異世界転生したので森で隠居してたら、勇者と魔族の娘を拾った話   作:you are not

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第6話「王国騎士団、襲来」

 村から少し離れた場所に避難所は作られていた。

 

 草木が生えてない平野の上に、白い布で作られた天幕がいくつも並び。いくつかのテントからは炊き出しの煙が空へ昇っている。

 

「おい!もしかしてリリアちゃんか!?」

「えっ!リリアちゃん?」

 天幕が並ぶ道を通ると、先ほどまで立ち話をしていた二人が声をかけてきた。

 

「ジートンおじさんに、ダーヴィン!無事だったんだ!」

 リリアは二人が誰かすぐにわかり、嬉しそうに腕をぶんぶんと振る。

「おうとも!リリアちゃんが無事そうでよかった」

「ったく。『さん』を付けろよ、お転婆」

 声をかけられた二人は、変わらず元気な様子のリリアに嬉しそうな顔を見せた。

「えへへ、ごめんねダーヴィン」

「いつも通り聞いてねぇし……まぁ、無事でよかった」

「リリアちゃん、お母さんのことは―――」

「……悪いがこれからじゃ」

 再会を喜ぶ三人に村長が割って入る。

「そっか。とにかく会えてよかったよ」

 それだけ告げると、二人は自分たちの天幕へと戻っていった。

 

「……村を失くしたにしてはみんな元気そうだな」

 村人たちに囲まれているリリアを他所に、カインが周りを見渡す。

 

 避難所では、村の人々は談笑していたり、子供が駆けまわって居たり、机を挟んでボードゲームをしているものまで。

 

「そう見えるだけさ。人間、不幸を嘆き続けることにも疲れちまう」

「なるほど」

 村長は杖を突いて歩きながら答え、カインはその答えに納得するしかなかった。

 

 

「ここじゃ」

 やがて少し離れた場所に設けられた小さなテントの前で、村長が足を止める。

「ここにお母さんがいるの?」

「……」

 村長は何も言わず、ただ布で覆われた入口を見つめているだけだった。

 

「リリア」

 カインは、リリアの手を掴む。

「嫌ならここから立ち去ってもいい。でも、お前が見るなら隣にいる」

「わかった……入る」

 目に強い力を宿した姿に村長は、そっとテントの幕を開く。

 

 中は誰もおらず、静かだった。

 

 テントの中には簡易ベッドがいくつも並べられ、その全てに白い布が掛けられている。

 

 そして、その中の簡易ベットの一つに村長は近寄った。

 

「正直、わしも見た時は胸が張り裂けそうじゃった。たとえ、魔族じゃとしても、余所者でも、わしは娘のように思っておったからの」

 村長が白い布をめくり、中から黒い髪の女性が出てきた。

 

「騎士団が彼女を発見した時には、もう……」

 昼寝でもしているかのような穏やかな顔で

 

 ―――死んでいた。

 

「お母さん……?」

 リリアがふらつきながら、近づく。

 

「ねぇ、お母さん」

 何度も一度呼ぶが、やはり返事はなかった。やがてベッドの横に膝をつくと、震える手が母親の手へ伸びる。

 

「また、いつもの冗談だって言ってよ……」

 目が震えていた。掴む手は、冷たかったのだろう。

 

 その痛ましい姿をカインは見守るしかできない。他人が口を出せるものじゃない。

 

 母親の顔立ちは、リリアにそっくりで血縁なのだとすぐに分かる。違いと言えば、頭上に牛のような角が二本生えていること。俗にいう魔族の特徴である。

 

魔族。それは角が生えた人間と言ってもよい。人間が住まう地域より、北に多く住み数年前まで互いに戦争していた種族。もっとも、戦争が終わった今では人間の国で暮らす者も珍しくない。

 

(リリアは教会が敵対視する魔族の血を引いてたのか……)

 カインはそんなことを考えながら、十字を切る。

 

「父と子と聖霊の御名《みな》において―――アーメン」

 追悼の言葉も送っておく。もっとも、前世のやり方なのだが。

「変わった祈り方じゃな」

「異教の追悼はダメでしたか?」

「死者を思う気持ちにケチなど付けられんじゃろ」

「ありがとうございます」

 

 

「……ごめん二人とも」

 しばらくしてリリアが言った。

「少しだけ、一人にしてくれないかな?ちょっと落ち着きたくて」

 

 村長は無言でうなずき、テントから出ていく。

 

「わかった。外で待ってる」

 カインもそれだけ告げると、踵を返した。

 

 

 二人はテントの外へ出て、幕が閉じられる。

 

「君も災難だったね、こんなことに巻き込まれて」

「乗りかかった舟ですから」

 示し合わせるでもなく、二人はリリアのいるテントの側から離れ、近くにあったベンチに座り込む。

 

 

 ―――あぁぁぁっ!なんで!なんで!どうして!?

 

 

 しかし、慟哭は響く。張り裂けるような悲鳴が二人の耳に木霊する。

 

 

 その悲鳴には、どれだけ母を慕っていたのか。どれだけ会いたかったのか。そして、絶望したのかが、どれだけ詰まっているのかが伝わってきた。

 

 村長は顔を伏せ、握る杖に力が入る。

 

 二人は何もしてやれない、ただ無力さを噛みしめるしかできない。それが咀嚼できないとわかっているのに。

 

「……辛いもんですよね」

 カインはぽつりとつぶやいた。

「こういう時、怒鳴られる方が案外、楽なんですよ」

「……」

「怒りを向けられて、殴られて、罵倒される方がまだいい」

 カインは閉ざされたテントを見た。

「何度やっても、こうして慟哭を聞いている方がずっと最悪だ」

 空を見上げながら、カインは遠い目をする。

 

「……君の言う通りじゃな」

 村長は頷きながら、懐から喫煙パイプを取り出し、指を鳴らして火をつける。

 

「君も吸うかい?予備ならあるぞ?」

「いえ、十五歳なので遠慮しておきます」

 村長は動きを止めて、パイプを地面に落としてしまう。

 

「え?は?……マジ?未成年?」

「そうですけど」

「リリアちゃんと同い年か!?」

「数え年ですがそうなります」

「嘘ぉ!?」

 村長の叫びに、カインは首を傾げる。

 

「そんな驚くことですか?」

「いや、驚くじゃろ!?君、どう見ても二十代じゃぞ!?」

「そう言われましても」

「十五歳があんな深いこと言えるか!」

 村長は頭を抱え出した。

 

「今まで何人も見てきたが、十五歳でそんな顔してる奴は初めて見たぞ……」

「そんな老けて見えます?」

「そうじゃない!雰囲気じゃ!」

 先ほどまでの重苦しい空気は何処へやら。二人は和気あいあいとした会話をしている時―――

 

「失礼する」

 凛とした女性の声が聞こえてきた。

 

 二人が顔を横に向ければ、避難所の中央から、騎士の一団が歩いてきているのが目に入った。

 

 先頭を歩くのは、一人の女性。白銀の鎧を纏い、腰には長剣を下げている。肩まで伸びた金髪を後ろで束ね、その眼差しは鋭い。

 

 周囲の騎士たちが自然と道を開けているところを見るに、それなりの地位にいる人物なのだろう。

 

「ずいぶん、大所帯じゃの騎士団長様」

 村長が立ち上がる。

「突然のことすまない、村長殿。先程到着したとの報告を受け、急ぎ駆けつけさせていただきました」

「いえいえ、貴方方のおかげで、多くの村人が救われました故、気にしないでください」

「我々は職務を果たしただけです」

 騎士団長は淡々と答えるが、どこか疲れているようにも見える。きっと彼女も、この惨状を目の当たりにしてきたのだろう。

 

「ところで、そちらの方は?村人ではないようですが?」

「ああ、リリアちゃんを連れてきてくれた山に住んでいる少年です」

「始めまして、カインです」

 カインはいそいそと立ち上がり、頭を下げて挨拶した。

 

「そうでしたか、それは失礼いたしました。わたくし、王国騎士団長のアリア・フォン・ヴィクトリアと申します」

 彼女は鎧のまま、右手を差し出してきた。

「……ご丁寧にどうも」

 カインは数秒迷ってから、その手を取って握手に応じる。

 

「あなたには、礼を言っても言い足りないほどです」

「それは、どういう?」

 その時、背後のテントが開き、全員の視線がそちらへ向く。

 

「お待たせ」

 リリアが出てきた。

 

 目は真っ赤に腫れ、頬にも涙の跡が残っている。それでも、泣くのをやめたのか。ふらつきながらも、自分の足で歩いてくる。

 

「リリア、もういいのか?」

 カインは騎士団長と握手をやめてリリアに歩み寄る。

「うん、ちゃんとお別れしてきたよ」

「なら、いい」

 

 二人の会話を他所に、リリアの姿を見た騎士団長の厳しい顔が、一瞬だけ和らぐ。そして、彼女はゆっくりと前へ進み出た。

 

 そして、リリアの手前まで近寄ると、騎士団長は片膝を地面についた。周囲の騎士たちも続く。甲冑の擦れる音が周囲に響いた。

 

「え?なに急に?」

 リリアは困惑していた。避難所にいた村人たちも何事かと集まりだす。カインは、ただ事ではないと察し、王国騎士たちの出方を伺う。

 

「お初にお目にかかります」

 騎士団長は胸に手を当て、そして厳かに告げた。

「リリア王女殿下」

 

「……はい?」

リリアは理解できず、その場に凍りついた。周囲の村人たちからも、ざわめきが波のように広がっていく。

「わたしが……王女? ちょっと、何言ってんのかわかんない…… カイン、怖いよぉ」

 続けてリリアは混乱し、カインの後ろに隠れてしまう。

 

「いや、俺に言われてもわからん。王女なんじゃないのか」

「そんなわけ―――」

「その通りでございます」

「ハァ!?」




ハァ!?(うさぎ書き文字)
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