「お買い上げ、あざっしたー」
フレンドリィショップでモンスターボールを5個購入した少年は外に出る。
時刻はもうすぐ夕方。
普通であれば泊まる場所を探すのが正解だと思われるが……。
(この後の展開的に野宿が正解だろーな。ロケット団に襲われたかねーよ)
原作ではムサシとコジロウ、ニャースがポケモンセンターを襲撃する話があった。
故にさっきのポケモンセンターに行く必要はない。
サトシが何を選んだのかも気になりはしたが、少年は面倒事に関わる気が無かった。
そのままトキワの森へ向かう。
モンスターボールでキャタピーを捕まえるためだ。
予定通り、捕獲要因の確保である。
(うわ……、薄暗ぇ。確かキャタピーってデケェ芋虫ってだけで、30センチくらいだったか? )
ポケモンの大きさは個体ごとに違うが、基準でいえば図鑑通りではある。
ただしオーキド博士から機械式の図鑑は貰っていないので、詳しい生態はこの場では確認できない。
少年は眉間にしわを寄せ、鋭い目つきで周囲を確認しながら、慎重に歩く。
そして虫ポケモンを発見したのだが……。
(チッ、ビードルかよ)
大きさがキャタピーと殆ど変わらない虫ポケモン、ビードル。
キャタピーとの違いは毒タイプでもあり、「どくばり」という技を覚えるという点、そして進化先の違いか。
それ以外はキャタピーもビードルも殆ど同じだ。
そんなビードルだが、暢気に落ちているきのみを食べている。
種類はオレンの実だろうか。
(よく見りゃ、そこらかしこにオレンの実が落ちてるな。モモンの実やクラボの実も落ちてはいるが、オレンと比べりゃ少ねぇ)
野生ポケモンのエサであり、HPを回復できて、ゲームではレア度が一番低い。
アルセウスか、それともゲームフリークかは知らないが、オレンの実が一番繁殖力が高いのだろう。
ミントと同じ、「勝手に生えてくる植物」である。
少年はビードルとの遭遇を避けるため、別の道を探すことに決めたようだ。
近くにスピアーの巣があるかもしれないので、下手に彼らの子どもであろうビードルに危害を加えるのは悪手である。
しかし別の道を選んだ時点で、少年は不運に見舞われる。
(クソが、一番遭いたくねぇヤツの姿を見ちまった……)
ねずみポケモン、ピカチュウ。
トキワの森で、低確率で出現する電気タイプのポケモン。
捕獲するにはある程度の根気を必要とするはずだが、何故かエンカウントしてしまった。
そんなピカチュウだが、周囲に敵意をまき散らしながらうなり声をあげている。
よく見れば、どうやらタマゴを守っているようだった。
(……フン)
気に入らないと言わんばかりに、少年はまた別の道を探すことにした。
そして三度目の正直、少年はキャタピーを見つけた。
草陰に隠れている様だが、赤い触覚が見えている時点でバレバレである。
オレンの実があちらこちらにあるせいで、餌で釣ることは不可能だろう。
最初のポケモンを貰わずにこの森へ入ること自体、無謀である。
少年の愚かさが招いたことだ。
とりあえず、笑顔を作ってキャタピーの前に出ることにした。
「そこの君、少しいいでしょうか? 」
「ピ、ピィ!? 」
少年はキャタピーに声をかけるが、どういうワケかキャタピーは全速力で逃げてしまった。
(何なんだよ、あの見た目で何で逃げ足が速えーんだ!? ……クソが!! )
全てのポケモンのゲームに言えることだが、野生のポケモンの逃げ足は異常だ。
あの超鈍足なラッキーでさえも逃げ足が異様に速い。
そして逃げられると、追いつけない。
「くろいまなざし」や「とおせんぼう」を使わなければ妨害も不可能。
一瞬、少年は追跡しようかと考えたようだが、止めた様だ。
目立ってしまうとヤバいポケモンに目をつけられる危険がある。
主にスピアーとか、ピカチュウとか。
仕方ないので、別のキャタピーを探すことにした。
それもなるべく、逃げ足の遅い個体を。
「だ、駄目だ! どいつもこいつも、逃げ足早えー!! 」
二時間かけてキャタピーを探し回ったが、全て逃げられてしまう。
たかが虫ポケモンだと思って
直ぐにボールを投げればいいんじゃないか、って話もある。
しかし少年が現在持っているモンスターボールは五個であり、使いきってしまえばボールの補充に出費が出てしまう。
故に少年は怖くて運任せの賭けに出れないのだ。
(ビードルで妥協するか? でもそれをやるとスピアーに襲われるんだよな……)
アニポケではトキワの森にスピアーが出没していた。
サトシのバタフリーが「ねむりごな」を使って彼らを眠らせるシーンがあったが、それはサトシだから上手くやれただけだ。
少年に対処できる術はない。
(ロケット団がやったように落とし穴でも掘るか? ……あいつらは三人だからやれただけで、一人だと体力を摩耗しちまうな)
確かに少年はスーパーマサラ人である。
まあだからといって無駄に体力を減らすような真似をしなかった。
それに穴を掘っていると目立ってしまい、野生のポケモンに襲われる可能性も出てくる。
落とし穴を造るということは、野生のポケモンたちにとって「自分たちの棲む場所を荒らしている」ことでもあるのだから。
(……仕方ない。トキワの森に拘る必要なんてねーんだ。コラッタやポッポを釣るためにきのみでも拾うことにするか)
少年の記憶が確かなら、1番道路にきのみは落ちていなかった。
ならばオレンの実を餌に野生のポケモンを懐柔できるかもしれない。
何か一匹ゲットさえできれば、キャタピーを捕まえることだってできるだろう。
少年は周囲に野生のポケモンがいないかどうかを確認し、きのみの採集を始めた。
少年がトキワシティに戻った頃にはもう夜中だった。
街灯は道を照らし、建物の窓から光が漏れている。
(ロケット団の襲撃は始まってんだろーな。関わりたくねーから、路地裏にでも行くか)
少年は
そこにはホームレスたちが不法に居住しているバラックがあった。
トキワシティの闇の一部だ。
サカキがジムリーダーをやっている時点でお察しだが、この街はロケット団の潜伏先の一つでもある。
そしてマフィアの影に隠れて金儲けをする闇金業者も悪さをしているのだ。
そんな彼らから金を借りた債務者に返済能力は無く、落ちぶれてホームレスと化すこともある。
日雇いの仕事で
まあそんな彼らだが、突如として行方不明になることが多々ある。
死んだら普通は死体が残るのだが、この街ではロケット団が死体回収を行っているのだ。
何故そんなことをしているのかといえば、サカキのイメージダウンを防ぐためである。
ポケモンリーグ協会から治安維持をジムリーダーたちは任されており、サカキはトキワシティ周辺の平和を守らなければならない立場にある。
マフィアのボスだからといって、自らの首を絞めるような真似はできればしたくないのだろう。
自らの信用を保つためにサカキは(警察を装った)部下にパトロールなどを命じているのだ。
まあだからといってトキワシティだけ「ロケット団の襲撃が無かった」なんてことになればリーグ協会から不審に思われるだろう。
故に定期的にそこそこ能力のある団員にトキワシティで悪事をやるように指示が出されている。
……ムサシとコジロウとニャースは運悪く、サトシに邪魔されたが。
トキワシティでホームレスの死体が発見されようものなら、サカキの信用は失われてしまう。
故に下っ端たちはやりたくもない死体回収をやっているのだ。
……そういう事情を、父親の書斎にあった文書から盗み見していた。
だから少年はトキワシティの闇を知っている。
少年は隠れられそうな場所に潜み、ホームレスの住んでるバラックを見張る。
まるで何かを待っているかのように。
……一時間が経過し、ようやく動きがあった。
(来た来たっ! ようやくカモが出てきやがった! )
バラックから「ボサボサ頭で不潔な恰好をしたホームレスの中年男」が現れる。
いかにも人生の落伍者といえるような恰好をしていて、とても惨めそうだ。
少年はカバンからゴム手袋とナイフを取り出す。
両手にゴム手袋を装着し、右手でナイフを握った。
ホームレスがどこかへ向かおうと、背中を無防備に晒したその瞬間、
「がっ……!? 」
少年はナイフを使って容赦なくホームレスを殺害した。
スーパーマサラ人の戦闘力を以てすれば、たかが中年男一人殺すことぐらい、朝飯前である。
当然、ホームレスは肺に深い傷を負って即死。
しかし少年は油断せず、ホームレスの喉を五回も刺しまくる。
死んだふりされるのが怖いからだ。
相手が確実に死んでいると思えるような状態じゃなきゃ安心できないのだろう。
ようやくホームレスが完全に死んでいるのを確認できたのか、少年は周囲を警戒しながら死体漁りに入る。
財布を確認し、金を抜き取る。
バラックの中に入り、何かの役に立ちそうなモノを探す。
案の定、未使用の傷薬が三個、毒消しが二個も見つかった。
(ふぅ。これだから死体漁りはやめらんねぇ! 南米のカルテル連中ぶっ殺した時も美味い汁吸えたし、トキワシティは治安終わってて素晴らしいな! )
少年の前世は本当にどうしようもないクズだった。
人を騙したり、殺したり、色々と好き勝手やっていた。
マサラタウンに居た頃はそういったことがロクにやれなかったため、ストレスが相当溜まっていた。
しかしトキワシティやタマムシシティのような、ロケット団のせいで治安が悪くなっている場所だと、少年は本性を露わにする。
本質は悪なのだ。
それもサカキたちロケット団とは別ベクトルで、非道なことがやれるタイプの。
(死体はロケット団が回収してくれるだろーし、俺は知らんぷりすればいいだけ! やっぱ十歳の子どもっていう立場は都合良いぜ! )
少年は悪魔のように嗤うと、次のターゲットを探す。
同じようなことを何回も繰り返した後、どこか隠れられそうな場所に避難した。
服を脱ぎ、カバンを開く。
己の身体に付着した死臭を消すべく美味しい水を取り出す。
ペットボトルの蓋を開け、中身の液体を己の身体に浴びせた。
だがこれではまだ死臭は取れないと思ったのか、オレンの実を握りつぶして己の身体と服に果汁を塗り付ける。
どこかで水浴びとかしなければ完全に死臭を取り除くことはできないだろうが……、それでも同じ人間であれば難なく誤魔化すことは可能だ。
まあ嗅覚に優れたポケモンには「こいつヤバい奴だ」って気づかれるが。
(確か22番道路には池があったはずだ。そこで水浴びでもしておくか)
……ちなみに、ロケット団の下っ端が殺されたホームレスの死体を回収することは無かった。
餓死や病死なら回収したかもしれないが、誰かに殺された死体には構いたくなかったのだろう。
知りもしない他人のケツを拭くような真似なんて、誰であってもやりたがらない。
つまり、普通に連続殺人事件として報道されることになる。
こうなればサカキは全力で犯人を探さなければならないだろう。
というか、未解決で終わったらサカキの信用は大暴落だ。
怠け者の部下がいるとトップが困ることになるのはよくあること。
ゲーム版では22番道路という名称がつけられていた場所。
ポケモンリーグへの道だと認識しているプレイヤーも多かっただろう。
しかし
別にニビシティからでもセキエイ高原に行くこと自体は可能だからだ。
そんな場所で少年は水浴びをしていた。
普通の人間であればこんな馬鹿げたことはやらないので、もし通行している人がいれば間違いなく白い眼で見ていただろう。
(さて、仕切り直しだ。大分スタートから出遅れたが、リーグまで時間はある。いくらでも取り戻せる。
この近くで捕まえられそうなポケモンはコラッタ、ポッポ、ニドランくらいか)
この辺りで一番捕まえやすいのはポッポだろうか。
争いを好まず大人しい性格なので、そんなには苦労しないだろう。
だがキャタピーのように臆病で逃げ足が速い可能性もありうる。
(まあポッポは狙わんが。罠張って捕まえるのはコラッタだな)
そのため少年は「つい先程入手したロープ」を使って罠を張ることにした。
古典的な罠だが、逃げようとしている標的を躓かせることで足を止められるのは大きい。
故に飛んでいるポッポではなく、地面を走れそうなコラッタを捕まえることにした様だ。
ちなみにニドランは除外した。
身体中に毒針を持っている相手なんて論外である。
罠の設置には三分も要らなかった。
落とし穴とは違って、ロープの先端を二ヶ所に結ぶのは「お手軽な行動」である。
それに不用意に姿を見せる時間も短いため、野生のポケモンたちから警戒される危険性は低い。
その後で野生のポケモンを探そうと少年は思ったのだが……。
(クソがッ、夜中だから眠ってるヤツばっかだ! しかも巣の中に群れてばかりだから迂闊に近寄れねぇ! )
弱いポケモンは互いを守るために群れで行動する場合が多い。
故に食事している時も、眠っている時も必ず集団の中。
単独で行動するヤツなんて、自然界ではとっくに淘汰される。
ここでチャンスだと思って不用意に捕まえようとすればバレる。
バトルによくあるような眠りの状態異常とは違って、自然体で眠っている場合は何かしらのショックで目を覚ましてしまうのだ。
ボールをぶつける音、ボールが機械音を鳴らす音を聞かせてしまうのも当然アウト。
一匹ゲットできたからといって、それで他の個体たちから一斉攻撃されようものならデットエンドである。
(……朝まで待つか)
思い通りにならないことなんて多々ある。
少年は溜め息を吐いた。
Q:何で人を殺すんだよ!?
A:「外道? 悪党? だからなに?」をお読み下さい。第一章の胸糞悪さと同じくらいです。
Q:まさか善良な一般市民に対しても殺ってないだろうな?
A:地球やポケモンの世界ではちゃんと相手は選んでます。
死んでも影響の出なさそうな人とか。
えっ、アランやミレーナといった騎士団連中?
解らんなァ、そんなこと。
Q:何でこんな奴が前世では
A:幸運。
あとその