはずなのに、全然戸惑っていないな……)
状況を冷静に受け止める様は、まさに歴戦の戦士といった風格だった。
僕はナルトたちに、ゴンや悠仁たちの時と同じように「ここが異界であること」「ナルトたちは英雄の記録から具現化された存在であること」を包み隠さず説明した。
「なるほどな……」
カカシが顎に手を当てて考え込む中、ナルトが勢いよく僕たちの前に歩み出た。
「そういうことなら、こいつがこの世界に具現化されてるか教えてくれ!」
ナルトが懐から取り出し、僕たちに見せた一枚の写真。
そこに写っていたのは、黒い髪を真ん中で分けた、鋭い目つきの少年だった。
「『サスケ』って言うんだ。俺の大切な友達で……ずっと探してるんだ」
その名前を聞いた瞬間、隣にいたルリカの肩がビクッと跳ねた。
「……それなら、たぶん彼は具現化されていないでしょう」
ルリカの静かな、しかし確信を持った声に、ナルトとサクラの表情がサッと変わる。
「どういうことなの!?」
サクラが一歩前に詰め寄った。
ルリカは静かに目を閉じ、そして――再び目を開いた時、彼女の瞳は赤く染まり、特異な文様を浮かび上がらせていた。
「っ!? その目は……写輪眼!」
カカシが驚愕の声を上げる。
「私は、異界の英雄の情報と記録を肉体に直接植え付けられた『実験台』なのです」
ルリカはナルトたちを真っ直ぐに見つめ返し、重い事実を口にした。
「そして、私の中に植え付けられている情報と記録こそが……彼、『うちはサスケ』のものだからです。器である私がここに存在している以上、彼自身がこの世界に具現化することはないと思います」
ルリカの言葉と、その瞳に浮かぶ紛れもないサスケの力を見つめ、ナルトとサクラが、ルリカの言葉と彼女の赤い瞳『写輪眼』を見つめ、息を呑んで立ち尽くした、その時だった。
ゾクッ……!
背筋を凍らせるような、途轍もない『殺気』が周囲の空気を圧迫した。
空気が重くなり、呼吸すら苦しくなるほどの濃密な魔力――いや、彼らの言葉でいう『チャクラ』の気配だ。
「な、なんだこのチャクラは……!?」
ナルトが油断なく身構え、クナイを構える。
視線の先、砂埃が完全に晴れた岩場の上に、一人の男が立っていた。
鋭い眼光。一切の感情を削ぎ落としたような、冷気を纏った佇まい。
「……サスケくん!?」
サクラが震える声で叫んだ。そこにいたのは、幻でも偽物でもない、『うちはサスケ』の姿だった。
「なぜ……! 私という器があるのに、どうして本物が……!?」
ルリカが自身の写輪眼を見開いて後ずさる。
サスケの冷酷な視線が、僕、正確には、僕の腕にある『ブレイブリング』へと真っ直ぐに向けられた。
「お前が、俺をこの世界に具現化させた張本人か」
「え……?」
突然の殺意を向けられ、僕は言葉に詰まる。
「ち、違う! 英霊は僕たち人間の意思だけで自由に具現化できるわけじゃない! それに、ルリカがいるのになんで君がここに……!?」
サスケは腰の『草薙の剣』にゆっくりと手をかけ、氷のように冷たい声で言い放った。
「兄さん――うちはイタチに汚名を着せた『木ノ葉』を潰す。それが俺の目的だ。だが、このふざけた異世界に木ノ葉はない」
チャキン、と冷たい金属音が砂漠に響く。
「復讐の対象を奪われ、俺をこんな牢獄のような世界に具現化したお前を……ここで殺す」
凄まじい殺意の波動が放たれる中、ルリカが僕の前に立ちはだかり、剣を構えた。
「あなたの悲しみは……私の中に宿る記録を通じて、分かっているつもりです。でも、ジャンさんを殺させるわけにはいきません!」
「ルリカ、ダメだ!」
サスケはルリカを冷たく見下ろした。
「……お前のその『偽物の写輪眼』で、これができるか?」
直後、サスケの瞳の文様が複雑な形へと変化した。――『万華鏡写輪眼』。
バチバチと紫色のチャクラが膨れ上がり、瞬く間に巨大な骸骨のようなオーラ――『須佐能乎(スサノオ)』が形成される。
圧倒的な力の差。ルリカが絶望に息を呑んだ瞬間、須佐能乎がフッと掻き消えた。
「っ!? 視界が……」
サスケが片目を押さえ、たたらを踏む。
その一瞬の隙だった。
「――千鳥!!」
背後から放たれた眩い雷光が、復讐鬼であるサスケの胸を無情にも貫いた。
「がはっ……」
「お前は、俺の過去の亡霊だ」
倒れ伏すサスケの背後に立っていたのは――もう一人の『うちはサスケ』だった。
左目は輪廻眼、右目は写輪眼。纏う空気も、先ほどのサスケとは全く異なり、静かで深い落ち着きがあった。
「え……? もしかして、あなたが本物のサスケくん!?」
サクラが信じられないといった様子で声を上げる。
「貴様……ッ」
地を這う過去のサスケに対し、本物のサスケは静かに見下ろして言った。
「受け止めてやる。お前の憎しみも、罪も」
その言葉と共に、復讐鬼の姿をしたサスケは光のデータの粒となり、本物のサスケの体の中へと吸い込まれるように消えていった。
「あの……あなたが、本当の『うちはサスケ』さんですか?」
ルリカが恐る恐る尋ねる。
「ああ」
短く答えるサスケを見て、ナルトが満面の笑みを浮かべた。
「へへっ……! これで第七班が揃ったってばよ!」
カカシもやれやれといった様子で肩の力を抜く。
サスケはナルトたちを一瞥した後、僕の方へと歩み寄ってきた。
「ジャン・サンダルフォンはお前だな」
「は、はい」
「俺は、お前にこれを渡してくれと頼まれただけだ」
そう言って、サスケは一枚の古びた羊皮紙を僕に手渡した。
「これは……王都への地図?」
「王都に向かい、『グリード・ユグドラシル』という男に会いに行け。話はそれからだ」
サスケが踵を返し、歩き出そうとする。
「待てよ、サスケ! お前、俺たちと一緒に行かないのか!?」
ナルトが慌てて引き止めるが、サスケは足を止めない。
「俺には、俺の探るべき役目がある」
「あのう! 私も、一緒に行くと言ったら……」
サクラが言ってもサスケは冷たく言い放った。
「お前は、俺のクエストには関係ない」
「ガーン……」
あまりの塩対応に、サクラが石像のように固まってしまう。
サスケは静かに立ち去ろうとしたが、すれ違いざま、サクラの前でふと立ち止まった。
そして、彼女の額をトン、と指で軽く小突く。
「……また今度な」
少しだけ優しい響きを含んだその言葉を残し、サスケは砂漠の風の中へと姿を消した。
(続く)