Be with you!   作:冥華

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アップルパイやショートブレッドを作ったりしてました。お菓子って作っている間が一番楽しい……


02

大河から要求されたお弁当、そして自分とセイバーの朝食を作るため、キッチンの棚に置いてあるエプロンを手に取る。オレンジと白のギンガムチェックのこれは、以前大河から貰ったものだ。

さて、何を作ろうかと悩み、とりあえず冷蔵庫を開けた。毎日の自分のお弁当のための食材は一通りあるのを確認し、手際よく冷蔵庫から取り出していく。卵、ちくわ、ソーセージ、挽肉、れんこん、ごぼう、にんじん、ほうれん草などなど。取り出した食材を並べ、包丁とまな板を用意する。それと同時に、雪平鍋を二つ棚から取り出す。一つには水と汚れをふき取った昆布を入れておき、もう一つはそのまま火に掛けた。現在時刻は八時ジャスト。セイバーの朝食だけであれば、15分ほどで出来るだろう。その後、大河に持って行くお弁当をゆっくりと作ればいい。

まな板の上にちくわを乗せ、縦と横半分に切る。ちくわのへこんでいる部分にマヨネーズを入れパン粉をまぶす。全体がパン粉で覆われ、その上にさらに青のりを少々かける。トースターにアルミホイルを引き、ちくわを置く。900wに調節し、4分にセットして、焦げ目が出来るまで焼けば完了。

次に手に取ったのはごぼうとにんじん。水で洗った後皮をむき、千切りにしていく。ごぼうは切った後すぐにボールにいれて数回かき混ぜ、ざるに上げる。ごぼうは水に晒して、軽くあく抜きをしていた方が食べやすい。フライパンを取り出して、コンロに置きごま油を引く。水を切ったにんじんとごぼうを入れて炒めていく。ごま油の香りと、トースターで焼いていたさくさくちくわの香りのどちらも鼻腔をくすぐった。

菜箸を使って焦げないように気を付けて炒めていると、隣の鍋が沸騰して白い湯気を立たせていた。少し火を弱め、手早くほうれん草を洗って鍋に入れてしまう。塩を鍋に入れて、今度はフライパンに戻る。フライパンの上のごぼうとにんじんがしんなりしているのを見て、料理酒を入れ全体になじませる。次に薄口醤油とみりんを入れて混ぜる。しばらく炒めれば甘辛いきんぴらの出来上がりだ。

「すごいですね」

いつの間にキッチンに入って来ていたのか、士郎がさっさかと料理を作っているのをセイバーがじっと見つめている。

「シロウの手はまるで魔法のようです」

「魔法って、大げさだよ。簡単なものしか作ってないし」

セイバーと話している間も、士郎は手を休めない。茹でたほうれん草を水にさらして絞る。一口大に切って、器に盛り付けた。ここまでで出来たおかずは三品。残りは昆布で出汁を取っただし巻き卵と、挽肉で肉団子を作る予定だ。

「士郎は、ずっと一人でこの家に?」

ボールの中に挽肉と卵、豆腐と長ネギとパン粉を入れて混ぜ合わせていた士郎に、セイバーが問いかけた。士郎の手がぴたりと止まる。セイバーの口にした、一人という言葉に無駄に反応していた。一人では無い、そう言いたかったのに士郎は何も言えなかった。

この家には大河も桜もほぼ毎日来ている。二人は自分にとって家族といって過言の無い存在だ。それを分かっているはずなのに。

「ちがう、一人じゃない。俺には家族みたいな大事な存在が、ある」

一つ一つ噛みしめるように言う。自分自身に言い聞かせるように。間違えなどないのだと、改めて確かめるように。そうでもしなければ、違ったことを口走ってしまう。

セイバーはそれ以上深く聞こうとはしなかった。元々士郎に対する興味は無かったのかもしれない。彼女にとってみれば、未熟なマスターが自分への最低限の魔力供給のために作っている食事の合間に、何気なく聞いただけのこと。衛宮士郎という人間に興味を持った訳では無いだろう。そうだ、そうに違いない。

肉団子を焼き、だし巻き卵も丁寧に巻き終え、出していた皿の上に盛り付ける。五品のおかずと、昨日から炊いてあった白米を茶碗についで食卓に並べる。大河のためのお弁当の分はすでに取ってあるが、二人分にしては多めのおかずがずらりと並んでいた。セイバーはキラキラと瞳を輝かせて、食卓に並んだ朝食を見ていた。

「冷めないうちにどうぞ」

「はい、いただきます」

きちんと手を合わせてから箸を持つ。そういえば、どう見ても日本人では無い彼女がお箸を使えるかふと心配になる。フォークやスプーンを持ってこようかと思い、セイバーに視線を向ける。そこには、外国人の見た目からは想像できないほどの箸さばきでおかずを小皿に取り、自身の口へと運ぶ。

「……!」

小皿に取られた中で、一番初めに口にしたのは肉団子。甘いたれと肉の味が絶妙なバランスを保っている。初めて感じるその味に、セイバーは言葉を失っていた。

「和食、口に合わなかったかな?」

セイバーが無言になったのを、彼女が生前食べていたものと違いするぎるからなのではと考えて、士郎が尋ねる。セイバーはそれに無言で首を左右に振った。しばらく箸を手にしたまま、俯いていたかと思うとぐっと身を乗り出して士郎の手を握った。

「せ、セイバー?」

「あなたが……あなたがもし、あの戦いの際に私の隣にいて、このような料理を作ってくれたとしたら。私は、私は……」

いきなりの行動に驚いていたが、それ以上にセイバーの声が震えているのに違和感を覚える。

「えぇっと、こんなのでよければいくらでも作るよ。セイバーが好きな食べ物とか教えてくれたら、それを中心に……」

「何でも食べれます。シロウの手で作られたものであれば、何でも!」

がっしりと手を握ったまま、熱い言葉と視線を投げかけられ、たじろぐ士郎。今まで黙って新聞紙を読んでいたルビーは初めて二人のやり取りに口を挟んだ。

「あらあら、お熱い告白だこと、セイバーさん。士郎さんも、お嫁さんのあてが出来て良かったですね」

「ルビー、お前はほんと黙ってろ」

彼女の楽しそうな発言を士郎はばっさりと切り捨てた。

 

朝食に出したおかずの残りをお弁当箱に詰め、炊飯器に残っていた白米でおにぎりを三つ握る。その全てを桜柄の風呂敷で包み、大河に持って行くお弁当は完成した。

先ほどルビーの言っていたことが本当なら、今の自分は周りからは女子に見えてしまう。ルビーが再び術をかけられるようになるには、最低でも一日は必要だと言われた。それが本当なのか、士郎に確かめるすべはない。だから、ルビーが一日と言ったら、最低でも一日は我慢しなければならない。そのことを憂鬱に思いながら、コートを羽織る。今日は二月にしては暖かくなると天気予報で言っていたため、マフラーは不要だろう。

「ルビー、くれぐれも家から出るなよ」

「ふぁいふぁい、わかってまふ」

あくびをしていた途中なのか、はっきりとしない口調で言う。契約者の士郎と一心同体であり、常にそばにいると言ったルビーだが、彼女のその期間は月曜日から金曜日までの平日に限る。毎日一緒にいるのだから、週二日は休みなのだと、意味不明な理屈を押し付けている。今回に限っては士郎としてみても、ルビーが自分に術をかけられないのであれば、特に自分から一緒に連れていくつもりはない。というか、術をかけてもらうために日中士郎はルビーと一緒にいるようなものだ。それでなければ、わざわざ高校生にもなって、魔法少女のステッキなどを自ら持ち歩こうなどとは考えない。マジカル☆エミィになるのは、基本夜中だし。

セイバーの姿は家の中には無かった。しっかりと大河へのお弁当を手に持ち声をかける。

「いってきます」

返答はない物と思っていたが、どうしてもそう口にしたかった。戸に手を掛けた時。

「いってらっしゃい」

そう返された言葉。自分の前にいるのはふざけた形のステッキのはずなのに。一瞬だけ、自分とは似ても付かない一人の少女が目の前に立っているような気がして。士郎はそれを振り払うように背を向けて外へ出た。

 

「ここが、シロウの学校ですか」

まじまじとセイバーは校舎を眺めている。彼女にしてみれば、いくら聖杯からの知識があるといっても珍しいものなのだろう。昔話に出てくるような英雄が自分の普段通っている学校に来ている、なんとも面白い話だ。

学校の奥にある弓道場に近づくにつれて、緊張感が増していく。

「弓道場の入り口に誰もいない時を見計らえば大丈夫……だよな」

基本的にこの時間は部員たちは的に向かって矢を射っているはず。よほど運が悪くなければ、弓道場の入り口まで人がいることはないだろう。まぁ、居るはずがないのだが、その少ない確率を引き当ててしまうのも士郎の力というわけだ。

「あれ、誰だ?」

「え、えっと……」

美綴綾子、士郎の同級生であり弓道部の部長。なぜか彼女がタイミングを見計らったように弓道場の前に立っていた。

「うちの生徒じゃ、無いよな?」

士郎を頭の上からつま先までじっくりと観察した後にそう評する。何か勘ぐられる前にさっさと当初の予定を済ませてしまおうと、士郎は手に持っていた風呂敷包みを見せた。

「その、ふ、藤村先生にお弁当を届けに来たんです」

「あぁ、ありが……ってそれ、衛宮に頼んだって先生から聞いてたけど」

余計なことを、と恨み言が口から出そうになるのを堪える。さて、何と言ってごまかすべきか、などとゆっくり考える時間は士郎には無い。パニックになった士郎が口走ったのは。

「い、妹です。衛宮士郎の妹です」

口から出た言葉に自分でも驚愕する。

俺は何を言っているのだと。

そして、同時にとんでもない墓穴を掘った気がする。

「衛宮に妹……初耳だけど」

えぇ、そりゃそうでしょう。俺だって初耳ですよ、そもそも妹なんていません、貴女の目の前にいるのが衛宮士郎です、と言いたいのをぐっとこらえる。まぁ言えるはずもない。ここで話を長引かせて、桜や大河が来てしまえば終わりだ。あの二人と綾子相手に、嘘をつきとおせる自信は無い。なんとかお弁当を渡して早くこの場から去らねば。

「い、生き別れの妹で昨日……そう、昨日兄を訪ねてきたんです。兄がどうしても外せない用事があるから、このお弁当だけは届けてほしいと。それだけです、はい。それじゃあ、さようなら」

もう、なりふり構っている暇は無い。綾子の胸にお弁当の入っている風呂敷を押し付けると、士郎はセイバーの手を取って逃げるように駆けて行った。

「……」

綾子は渡されたお弁当を見て、次に士郎の去って行った方を見る。

「衛宮の妹……っていうか、衛宮が女になったみたいに似てたな……」

あながち間違っていない感想を述べ、彼女は首を傾げながら弓道場の中へ戻って行った。

セイバーを連れて学校から離れてしばらく。ようやく足を止めた士郎は頭を抱える。

「やばい、完全にやってしまった……」

ルビーがこの場にいれば、大爆笑だろう。「士郎さん、妹いたんですね、初耳~。美綴さんに知られて、タイガーさんにばれるのも時間の問題ですよ? いやー、どんな言い訳考えるのか楽しみです」と嬉々とした声のルビーの幻聴が聞こえる。

「シロウ……大丈夫です。シロウの障害となるものは、私が斬り伏せますので」

「いや、斬られたら困るんだが……」

唯一の保護者を失うのは困る。というか、セイバーだと本当に斬ってしまいそうなのが怖い。綾子からさっきの一件を聞いた大河が、今日の夜押しかけてくるのは目に見えている。なるべく早く言い訳を考えねば死ぬ、いろんな意味で。

「とりあえず、買い物済ませないと……」

弓道部の活動は午後までみっちり入っている。午前中のうちに大河が押しかけてくることはない。一度頭を休ませて、食材を買うために士郎は深山のスーパーに足を向けた。

 




偽タイガー道場

師匠:賞味期限切れたバターは、一年は大丈夫よ!

弟子1号:うちの作者が証明済みよ!

ルビー:いやいやいや。そんな危なっかしいこと、平然と人に進めないで下さいよ。

師匠:作者曰く、アフタヌーンティー用のお菓子をアーチャーさんと一緒に作る士郎を書きたいらしいわよ~

弟子1号:くぅ~痺れますね!! そこからお互いの関係が縮まったりするんですよね、師匠!

師匠:おうよ、弟子。二人だけの特別レッスンから、物語は始まるのだぜ

ルビー:そんなベタな甘々展開をうちの作者がするとでも……。というか、あの人「ちょっくら提督になってくるわ!」とか言って、白露型の子たち愛でてましたよね。お菓子作りよりもそっちが更新しなかった理由ですよね。

師匠:女にはなぁ、どうしても時雨たんや夕立たんを愛でて愛でて愛でまくりたくなる時があるのよぅ。

ルビー:いやいやいや。

師匠:さて、墓穴を掘りまくった士郎はセイバーちゃんと深山でお買い物よ! 次回もよろしくお願いします!!

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