Be with you!   作:冥華

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部屋が片付かない……。アポ読んでないから読みたいのに……


幕間 -5 years ago-
Interval 2


スーパーのビニール袋を一生懸命抱え、家までの道のりをえっさえっさと一人の少女が歩いている。牛乳や大根など、重いものが沢山入った袋は、小学生の彼女が持つにはかなり重い。しかし、彼女は自分の仕事と割り切っているのか、はたまた何の疑問も抱いていないのか。文句の一つも表情に出さず帰路を急ぐ。

三月も半分に差し掛かろうというのに、まだまだ寒い日が続いている。西高東低、冬の気圧配置がこの時期になっても続いているのだ、と天気予報で女性キャスターが言っていた。ビニール袋の中にはレタスも入っていたが、今日の夕飯でそれを使うことは無さそうだ。こんなに寒いのなら、牛乳を使ってクリームシチューを作ろう。野菜たっぷりのシチューで体を温める、と彼女は主婦のようなことを考えていた。

家までの道のりで最後の坂に差し掛かり、重い荷物に足を取られながらも前に進む。半分ほど来ただろうか。坂の途中に金色のものが落ちていることに気がついた。士郎は、ゴミのポイ捨てなど深山町でする人がいるなんて、と多少憤りを感じつつゴミと思わしきものに近づく。金色のゴミとなるとおもちゃなのかもしれない。ゴミ箱は近くには無いため、家に持ち帰ることになる。だが、この冬木を守るためならばそれくらいなんともない。

ゴミを拾い上げようとした時。士郎は衝撃に身を固くした。

 

「……!」

金色のゴミだと思ったものは人の頭部であり、地面に人間がうつ伏せで倒れ伏していたのだ。ゴミと判断していた金色は、この人の金髪であることも分かった。背丈は日本の成人男性よりも少し大きい印象を受ける。髪の色といい、彼は外国人なのかもしれない。

慌てて人を抱き起こそうとするが、自分よりも一回りも二回りも大きい成人男性を腕の力だけで抱き起こすのには無理がある。ごろんと体を仰向けにするくらいしか出来なかった。

仰向けにすることで隠れていた男の顔が露わになる。男の肌とは思えない白く大理石のように滑らかな肌、すっと通っている鼻筋、薄い唇。彼の目は伏せられているが、きっと瞼の下には美しい瞳があるはずだ。

「王様みたい……」

ぽつりと士郎は言葉を漏らした。おとぎ話の中に出てくる王様は、年を取り威厳を見せる王だが、目の前の彼は若々しく美しい。それなのに、お姫様と結ばれる王子様ではなく王のようだと、士郎は無意識に感じていた。

「まーぼー……」

呻き声と共に、男の瞼が開かれる。紅玉、ルビーのように深みを持つそれが惚けた表情をしていた士郎を写す。と共に、がばりと勢いよく体を起き上がらせた。

「ぐっ……」

「いたぁ……」

避ける暇もなく男の額と士郎の額が激突する。ゴチンと音がして、二人して額を押さえうずくまる。僅かに涙を滲ませていた士郎。彼女よりも回復が早かった男は若干赤くなった額をさする。

「この我がこんなことで……。おい、小雑種痛むか?」

小雑種、と呼ばれたのが自分だとはじめは気づかず、キョロキョロと辺りを見回してしまう。しかし、自分と男以外に人がいないことに気がつく。

「小雑種って、俺のこと?」

「当たり前だ。貴様以外にいるわけなかろう」

至極当然という顔で言い放つ男を見て、むっとする。雑種という言葉は、犬や猫で使われるのを聞いたことがある。そして彼の口調から、自分を見下しているのだと理解できた。

せっかく人が介抱をしようとしたのに、なぜこんなことを言われなければならないのか。むっとした表情をする士郎だが、彼女はこのまま金ぴかを捨て置くという選択肢は浮かばない心優しい少女だ。

「そう何でもかんでも見下してるような言い方だと、友達いなくなると思うぞ」

「なっ……?!」

でもムカついたものはムカついたので、一応警告。予想外に大きく反応を見せた男は、士郎の言葉に固まっている。彼の心の傷を抉るような言葉が、士郎の言葉の中に入っていたようだ。

「お兄さん、何でこんなとこに寝てたの? もうそろそろ春だけど、こんなとこで寝てたら風邪ひいちゃうし、警察に連れてかれると思う」

彼女の問いかけに我に返る青年。

「はっ、笑わせるな。我を誰だと思っている。我は風邪などひかんし、警察など疾風の如く巻いてやるわ!」

自分が気に掛けたことを、真っ向から否定されたことで、士郎はすっくと立ち上がる。

「そっか、じゃあ俺もう行くな」

バイバイ、と手を振ってその場から立ち去ろうとすると、慌てたように男が彼女の手を掴んだ。

「待て待て待て! 王である我をスルーしていいと思っているのか?! 扱いが雑だ!」

何やら必死な形相で離すまいと手を握られる。自分のことを王とか言っている彼。身体が弱くて倒れてしまっていたというより、頭がどうかなっている人なのかもしれない。であれば、なるべく気を悪くさせないように、分かりやすく説明して立ち去らねば。ノーと言える日本人になる、と士郎は考えていた。

青年に向き直り、気持ちゆっくり目に伝えていく。

「あのさ、俺、これから夕飯作らなきゃなんだ。藤ねえも来るし。お兄さん、俺がいなくとも別に大丈夫そうだろ。だから、それじゃ」

自分のことはしっかり伝えた。これでもしつこく来るようだったら、大河直伝の護身術でもお見舞いしよう。背を向けて歩き出そうとした彼女だが、男はまだ離す気は無いらしい。ぐっと手を引かれ、ぽすんと男の腕の中に納まってしまう。

「そろそろ、怒るぞ」

彼を見上げ、怒りを僅かに滲ませた目を向ける。

「だから、待て! 子雑種よ、貴様夕餉を作ると言ったか?」

「え、あ、うん」

こっちは怒っていたのに、予想外の言葉を投げかけられて焦ってしまう。人の話を聞かない、唯我独尊の我儘王子。なんていう言葉が士郎の頭に過る。

我儘王子は、恐る恐るあることを士郎に尋ねた。

「お前の作る夕餉、それは麻婆か?」

「ううん、今日はホワイトシチューだけど?」

どうしてそこで麻婆のチョイス。たしかに、麻婆美味しいけれど。青年の質問に疑問を持っていた士郎。青年はというと、士郎のホワイトシチューという言葉に、目を見開いていた。

「ほ、ほわいとしちゅー……。何だそれは? 現世ではワインか麻婆しか存在しないのではなかったのか?! 我が毎日口にしていた麻婆以外に食べ物があったとは……」

「なんか、どっちも赤い。って、お兄さんそんな偏った食生活してたのか? 見た目健康そうだけど、そればっかりじゃ体に良くないぞ」

健康への第一歩は、バランスの良い三食の食事。とこの前見たテレビでの謳い文句を思い出す。毎日、麻婆とワインのみの食事、本当かどうかはわからないが、そんな食生活をしていたら体に悪いのは間違いないだろう。彼が先ほど倒れていたのも、食生活が関わっていそうだ。

「うーん、うちに来る? 凄い豪華な料理とか作れないけど、毎日麻婆だったら飽きちゃうよね」

ふにゃりと男に笑みを見せた士郎。彼女の提案に、一瞬驚いた顔をした彼だったが、ふんぞり返りながら言う。

「ほう、臣下の礼として、お前の夕餉に我を招待すると。中々いい心がけだな」

「麻婆豆腐の素もあったかな」

笑顔はそのままで言い放った士郎に、慌てて聞き返す。

「な、ほわいとしちゅーだと言っていただろう!」

「冗談だよ。あ、お兄さんの名前は?」

そういえば、自分は彼の名前すら知らない。性格は、なんとなく分かったが、いつまでもお兄さんと呼び続けるのも嫌だ。士郎が尋ねた名前。それを聞くと、彼は表情を硬くした。

「む……」

「どうしたの?」

名前を聞いてはいけない何かがあったのか、と不安げに瞳を揺らす。すぐに、心配ないというように頭を撫でられた。

「アーチャー、いや。お前にその名を呼ばせたところで、何の意味もない。我は、ギルガメッシュ。世界最古の王、英雄王だ」

高らかに名乗りを上げたギルガメッシュ。その名をもごもごと言ってみるが、なじみの無い横文字に士郎は早々ギブアップを宣言する。

「うん、長いからギルな」

「勝手に略すな!!」

即座に訂正を求めるが、ギル、ギルと嬉しそうに呼んでいる彼女を見てそれ以上は何も言わなかった。

「子雑種、王に名乗らせておいて、自らは名乗らぬつもりか?」

「俺? 俺は士郎。衛宮士郎」

誰がどう見ても女の子の外見で、士郎という名が合ってはいないと普通の人間は思いそうだが、ギルガメッシュは気になっていないらしい。

「ほう、シロウか。ふん、せいぜい我の口に合う料理を作るよう、励むことだな!」

「麻婆茄子もありかな。豆腐は切らしてるけど、茄子なら……」

「ほわいとしちゅーだ! 今日の夜は、誰が何と言おうとほわいとしちゅーだ!!」

はいはい、と言いながら先導しようとした士郎だが、今まで忘れていた荷物の重量がここぞとばかりに主張してきた。重さによろめいた彼女を、ギルガメッシュは荷物ごと抱きとめた。

「え、ありがとう」

彼が自分のために動いてくれたことが、すごく不自然だったがとりあえずお礼を言う。

「そそっかしいものよ」

荷物を片手で持ち、士郎の体を抱き上げる。想像以上に軽い体に、少しだけ眉を寄せながら彼は歩き出す。

「シロウ、お前の家はどっちだ?」

「坂を上って、真っ直ぐ行った武家屋敷。すぐ、わかると、思う……」

ゆっくりと歩いていくテンポに揺られながら、今まで全く感じていなかった疲れがどっと襲ってくる。買い物、いやそれだけでは無い。夜中に飛び回ったり、彼女から精神的に色々やられたり、等々。

「では、お前の家に着くまで、王の腕の中で眠ることを許可してやろう」

「うん、ありがと……」

穏やかなギルガメッシュの表情を見て、自分も笑みを見せた。

 

 

そして、心の中で。

彼がこんな穏やかな顔をしていることに、違和感を感じている自分がいた。

初めて出会ったはずなのに。

どうしてそう感じるのか。

今の士郎には、分かるはずもないことだった。

 

 

 

 




偽タイガー道場

師匠:金ぴかさん……セイバーちゃんにご執心なとこでも思ったけど、ロリk(ry

弟子1号:し、ししょー! 世の中には、言っていいことと悪いことがあるって知らないんですか?!

師匠:あー、でもここって治外法権的なタイガー道場ですから。これくらいの発言は……ドゴッバキッ←大いなる意志からの制裁

弟子1号:し、ししょー!!

ルビー:あらあら、どこからともなく、様々な宝具の原典が飛んできましたね。世の中、言ってはいけないことを言ってしまった人間は、こうなるんですね、ふふふ……

弟子1号:ししょー! 固有結界の継承、まだ済んでませんよー!

ルビー:女の子になりたてだった士郎さんが、どうして精神的なダメージ的な物を私から負わされていたのか、とかは追々分かるかも? にしても、金ぴかさんは節操ないですよね……

弟子1号:読者のみなさん! いつも読んでくださって、ありがとうございます! 更新速度落ちまくってるのに、読んでくださってマジ感謝っす! 次回は、リンと追いかけっこくらいまで書けるといいなーなんて思ってるみたいね。
それでは、今回もありがとうございます。次回もまた、よろしくお願いします!!

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