異世界転生したので森で隠居してたら、勇者と魔族の娘を拾った話   作:you are not

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登場人物たちの喋り方が定まらん!悲しいけれど、慣れしかないのよね


第2話「目覚め」

 目を覚ました時、最初に見えたのは見知らぬ天井だった。

 

「……生きてる?」

 首をわずかに曲げて目線を左端に向ければ、月明かりが窓から差し込んでいた。

 

 その青白い光だけが薄暗い部屋を照らしていて、外からは虫の奏でる音楽が聞こえる。

 

 その音にひかれ、ぼんやりとした意識のまま身体を起こそうとして。

「いたっ……」

 脇腹に鈍い痛みが走り、思わず両手で抱えてしまう。だが、不思議とそこまで痛くはない。さっきまで死にそうなほど痛かったというのに、今では少し不快に感じる程度に治っている。

 

 やがて痛みで歪んだ視界が晴れていく。

 

「ここ、どこ?」

 そのあたりで彼女はここが知らない場所だということに気が付いた。木材に四方を囲まれた部屋は、誰かが作った人工の匂いを感じさせる。

 

「起きたか」

「ひゃっ!?」

 突然聞こえた声に彼女は飛び上がり、足を滑らせ頭から転がり落ちる―――

 

「まだ完治したとは言えないらしい」

 ―――その前に、声をかけた主が彼女の肩を抱え、受け止めてベットの上に戻してくれた。

 

「ご、ごめんなさい!」

 反射的に謝ってしまう。言った後で何に謝ったのか自分でも分からない。

 

「大丈夫だ、謝るほどのことじゃない」

 少年は目を細めた後、首を横に小さく振る。

 

「……はい」

 それだけ言うと、彼女は口を閉ざしてしまう。

 

 気まずい沈黙が部屋に満ちる。

 

 リリアはその痛いまでの沈黙に視線を彷徨わせ、なにやら手をバタバタさせてしまう。

 

「ぷっ」

「えっ、なに」

「いや、慌てすぎだと思ってな」

 沈黙を破ったのは少年のほうだった。少年はわずかに口元を緩めた。

 

「無理に話そうとしなくていい」

 そう言うと、小さく息を吐いた。

 

「水飲むかい?」

「あっ、うん。欲しい」

 喉が渇いていることに気づいた彼女はこくりと頷く。

 

 少年は机の上に置いてあった水差しでコップに注ぎ、手渡してきた。

 

「ほら」

「ありがとう」

 夢中で飲むと、冷たい水だった。その冷たさが、乾きながらも火照った体にはちょうど良かった。

 

「落ち着いたか」

「うん……あの」

「どうした」

 また沈黙になる前に、今度は少女の方から口を開く。

 

「助けてくれたの?」

「嗚呼、今朝行き倒れてたところを見つけてな」

「なんで?」

「……たぶん、お前が助けてって言ったからだろ」

 少年は困った顔をする。

 

 その様子がおかしくて、彼女は少しだけ笑い、少年も小さく肩をすくめた。

 

「俺はカイン。名前は?」

「リリア」

「そうか、よろしくな。リリア」

 

「それで」

 カインは近くにあった椅子を引き寄せ、体の前部を背もたれによせて座る。

 

「お前は何者なんだ?」

「えっ?」

「あんなにボロボロになって、普通の迷子とは思えん」

 そう言われてリリアは目をそらして、手首を強く握った。

 

「わたしは、その……」

 

 冷たい石の床、鉄格子、飛んでくる嫌悪の声。

 

 そして、逃げろと叫んだ母の声。

 

「教会の人たちに」

 

 ―――ぐぅぅぅぅぅ。

 

 突如として、部屋に盛大な音が響いた。

 

「う、うぅ……」

 リリアは顔がさくらんぼのように真っ赤になるのを感じ、手で顔を覆ってしまう。

 

「無理もない」

「ち、違う」

「半日ずっと寝てたんだ」

「うぅ……」

 否定できないことよりも、優しく擁護されることが恥ずかしくなり、リリアは何も言えなかった。

 

「だが、よかった。多めに作っておいた夕食を処分せずに済む」

「え?」

「食うか?」

 カインは肩をすくめる。

「どうせ俺一人じゃ食い切れん」

 

 リリアは数回瞬きをして―――

 

「……食べる」

 小さく呟く。

 

 正直な話をすれば、お腹は空いていた。それはもう、お腹と背中がくっつきそうなくらいには。

 

「なら一階へ行くぞ」

 カインは立ち上がると、先に部屋を出て行く。

 

「待って、足早い」

 リリアは慌てて後を追った。

 

 一段、また一段と降りていき、やがて一階へ辿り着く。

 

「少し待ってろ」

 カインは指を鳴らし、炉に火を入れる。

 

 

「わぁ……」

 少しして、リリアは感嘆の声を上げた。

 

 リリアが座る木製の机の上には、ごちそうが並べられていた。

 

 野菜がたっぷり入ったスープ、小さく刻まれた鶏肉、焼き立てのパン。それに白いチーズまで。

 

「こ、これ全部食べていいの!?」

 リリアはごくりと唾を飲み込む。

「ああ、しっかり食――」

「いただきます!」

 言い終わる前に、リリアは飛び込むようにフォークを手に料理たちにかぶりついた。

 

「おいしい……」

 スープを口へ運ぶと暖かかった。塩気の中に野菜の甘味が溶け出し、肉の旨味と調和している。

 

「そうか、おかわりもあるぞ」

「お願いします!」

「お前、本当に病み上がりか?」

 カインは山羊乳をコップに注ぎながら食事をするリリアを眺めていたが、気づいたら皿が空になるという怪奇現象を目の当たりにした。

 

「……あれ?」

 皿の上にまた料理を盛りつけ、口に運んだ時だった。リリアの頬から熱いものが流れていた。

 

 自分の頬に手を当てると濡れていた。まぎれもなく、涙だった。

 

「なんで、どうしてだろ?」

 手の内で何度もぬぐうけれど、涙は枯れなかった。

 

 ずっと、ずっと怖かったのだ。苦しかった。痛かった。寂しかった。

 

 ―――今は一人じゃない。

 

「うっ……」

 それに気づいたことで声が漏れる。

 

「……」

 カインは黙ってポケットからハンカチを取り出し、机の上へ置く。

「……傷が治るまでここにいるといい」

「いいの?」

「ただし、色々働いてもらうぞ」

 慰めもせず、励ましもせず、ただそれだけ口にした。向かいに座りなおした。

 

「ほれ、早く食え。明日は早いぞ」

「……うん」

 リリアは涙を流しながら笑う。

 

 本当に暖かった。




カイン君、そこは抱きしめてやれよ!しかし、カインボーは不器用なのです
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