異世界転生したので森で隠居してたら、勇者と魔族の娘を拾った話   作:you are not

5 / 6
おひさ。


第5話「故郷」

 森の中を馬が駆けていく。

 

 午後の日差しが木々の隙間から差し込み、こもれびとなって地面にまだらな影を落としていた。

 

「巻いたみたいだな」

「……だね」

 背後から追手の声はもう聞こえない。

 

 念のために振り返って確認してみるが、やはり追いかける影はなく、ひとまずは教会騎士たちから逃れられたとカインは判断を下す。

 

「……」

「どうした?やけに静かだな。お前らしくない」

「……なんでもない」

「そうか」

 

「「……」」

 互いに沈黙が満ちる。葉っぱが風に揺れる音と馬の蹄の音だけが周囲に木霊している。

 

 カインは経験則から、女性が何でもないという時は絶対何かあるものだが、同時に、下手な詮索は藪蛇にしかならないともわかっていた。

 

「ねぇ」

 どうしたものかとカインが頬を欠いていると、リリアの方から話しかけてくる。

 

「なんだ」

「どうして、助けてくれたの?」

 思わず、カインは振り返ってしまう。無論、速度は落とさずに。

 

「気にするのが遅いな」

「だってバァー!って風みたいにいろいろ起きるんだもん!」

 リリアは抗議するように声を上げる。

 

「教会の人たちボコボコにして、馬車も襲ったよね!?」

「お前を助けるためにしたな」

「で、今私達何してる!?」

「逃げてるな」

 

「なんでそんな他人事なの!?カインは今、とんでもないことしてる!家も捨てちゃったし!教会の人達からおわれることになっちゃうんだよ!」

「そう言われても……」

 カインは天を仰ぎ、言葉を選ぶ。

 

「結局は、お前がいなくなるのは嫌だった」

「……へ!?」

 素っ頓狂な声を上げて、リリアは金魚みたいにパクパクと動かすが、何も言えない。

 

「お前を見捨てて、俺はまた一人で生きる。それが正しいと思ってた。でも、何か嫌だった」

 カインが言葉を続けるが、リリアは何やら赤面して黙り込む。

 

「納得したか?」

「うん……ありがと」

 リリアは、カインの腰に手をギュッと回して、背中に頭を乗せた。

 

 この火照った顔を今は見られたくなかった。

 

「……落ちるなよ」

「大丈夫」

 それだけ言って、カインは再びチィチィを走らせた。

 

「ところで、どこへ向かってるの?」

「ここから東にある村だ」

「東の村って……」

 その言葉にリリアが少しだけ目を見開く。

 

「知ってるのか?」

「だって、私が住んでた村だもん」

 カインは少しだけ驚く。

「そうだったのか」

「うん。小さい村だったけどね」

 リリアは頷いた。

 

「お母さんと畑仕事したり、川で魚捕ったり、お祭りもあったんだ」

「へぇ、その割には動物の世話苦手だったな」

「うぐ、それは初めてだったから」

「そういうことにしておこう」

 馬を走らせながら、カインは疑問を口にすることにした。

 

 向かっているならば、どうせいつかは聞かなければならない。

 

「じゃあ、なんであんなにボロボロになりながら逃げることになったんだ?」

「それは……」

 リリアは向日葵のような笑顔が消え、視線を下に向ける。

 

「いきなり、教会の人達が来て村を襲ったの」

 重たい口を開くように、リリアはぽつりと語り始めた。

「理由は?仮にも正義を謳う連中だろ?」

「わからないの、突然あの人たちは剣を振り上げて、私を庇っておじさんが切られて、お母さんと離れ離れになって……」

「わかった、十分だ」

 辛そうにしている様子にストップをかける。

 

「ほんとはね、ちょっと怖い」

「確かめるのが怖いか」

「まぁね」

 少し間が空いてリリアは答えた。

 

「私、あの人たちが死んだなんて信じたくない」

「逃げてもいいぞ、進路を変更しよう」

 カインはあっさり言うが、リリアは首を横に振った。

 

「……やっぱり、カインは優しいね」

「いや、死んだ魚みたいだってよく言われたもんだ」

「ひどい!誰がカインにそんなこと!」

「もう昔のことだ。それはそうと―――いいんだな?」

「うん、知りたい。みんな生きてるって信じてるから」

「なら行こう」

 カインは短く答え、馬のチィチィに加速するよう命じた。

 

 

 しばらくすると森を抜け、平原にたどり着く。2人は馬のチィチィから降りる。

 

「ほら、自由にしろチィチィ」

カインはチィチィの首を撫で、平原に放牧した。

「いなくならない?」

「その時はその時だ。聞こえるところにいれば、口笛で駆け付けてくれる」

「家族みたい」

「そんなところだ」

そう言って二人は平原を歩き、村へと向かっていった。

 

やがて、村にたどり着いたとき、リリアは絶句した。

 

「え……」

 本来なら黄金色の麦畑が広がっているはずの平地。しかし、あったのは荒れ果て、変わり果てた姿だった。

 

 畑は踏み荒らされ、作物は根元から潰されていた。柵すらも壊されている。屋根が崩れ落ちている家を始め、家々の多くは焼け焦げ、黒く煤けた壁だった残骸だけが残っている有様だった。

 

 村の中央にあったはずの井戸広場も、石畳がひび割れ、まるで災害の跡地を思わせる。

 

「そんな……」

 リリアは、村だった場所で呆然と立ち尽くす。物心ついたころからあった当たり前の場所、故郷《ふるさと》を失った事実を受け止めきれずにいた。

 

「まるで、戦場だな」

 カインも顔をしかめながら、周囲を見回す。教会騎士が襲ったという話は聞いていたが、想像以上に壊されている。

「これじゃ、討伐じゃなく略奪だな」

 

「誰か、いないの?」

 リリアが小さく呟きながら、家々を見回すが、人は愚かネズミの気配すら感じられない。

 

「これじゃあ…‥‥」

「まだ決まったわけじゃない」

 諦めかけるリリアの肩にカインが手を置く。

「生存者を探すぞ」

「……うん」

 リリアは目を両手で拭いながら、なんとか返答をひねり出した。

 

 二人は村の中を歩き始める。

 

 見覚えのある家や道を通るたびに、リリアは何度も立ち止まりそうになる。

 

 だが足は止められない。そのたびに、カインが手を引いて足を進めさせた。絶望に陥った人間が、ひとたび膝を折れば、次立ち上がるのは難しいから。

 

「見ろ、人がいる」

 そんな時、遠くに人影を発見した。駆け出して近づいて見れば、それは杖をついた老人だった。

 

「……村長さん?」

 ゆっくりと歩いているその姿は、背中は以前より小さく見えたが、リリアにははっきりわかった。

 

 声が聞こえたのか、老人は足を止めて振り返った。

 

「リリアちゃん……?」

 村長と呼ばれた老人の目が大きく見開く。

「村長さん!!」

 その顔を見た瞬間、カインは手を放し、リリアは走り出していた。

 

「本当にリリアちゃんなのかい!?」

「うん!うん!私だよ!会えてよかった!」

 リリアは老人へ飛びつくと、村長は震える手で彼女の肩を掴んだ。

 

「生きとったのか……!」

 掠れた声だった。

「お主は生きとったのか……!」

 その言葉にリリアの瞳から涙が溢れた。

 

「ううっ……」

 逃げてからずっと張り詰めていたものが、一気にほどけていくのがわかった。

「よかった……本当に良かった」

 しばらく二人は抱き合うが、しばらくしてリリアが涙を拭う。

 

「みんなは!?」

「なんとか生きとる」

「本当に?」

「ああ、王都から来た王国騎士たちのおかげで避難できとる」

 その言葉にリリアは安堵したように息を吐いた。

 

「お母さんは?」

 その言葉を聞いた瞬間、村長の表情から笑顔が消えた。

「村長?」

「……ここではなんだ。避難所でゆっくり腰を落ち着かせて話した方がいいだろ」

 重たい空気が流れ始めた時、カインが割って入った。

 

「君は?」

「山に住んでる者です。彼女を助けてここまで運んでました」

「そうなのかい?」

「はい、私が生きてるのはカインのおかげです」

 リリアが嬉しそうに答えると、村長は嘘ではないとすぐに理解した。

 

「そうか、それはそれは彼女が世話になったな。血は繋がっておらんが、孫のように思っとる。ありがとう」

「いえ、それよりも……リリアには知る権利があるでしょう」

「……そうじゃな。リリアもみんなに会いたいだろう。避難テントまで案内しよう」

 村長は歩き出し、二人はその後ろを追従していった。

 

 リリアはまだ知らない、これから知らされる現実を。




次回「母死す!」ディエルスタンバイ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。