JORMUNGAND:マージナル・チルドレン 作:たこ焼き 龍月
拠点に戻ったのは、日が落ちてからだった。
工業地区で子供を見つけ、それを見捨てるように引いてきた一日の疲れが、車の中の全員に重くのしかかっていた。誰も多くは喋らなかった。窓の外を灰色の街並みが流れていき、やがて首都の外れにある廃工場の一角へと車は滑り込んだ。
そこが、今の彼らの拠点だった。かつて何かを製造していたらしい大きな倉庫で、屋根の一部は抜け落ちていたが、それでも風と視線を遮るには十分だった。ココ隊とアラタ陣営は、この一時的な塒を分け合って使っていた。錆びた鉄骨が高い天井を支え、割れた窓から夜の空気が流れ込んでいた。かつては何十人もの工員が働いていたであろうその空間は、今は救い出された子供たちと、彼らを守る大人たちの、束の間の隠れ家になっていた。
車が止まると、倉庫の奥から小さな影が駆け寄ってきた。
ジブリールだった。
「アラタ」
彼女は車の扉が開くのを待ちきれないように名前を呼んだ。その声には、待っていた者だけが抱える緊張が滲んでいた。前回の潜入以来、彼女は待つことのつらさを覚えてしまっていて、今日もまた同じつらさを抱えて一日を過ごしていたのだった。
「ただいま」
アラタは車を降りながら、できるだけ穏やかに答えた。
ジブリールは彼の全身を素早く見た。怪我はないか、疲れきってはいないか、いつものように隅々まで確かめてから、ようやく少しだけ肩の力を抜いた。それから彼女は車の後ろに続くヨナや東條、サミルの姿を順に確認して、全員が無事に戻ったことを見届けた。
「みんな、無事なんだね」
「ああ」
ヨナが短く答えた。
「無事だ。今日は、誰も欠けてない」
その「今日は」という言葉が、ジブリールの耳に引っかかった。誰も欠けなかった。それはつまり、欠けてもおかしくない一日だったということでもあった。彼女は問いかけようとして、けれどアラタの疲れた横顔を見て、その問いを飲み込んだ。今は、まず休ませたい。話は後でいい。彼女は自分にそう言い聞かせた。
*
倉庫の中では、子供たちが不安そうな顔で待っていた。
白い学校や鉱山ターミナルから救い出された子供たちだった。ミラがその子たちの世話をしていて、ラシードが場を和ませようと軽口を叩いていたが、大人たちが戻るまでの時間、子供たちの表情はどこか強張っていた。彼らは待つことに慣れていない。正確には、待った先に誰かが戻ってくるという経験を、ほとんど持っていなかった。
だから、アラタたちが倉庫に入ってくると、子供たちの間に安堵のさざめきが広がった。
「アラタが帰ってきた」
誰かが小さく呟いた。その一言で、張り詰めていた空気がわずかに緩んだ。
アラタは、その子供たちの顔を一人ずつ見た。アイシャ、ラフィ、ノア、リナ、エミル、マリク。名前を取り戻した六人の子供たち。彼らは今、ここにいる。守られて、名前を呼ばれて、ここにいる。
だが、アラタの胸には、その安堵と同時に別の重さがあった。今日、工業地区に残してきた名前のない子供たちのことだった。ここにいる六人と同じように、あの場所にもまだ空欄の子供たちがいて、それを彼は救えずに引いてきた。ここにいる子供たちの無事な顔を見れば見るほど、あの場所に残してきた顔の見えない子供たちのことが、彼の中で重くなっていった。
「アラタ」
ミラが近づいてきた。彼女は救出された子供たちの中でも年長で、戦うよりも人を世話することに向いている少女だった。
「顔色、良くないよ」
彼女はまっすぐにそう言った。
「ちゃんと食べてる? 寝てる?」
「大丈夫だよ、ミラ」
アラタは微笑もうとしたが、その笑みはうまく形にならなかった。
「本当に?」
ミラは疑わしげに彼を見た。彼女には、大人が「大丈夫」と言う時の、その言葉が本当かどうかを見抜く目があった。世話をする側にいる者は、相手が無理をしているかどうかに敏感になる。ミラは、アラタが無理をしていることを見抜いていた。
「後で、何か食べさせるからね」
彼女はそう言って、それ以上は追及しなかった。追及しても、アラタが「大丈夫」以外の言葉を言わないことを、彼女は知っていた。だから今は、食事を用意することで彼を支えようとした。それが、ミラにできる支え方だった。
子供たちの中で、一人だけ、まだ首元に手をやる癖の抜けない子がいた。リアムだった。白い学校から救い出された時、彼の首には番号札がかかっていた。その札はとうに外されていたのに、リアムの手は今も無意識にそこへ伸びた。まるで、そこに何かがあることを確かめるように。
「リアム」
ミラが名前を呼ぶと、リアムはびくりと反応して、それから少し遅れて顔を上げた。名前を呼ばれることに、彼はまだ慣れていなかった。番号で呼ばれることには、体が即座に反応した。だが名前で呼ばれると、それが自分のことだと気づくまでに、わずかな間が必要だった。
「首、痛い?」
ミラが優しく聞いた。
「ううん」
リアムは首を横に振った。
「ただ、なんか、あるような気がして。札が。もうないのに」
「もう、ないよ」
ミラは言った。
「あなたは番号じゃない。リアムでしょう」
「うん」
リアムは頷いた。だが、その手はまだ首元に置かれたままだった。番号は、体から外しても、心からはなかなか外れない。ミラは、そのことを知っていた。だから、彼女は焦らなかった。何度でも名前を呼ぶ。そのうち、番号よりも名前の方が、彼の中に残る。ジブリールがそう言っていた。ミラも、それを信じていた。
*
その夜、倉庫の一角にココ隊とアラタ陣営の主要な者たちが集まった。
分かれていた二つの隊が、それぞれ持ち帰った情報を突き合わせるためだった。ココ、レーム、バルメ。アラタ、ヨナ、東條、ナディア。古びた木箱をテーブル代わりにして、その周りに彼らは腰を下ろした。
最初に口を開いたのは、ココだった。
「私の方から話すわ」
彼女は疲れを見せない、いつもの余裕のある口調で切り出した。だが、その内容は決して軽いものではなかった。
「首都の中心で会ったのは、企業の代表を名乗る男だった。でも、ただの企業家じゃなかった。いくつもの企業を束ねて、政府とも繋がってる。バベル・ルートの上層の一部よ。あの男は、それを認めたわ」
周りの者たちが静かに聞いていた。
「あの男は、私を内側に引き込もうとした。上層の物流網に加われば、記録が見える。塔を崩すための鍵に近づける。でも内側に入った時点で、私も子供を運ぶ網の一部になる。そういう餌だった」
「取ったのか」
レームが聞いた。彼は交渉の場には同席していなかったから、ココがどう答えたのか気にかけていた。
「まだ答えてない。考えさせてくれ、と言って出てきた」
ココは言った。
「でも、たぶん断るわ。共犯にはならない。昔の私なら取ってたでしょうけどね」
その言葉に、レームは何も言わなかった。ただ、この女が変わったことを、彼はまた確認しただけだった。利益があるなら取る。それがかつてのココだった。その彼女が、記録を諦めてでも共犯を拒もうとしている。
「あの男から、一つわかったことがある」
ココは続けた。
「バベル・ルートの上層が、どういう論理で動いてるか。あいつらは子供を資源と呼ぶ。従順で、コストが低くて、役に立つ資源。それを復興っていう綺麗な言葉で包んでる。子供を運ぶことを、正義みたいに語ってた」
その言葉に、ヨナの表情がわずかに動いた。
子供を資源と呼ぶ。従順で、コストが低い。それは、かつてヨナ自身がそう扱われた言葉だった。彼は膝の上で拳を握った。だが、何も言わなかった。今、口を開けば、抑えているものが溢れそうだった。
少し離れた場所で、レームと東條が短い言葉を交わしていた。二人とも軍を知る大人で、この種の話になると自然と声が低くなった。
「あんたの隊は、今日は引いたそうだな」
レームが言った。
「引きました」
東條が答えた。
「引かなければ全滅していた。あの包囲は、正面から抜けられる数じゃなかった。子供を餌にして待ち構えている。よくできた罠でしたよ」
「エリザ・クロウか」
「たぶん」
東條は頷いた。
「暴力で押してくるなら、まだやりようがある。だがあの女は、選ばせてくる。救うか退くか。こっちが一番選びたくないところを、そっと差し出してくる。厄介だ」
レームは、その言葉に静かに同意した。彼もまた、そういう敵を何人も見てきた。撃ち合いよりも、選ばせてくる敵の方が、ずっと骨が折れる。撃ち合いなら勝てばいい。だが選ばされる戦いには、勝っても必ず何かを失う。
「若いのは、こたえてるだろうな」
レームが、アラタの方をちらりと見て言った。
「アラタさんですか」
「ああ。子供を残して引くってのは、あの坊主には一番きつい選択だ。頭では正しいとわかってても、心が納得しない。ああいう男は、正しい判断ほど自分を責める」
東條は、その言葉に頷いた。彼もまた、同じことを感じていた。アラタは引くという正しい判断を下した。だが、その正しさが、彼を苦しめている。子供を残してきたという事実が、彼の中で消えずに残っている。
「見ててやれよ」
レームが言った。
「あの坊主は、放っておくと自分をすり減らす。ここのところ、その端末とやらを使い始めてから、余計に危うい。ああいう便利な道具は、使う奴の中身を少しずつ削る」
東條は、その言葉を静かに受け止めた。レームは古い軍人らしく、余計なことは言わなかった。だが、その短い言葉の中に、アラタを案じる確かな重さがあった。同じ戦場を知る大人として、レームは若い指揮官の危うさを、正確に見抜いていた。
*
「僕の方も話します」
アラタが口を開いた。
「工業地区の外れに、子供がいました。識別信号の通りに。東條さんとサミルが偵察して確かめてくれました。四、五人。本当にいたんです」
「餌だったんでしょう」
ココが静かに言った。
「はい」
アラタは頷いた。
「子供の周りを、部隊が囲んでました。待ち伏せです。子供を助けに入れば包囲される。そういう罠でした。今の戦力じゃ無理だと東條さんが判断して、一度引きました」
彼はそこで言葉を切った。引いた、という事実が、彼の中でまだ棘のように刺さっていた。子供がそこにいるとわかっていて、それでも引いた。順番を守るためとはいえ、その選択は彼を苦しめていた。
「賢明な判断だ」
東條が口を添えた。
「あの部隊の数を、今の戦力で正面から相手にするのは無理でした。突っ込めば全員がやられていた。子供も助けられなかった。引いたのは正しい」
「わかってます」
アラタは言った。
「でも、あの子たちを、まだあそこに残してるんです」
その言葉に、場が静まった。誰もが、その重さを分け合った。子供がそこにいる。だが救えなかった。それは、この一日で最も重い事実だった。
*
情報の突き合わせが続いた。
ナディアが端末を開き、二つの餌の情報を並べて解析していた。ココが掴んだ企業契約の話と、アラタが追った子供の居場所の話。その二つを照らし合わせることで、見えてくるものがあった。
「二つの餌の出所、たぶん同じです」
ナディアが言った。
「ココが会った企業の男と、私たちが追った識別信号。別々の場所から来たように見えますけど、たどっていくと同じ管理層に繋がってます。エリザ・クロウの手が回ってる管理層に」
「やっぱりね」
ココが言った。
「あの女が撒いた餌だってことは、わかってた。でも、こうして繋がりが見えると、逆に使える。餌の出所が同じなら、その出所をたどれば、上層の入口が見えるかもしれない」
ナディアは端末の画面を操作しながら頷いた。彼女の指先が、断片的な情報を一つずつ繋ぎ合わせていく。餌として撒かれた情報も、注意深く扱えば、逆にその発信源を教えてくれる。エリザは二人を分断するために餌を撒いたが、その餌そのものが、彼女の位置を少しだけ明かしてしまっていた。
「アラタ」
ナディアが顔を上げた。
「なに」
「イルミネーター、使えますか」
その言葉に、テーブルの空気がわずかに変わった。
イルミネーター。統合情報処理端末。アラタが鉱山ターミナルで手に入れた、部隊や車両や通信を一つの画面で管理する道具。それは彼の指揮能力を大きく広げる。だが同時に、彼が最も恐れている「人間を管理する側」に近づけてしまう危うさを持っていた。
「使えば、何が見える?」
アラタが聞いた。
「今、私たちが掴んでる情報を、全部一つの画面に載せられます」
ナディアは説明した。
「二つの餌の出所、識別信号の分布、部隊の配置、通信ノードの位置。今は別々の紙に書いてあるものを、一枚の地図に重ねられます。そうすれば、上層の入口がどこにあるのか、見えてくるかもしれません」
アラタは、しばらく黙っていた。
イルミネーターを使えば、この複雑な情報を整理できる。上層の入口が見えるかもしれない。子供たちを救うための道が見えるかもしれない。それは魅力的だった。あまりにも魅力的だった。
だが、彼はその魅力に、いつも警戒を覚えた。便利なものほど怖い。それが、彼がイルミネーターに対して抱き続けてきた感覚だった。
「……使おう」
アラタは言った。
「今の状況を整理する必要がある。イルミネーターを使えば、それができる。ただ」
彼は付け加えた。
「気をつけて見てて、ナディア。僕が、何か変なことを言い出したら。人間を点みたいに扱い始めたら。その時は、止めて」
「わかってます」
ナディアは頷いた。
「いつも通り、見てます」
*
イルミネーターの画面が、倉庫の暗がりの中で青白く光った。
アラタはその前に座り、ナディアが隣で操作を補助した。二人はこの数週間で、この端末の扱いに慣れてきていた。アラタが全体を見て判断し、ナディアが情報を入力し整理する。その役割分担が、いつのまにか自然なものになっていた。
画面の上に、首都ノヴァ・カラバルの地図が展開された。その上に、様々な情報が点として重ねられていく。二つの餌の出所。工業地区の識別信号。部隊の推定配置。通信ノードの位置。ナディアが一つずつ入力するたびに、地図の上に光の点が増えていった。
「見えてきた」
アラタが呟いた。
バラバラだった情報が、一枚の地図の上で繋がり始めていた。工業地区の子供たち。首都中心の企業。それらを結ぶ線。その線の交わるところに、上層の中枢がある。今まで霧の中にあった塔の構造が、少しずつ輪郭を現し始めていた。
「アラタ、これ」
ナディアが一点を指した。
「首都の北。ここに通信が集まってます。工業地区とも、首都中心とも繋がってる。ここが、たぶん」
「上層の入口だ」
アラタが後を継いだ。
二人は、その一点を見つめた。ずっと追ってきた塔の入口。名前のない子供たちが送られた先へと繋がる道。それが、今、画面の上に光っていた。
アラタは、その光を見つめながら、頭の中で作戦を組み始めていた。
あの入口へ、どう近づくか。工業地区の子供たちを、どう救い出すか。部隊をどう配置し、通信をどう繋ぎ、退路をどう確保するか。イルミネーターの画面の上で、彼の思考は驚くほど速く回っていた。今まで一つずつしか見られなかったものが、同時に見えていた。全体が、盤面として見えていた。
それは、恐ろしいほど心地よかった。
*
その様子を、ヨナが少し離れた場所から見ていた。
彼はアラタの背中を見ていた。イルミネーターの青白い光に照らされた、その背中を。アラタは今、画面に集中していた。指先が地図の上を素早く動き、口の中で何かを呟いている。作戦を組んでいるのだった。
ヨナは、その姿に、かすかな違和感を覚えた。
いつものアラタと、少し違う。いつものアラタは、もっと迷う。もっと立ち止まる。一つずつ、と言って、焦ることを自分に禁じる。だが今、画面に向かうアラタは、迷っていなかった。立ち止まっていなかった。滑らかに、速く、作戦を組み上げていた。
それが良いことなのか悪いことなのか、ヨナにはわからなかった。効率よく作戦を組めるのは、子供を救うためには良いことのはずだった。だが、その滑らかさが、ヨナには引っかかった。何かが、少しずつずれ始めている気がした。
「ヨナ」
隣に、いつのまにかジブリールが立っていた。彼女もまた、アラタの背中を見ていた。
「なんだ」
「アラタ、大丈夫かな」
ジブリールの声は小さかった。
「あの端末を使ってる時のアラタ、なんだか怖い。ううん、怖いっていうのは違う。うまく言えないけど。いつものアラタと、少し違う気がする」
ヨナは、その言葉に驚いた。ジブリールも、同じことを感じていた。アラタを誰よりも信じているジブリールが、そのアラタに違和感を覚えていた。それは、ヨナの感じた違和感が、気のせいではないことの証だった。
「ああ」
ヨナは短く答えた。
「俺も、同じことを思った」
二人は、アラタの背中を見ていた。青白い光に照らされた背中を。その背中は、いつもより頼もしく見えて、そして、いつもより遠く見えた。
ジブリールは、その背中をじっと見つめながら、口を開いた。
「私ね、アラタがいるから人間でいられるって、前に言ったの」
「覚えてる」
ヨナが答えた。
「あれ、本当なんだ」
ジブリールは静かに言った。
「私の村は、燃えたの。私は少年兵として売られて、オマルの下で銃を持たされた。ある日の戦いで、部隊はほとんど死んだ。私も死ぬはずだった」
彼女の声は淡々としていた。だが、その淡々とした響きの奥に、消えない何かが沈んでいた。
「でも、アラタの声が届いたの。無線の向こうから、私たちを一人ずつ動かして、生かした。あの日から、私はアラタをイヌワシって呼んでる。あの人がいたから、私は数字のまま死なずにすんだ」
彼女はそこで、少しだけ間を置いた。
「だから、アラタが変わっちゃうのが怖い。アラタが人間を点として見る側になったら、私を生かしてくれたあの声が、私を数える声に変わる気がする」
ヨナは、その言葉を静かに聞いていた。
ジブリールの恐れは、彼にはよくわかった。自分を数字から拾い上げた者が、いつか自分を数字に戻す者になること。それは、ジブリールにとって世界が反転することを意味した。自分を生かした声が、自分を消す声になる。それは、ただの心配ではなかった。もっと根の深い恐怖だった。
「あいつは、変わらない」
ヨナは言った。
「なんで、そう言えるの」
「さっき見てただろ」
ヨナは、アラタの背中を見たまま言った。
「あいつは、途中で手を止めた。点を見て、それが怖くなって、名前を入れさせた。変わりかけて、自分で気づいて、引き戻した。あいつはそういう男だ。変わりかけても、必ず自分で気づく」
ジブリールは、その言葉に少しだけ安心したようだった。だが、完全には安心しきれない様子だった。
「今回は、気づけた」
彼女は言った。
「でも、次も気づけるのかな」
その問いに、ヨナは答えられなかった。
それは、ナディアが抱いていた不安と同じだった。今回は気づけた。だが、次も気づけるとは限らない。イルミネーターは、人を点に変える。その変化は、少しずつ進む。気づかないうちに進む。今日は手綱を握れても、明日も握れる保証はどこにもなかった。
「だから、俺たちが見てる」
ヨナは言った。
「あいつが気づけない時は、俺たちが気づく。あいつが名前を忘れそうになったら、俺たちが名前を呼ぶ。それが、俺たちの役目だ。ココに頼まれた」
ジブリールは、その言葉に頷いた。
私たちが見てる。アラタが変わらないように。その役目は、彼女にとって初めての種類のものだった。今まで彼女は、アラタの護衛として、彼の背中を敵から守ってきた。だが今、彼女が守るのは、アラタの背中ではなかった。アラタが人間でいられるかどうか、その内側を彼女は見張ろうとしていた。銃を向けてくる敵からではなく、アラタ自身の内側から、彼女はアラタを守ろうとしていた。
「私も、見てる」
ジブリールは言った。
「アラタが番号を数える側にならないように。あの人が名前を忘れそうになったら、私が名前を呼ぶ。何度でも」
それは、銃を握るのとは違う守り方だった。だが彼女は、こちらの方がずっと難しいと感じていた。
*
イルミネーターの画面の中で、アラタは作戦を組み続けていた。
彼は今、複数の可能性を同時に検討していた。工業地区の子供を先に救うか、それとも首都北の入口を先に押さえるか。戦力をどう分けるか。ヨナをどこに置き、東條をどこに配し、サミルにどの役目を与えるか。画面の上で、彼はそれらを一つの盤面として動かしていた。
その時、彼はふと、自分の思考に気づいた。
彼は今、ヨナや東條やサミルを「配置する駒」として見ていた。どこに置けば効率が良いか。どこに動かせば作戦が成立するか。人ではなく、盤面の上の点として。
アラタの指が、止まった。
彼は画面を見た。そこには光の点がいくつも並んでいた。その一つ一つが、人間だった。ヨナ。東條。サミル。ナディア。そして、まだ会ったこともない工業地区の子供たち。名前のある者も、名前のない者も、画面の上では等しく光の点だった。
背筋に、冷たいものが走った。
これだ、とアラタは思った。これが、僕が恐れていたものだ。人間が点に見える。名前が消える。効率だけが残る。イルミネーターは、それをあまりにも簡単に、あまりにも心地よくやってのける。気づかないうちに、僕は人を駒として動かし始めていた。
「アラタ?」
ナディアが、彼の異変に気づいた。
「手が、止まってます。どうかしましたか」
アラタは、すぐには答えなかった。彼は画面を見つめたまま、深く息を吸った。それから、ゆっくりと口を開いた。
「ナディア」
「はい」
「今、この画面に映ってる点」
彼は静かに言った。
「一つずつ、名前を入れてくれないか」
ナディアは、その言葉の意味を一瞬で理解した。
「……はい」
彼女は端末を操作した。画面の上の光の点に、一つずつ名前が付けられていく。ヨナ。東條。サミル。ナディア自身。名前のある者には名前を。そして、工業地区の子供たちの点には、名前の代わりに空欄が置かれた。まだ名前がわからない、けれど確かにそこにいる子供たちの空欄が。
「これで、いい」
アラタは言った。その声には、かすかな安堵があった。
「点じゃない。名前だ。空欄も、消さないで残しておいて。番号じゃない。まだわからないだけの名前だ」
「はい」
ナディアは頷いた。
だが、彼女は気づいていた。アラタが今、一度、人を点として見てしまったことに。彼はそれに気づいて、慌てて名前を入れさせた。だが、気づけたのは今回だけかもしれない。次も気づけるとは限らない。イルミネーターは、それほどまでに簡単に、人を点に変えてしまう。ナディアは、そのことに静かな不安を覚えた。
それに、ナディアはもう一つのことにも気づいていた。
アラタが、疲れていた。ただの疲れではなかった。イルミネーターを使うたびに、彼は少しずつ何かをすり減らしていた。全体を見るということは、全体を背負うということでもあった。画面に映るすべての点、すべての名前、すべての空欄を、アラタは一人で背負おうとしていた。その重さが、彼を静かに削っていた。
ナディアは、彼の判断ログを見ていた。彼がどこで迷い、どこで決断したか。その記録が、端末に残されていた。それを見ると、アラタが一つ一つの判断に、どれだけの重さをかけているかがわかった。彼は、効率のために判断しているのではなかった。誰を救い、誰を後回しにするか。その一つ一つを、彼は苦しみながら選んでいた。
効率よく人を動かせる道具を持ちながら、アラタはそれを効率のためには使わなかった。むしろ、その道具を使うほど、彼は苦しんでいた。全体が見えるからこそ、救えない者も同時に見えてしまう。空欄の一つ一つが、彼の目の前に並ぶ。それを、彼は見捨てられない。だから、背負う。すべてを。
「アラタ」
ナディアが、静かに言った。
「なに」
「今日は、もう休んでください」
彼女の声には、いつもの実務的な響きの奥に、確かな気遣いがあった。
「端末は逃げません。子供たちも、今日はあの場所から動きません。あなたが倒れたら、誰も助けられない。だから、休んでください」
アラタは、その言葉に少しだけ笑った。
「ナディアに叱られると、休まなきゃいけない気がするな」
「叱ってません」
ナディアは言った。
「心配してます。あなたが一人で全部背負おうとするから。背負うのはいいです。でも、一度に全部は無理です。一つずつ、でしょう。あなたの口癖」
その言葉に、アラタははっとした。
一つずつ。それは彼が自分に言い聞かせてきた言葉だった。だが、イルミネーターを使い始めてから、彼はいつのまにか、その言葉を忘れかけていた。全体を見て、全体を背負おうとしていた。ナディアは、それを見抜いていて、彼にその言葉を返した。一つずつ、と。
「そうだね」
アラタは言った。
「一つずつ、だ。ありがとう、ナディア。少し、休むよ」
ナディアは頷いた。だが、彼女は知っていた。アラタが「休む」と言っても、本当に休むわけではないことを。彼はきっと、横になっても、あの空欄のことを考え続ける。それが、アラタという人間だった。全体を背負う癖は、休んでいる間も消えなかった。ナディアにできるのは、せめて彼を端末の前から離すことだけだった。
*
その夜遅く、ココはアラタの様子を見に、倉庫の一角へ来た。
アラタはイルミネーターの前に座ったまま、少し疲れた顔をしていた。ナディアは子供たちの様子を見に行っていて、その場にはアラタ一人だった。
「まだ起きてるの」
ココが声をかけた。
「ココさん」
アラタが顔を上げた。
「少しだけ。作戦を、整理してました」
「その端末で?」
ココはイルミネーターの画面を見た。そこには首都の地図が展開され、様々な点が並んでいた。名前の付いた点と、空欄の点が。
「便利そうね」
ココは言った。だが、その口調には、どこか探るような響きがあった。
「それがあれば、たくさんの人間を一度に動かせる。全体を見て、効率よく配置できる。指揮官には理想的な道具だわ」
「ええ」
アラタは頷いた。
「便利です。便利すぎるくらいに」
ココは、その言い方に、彼が抱えているものを感じ取った。彼女はアラタの隣に腰を下ろした。そして、しばらく画面を見ていた。
「ねえ、アラタ」
ココが言った。
「なんですか」
「あなた、その端末を使ってる時、少し変わるって知ってる?」
アラタは、その言葉にはっとした。ヨナも、ジブリールも、そしてココまでもが、同じことを感じていた。彼がイルミネーターを使う時、何かが変わることに。
「……はい」
アラタは、正直に答えた。
「さっき、気づきました。画面の上で、人を点みたいに見てました。ヨナも、東條さんも、子供たちも。全部、光の点として。どこに置けば効率がいいか、そんなことを考えてた。それが、怖くなって、名前を入れました」
ココは、その告白を静かに聞いていた。
「気づけて、良かったわね」
彼女は言った。
「でも、次も気づけるとは限らないわ。その端末は、あなたを強くする。でも同時に、あなたを、あなたが一番嫌いなものに近づける。子供を数で数える側に。番号で管理する側に」
その言葉は、アラタが自分自身に言い聞かせてきたことと、同じだった。だが、ココの口から言われると、それはより鋭く彼に刺さった。
「わかってます」
アラタは言った。
「わかってるんです。でも、使わなきゃ救えない。あの端末がなければ、今日みたいに情報を整理できない。上層の入口も見つけられなかった。子供を救うためには、あれを使うしかないんです」
「そうね」
ココは頷いた。
「そこが、この道具の一番たちの悪いところよ。使わなきゃ救えない。でも使えば、あなたが変わる。救うために、あなたが救う側の資格を失っていく。上手くできてるわ。誰が作ったのか知らないけど、悪意のある道具ね」
二人は、しばらく黙って画面を見ていた。青白い光が、二人の顔を照らしていた。地図の上に並ぶ、名前の点と空欄の点。それを救うための道具が、それを救う者を蝕んでいく。その矛盾を、二人は静かに見つめていた。
*
「アラタ」
しばらくして、ココが口を開いた。
「はい」
「一つ、言っておきたいことがあるの」
彼女の声は、いつになく真剣だった。アラタは顔を上げて彼女を見た。
「あなたは子供たちを救いたい。それは、わかってる。あなたの本気も、覚悟も、わかってる。でもね、アラタ」
ココは、まっすぐに彼を見た。
「世界は、あなたをそういうふうには見ない。あなたが子供を救おうとすればするほど、あなたは子供を上手く使う指揮官に見える。世界は、あなたを子供使いって呼ぶ。救う者としてじゃなく、使う者として」
アラタは、その言葉に何も言えなかった。
それは、彼が最も恐れていることだった。子供使い。その呼称は、彼を追い続けていた。彼は子供を救いたいだけなのに、外から見れば、子供を効率よく動かす指揮官でしかない。そして、イルミネーターを使えば使うほど、その姿は現実のものになっていく。
「反論、できないでしょう」
ココは静かに言った。
「はい」
アラタは、うつむいた。
「できません」
その一言に、彼のすべての苦しみが詰まっていた。反論できない。なぜなら、それは事実だからだった。彼は子供を使っている。救うためだとしても、使っていることに変わりはない。その事実から、彼は逃げられなかった。
「でもね」
ココの声が、少しだけ和らいだ。
「私は、あなたを使い潰す気はないの」
アラタは、顔を上げた。
「私はあなたを利用する。それは認めるわ。あなたは私にとって使える駒よ。バベル・ルートを崩すための。でも、使い潰しはしない。壊れるまで使うことはしない。それだけは、言っておく」
その言葉に、アラタは少しだけ救われた気がした。
ココは彼を利用すると認めた。だが、使い潰しはしないと言った。それは、彼女なりの気遣いだった。世界が彼を子供使いと呼び、道具として消費しようとする中で、ココだけは、彼を壊れるまで使うつもりはないと言ってくれた。
「ありがとうございます」
アラタは言った。
「変な礼ね」
ココは少しだけ笑った。
「利用するって言った相手に、礼を言うなんて」
「でも」
アラタは言った。
「使い潰さないって言ってくれる人は、ココさんが初めてです。世界はみんな、僕を使い潰そうとする。子供を使う道具として。壊れるまで使おうとする。だから、ありがとうございます」
ココは、その言葉に何も返さなかった。ただ、青白い画面の光を見ていた。その光の中に、彼女は自分がいつのまにか背負ってしまった何かを見ていた。この危うい青年を、使い潰さないという約束を。それは、かつての彼女なら決してしなかった約束だった。
*
その頃、倉庫の隅では、サミルが眠れずに座り込んでいた。
今日、彼は偵察に出た。東條と組んで、工業地区の様子を確かめた。子供がいることを見つけ、そして、その周りに部隊が待ち構えていることも見つけた。危険な役目だったが、彼はそれをやり遂げた。ヨナのように強くなりたい。その憧れが、彼をその役目へと向かわせていた。
だが、役目を終えた今、サミルの胸には別のものが残っていた。
子供を、残してきた。
あの建物の中に、子供がいた。自分と同じような子供が。それを助けられずに、引いてきた。順番を守るためだと東條は言った。それが正しいこともわかっていた。だが、あの場所に子供を残してきたという事実は、サミルの中で重かった。
ヨナが、そばに来た。
「眠れないのか」
ヨナが聞いた。
「うん」
サミルは頷いた。
「あの子たちのこと、考えてて。まだ、あそこにいるんだよね。僕たちが引いてきた場所に」
ヨナは、サミルの隣に腰を下ろした。しばらく、二人は何も言わなかった。倉庫の暗がりの中で、遠くにイルミネーターの青白い光だけが見えていた。
「俺も、残された側だった」
やがて、ヨナが言った。
「誰も、迎えに来なかった。ずっと、待ってた。でも、来なかった。だから、あの子たちの気持ちは、わかる。今、待ってるだろうな。誰か来ないかって」
サミルは、その言葉を静かに聞いていた。ヨナが自分の過去を語ることは、めったになかった。その少ない言葉の中に、サミルは、ヨナが今も抱えているものを感じ取った。
「でも」
ヨナは続けた。
「アラタは、戻るって言った。あいつは約束を破らない。だから、あの子たちは、俺と違う。迎えが来る。今日は無理でも、必ず来る。それだけは、違う」
その言葉に、サミルは少しだけ救われた気がした。
アラタは戻る。約束を破らない。それは、サミルにとっても信じられる言葉だった。彼はアラタに救われた側だった。だから、アラタが戻ると言うなら、それを信じられた。
「ヨナ」
サミルが言った。
「なに」
「僕、強くなりたい。もっと。あの子たちを、自分の手で助けられるくらいに」
ヨナは、その言葉に少しだけ間を置いた。
「強くなるのはいい」
彼は言った。
「でも、強くなる理由を、間違えるな。人を殺すために強くなるんじゃない。助けるために強くなるんだ。その理由を忘れたら、強さは、ただの武器になる」
サミルは、その言葉を胸に刻んだ。
助けるために強くなる。その理由を忘れない。それは、ヨナ自身が守り続けてきたことだった。ヨナは強かった。だが、その強さを、彼は決して、人を数として消すためには使わなかった。サミルは、そういうヨナになりたいと思った。
「ヨナは」
サミルが、ためらいがちに聞いた。
「戦うの、怖くないの」
ヨナは、少しの間、黙っていた。
「怖い」
彼は、やがて答えた。
「いつも怖い。慣れない。人を撃つのも、撃たれるのも、怖い。だが、怖いのは悪いことじゃない。怖いから、慎重になる。怖くなくなった時が、一番危ない。人を数だと思えるようになった時が、一番危ない」
サミルは、その言葉を静かに聞いていた。
怖いのは悪いことじゃない。それは、サミルが今まで聞いたことのない考え方だった。白い学校でも、鉱山ターミナルでも、大人たちは子供に「怖がるな」と教えた。恐怖を消せと教えた。だが、ヨナは違った。怖くていい。怖いことが、人を人のままにする。そう言っていた。
「怖いままで、いいんだ」
サミルが、確かめるように言った。
「ああ」
ヨナが答えた。
「怖いままで、いい。その怖さを、忘れるな。それが、お前を人間のままにする」
サミルは頷いた。その言葉は、彼の中に深く残った。強くなっても、怖さは捨てない。人を数だと思わない。それが、ヨナの強さの根にあるものだった。サミルは、その根ごと、ヨナのようになりたいと思った。
*
*
同じ夜、倉庫の入口近くで、バルメが見張りに立っていた。
今日、彼女はココと共に首都の中心へ行った。企業の男の綺麗な言葉と、その奥にある非情さを、間近で見てきた。子供を資源と呼ぶ男。それを復興という言葉で包む男。バルメは、その男のことを思い出すと、胸の奥で冷たいものが動くのを感じた。
彼女は、子供たちの眠る方へ視線を移した。アイシャ、ラフィ、ノア。名前を取り戻した子供たちが、身を寄せ合って眠っていた。あの男にとって、この子供たちは資源だった。数だった。だが、バルメの目の前で眠っているのは、数ではなかった。名前のある、一人ひとりの子供だった。
その差を、バルメは静かに噛みしめた。
同じ子供を、片方は資源と呼び、片方は名前で呼ぶ。その差が、この戦いのすべてだった。名前を奪う側と、名前を呼び戻す側。バルメは、自分がどちら側にいるのかを、改めて確かめた。彼女は、名前を呼ぶ側にいた。この子供たちを、数には戻させない。彼女は、そう思った。
やがて、レームが見張りの交代に来た。
「眠らないのか」
レームが聞いた。
「見張ってるだけよ」
バルメは言った。
「この子たちを。誰にも、数には戻させない」
レームは、その言葉に何も言わなかった。ただ、彼女の隣に腰を下ろして、同じように外の闇を見た。二人は、しばらく黙っていた。だが、その沈黙は気詰まりなものではなかった。同じものを守ろうとする者同士の、静かな沈黙だった。
*
ココが去った後、アラタは一人で画面の前に残った。
彼は、名前の点と空欄の点を見ていた。ココの言葉が、頭の中で反響していた。世界は、あなたを子供使いと呼ぶ。救う者としてじゃなく、使う者として。反論できないでしょう。できません。
アラタは、目を閉じた。
彼は、この道の先に何が待っているのかを考えた。イルミネーターを使い続ければ、彼はより多くの子供を救えるようになる。だが同時に、彼はより深く、子供を使う者になっていく。救うことと使うことが、彼の中で分かちがたく結びついていく。その先に、彼は自分が何になっているのか、想像できなかった。
目を開けると、画面の光がそこにあった。
空欄の点が、いくつも並んでいた。工業地区に残してきた子供たち。まだ名前のわからない子供たち。それを救うために、彼はこの道具を使う。使えば、彼は変わる。それでも、使わなければ、あの空欄は永遠に埋まらない。
「一つずつ」
アラタは、小さく呟いた。
それは、彼が自分に言い聞かせ続けてきた言葉だった。一つずつ。焦らず、順番を守って、一人ずつ救う。だが、イルミネーターは、その「一つずつ」を許さない道具だった。全体を、同時に、効率よく。それがイルミネーターの論理だった。
その論理に呑まれないために、彼は「一つずつ」という言葉にしがみついた。全体が見えても、一人ずつ数える。点に見えても、名前で呼ぶ。空欄も、消さずに残す。それが、彼がこの道具に呑まれないための、たった一つの手綱だった。
だが、その手綱が、いつまで保つのかは、わからなかった。
倉庫の外で、風が鳴っていた。首都のビルの灯りが、遠くで瞬いていた。その灯りの下に、塔はまだ聳えていた。名前のない子供を呑み込んだまま。アラタは、その塔に近づいていく。子供を救うために。そして、子供を使う者に、少しずつ近づきながら。