1998年7月、アメリカ、ラクーンシティ。
傭兵として成功し、名が売れていた俺は、この街の市長からの依頼でここを訪れていた。
市長が言うには、なんでも大事な一人娘にストーカーから脅迫状が届いたそうだ。
俺の仕事は娘(名前は・・・忘れた。面はいいが少々じゃじゃ馬)の護衛だった。退屈な仕事だが、金払いが良く、街が綺麗で観光名所だったため、休暇をかねてこの依頼を受けたのだ。
依頼は特にこれといった問題もなく、脅迫状を送ったストーカー野郎をとっ捕まえぶちのめして終わった。
まあ少々やりすぎたらしく(俺的には少し小突いたつもりだったが、前歯6本が吹き飛び顎を粉砕骨折してたらしい。おまわりさんドン引きしてた)危うく警察沙汰になりかけたが(ストーカー野郎にはいい薬だろう)、市長とその娘の口添えでなんとか事なきを得た。いやはや権力ってってやつは偉大だわな。
そんなこんなで仕事を終え(市長にえらく感謝された。ボーナスもたんまり。今後ともご贔屓に、旦那)、時間が余った俺は乗ってきたバイクで街を観光する事にした。
そうして数日間街を観光し、日頃の疲れを癒した俺は、泊まっているホテルの近くにあるBARに立ち寄っていた。歩いていけるので、最近よく行くお気に入りの場所だ。
落ち着いたいい雰囲気の店内に入り、カウンター席に腰掛ける。
羽織っていたジャケットのポケットからマルボロを取り出して火を点け、紫煙を燻らせながらマスターにお気に入りの銘柄のウイスキーを注文した。
「ジャック・ダニエルズ、ストレートで」
「あいよ」
しばらくゆったりとした時間を楽しみながら、備え付けのテレビをぼんやりと眺めていると、奇妙なニュースが流れてきた。
『速報です。今朝、ラクーン郊外に住むマッケンジー一家が他殺体で発見されました。先日のスミス一家と同じく、遺体には複数個所に人間の歯形がついており、ラクーン市警は同一犯達によるものの犯行と見て捜査をつづけています。なお、一連の『人喰い』事件は今月で3件目となり、市民からの強い要請をうけ、ラクーン特殊部隊「S.T.A.R.S」の介入も時間の問題と言われています』
嫌な事件だなおい。折角のリラックスタイムが台無しだぜ。
少し気になった俺はマスターに尋ねてみる。
「なあマスター、今流れてたニュースなんだが・・・・何事だ?」
「ああ、あの『人喰い』事件か。よく知らないところを見ると、あんた観光客かい?」
「まあそんなところだ。で?」
「ったく、物騒な事件だよ。街の郊外に住んでる一家がイカレた連中に食い殺されたんだ。最初の被害者は遺体の判別すら出来ないほどズタズタに食い荒らされてたって話だぜ」
「人が人を食うなんて、世も末だな」
「まったくだ。あんたも気をつけろよ」
「ああ。そうするよ。ところでスターズ、ってのは何なんだ?」
「ラクーン市警のエリート部隊様さ。まあ「S.T.A.R.S」が介入するならすぐ解決するさ」
「ふうん」
そんな単純な問題かね。とは思ったものの、口には出さずにウイスキーをあおる。
まあ、俺には関係ない話だな。そろそろ出るか。
「勘定だ。釣りはいらねえよ」
「まいど」
さてと、ホテルに戻って寝ますかね。
次の日の夕方、街を一回りしながらバイクを走らせていると、視界の隅にある店が映った。
『ケンド銃砲店』
「こんな所にガンショップがあったのか」
手持ちの弾薬はまだ余裕があるが、商売柄ありすぎて困るって事はない。いい機会だ、幸い今回の依頼で懐は潤っているし、まとめて買っておくのも悪くない。
道の脇にバイクを止め、店へ入る。
「じゃまするよ」
店の扉を開けると、ガタイのいい中年の男性客と恰幅のいい店主がカウンターに立っていた。
「おう、いらしゃい。ちょっと待っててくれや。先客がいるんでな」
そう言うと店主は、カウンターの下からアタッシュケースを取り出した。どうやら中年の客が銃のカスタマイズを頼んでいたらしい。
「ほら、おめえさんの注文どうりの品だぜ、バリー」
店主がアタッシュケースから取り出したのは、これでもかというほどにカスタマイズされた一丁の大口径リボルバーだった。バリーと呼ばれた男はそれを確かめるように手に取ると、様々な角度から眺めた後、満足げな顔でうなづいた。
「流石だなロバート。完璧な出来栄えだぜ」
「たりめーだ、俺の作品だぜ?」
どうやらこの店主、ロバート・ケンドというらしい。しかしなるほど、言うだけの事はある。
「へえ、44マグナムか。確かに見事だ」
小さい声で呟いたつもりだったが、
「おっ、わかるかい?」
どうやら聞こえていたらしい。バリーと呼ばれる男が振り向きながら話しかけてきた。
「ああ。銃身は特注のブルバレル、PPCスタイルのアンダーウェイトに強力なマグナム弾の使用に耐えられるノンフルートシリンダー。デザイン、性能バランス共にセンスがいい」
おっと、つい熱く語ってしまった。悪い癖だな。
バリーは驚いた(若干嬉しそうな)顔をしながら、
「ほう、一目見ただけでそこまでわかるたぁ、おめえさんも相当なマニアだな。ここら辺じゃ見かけん顔だが、観光客か?」
と聞いてくる。
「いや、市長に雇われた傭兵だ」
特に隠す必要も無いので、正直に答える。
「ああ、そういや市長が娘のストーカー退治にボディガードを他所から雇ったって聞いたな。あんたがそうかい?」
「ああ。退屈極まるじゃじゃ馬娘のお守りのために雇われたのさ」
「ハッハッハ、そいつはまた災難だったな。あの市長の親馬鹿っぷりは有名だぜ?」
まあ俺も人のことを言えんがな、と笑いながら言うバリー。
「あー、やっぱりか。しみったれたストーカー相手のボディガードに傭兵を雇うくらいだからなぁ。まあこっちは楽な仕事でぼろ儲けできたから文句はねえよ。観光もできたしな」
「そいつはなによりだ。しかしなるほど、傭兵か。それなら銃に詳しいのもうなずける。おおそうだ、自己紹介がまだだったな。俺はバリーだ。ラクーン市警「S.T.A.R.S」の隊員だ」
さっきマスターが言ってたエリート部隊か。まさかこんな所にいるとは。
「俺はサイモン。さっきも言ったが傭兵だ。よろしくな」
握手をかわす俺とバリー。
「そういやさっき、コイツを見てえらい熱く語ってたが、あんたも44口径が好きなのかい?」
「ああ。俺にも44口径の相棒がいるんでね」
腰にぶら下がったコルトSAAを見せる。父から受け継いだあの銃を、俺がカスタマイズしたものだ。
「こりゃまた、すげえ銃だな。もしよかったら詳しく見せてくれねえか?」
本当なら速攻で断ってる所だが、なぜかこの男は信用できる気がした。
「特別だぜ?ほらよ」
ホルスターごとバリーに渡してやる。
「ほう、こいつは・・・・コルトのSAAか!随分古い銃だがピカピカに手入れされてやがる。ノンフルートの強化シリンダーにステンレス製の延長バレル、握りやすいバーズヘッドのグリップか。細部にまで緻密に施されたエングレーブも美しい・・・・いやはや、見事な銃だ」
「だろ?こいつにゃ数え切れねぇほど命を救われてんだ。唯一無二の相棒さ」
「なるほどな。くぅーっ、やっぱり最高だよな!44口径ってやつはよ!」
感極まったように言うバリー。
「ああ!悪党どもに食らわす裁きの鉄槌!それこそが44口径ってやつよ!」
それに乗る俺。なんだろう、この男とはすごくいい友になれる気がする。
「おお!まだ若いのによく分かってるじゃねーか!気に入ったぜ!・・・そうだ!近くにいいBARがあるんだ!今からいかねえか?44口径について語ろうじゃねぇか!」
「いいね!その話乗ったぜ!」
いざ行かん!という所で、今まで完全に置いてけぼりだったケンドから待ったがかかった。
「おいおいおいおい、取り込み中の所悪いんだけどよ、バリー。俺の客をとらねぇでくれよ」
話に乗れず、少しふてくされたケンドが言ってきた。おっと、完全に忘れてたわ。
「おお、悪い悪い。久しぶりにお前以外で語れそうな奴だったもんでな」
ぜんぜんすまなさそうに見えない、とてもいい笑顔でバリーが詫びる
「ったく。それで、そっちの兄ちゃんはなにがほしいんだ?」
「ああ、つい話に夢中になっちまった。悪かったな。ええと、それじゃあ45ACPと44マグナム、357マグナムのホローポイントを300発、5.56NATOと9ミリ・パラのソフトポイント600発、ついでに12ゲージのダブルオー・バックとスラグ、ドラゴンブレスをそれぞれ200発ずつ買いたい。あ。あとコルトの1911A1とM4A1のマガジンも20個ずつほしい」
「・・・・おいおい、戦争でもおっぱじめる気かよ。本気か?」
「もちろん。金は現金で一括払いするぜ?」
「・・・・ちょっと待ってろ。いまもって来てやる」
そう言うと店の奥に消えるケンド。
・・・・そんなに引くか。バリーも唖然としてるし。
「・・・・なあサイモン、他人の事情に首を突っ込むのは悪いたぁ思うんだがよ、その剣幕の弾を一体何に使うんだ?本気で戦争でもするつもりか?」
流石にスルー出来なかったのか、おずおずとバリーが聞いてくる。
「まさか。ただの予備弾薬さ。俺みたいなフリーランスの傭兵は警察と違って弾薬の支給なんて無いからな。買える時に買っておくのさ。ニッポンのコトワザであるだろ?『備えあれば憂いなし』ってな。『転ばぬ先の杖』とも言えるな」
「・・・・コトワザとやらは知らんが、まあいい。くれぐれもソイツをこの街の中で使ってくれるなよ?俺も一応警察だが、お前さんを逮捕したくはねえ。いい奴そうだからな」
おっと、警戒させちまったかな?まあ、そりゃそうか。
「この街でモメ事を起こすつもりはさらさらねぇよ。安心しな」
相手がちょっかいかけてこない限りな。
「ならいいんだ。すまなかったな」
バリーが申し訳なさそうに言ってくる。
「いいさ。それも警察の仕事だからな」
「そういってくれると助かる」
そんな事を話してるうちに、店の奥からケンドが弾薬を詰め込んだバッグを台車に載せてやってきた。
「ほら兄ちゃん、注文の品だ。かなり重いぞ?バッグはサービスだ」
「おっ、悪いな。ほら、代金だ」
カウンターに代金を置き、バッグを受け取る。
「ひいふうみい、よし。ちょうどだな。毎度ありがとよ」
その後買い物を済ませた俺は、バリーに連れられて最近常連となりつつあるBARに来ていた。
しばらく44口径について熱い会話をかわしていた俺たちだったが、話が脱線し話題が例の『人食い』事件になっていた。
「しっかし嫌になる事件だぜ」
さっきまでの熱いテンションは何処へやら、忌々しげにバリーが吐き捨てた。今回の事件、この男には何か思う所があるのだろう。
「一家全員皆殺しにしやがった。その上『喰った』ときてる。しかも幼い子供までだぞ!・・・まったくどんなイカレ野郎だ!」
子供まで犠牲になってるとは・・・・それを聞いて自分の中に沸々と怒りがわいて来る。
「確かにひどい事件だよなぁ。外道の所業だ」
「ああ。それに街の連中の中には死んだ人間が生き返って人を喰いだした、なんて根も葉もねえうわさもたってやがる。まったく、ゾンビが出てくるホラームービーじゃねえんだぞ!」
ドン!とテーブルを叩きながら、怒りをあらわにするバリー。並外れて正義感が強いのだろう。
「ヘイヘイ!落ち着けって!確かに許しがたい事件だがここで暴れたって意味無いぜ!」
そう言って俺はバリーをなだめる。
「おお、すまねえ。つい熱くなっちまった。・・・俺にも妻と娘達がいてな。イカレたサイコ野郎がまだこの街にのさばってるかと思うと、居ても立ってもいられなくなるんだ」
「なるほどな」
家族を守るために戦う男か。カッコいいじゃねえの。
「まあ、今回やっとウチのボンクラ署長も重い腰を上げて俺達「S.T.A.R.S」の介入を決めたからな。速攻で解決してやるぜ」
バリーは鼻息荒く、やる気に燃えていた。
「無理はすんなよ?おおかたこの手の事件はヤクでハイになったカルト連中だろうさ」
「ああ、違いねえ」
「もし危なくなったら44口径の怒りの弾丸をぶち込んでやりな」
「ああ。新しい44口径の相棒で蹴散らしてやるぜ!」
結局、話は44口径に戻るのであった。
しかし今回の件、俺も手伝いたいが、下手に動けばバリー達の足を引っ張っちまうことになる。俺としてはそれだけは避けたい。
「・・・・そうだ!あんたにこいつをやるよ」
そう言って俺が取り出したのは、小さな衛星電話だった。
「こいつはなんだ?」
「最新の衛星電話さ。世界中何処に居たって繋がるぜ」
「おいおい、こりゃウチの警察所で使ってるものよりも上等なもんだぜ?何処で手に入れたんだ?」
驚きながらバリーが聞いてくる。まあ、うちの会社(フェニックス・コーポレーション)が作ったもんなんだが。
「傭兵の秘密道具って奴さ。出所は聞かんでくれ」
「・・・・まあいいさ。しかしほんとにいいのか?高価なもんだろうに」
「ああ、かまわねえ。それと俺の番号も入ってるからな。凄腕の傭兵が雇いたくなったらいつでも連絡をくれ」
「それじゃ、遠慮なくもらっておくぜ。ありがとな」
そう言うとバリーは電話をしまった。
「おっと、もうこんな時間か。早めに帰らねぇと、娘達におやすみのキスをしてもらえなくなっちまう。すまねえなサイモン、俺はそろそろ行くぜ」
いつの間にか結構な時間が過ぎてたらしい。バリーが時計を見ながらそんな事を言った。
「おうコラこの幸せもんが。独り身の俺に対するあてつけかコノヤロー」
こちとら恋人作る暇もねーんだぞコノヤロー!
「ハッハッハ、まだ若えんだ、そのうちいい女が見つかるさ」
「適当なこと言いやがって。俺もおやすみのキスをくれてやろうか、パパ?」
「悪かった悪かった、そいつは勘弁してくれ。それじゃあな」
「おう、しばらくはこの街にいるからな。なんかあったら連絡くれ。またな」
また飲みに行こうぜ、と言い残しバリーは帰っていった。もう少し飲んだら俺も帰るかね。
それから一週間、バリーとは釣りに行ったり飲みに行ったりした。
しかし別れはおとずれるもので、名残惜しいが俺はこの街を出ることにした。本業のほうもそろそろ再開しないといけないしな。
俺は荷物を纏めると、泊まっていたホテルをチェックアウトしバイクに跨る。
「さらばラクーンよ、私は旅立つ。なあんてな」
そうひとりごち、走り出す。また来よう、と心の中で呟きながら。
そうしてしばらく山道を走っていると、俺の衛星電話が鳴った。相手先は・・・・バリー?
「おう、俺だぜ。昨日あんな盛大な見送りをしてくれたってのに、もう寂しくなったのか?」
そう、昨日俺が去る事をバリーに伝えたら、彼はお別れのバーベキューとして家に招待してくれたのだ。まあ半分くらい嫁と娘自慢だったが、バリーの家族はマジでいい人たちだった。娘のモイラとポリーにやたらとなつかれたしな。
しかし電話の向こうから聞こえてきたのは、予想以上に深刻そうなバリーの声だった。
『いや、違うんだサイモン。聞いてくれ。真面目な話だ』
その声に尋常ではない何かを感じ、俺は表情を引き締めた。
「どうした、なにがあった」
『家族を・・・・俺の家族を助けてくれっ・・・・!』