異世界転生したので森で隠居してたら、勇者と魔族の娘を拾った話   作:you are not

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書きたいこと書いてたら、脅威の4000文字超え。こんな書いたの久しぶりだよ


第4話「平穏の終わり」

 武装した集団が家に入り込むなり、先頭の男が一歩前へ出た。

 

「動くな」

 男の一人が口を開く。男を含め、全員が鉄兜に革鎧に身を包み、ロングソードを腰に差している。

 

「我々は教会騎士である。無駄な抵抗はよせ」

 背筋を正し、胸を張って革鎧に赤い糸で刺繍された剣の模様を見せつけた。

 

「……リリア、あれは女神教のシンボルか?」

「えっ、そうに決まってるじゃん」

「そうか、変なことを聞いたな」

 どうやらリリアの反応を見るに本当に女神教の連中らしい。

 

「その娘を引き渡していただきたい」

「理由を聞いても?」

「我々も任務だ」

 

「断ったら?」

「無用な争いは避けたい」

 教会騎士の男は諭すように手を前に出して冷静に語った。

「……」

 カインは口を閉ざし、場には沈黙が流れる。

 

 女神教、か。俺も詳しくは知らないが、大陸中の人間に信仰されている巨大宗教勢力なことくらいは知ってる。下手に事を構えて勝てる相手ではない。

 

 例え、この場の連中をどうにか出来るとしても。

 

 そう考えながら、カインは目線を机に置かれた剣鉈に向けて、目線を戻し首を左右に小さく振った。

 

 その様子を見たリリアはカインの腕を掴もうとして―――

 

「ごめんね」

 だがすぐに手を引いて、口を開いた。

 

「謝ることなんてないだろ」

「ううん、カインにはいっぱい助けてもらったから。これ以上はいらないや」

 リリアはそう言うと、自分から騎士たちの方へ歩き出した。

 

「賢明な判断だ。連れていけ」

「はっ!」

 騎士たちは彼女の両腕を掴み、胴体に巻き付けるように縄で拘束する。

 

「あんなに逃げ回ってたっつのに、大人しいもんだぜ」

「女なんてあんなもんよ」

 そのままろくに抵抗することなく、リリアは四人の騎士に囲まれながら家の外へ連れて行かれた。

 

 バタン、扉が閉まる。

 

 カインは動けぬままに。

 

「賢明な判断に感謝する」

 残った二人の騎士のうち一人が革袋を差し出す。

「謝礼だ」

 騎士が揺らすと袋の中で金貨がぶつかり合う音がする。

 

 カインは呆然とその袋を見ていた。頭の中には、報酬に対する喜びなんてなくて、言いようのない不快感だけ。

 

「……」

 騎士は何かを嬉しそうに話している。内容は聞こえてこなかった。

 

 あのまま見送れば俺は元の生活へ戻る。あの子は元の場所へ戻る。それでいいじゃないか。そう、全部元通り。なにもきにすることなんて―――

 

『ごめんなさい、貴方。愛してるわ』

 

 脳裏に忘れたかった前世《いつか》が蘇る。

 

『夢ないの?』

『じゃあ私が見つけてあげる』

 

 つい、昨日のことを思い出す。なんと愚かなことだ。夢なんてものは、とっくの昔に置いてきた。今さら探したいとも思わない。

 

「生きるべきか死すべきか、それが問題だ」

 ふと、前世で聞いたことわざが浮かんだ。

 

このまま全部を見逃すのも間違いじゃない。また、騒がしいニワトリたちに餌をやって、山羊の乳を飲んで、馬に乗って気ままに森をかける。

 

誰にも、何にも期待しない。誰にも裏切られない。誰も失わない。そんな明日を俺は望んでる。 そんな明日が続くだけだ。それでよかったはずだ。

 

でも、俺はリリアがいなくなるのは嫌だ。

 

 ―――なら、考えるのはやめだ。理由なんてどうでもいい。助けたいのなら助ければいい。

 

 俺は、革袋を受け取ると床に投げ捨てた。

 

「何してんだ?」

「どうした腹でも――グッ!?」

 言い終わる前に、男は悲鳴を上げた。

 

 カインが間髪入れず、右隣に立つ男の鼻面へ肘を叩き込んだのだ。肘から脳裏へ、骨が砕ける嫌な感触が伝わってくる。

 

「ぐえっ――!?」

 男が鼻を押さえてその場にうずくまった。

 

「なっ、てめぇ!?」

 突然のことに驚きながら、反対側にいた男が剣を抜く。

 

 だが、剣を抜き放った瞬間、カインはその右手首を掴み取っていた。続いて、あご下を突き上げて上へ向かせ――容赦なく両足を払う。

 

 男の身体が後ろへ跳ね上がり、後頭部が壁へ激突した。

 

 ―――ゴッ!

 

 鈍い音が響き、男は抵抗する間もなく泥のように崩れ落ちる。

 

うざげやがっで(ふざけやがって)!」

 カインが倒れた男から視線を戻した瞬間、鼻を潰された男が、血塗れの顔で叫びながら飛びかかってきた。

 

 カインはあえて避けず、真正面から踏み込む。男の脇下に滑り込ませた手で強引に引きつけ、自身の腰に乗せるように上体を鋭くひねった。

 

 男の身体は一瞬で上下を反転させられ、床板へ顔面から叩きつけられた。

 

「がはっ――」

 みしり、と床板が悲鳴を上げ、男は情けない声を最後に沈黙した。

 

「……十秒か、衰えたな」

 呟きながら、落とした金の入った革袋を拾う。

 

 続いて机の上の剣鉈を腰に差し、棚から投石紐をポケットに入れる。

 

 最後に鶏の餌袋を両手に抱えた。

 

「これで準備は整った」

 家の扉を足で開け放ち、外へと駆け出した。

 

 見れば、リリアがちょうど馬車へ押し込まれたところだった。

 

「総員十六名……倒す必要はないが骨が折れるな」

 カインは真っ直ぐ鶏小屋へ向かって走り出した。

 

「お前!?止まれ!」

 左横から騎士の怒声が飛ぶ。

 

 当然、カインは止まらない。剣鉈で餌袋の口を開き、中身を一気に頭上にばらまく。

 

「何だこれは!?」

「む、麦?」

「ビートも入ってるぞ」

 上質な餌は騎士たちの頭から降り注ぎ、服に足元へと落ちていった。

 

「お前ら、今日は特別に昼飯だ」

 カインは鶏小屋の扉を蹴り開ける。

 

「コケェェェーッ!!」

「コケッ!」

「コッコッコッコッ!!」

 餌へ向かって一直線に十数羽のニワトリが雪崩のように飛び出す。

 

「うおっ!?」

「なんだこいつら!?」

 ニワトリたちは騎士たちの足元へ群がり始めた。

 

「いでで!?」

「うわぁあぁ!?」

 靴すらつつき、よじ登って鎧の隙間すらつつき、。歩く隙間がない程に密集され、騎士たちは驚き、混乱し、隊列は崩壊する。

 

「邪魔だ!どけ!」

「このくそ鳥!ファイヤー……」

「バカ!魔法使うんじゃない!?」

 魔法を使おうとする騎士すらいる混沌とした状況。

 

「ヒヒーンッ!」

 その騒ぎに何より狼狽したのは馬車を引いていた馬だった。馬は元来臆病な生き物だ。

 

「こら、暴れるな!」

「躾がなってないな」

 御者が慌てて手綱を引く姿を横目にカインは、卵籠を手に下げる。

 

 ポケットから投石紐を取り出す。そこに卵を放り込むと楕円形に振り回し、遠心力を持って、卵を投擲した。

 

 ―――ベチャッ!

 

「ぶっ!?」

 魔法を使おうとしていた騎士の顔面で卵が砕け散り、黄身と白身が目を覆う。

 

「目が!?」

 二発目は、御者の顔面に。続く三発目は、馬の顔に。これによって馬車は運転不能となった。

 

「馬車を守れ!」

「敵襲だ!」

「流石に反応は早いか」

 カインは籠を放り捨て、そのまま馬車へ一直線に駆け出した。

 

 数人の騎士が進路を塞ぐが混乱している人間など障害にもならない。

 

 相手の股下を潜り抜け、また一人の脇へ身体を滑り込ませて肩で押して、隣の仲間へぶつけてやる。

 

 そうして馬車の扉へ辿り着き、取っ手を思い切り引いて、扉が開く。

 

「カイン!?」

 馬車の中には縄で拘束されたリリアがいた。

「迎えに来たぞ、お姫様」

 その言葉に状況が理解できていないのか、リリアは数度瞬きを繰り返す。しかし、待っている暇はない。

 

「えっ、どういうこと?夢?幻覚?」

 リリアは自分の頬をつねって、顔をしかめる。痛かったらしい。

「悪いが、待っている時間はない」

「ちょ、ま」

 カインはリリアを抱き上げ、馬車から飛び降りて、再び駆け出した。

 

「待て!」

「逃がすな!」

「とらえろ!」

 追手が来る中、カインはリリアを抱えたまま馬小屋へ飛び込んだ。

 

「チィチィ、ちょっと場所借りるぞ」

「ヒヒーン」

 チィチィ本人、いや本馬は干し草を食べながら呑気に鼻を鳴らしていた。

 

「動けるか?」

「む、無理に決まってんじゃん!」

 対してリリアは縄でぐるぐる巻きのまま暴れている。

「悪いが、俺は奴らの対処に忙しい……おい」

「メェー」

 山羊は振り返る。リリアは何をするかすぐに察した。

 

「ちょ、それ私の手大丈夫?」

「安心しろ、最悪介護はする」

「ふざけろよ!」

 リリアの抗議虚しく山羊は縄へ顔を突っ込み、モグモグ縄を噛み始めた。

 

「いたぞ!」

「逃がすな!」

 そのタイミングで馬小屋の入口から怒号が響く。

 

「来たか」

 カインは振り返り、ほくそ笑んだ。

 

 最初の男が剣を振り上げた瞬間、カインがチィチィの尻を軽く叩いた。

 

「ヒヒーンッ!!」

 チィチィの耳が伏せられ、腰を低くする。

「あっ」

 リリアが理解した時、チィチィの後ろ脚が跳ね上がった。

 

「ぐぼぁっ!?」

 騎士の胸へ直撃し、馬小屋の壁へ激突し、そのまま崩れ落ちた。

 

「うわぁ……」

 リリアが思わずドン引きした。続いて入ってきた二人目の騎士も、吹き飛ばされた仲間を見て目を丸くした。

 

 その隙を突き、カインは干し草を掴んで男の顔面へと投げつけた。

 

「ぐっ!?」

 反射的に二人目の騎士が目を閉じた瞬間、カインの踵が太腿の横へ叩き込まれる。

「がぁっ!」

 膝が抜けて、片膝をついて崩れる。

 

「死ねぇぇ!」

 そこへ、三人目の騎士が突っ込んできた。

「威勢だけだな」

 カインは剣を振り下ろそうとする腕を掴むと、身体を捻って自ら膝をついた。

 

「う?わぁぁ!」

 三人目の身体が肩の上を通り過ぎ、頭頂部が床板へ叩きつけられた。三人目の騎士は白目を剥き、そのまま動かなくなる。

 

「すごっ、カインってそんなに強かったの?」

「昔、色々あったんだ」

 カインは太ももの汚れを払いながら立ち上がる。ちょうどその時にプツンと縄が切れた。

 

「切れた!」

 リリアが両手を掲げる。足元では山羊が縄の切れ端をモグモグ食べていた。

 

「手も怪我してない!」

「よかったな」

 カインは鞍を取り付けて、チィチィに乗りあがる。

 

「乗れ、逃げるぞ」

 カインはリリアに手を差し出した。

「……うん!」

 リリアはその手を掴み、チィチィへよじ登ってカインのお腹に手を回して後ろに騎乗した。

 

「チィチィ、走れ」

 チィチィの腹を軽く蹴る。

「ヒヒーンッ!」

 栗毛の雌馬は勢いよく駆け出し、馬小屋の反対側の出口から森へと飛び込んでいった。

 

 背後では騎士たちの怒号が響いている。

 

 だがもう追いつけない。枝を避け、根を越え、午後の森を駆け抜けていく。

 

 カインは一度だけ振り返った。長く暮らした丸太小屋は遠ざかり、小さくなっていく。

 

 しかし、不思議と後悔はなかった。その先に何が待っているのか、カインは知らない。

 

ただ一つだけ確かなのは、もう昨日までの自分には戻れないということだった。

 

 背中ではリリアが服をぎゅっと掴んでいる。その震える手に、カインは何も言わず、そっと片手を添えた。

 

―――かくしてカインの平穏な生活は終わった。




ここで一区切り。
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