翌朝、少年は一匹目の手持ちをゲットしようと行動中。
昨日の段階で罠は張っておいたので、余裕かと思われたが……。
「クソ、マジであいつら何なんだよ!? 罠張った意味ねーじゃん! 」
ロープの罠なんて無駄だと言わんばかりに跳躍を決め、コケること無く回避するコラッタ。
最初は特性の「にげあし」の効果かと思われたが、別の個体にも回避される始末。
十匹目の獲物にも罠を破られることでようやくロープが無意味に終わってしまったことを少年は悟る。
少年は知らなかったことだが、基本的にポケモンは「すなかけ」や「フラッシュ」で命中率を下げられない限りは、視力が人間よりも優れているのだ。
仕掛けたロープに引っかかって転ぶようなケースなんて事前に命中率を下げられたか、あるいはコダックやヤドン並みの間抜けくらいである。
コラッタに逃げられ、意気消沈する少年。
ニドランを捕まえようという勇気も無く、かといってポッポは翼があるので無意味。
(八方塞がりってか? 畜生が! )
彼は思わず地面を叩く。
最初のポケモンも貰わずに野生のポケモンを捕まえようということが如何に無謀か、これで解らない馬鹿はいない。
(もうこうなったらロケット団の連中からポケモンを盗むか? あいつらなら自分の手持ちを丁重に扱わねーだろうし、大切に扱えばそれなりに懐くだろ)
何気に最低なことを考えている。
窃盗行為も犯罪であり、バレれば当然逮捕されることは間違いない。
盗む過程でロケット団員を殺したら強盗になり、更に罪が重くなるだろう。
故に、少年は野生のポケモンを捕まえることを諦めてしまった。
何度も諦めずに努力すればいつかは叶う……、と誰もがそう思うのかもしれない。
まあ残念なことに、十歳の内にバッジ8個集められない奴が大成できるワケ無い。
成果出せない奴に未来なんて無いから。
どうやってロケット団からポケモンを盗むか。
そういうことを考えようとした少年だが、突如として背後から強力な一撃をお見舞いされる。
「ぶげらっ!? 」
油断し、地面を丸太のように転がり、そして倒れる。
そして誰が攻撃してきたのかを確認するべく、少年は顔をあげた。
(こいつ、マンキーか! )
ぶたざるポケモン、マンキー。
格闘タイプで、攻撃と素早さのステータスがそれなりにある。
進化すれば怒り狂って周囲に被害を及ぼすヤバいポケモンだ。
そんな少年と色々似ているマンキーだが、何故攻撃してきたのか。
まあ答えは単純、逃げたコラッタたちがマンキーの縄張りに侵入してきたからだ。
少年から逃げようと無我夢中に走ったコラッタたちだが、マンキーの縄張りに入ってしまったのだ。
悪気が無かったといえど、マンキーからしてみれば到底許せる存在ではない。
なのでコラッタたちはボコられ、そしてマンキーは元凶である少年をぶっ潰そうと思ったらしい。
しかしマンキーとて馬鹿正直にコラッタたちの証言を信じたワケではない。
なので確認のため、少年に「ほしがる」を使ったのだ。
まあ当たり前のことだが、今奪ったロープの残りを見て真っ黒だと判断。
マンキーは少年を「この場を荒らすヤツ」だと認識したのだ。
「キ、キィー!! 」
マンキーは少年に向かって「みだれひっかき」を繰り出す。
技の火力こそ低いものの、5回連続で攻撃できる効果がある。
1、2回は外れても、他が当たるかもしれないと考えれば連続攻撃技は有用だろう。
「う、ぐ、……調子乗んなぁ!! 」
しかし少年とてやられっぱなしではない。
マンキーの腕を強い握力で掴み、そのまま宙に放り投げたのだ。
程度の低い小物だが、それ故に逆上するのだ。
ましてや少年はスーパーマサラ人、年齢と体格に見合わない怪力の持ち主。
その気になればどんなに重いポケモンであっても持ち上げられるだろう。
投げ飛ばされたマンキーは地面へと墜落し、多大なダメージを受ける。
恐らくポケモンが使うであろう「やまあらし」とほぼ同じ行動かと思われる。
ただし少年のそれは格闘技の山嵐とは全く違うだろうが……。
思わぬダメージを受けてふらついているマンキーに対し、少年は急いでボールを投げた。
ここで逃げられてしまうと時間を無駄にする羽目になる。
その恐怖故の行動だろう。
……読者からしてみれば失敗して欲しかったゲットチャンスだが、マンキーの捕獲は成功してしまった。
捕獲率自体はピカチュウやメノクラゲと同じなので、弱らせて捕まえようとすれば高確率で捕まる。
漫画とかでよくある「ゲス野郎は何をやってもしくじる」という台詞は現実でも当てはまると思われがちだが、ロケット団がポケモンを捕まえられている時点で言葉通りにはならない。
機械と道徳は全く異なる理にあるのだから。
「はぁ……、はぁ……。やったぞ畜生! 」
少年は仰向けになって地面に転がる。
案の定、汗びっしょりで疲弊しているのは見えていた。
「中にいるマンキーがいうこと聞くかどうかは解んねぇが、やり方次第で他のポケモンも頑張れば捕まえられるはずだ! 」
捕まえたばかりのポケモンが言うこと聞かないというのはよくある話だ。
事実、プライドが高かったり、トレーナーがナメられてたりしていれば、命令を無視することは普通にありうる。
少年は一度呼吸と整え、心の準備ができてからボールを開く。
「キィー!! 」
やはり、マンキーは激怒していた。
少年に向かって「みだれひっかき」を繰り出そうとしている。
「遅せぇ!! 」
もう行動は見切ったと言わんばかりに少年は攻撃全てを防ぎ切った。
思わず動揺するマンキーに対し、少年はがなり立てる。
「ボールに捕まっている時点でオメーの負けなんだよ!! 大人しく従えや!! 」
まるでヤクザか借金取りの脅しだ。
まあ父親が闇金の斡旋業者だから似通っててもおかしくはないが……。
高圧的で喧嘩腰な態度にマンキーはビビったのか、思わず委縮してしまう。
技が通じなかったのもそうだが、ぶつけられた殺気がヤバかったのもある。
「まあ話を聞けや」
そう言って少年はどうしてここにいるのかをマンキーに説明した。
ポケモンを捕まえようとしてロープを張っていたこと、そしてコラッタたちに逃げられてしまったこと。
マンキーが何故怒っていたのかを考えながら、丁寧に説明した。
「キ、キィ……」
案の定、マンキーは「何やってんだコイツ」という目で少年を見ていた。
怒りよりも呆れが勝ったのだろう。
子ども一人で野生のポケモンを捕まえようしている時点で無謀過ぎる。
「そして、何故俺がポケモンを捕まえようと思ったのか。それはポケモンマスターという称号が欲しかったからだ」
「キィ? 」
「俺にとってのポケモンマスターとは、最強のトレーナーのことだ」
そういって、少年は最強のトレーナーになる手段について語る。
大会に参加しているトレーナーたちに勝ちまくり、歴史に名を刻む。
「誰もが一度はなってみたいって思うだろう? 最強という
「……」
「だからお前を捕まえたんだ。トレーナーになるためにはどうしても手持ちのポケモンがいる」
これから先、捕まえるであろうポケモンたちにも同じ説明をするだろう。
けれど一番最初の説明だけは、失敗など許されない。
少年は内心ヒヤヒヤとしながらマンキーの様子を見る。
「キキキ! 」
マンキーからの敵意は無い。
説得は成功した。
オレンの実でマンキーの体力を回復し、トキワシティへと戻った時だった。
道のあちらこちらに警察官が徘徊している。
恐らく少年がやらかした犯罪は明るみになったのだろう。
だがよく見れば、警察官の恰好をした偽者も混じっているのが解る。
ロケット団員だ。
モブキャラっぽい奴もいれば、ムサシとコジロウもいる。
(さてはサカキにどやされたか? )
トキワシティで犯罪が起こった時、ジムリーダーのサカキはそれを解決しなければならない立場にいる。
ロケット団がやらかした事件であっても、サカキが対処しなければならないことには変わりないのだ。
ムサシとコジロウ、ニャースはトキワシティで問題を起こしたから、ここで警察に協力せざる負えなくなったのだろう。
少年は舌打ちをし、ポケモンセンターのある場所へ移動する。
アニメ通りの展開になったのか、建物は全壊していた。
ピカチュウは居なかったはずだが、別のポケモンが何かやらかしたのだろう。
瓦礫の中で仕事をしているジョーイさんの姿がシュールに見える。
「あの、すみません。ここで何が起こったんですか? 」
「昨日の夜なんだけど、ここに君と同じ歳の男の子が来てね……」
どうやらサトシがここに来て、ロケット団と戦っていた様だ。
ジョーイの話によればヒトカゲを連れていたらしく、特性「もうか」による高火力の炎でロケット団を追い払ったのだとか。
技を受けたムサシとコジロウ、ニャースは「やなかんじー」したのだろう。
建物が崩壊したのは、ヒトカゲの火力によるものだろうか?
機械か何かに引火して爆発したとか、そういうことが起こったのだろうか?
事件に関わっていないので、少年には解らないことだが。
……この時点でオサムがフシギダネを選んだことに気づき、少年は顔をしかめる。
草タイプが最初のポケモンであれば、ニビジムとハナダジムは速攻で攻略される。
そして「どうせサトシはピカチュウを選ぶから、草タイプのフシギダネで対抗できる」とでも考えていたのだろう。
同時に少年は思う。
サトシにヒトカゲを選ばせて良かったと、ピカチュウを選ばせなくて良かったと。
そのお陰でオサムは苦境に立たされるのだ。
嫌がらせできて少年は満足していた。
「あの、今朝にマンキーを捕まえたのですが」
「申し訳ないけど、ここのポケモンセンターはしばらくは休業よ。必要な機材が壊れちゃったから、どうすることもできないわ」
「そうですか。すみません、無茶を言いました」
トキワシティのポケモンセンターがロケット団のせいで休業。
サカキの面目はこれ以上ないくらい潰れているのだろう。
「そういえば、君に頼みたいことがあるのだけど」
「……何でしょうか」
面倒事は避けたいと思っている少年だが、ジョーイからの心証を悪くするつもりは無いので、聞くだけ聞いてみることにした。
無理なら断ればいい、そんな気持ちで。
「あの黒いポケモン。あの騒ぎの後で突然居なくなっちゃって。心配だから探して欲しいの」
「野生のポケモンだから、棲み処に帰ったのではないでしょうか? 」
「トキワシティ近辺では見かけないポケモンだから、棲み処が無いのかもしれないわ。生態的に環境に適さない場合もあるから、放っておくのは危険よ」
少年は思わず舌打ちしたくなったが、何とか抑える。
正直な話、デルビルに関してはそこまで関わろうという気は無かった。
炎タイプのポケモンであれば、ヘルガーの上位互換になりそうなヤツは探せばいくらでもいるからだ。
ジョーイからの頼みで無ければ間違いなく断っていただろう。
「……解りました。ですが、あのポケモンの意志を尊重しますので、保護は難しいですよ? 」
「それで構わないわ」
治療を受けたとはいえ、体調は万全とはいえないはず。
ポケモンセンター跡地を出て、マサラタウンとトキワシティを繋ぐ場所(一番道路)に出る。
そこでボールからマンキーを出し、デルビルの特徴を伝えてから捜索を開始した。
(こんなにもトキワシティで足止めを受けるとか、冗談じゃねぇ! ……とっとと見つけて、逃がすかゲットするかはともかく、ジョーイに報告したら旅を再開するぞ)
心の中で愚痴をこぼしながら、デルビルが倒れていたであろう場所に向かう。
何故、そこの場所でデルビルが倒れていたのか。
少年には心辺りがあるからだ。
歩いてから数分、オニスズメの姿を確認する。
気性が荒く非常に攻撃的な性格で、間違っても不用意に攻撃をしかけてはならない相手だ。
仲間意識が強いので、怒らせたら群れの一斉攻撃を受ける危険がある。
このまま何も見なかったことにして通り過ぎようと思った。
しかし、当のオニスズメの様子がおかしいことに気づく。
オニスズメは戦っていた。
しかも相手はデルビルだった。
(マジかよ、関わりたくねーんだけど……! )
幸いなことにそこのオニスズメは単独で戦っていた。
どうやら近くに仲間は居なかった様だ。
大群を呼ばれることは無い。
少年は隣にいるマンキーの様子を見る。
逃げるか、乱入するか。
「キキッ」
逃げる気も横やりを入れる気も無いらしく、黙って彼らの戦いを見守るつもりのようだ。
常に怒っているイメージのあるマンキーだが、格闘タイプ特有の武人思考もあるのだろう。
最後までこの闘いを見守る気の様だった。
オニスズメの「つつく」とデルビルの「ひのこ」が飛び交う。
ルール無用の野良バトルは荒々しく、火力の強かったり、体力のある奴が勝利するのだろう。
まるで不良同士の殴り合いだ。
最終的にこのバトルを制したのはデルビルだ。
特殊攻撃力の強いポケモンが放つ「ひのこ」ならば、オニスズメを倒すことができるだろう。
しかし、オニスズメは卑劣だった。
なんと大声で仲間を呼ぼうとした!
「キキィー!! 」
……ブチ切れたマンキーによってその行動はキャンセルされ、オニスズメは気絶。
このマンキー、恥知らずな行動には激怒する性格だったようだ。
(ヤベェな。ホームレス狩りができねぇ……。やっぱりこいつを捕まえるのは失敗だったんじゃねーか? )
今更になって少年は後悔した。
やはり最初のポケモン選びは重要である。
Q:こんな苦労するなら、素直にオーキド博士から御三家貰っていれば良かったじゃん。
A:クロスオーバー先の作品読んだ限りだと、頭悪かったみたいだし、これでいいと思った。
少年も、心のどこかで「他人から貰ったポケモンなんていつか裏切る」って不信感持ってただろうし。
Q:サトシにピカチュウを取らせなかったくせに、ポケモンマスターの称号が欲しい?
何かのギャグか?
A:称号が欲しいだけだろう。
称号だけが。
苦労せずに楽して大金持ちになりたい、ってのと一緒。
現在ゲットしたポケモン
マンキー Lv.5