Be with you!   作:冥華

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ぜかましと陸奥さんが建造できました。
龍驤ちゃんが好きなんですけど、しょっちゅう大破します。千代田さんが好きなんですけど、しょっちゅry


03 ☆

「あ、味噌切れてたんだ」

今日の夕飯はおでんにしよう。そう思って大根やこんにゃく白滝やさつま揚げなどを買ったスーパーのビニール袋を手に、士郎とセイバーは帰路についていた。家までの距離は半分といったところか。突然自宅の冷蔵庫の中身を思い出した士郎はその足を止めた。

「味噌、ですか?」

「うん、今日の朝もお味噌汁作ろうと思ったんだけど、切れてたの忘れててさ。走って買ってくるから、セイバーはこれ持って先に帰っててくれないか?」

すぐに買ってきてお昼ごはんの支度を、と思っていた士郎。だが、その提案をセイバーは全力で撥ね退ける。

「シロウ、あなたはまだ分かっていないのですか。今、この冬木は聖杯戦争が行われている。昨日のように、いつ襲われるとも分からない。サーヴァントを連れていないシロウは、襲ってくださいと札を付けて歩いているのと同じです!」

だから一人で行かせるわけには行かない。きっぱりと否定される。士郎もそれに頷きたいのは山々だ。少なくとも、先程買ったものの中にアイスクリームが入っていなければ。

「うん、セイバーの言うことは分かる。でも、せっかく買ったアイス、ダメにしたくないだろ? いくら冬っていっても、もう一度あったかいスーパーに戻って家に帰ったら、溶けちゃいそうだし」

「でしたら、せめて私がシロウの代わりに……」

まだそう言って頷きはしないセイバー。士郎もまた、ここで引き下がるつもりはなかった。

「セイバーは知識は聖杯から貰ってても、初めてだから手間取っちゃうだろ? それよりかは、俺がさっさと行った方が早いよ」

「ですが……」

セイバーの顔いっぱいに「心配」と文字が書いてある。

「大丈夫、商店街は人が多い。それに、こんな昼間から狙ってくる奴はいないよ。きっと」

「…………分かりました」

しぶしぶといった様子を隠そうともせずに、ようやくセイバーは頷いた。いくら彼女が強く言ったとしても、マスターであるのは士郎。それにあまりここで揉めて、昨日の夜のように令呪を使われたら元も子もない。士郎はふわりと笑みを見せて、もう一度大丈夫、と声に出した。

「ありがとう、セイバー。お昼ごはんは、軽くパスタ作るからルビーと待っててくれ」

スーパーの袋をセイバーに手渡し、士郎は駆け出して行く。その後ろ姿を見ていたセイバーは、士郎の前では見せないため息をついていた。

「前回とは違った大変さがありますね。はぁ……」

 

 

無事に味噌を買い終えた士郎は、商店街の一角の江戸前屋にいた。セイバーに無理を言ってしまった手前、何もなしに帰ることは憚られた。朝食の食べっぷりと彼女の言葉から、嫌いなものは特に無さそうなため、とりあえずここは定番の大判焼きを買って帰ろう。財布から小銭を出して、テイクアウト用のカウンターへ足を進めた時。

「こんにちは、お姉ちゃん」

背後から聞こえた声。自分の真後ろから掛けられたそれは、恐らく自分に向けられたものだ。だが、女の姿の自分のことをお姉ちゃんと呼ぶ存在に心当たりが無い。誰かと間違えているのだろうかと、疑問を持ちながら振り返った。

「!」

しっかりと着こまれたコート。そして少女の銀の髪と赤の瞳には見覚えがあった。

「お前は」

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。長いから、イリヤって呼んで。お姉ちゃん」

にっこりと笑顔を向けた彼女は、紛れもなく昨夜自分と凛を教会の帰り道で襲った聖杯戦争のマスターの一人だ。セイバーの言葉を思い出す。この街は戦場だと。サーヴァントを連れずに歩いている自分は、最も狙いやすい標的だと。

逃げなくては。

どうやって?

彼女がバーサーカーを現界させれば、一分と待たずに殺される。

まるで楽しんでいるかのように昨日の戦いを見守っていたこの少女は、昼間の人目など気にしないかもしれない。

士郎の強張った表情を見兼ねたイリヤは口を開く。

「大丈夫よ、お日様が出ている間は戦わないの。バーサーカーもお城でお留守番してるしね。お姉ちゃんとお話したくて、ここに来たの。ダメだったかしら?」

彼女の赤い目に覗き込まれて、一瞬そこに引き込まれた。昨夜見つめられた時には冷酷なものだと感じたそれは、彼女と同年代の少女と変わらない。大人の顔を窺っておねだりをするように見える。

不安材料は残るが、彼女に戦う意思は無いということを信じてみることにした。

「俺はいいけど、イリヤは俺と話したりしても楽しくないと思うぞ?」

「ううん、私。お姉ちゃんに会うのを楽しみにしてたの」

士郎の言葉を即座に否定した。次の瞬間、ほんの少しだけ彼女の目に冷たい光が宿った。

「お姉ちゃんは、衛宮士郎でしょう?」

彼女に見据えられて息が詰まりそうになる。衛宮士郎という人間だけでない。それを形作る全てを嫌悪しているような。彼女を衛宮士郎に仕立て上げた存在に向けている憎悪がそこにはあった。

「知ってるのか、俺を」

絞り出すようにして言葉を紡ぐ。

「うん、キリツグの息子だって聞いてるもの」

キリツグ。

その名を知っている彼女は何者なのか。士郎の脳は、一気に与えられた情報に錯乱していた。

「そしてね、私はキリツグとキリツグの息子であるシロウを殺すために、この日本に来たのよ」

がやがやと賑わっていた商店街が一瞬無音になったように感じた。そこでようやく分かった。昨日イリヤが自分を殺そうとしたのは、何も聖杯戦争のマスターに自分がなったからでは無い。自分が聖杯戦争に参加していなかったとしても、自分が衛宮切嗣に育てられた魔術師である限り。彼女はこの身をバーサーカーに殺させようとするのだろう。

「それは……俺にとっては穏やかな話じゃないな」

カラカラの喉から出た言葉は強がりでしかない。何の躊躇もなく殺すと口にした彼女に感じる恐怖。自分よりも幾分も小さい彼女に、この場を完全に支配されていた。

その空気を変えたのも、やはり自分の前の少女だった。

「でも、シロウは女の子なのよね。お爺様から聞いてた話と違って、ついでにシロウの雰囲気に圧倒されて、昨日は驚いちゃった」

驚いた、という彼女の言葉で昨夜自分を見た時のイリヤを思い出す。目を丸くして自分を見た時に、その先に何かを見ているような、そんな目を。

「まぁ、この姿は事故みたいなものだし。本当の俺は、ちゃんと男だぞ」

だから、切嗣の息子というのは間違っていない。そう伝えると、イリヤは小悪魔のような笑みをちらりと覗かせた。

「へぇ、何だか面白そうな話がありそうね」

「気になるか?」

「そりゃあ、せっかく殺そうと思っていた人間の性別が違うと戸惑うものよ。ねぇ、聞かせてシロウのこと」

士郎は黙ってうなずく。彼女に断るという選択肢は浮かばなかった。

頷いたものの、商店街の真ん中で立ち止まっている自分とイリヤに、脇から好奇の視線が向けられていることに士郎はやっと気が付いた。

「ここじゃ何だし、近くに公園があるからそこに行かないか?」

「公園……子供の遊ぶ遊具があるのでしょう? 今日は日曜日だから、いっぱいいない?」

「まぁそれなりに居るとは思うけど、イリヤくらいの子もいるから別に変じゃないさ」

どう見ても小学生くらいの彼女。休日の公園は、彼女と同じくらいの子供たちとその親が楽しげに遊んでいる。自分一人では行かないだろうが、イリヤと一緒ならそれもいいだろう。

「立派なレディは、そんなところで遊んだりはしないけど……。シロウが言うなら仕方ないわね」

ぶつぶつと言いながらも、結局は士郎と一緒に行くことを決めたらしい。案内して、と言うように士郎をみたイリヤに微笑んで見せた。

「それじゃ、ちょっと待っててくれ」

「なぁに?」

「大判焼き、って言っても分かんないか。小麦粉で出来た生地に、餡子っていう小豆と砂糖を煮詰めた具がはいってるお菓子なんだ。イリヤが甘いもの好きだったら、ちょっと食べてみないか?」

元々セイバーや大河に買っていくつもりだったため、一つくらい多く買っても問題は無い。軽い気持ちで提案したのだが、それに反してイリヤは目を丸くして驚いていた。

「え……いいの?」

「あぁ、イリヤが好きだったら嬉しいな」

ふわりともう一度笑顔を見せた士郎に、イリヤに対する恐怖はもう無かった。甘いものと聞いて顔を綻ばせる少女は、年相応の可愛らしさを持っている。

「甘いもの……、でも外で何か食べたってセラにばれたらうるさく言われるかな……でも、シロウが折角私に……」

またぶつぶつと自問自答をしているイリヤ。しばらく考え込んでいたが、突如顔を上げてシロウの瞳を覗き込む。

「オオバンヤキ、お願いするわ。でもねシロウ、ここで私がシロウとオオバンヤキを食べることは、二人だけの秘密よ? いい?」

一体何を言われるのかと思っていると、いたずらが母親にばれないようにお願いする子供のような顔でイリヤに念を押された。予想外の反応に、今度は士郎が驚きながらも了承する。

「うん、二人だけの秘密」

「じゃあ、指きりね」

士郎の答えにイリヤはご満悦のようだった。そしてごく自然な流れで、互いの小指を絡ませる。

どう見ても日本人では無いイリヤが、どうして日本のおまじないの指切りを知っていたのか。士郎はそのことに違和感を覚えることは無かった。

 

 

「ふぅん、あのステッキが……」

イリヤは両手で大判焼きを持ち、士郎の説明を聞いていた。自分がどうしてこんな姿をしているか。どうしてマスターになったのか。興味深そうに聞いていたイリヤは、少しだけ表情を陰らせた。

「シロウがマスターっていうことは、キリツグはもうここにはいないのね」

ぽつりと落ちた彼女の言葉。それに僅かに心が揺れながら、士郎は付け加える。

「切嗣は、五年前に亡くなってる」

月の美しい冬の夜だった。切嗣が死んだあの日の月以上に美しい月は、未だ見たことが無い。切嗣の死は、士郎にとって辛いものではあった。しかし、彼の夢を継ぐという理想を持ったことで、自分が生きることを許された。シロウにとって、微かな救いがそこにあった。切嗣の理想にしがみ付いて生きるという、歪な救いが。

「シロウは一人だったの? ずっと」

唐突なその問いは、今朝セイバーにも投げかけられたものだ。二度目であるがゆえに、今度はちゃんと正解を言えるはず。

「一人じゃ、ない。俺を兄弟みたいに思ってくれる人が、俺にはいた。切嗣がいなくなった後も、俺は一人じゃない」

目の前の少女ではなく、自分自身に言い聞かせているようだ。決められた言葉を一つ一つ言うことで、自分に染み込ませようとしている。

「そう」

イリヤは悲しそうな目で士郎の返答を聞いていた。ここで終わりかと思われたイリヤの問いはさらに続いていく。

「じゃあ、シロウはずっと幸せだった?」

幸せ、しあわせ、シアワセ?

それは何?

それは必要?

それは誰が持つべきもの?

問いは浮かんでは消える。イリヤの問いは士郎の内部(なか)に刃を突き立てた。

「私、は……」

 

上手く息が吸えない。

――今自分がいるのは日常なのに。

急に視界が暗くなる。

――目の前には白の少女がいるはずなのに。

 

声がする。

――苦しそうに助けを求める声だ。

世界が赤い。

――炎と血が世界を染めた。

体が痛い。

――その痛みは衛宮士郎の始まりで。

 

不意に自分の頭をぎゅっと抱きしめられているのを感じた。

「ねぇ、シロウ。もしシロウが聖杯戦争のマスターを止めて、私の所に来てくれるなら、昨日みたいに他のマスターを襲ったりしない、って私が言ったらどうする?」

ぽんぽんと頭を撫でられていた。温かい彼女の手で少しだけ乱れていた呼吸が元に戻っていく。イリヤは幼い子供に言うように、優しく続けた。

「私がシロウを幸せにしてあげるって言ったら。シロウはどうする?」

それが聞こえた時、士郎はイリヤを突き放した。二、三歩後ろに下がったイリヤ。彼女は眉を下げて士郎を見ていた。

「ごめんね、意地悪な質問だったね」

どくどくと心臓が脈打つのを深呼吸で鎮める。

忘れていた。こういった問いを投げかけられるのが久々すぎたのだ。答えはすでにあるのに、それを忘れてしまっていた。大きく深呼吸をした後、士郎はイリヤを見る。彼女は寂しそうに笑ってみせた。

「オオバンヤキ、ありがとう。やっぱりシロウは殺してあげる。でも、最後の一人になるまでは殺さずにいるね。聖杯戦争の最後にもう一回、さっきの質問をシロウにするから。その時までに答えを考えててほしいな。これ、私からの宿題ね」

くるりと踵を返して士郎に背を向ける。最後に一度だけ士郎に顔を向けた。

「バイバイ、お姉ちゃん」

 

 

 

家に帰った後、昼食を作るとすぐに士郎は自室に戻った。買って来た大判焼きをセイバーに見せると、顔を綻ばせていた。だが、彼女にはあの雪の少女と出会ったことは伝えていない。あの邂逅は、二人だけの秘密なのだ。

何をするでもなく、ただぼうっと畳の上に座っていた。鍛錬でもしようかと思ったが、どうにも竹刀を握る気が起きない。聖杯戦争を戦うと決めたのは自分だ。それなのに、逃げ出したいと思っている自分がいた。この聖杯戦争を戦うことで、自分の大切な何かを失ってしまう、そんな恐怖があった。

はて、自分に大切なものなどあっただろうか。

何かに縋ってしか生きられない自分に。

まるで、普通の人間のように、大事だと思えるものなど。

そこまで考えた時、玄関の扉がものすごい音を立てて開け放たれた。それと同時に、どかどかと家に入ってくる人の足音。

「しろ――――!」

そして聞きなれた声。

想像するまでもなく、これは冬木の虎、藤村大河だ。いきなりの訪問者に、セイバーが武装化しても困る。

「藤ねえ、あんまり大きい声出すと近所迷惑だぞ?」

やれやれと、肩をすくめて廊下に出る。そこには、白いダウンコートを着ている見慣れた姿、なのだが。彼女の弟分である自分に会っているというのに、彼女の目は驚きによって見開かれている。

何かおかしなところがあっただろうか、と思ったところ。

「ど、どちら様――?!」

大河の悲鳴によって、ようやく自分の姿のことを思い出した士郎だった。

 

 

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偽タイガー道場

師匠:うむ、ようやく私も本編に出られたぞ!。

弟子1号:私は二日続けて出ちゃいましたよ、ししょー! そういえば、作者のやつは、とうらぶの方はやってないんですかね?

ルビー:よくぞ聞いてくれましたね。作者の性別からしてそっちに走りそうなものなのですが、「子狐丸出ないし、藤四郎大杉ワロタ」とか言ってました。つまり、藤四郎が多すぎて刀剣の名前と顔が一致しないみたいですね。

師匠:四十過ぎて新入社員の顔を覚えられない会社員か! というか、やってはいるのね。

作者:子狐丸どころか、大太刀でないワロタwww ワロタ…………

弟子1号:艦これは艦これで川内さん出なくて第三艦隊解放されないみたいですよ、ししょー。

師匠:建造にドロップに、諦めたらそこで試合終了よ! さて、次回は修羅場となりそうな衛宮邸。ついでに何か、どこぞの金髪の青年の謎のサーヴァントが出てきそうな気がするわ。奴は一体何ガメッシュなんだ……? それでは、また次回もよろしくお願いします!

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