Be The ZENLESS Z:One / from ビルド ZEW WORLD 作:ZENIUS
──六分街近郊の共生ホロウ内。あり合わせの防護服に身を包んだ「ホロウレイダー」のグループが、夜のホロウ内を探索している。
大抵のホロウレイダーと言えば当てもなくホロウを巡り、とにかく行く先々で金目の物を探しては奪う、粗暴なならず者たちだ。
ただこのグループは明確に「探し物」をしているようで、持っている端末を見ながら、ある座標を目指してホロウを突き進んでいる。
時折「エーテリアス」が襲いかかって来るものの、この辺りにいるエーテリアスはあまりエーテル活性が高くなく、伴って雑魚ばかりだ。屈強なリーダーを中心とし、数人がかりで難なく迎撃して行っている。
「これで最後だぁーッ!!」
最後の一匹に飛びかかり、そのコアに自慢のナックルをぶつける。
コアが破壊されるとエーテリアスは膝から崩れ落ち、最後はボロボロに崩れて消える。それを見届けてから、リーダーの男は自慢げに子分らの方を向く。
「ハァンッ! どんなモンだッ!!」
ガッツポーズを取り、己の力量を誇示。
子分らはエーテリアスを倒すのに手間取っていたのか、ゼーゼー息を切らしていた。しかし「ほら褒めろ」と言わんばかりなリーダーに気付き、一人の部下がヘトヘトになりながらヨイショする。
「さ、さっすがリーダー! 割と苦戦している俺たちに構わずどんどん突き進んではそれなりのザコ倒した程度で勝手に大威張りの大天狗ッ! とても俺たちには出来ねぇッ!! そこに痺れる憧れるゥッ!!」
「ガッハッハッ!! そうだろォッ!?……なんかボロクソ言われた気がするが、まぁ良いかッ!!」
そんな調子のまま一行は指定された座標に到着。
そこは貨物電車とコンテナに囲まれた、広い車両基地。車幅が考慮されていない線路同士の間隔や、上を向いて静止している車両など、到底現実ではあり得ない光景が広がっている──まさに、「ホロウらしい景色」だ。
リーダーは端末をしまうと、子分らに命じた。
「依頼人はこの場所で『黒いカケラ』があるハズだと言っていた。よぉし……お前ら探せッ!! 見つけたら半月は遊んで暮らせる金が貰えるぞッ!!」
子分らは顔を見合わせてから、尋ねる。
「あのー……ホロウに入る前にも聞いたんスけどねぇ……その、『黒いカケラ』ってなんなんスか? エーテル結晶とは違うんスか?」
「俺だって詳しくは聞かされてねぇよッ!」
「大丈夫なんスかソレ……?」
「とにかくッ!!『黒いカケラ』だッ!! それっぽいモン見つけたらゴミでもなんでも回収しろッ!!」
「それやって全部違うって言われたらどうするんスか……?」
「もっぺんここに来りゃ良いだろッ!?」
「いやいや……ホロウってそんな、行って戻って来れるような場所じゃないんスけど……あぁ、もういいや……」
レイダーたちは手当たり次第、辺りを捜索する。線路の上、コンテナや車両の中、捻じ曲がった遮断機の裏……とにかくしらみ潰しに当たる。
途中子分の一人が、リーダーが腕輪にしている物に触れた。
「そう言えばリーダー……その腕に着けてるモンはなんなんスか? 来る時着けてましたっけ?」
すると彼は腕を出し、「それ」を見せ付ける。
「これかぁ? エーテリアスどもと戦っている時、その内の一体の腕に引っかかっていてなぁ。貴重品っぽいから取ってやったぜ!」
その腕輪は、とても複雑な装置に見えた。絡み合ったパイプ、小さな歯車、そして横に突き出たレバー。リーダーはそれをガシャガシャ回すが、なにも反応しない。
「まっ! 闇市に出しちまえば、知ってる奴が買うだろ!」
「しかしまぁ、それ……なんか、『ベルト』っぽくないっスか?」
「あ? ベルト? こんなごちゃごちゃしたベルトがあるかよッ! 腹に巻いて転んだら肋骨かどっかやっちまうじゃねぇかッ! 腕輪に決まってるッ!」
「うーん……まぁ、そう……なんスかね?」
それからリーダーは暇潰しなのか、ちょいちょいレバーを回していた。なかなか音が大きいので、エーテリアスが寄り付かないかと肝を冷やす……なのでこれとなしにリーダーから離れ、コンテナ横を探す事に決めた。
夜の闇が覆う線路沿いを、ライト片手に進む。
するとライトに照らされ、キラリと反射を見せた物がコンテナ下の影にあった。
「……ん?」
近付いてしゃがみ込み、拾う。
「……なんだこりゃ?」
それは派手な黄色と青の、ボトルのような形状の機械だった。
中心部は液晶のようで、なにか映るかと弄ってみるものの、うんともすんとも言わない。
「……誰かの音動機か? んでも壊れちまってんのかな……売れるかなぁ……」
とにかくそれっぽい物は拾っとけ、と言うのがホロウレイダーの鉄則。暇潰しにレバーを回すリーダーよろしく、上部のボタンをガシャガシャ押しながら立ち上がり、踵を返す。
「…………」
「うおぉっ!?」
間抜けな驚き声をあげる。先に行っていたと思っていたリーダーが、真後ろに立っていたからだ。
「び、びっくりしたじゃないッスか……そんなトコ立って、何してるんです?」
「…………」
話しかけても全く喋らない……あの黙る事を知らないリーダーが、と、強い違和感を抱いた。
ふと、彼の手に目を向ける。
最初は割れたガラスでも持っているのかと思っていたが、リーダーが持っていたのは間違いなく「黒いカケラ」と形容できるものだった。
「……あっ! そ、それなんスか、黒いカケラって!!……確かに黒い、カケラっスね……」
体格のあるリーダーは片手で握っているものの、自分ならば両腕で抱けるほどはあり、厚さも含めて想像していたよりも大きい。また表面には奇妙な模様が彫られており、形は迷路や電気回路を想起する。
どことなく古めかしさがあるので、富豪が落とした美術品だろうと見た。正直、貴重な鉱物の類を想像していた子分にとって、些か拍子抜けするような物だった。
とは言え、はっきり「黒いカケラ」と確信できる代物で良かった。あとはこれを依頼人に渡せば完了だ。
「そんじゃ、みんな呼んでとっとと帰りましょうや。まぁ、なんだかんだ楽な仕事っしたね?」
「…………」
相変わらずリーダーは喋らない。さっきまでと調子が違うのも、防護マスクで表情が見えないのも相乗して気味が悪い。
「……ちょっと、どうしちまったんすか? なんか俺、怒らせる事した──」
「……オ……レ、は……」
「……え?」
やっと聞こえたその声は、苦悶に震えたものだった。
合わせてリーダーの身体も震え出す。異様な雰囲気を悟った子分は、押されるように後退る。
「な、なんかのドッキリすか? り、リーダー、ホラー映画苦手なんすから、そんな無理して演技しなくても……」
「オレ……は……オ、レ、ハ……」
「もしかして『異化』?……い、いや、抗侵食剤はみんな飲んだし、まだホロウ入って二時間も経ってねぇからなるハズが……」
そう言えばリーダーの身体が、いつも以上に大きく見える。あのベルトみたいな物を巻いた腕も、みきみきと太くなって行く。
被っていたマスクが、ひび割れて取れた──こちらを睨む目が、黄色く光った。
「オレハ……ダレダッ、ケ……?」
リーダーの持つ黒いカケラから、「黄色いガス」が噴出する。
一瞬、持っていた「ボトルのような装置」が虹色に光ったが──子分は気付かず、黄色いガスの中でライト一緒に、それを手放してしまった。
──乱雑に家具や物が置かれた、手狭なリビング。
その中心に鎮座するくたびれたソファに腰掛け、リモコンのスイッチを押す……感度が悪いのか、六回押してやっとブラウン管テレビの電源が付いた。
チャンネルは二番、やっている番組は「グッドモーニングシネマ」。平日朝の忙しい時間に長編映画を流す、最高にロックな番組だ。
今朝の映画は、「おやつの家のインベーダー」。おやつの家に入ったら虫歯菌が攻めてくるコメディ映画だ。
レンジで温めていたハンバーガーを片手に、心地よい朝日を浴びながらの優雅な映画鑑賞。窓の外に
映画が始まり、ソファにぐっと埋まる。そして待っていたハンバーガーを、一口齧った──
「『アンビー』ッ!!」
自分を呼ぶ怒号に驚き、あまり味わえないまま飲み込んでしまった。ハトも飛び去る。
怒号の主はズカズカと「アンビー」に近寄ると、リモコンを引ったくった。
「なに勝手に抜け駆けしてくれてんのよっ!? 一日のリモコン権は朝のジャンケンで決めるって約束だったでしょうが!?」
そう言って八番の「めがまぶしーテレビ」に切り替える。チャンネルを変えられたアンビーは、じとりと睨む。
「……そう言う『ニコ』もちゃっかり、自分の観たい番組に変えてる」
「みんな起きるまでは社長特権よぉーん。文句があるなら社長になることねー」
「そんな決まりはない。みんなが起きるまで……厳密には『猫又』が起きるまでの一時間二十分のリモコン権は公平であるべきよ。つまり早い者勝ち」
「なにが公平よ! 朝一番早く起きんのは絶対あんたなんだから、実質あんたの独壇場じゃ──あはははははっ!!??」
アンビーはニコをくすぐって笑わせてからリモコンを取り戻し、観ていたチャンネルに戻す。
「う……この卑怯者ーっ!! と言うかこの映画もうビデオ出てるじゃないのっ!?『
「まだ準新作だからレンタル料が高い。『旧作以外は借りるな』って言ったのはニコよ」
「だからってこんな朝っぱらに観るモンでもないでしょうがっ!! 今日のめがまぶしーテレビは『
「そっちだって見逃し配信される」
「今観たいのよっ!!」
そんな不毛なリモコン争奪戦をしている二人だが、ここでもう一人参戦者が現れた。
「うおおおおおおおあぶねぇぇーーーーッ!!!!」
「うわぁ!?」
大声で叫びながら現れた「機械人」は、ニコからリモコンを奪うと、五チャンネルの「てつをの部屋」に変えた。
「危うく見逃すところだった……!! 今日のてつをの部屋、ゲストがモニカ様だったんだよぉお〜……ひゅーっ、あぶねぇ……」
「あぶねーじゃないわよ『ビリー』っ!!」
すぐにリモコンを取り戻してチャンネルを変える。一瞬見えた「モニカ様」の微笑みが消えた途端、ビリーから悲鳴があがった。
「ギャァァァァッ!!?? なんて事すんだッ!?!?」
「てつをの部屋なんてタダで見逃し配信見れるでしょうがっ!!」
「俺は今すぐ観たいんだッ!! ファンとしてッ! モニカ様の出演作とスターライトナイトはリアルタイムで観ねぇといけねぇんだよッ!! ネタバレ踏む前にッ!!」
「あんたのクソしょーもないこだわりなんて知らんわっ!!」
「自分だって今観たいって言ってたのに」
ぼやきと一緒にアンビーはリモコンを奪い、またチャンネルを変える。
「果報は寝て待て。待って得られるのなら、それに越した事はない。待つと言う事は、未来に希望を託すと言う事……私と違ってそれが出来る二人を、羨ましく思う」
「なに達観した事言ってんのよっ!? だったらあんたかて旧作になるまで待ちゃアいいじゃないのっ!!」
「俺は待てねぇッ!! 待ってられねぇッ!! 善は急げッ!! 鉄は熱いうちに打てッ!! あとは、えーっと……リモコンを渡せぇぇえーーーーッ!!!!」
三人がリモコンを取るたび、目まぐるしく画面が変わる。
二番、八番、五番、誰かの指が当たって六番、十番、一番……連続して画面を切り替えていたテレビだったが、突然そこにノイズが入り始める。
リモコンを掴む三人の指が、それぞれの観たいチャンネルの番号を押す。
するとテレビはブツン、とブラックアウトした。
「…………ん? んん?」
ニコが何度も電源ボタンを押すも、うんともすんとも言わない。
アンビーが立ち上がり、テレビ本体の電源スイッチを押すも、やはりなにも映さない。
数回テレビを叩き、それでも直らないことを確認すると、唖然としているニコとビリーの方へ振り返る。
「……壊れた」
直後、不機嫌な顔つきで少女がもう一人リビングに入って来る。その腕には緑色のボンプを抱いている。
「ふにゃぁあぁ〜……うるさいなぁ……一体なんの騒ぎで……」
寝ぼけ眼を擦った後、目に入って来たのは、真っ黒な画面を映すテレビの前で落ち込んでいる三人の姿だった。
──「
ホロウ内での探し物から逃げた飼い猫の捜索まで何でもこなす、新エリー都随一の「何でも屋」だ。
良い意味でも悪い意味でも有名なようで、「邪兎屋は信頼できる」と褒め称える者もあれば、「邪兎屋は絶対にやめとけ」とメタメタに貶す者もいるほど……若干、後者の方が多い気もするが、とにかく評判が両極端な会社だ。
社員は、社長の「ニコ」を始め、「アンビー」、「ビリー」、そして新入社員の「猫又」こと「
ストリートや郊外と言った、やや荒れた場所にルーツを持つ叩き上げの強者揃いであり、全員揃えば怖いものなし──そう掲げていたのだが、
「享年、二十年と半年……私たちが出会ってからは三年と二ヶ月だけど……良く持ち堪えてくれたわ」
「あぁ……俺は……おめぇを忘れねぇ……忘れねぇけど…………い、今なのかよぉぉぉおぉ〜……ッ!!」
そう言って、労わるようにテレビを撫でるアンビーとビリー。
最強の邪兎屋は、壊れたテレビの前で嘆き悲しんでいた。
「はぁー……なるほど。とうとうオシャカになっちゃったかぁ〜……まぁ、あたしは特に朝は観たいものないから良いんだけどねぇ……ふぁあ……二度寝しちゃお〜……」
「勝手に人の膝で寝るな」
ソファに座って項垂れていたニコの膝を膝枕しようとしていたので、猫宮のおでこを叩いてやめさせる。
「ニコのケチっ!」
「うっさい! はぁあ……でもちょっと……いや、だいぶ困ったわね……今晩の『金曜日のアップダウン』はどーしても観たいのよ……」
「俺も今晩やるモニカ様の新ドラマがあるのに……リアタイ出来ねぇ……!!」
テレビを抱きしめてオイオイと泣くビリー。傍らでアンビーがハンバーガーを食べながら、
「私も今晩の『サタデーナイトロードショー』は見逃せない。よって、新型テレビの購入を提案。もちろん、経費で」
「今月もう既にカツカツなのよ……修理に出すしかないわね〜……」
「でもこのテレビ、かなり古いから……恐らく、部品も貴重で高価なハズ。もはや買った方が安い」
「はぁあ……じゃあ、中古で小さいテレビしか買えないわよ……」
「小さい画面は見辛いし、音量含めて迫力も感じない。小口径の銃と一緒。映画好きにとっては致命的よ」
「テレビへの執着エグいわねあんた」
それはお互い様かと、ニコは溜め息吐く。
まとまった金が入るまでテレビはお預けかと、諦める他ない。がっくしと、肩を落とした。
すると、ニコの隣で毛繕いしていた猫宮が、なにかを思い出したように「あっ」と声をあげた。
「テレビだったら……あたし、テレビがめっちゃ安く売ってた店知ってるかもだぞ!」
「え? どんくらいよ」
「確か今のテレビぐらいの物で……二万ディニーだったような」
「やっっっす。え、そこどこ?」
猫宮の言葉に全員が食い付く。
「あたしもお散歩中にチラッと見ただけだぞー? 確か……八分街の路地で見たお店だったかなぁ?」
「なんて店なんだぁ?」
ビリーに聞かれ、コメカミを指で叩きながら思い出そうとする。
「お店の名前はぁ〜……────」
──八分街にある、とある小さな店。
店頭の看板を「Close」から「Open」へひっくり返す店主が一人。
「さーてとっ……今日も始めますか」
頭をガシガシと掻きながら、店内に戻る。
看板には店名が書かれていた。
『