食卓に並べられた四人分の朝食。鮭の塩焼き、ふわふわ卵焼き、ほうれん草のお浸し、大根の味噌汁と白米。いわゆる日本の朝食というものが並んでいた。自分の料理を楽しみにしてくれていたセイバーは、彼女の横に腰かけているギルガメッシュにピリピリとした視線を送っている。こんなことが数日前にもあったような気がする。この気まずすぎる空気から逃げようと、大河の空になった茶碗を持って台所へ向かった。
「士郎さん、士郎さん」
炊飯器を開けて白米をよそっていると、にょきっと自分の後ろからステッキが現れる。いつもは家に人が来ている時彼女が姿を現すことを良しとしないが、今回は別だ。
「何、ルビー?」
「いえですね、何とも凛さんとアーチャーさんがここに来た時のデジャヴだなって思ってですね」
この気持ち共感してくれるのなら、少しくらい出て来てもらっても構わない。ひそひそと小声で士郎は返す。
「うん。俺もちょっと思った」
柱の影から食卓の様子を覗き見る。大河は相変わらず黙々と幸せそうな顔をして食べている。問題なのは、ギルガメッシュとセイバー。自分の分の卵焼きを箸で掴み、セイバーの目の前でひらひらさせているギルガメッシュ。食べ物で遊ぶなとか、セイバーで遊ぶなとか言ってやりたい。そして、セイバーはセイバーで差し出された卵焼きを警戒しつつも最終的には全て胃袋に回収している。
「知り合い……のわけは無いよな?」
セイバーとギルガメッシュのやり取りを見ていると、どうしても初対面とは思えない。だが、セイバーが過去の英雄であることを考えると彼と知り合いのはずはない。無いのだが……。うーむ、と唸りながら見ていると、満面の笑みを浮かべた大河が彼女の名を呼んだ。
「シェロちゃん!」
「は、はいっ!」
無言で黙々と食べていた大河に話しかけられ、声が上ずってしまう。だが、緊張していた自分とは裏腹に大河の表情は柔らかい。
「士郎と同じくらい料理上手なのね。お姉ちゃん、感激だぞ!」
そりゃ中身同じですから、と返しそうになるのを抑えて曖昧な笑みを見せる。自分の横で浮遊していたルビーは、ほふく前進のように床に這いつくばって進んでいる。持ち手の部分をうにょうにょと曲げているのを見ると、ちょっと芋虫っぽい。
大河とギルガメッシュには見つかってくれるな、と思いながら視線を送っていると、うっとりとした声で大河が続ける。
「シェロちゃんって得意料理とかあるの? 今日の夕飯も楽しみよぅ」
得意料理はもちろん和食。今日の夕飯もそのつもりだった。昨日買ってきた食材で、今日の夕飯は三人分くらいはまかなえるだろう。二人が喜んでくれるのなら、少し今日も豪華目にしてしまおうか。などと考えながら茶碗を持って居間に帰ってくると、彼女が時計を見て叫び声を上げた。
「って、もうこんな時間! シェロちゃん、学校までダッシュよ。遅刻、遅刻ー!」
手続きとかあるのよ、と彼女の手を引っ張った。バランスを崩す前に茶碗をテーブルに置き、まだ食べ物が賑やかに並べられているその上を指差した。
「あ、でも片付けとか、このご飯とか……」
いつも学校に行くときは、片付けを全て終わらせてからしか家を出ない。その習慣を放り出して、このまま登校するというのは気が引ける。
がたりと音を立ててテーブルに手をつき、セイバーが身を乗り出した。
「シェロ、私に任せてください。食器を空にし洗って、棚にしまえばいいのでしょう? 造作もありません」
ドヤッと主張するセイバー。彼女が、自分の学校についてくるということを完全に忘れているため、士郎はそれ以上何も言わなかった。説得する手間が省けたやったー、くらいは思っているが。
「ありがとう、セイバー。それじゃあ、よろしくね」
士郎は学生カバンを引っ掴み、部屋を走り出ていった大河を追う。
「藤村先生、待ってくださーい!」
遠ざかっていく士郎の声を聞きながら、セイバーは彼女が置いていった茶碗を手にする。
「ふふん、私だってこれくらいはシロウのためになれるのです」
「ふむふむ、自らの主を一人で向かわせるとは。よほど自分のマスターの強さに自身だあるようだな、セイバーよ」
幸せそうにご飯とおかすを頬張っていたセイバーを、ギルガメッシュは呆れた目で見つめていた。彼女が第四次聖杯戦争の折に自分に最後まで抗った、誇り高き剣の英雄だと言われてもピンとこない。どちらかというと、試食係の英雄っぽい。
「え、あ、あぁっ!!」
彼に諭されたことで、みすみすと自分の主を一人で出歩かせてしまったことに気が付く。いくら食事に気を取られていたとはいえ、サーヴァントらしからぬ行動のオンパレードだ。
「くっ、アーチャーに指摘されるまで気が付かないとはなんてことを……。昨日はまだ良かったとはいえ、今日は丸一日シロウを一人にすることに!」
箸と茶碗は離すこと無く、セイバーは立ち上がる。昨日彼女と行った学校が士郎と大河の目的地だということはわかっている。道は記憶しているため、今から後を追えば問題ない。後片付けとか任されたことを完全に忘れて、士郎の元に行こうとした彼女を静止する声が響いた。
「心配ありませんよ、セイバーさん」
声は、馴染みのあるものだった。しかし、どこかいつも聞く者よりも大人びており、声の主がまるで人間であるような錯覚を覚える。
「貴様か、魂の入れ箱」
セイバーのみを目に映していたギルガメッシュは、反対方向に立つ声の主を振り返る。慌ててセイバーもそちらを向くと、そこには一人の少女が佇んでいた。
「その呼び方、好きじゃないですね。金ぴかさん」
短くそろえられた赤の髪に結ばれている青のリボンと、ひょっこりのぞく狐耳。白いエプロンの下には太ももまでの改造されているミニスカ着物。濃いピンク色のオーバーニーソックス。見たことのない少女の姿に、セイバーの碧眼は点になる。
少女は形の良い眉をひそめ、僅かな殺気を滲ませる。ギルガメッシュに対するささやかな牽制がそこにあった。そして、手に持った箒の柄の部分をセイバーに向け言い放つ。
「士郎さんを守るのは私、セイバーさんじゃありませんから。どうぞ彼女のことは私に任せて、そこの金ぴかさんとランデブーしてくださいな」
「誰が、この成金とランデブーしますか!!」
というか、そもそもランデブーってどんな意味ですかと尋ねるはずの相手の姿はもう無く。部屋に残されたのは、自分とお味噌汁を啜っている英雄王と食卓のご飯のみ。では、あの少女は一体誰なのか。自分をセイバーと呼ぶあの口調の存在は、今のところ一人、いや一つしか思い浮かばない。
「……待ってください。今の、ルビーですか……?」
肯定も否定もせずにギルガメッシュは箸を置いた。セイバーは士郎が駆け抜けて行った障子の先を不安げに見つめていた。
「どうして、魔術礼装であるルビーが人の姿をとって、いる?」
るんるんとスキップをしながら校舎を歩いていく士郎と大河。多くの生徒が登校していく時間はまだ先のため、廊下を行き来する人の数は少ない。少ないはずなのだが。
冬木の虎、藤村大河が見知らぬ少女の手を引いて歩いている、という情報をキャッチしたやじ馬たちが階段の踊り場や教室の窓から二人の姿を覗いていた。
――あの子、初めて見る。
――転校生かな。
――それなら、何でタイガーが連れてるんだよ。
――結構可愛いよな。
――良妻感漂いすぎだろ。
――あ、こっち見てくれたぜ。
そりゃあ、影からひそひそとずっと話し声が聞こえていたら気になるにきまっている。自分がここまで注目されると思っていなかったため、なんとなく人々の視線が煩わしい。
大河の行先は言わずもがな、職員室。ようやくたどり着いたと思ったら。
「それじゃあ、シェロちゃん。ここで待ってて。すっごく頼りになる、うちのクラスのエースを向かわせるから!」
「は、はぁ……」
まだこの好奇の視線の中に晒されるらしい。ついでにいうとうちのクラスのエース、そう言われてただ一人士郎が思いつく人物がいた。
先生は仕事あるからここで待ってて、と言われ手持無沙汰となる。大河の呼んだ、クラスのエース。一成早く来ないかな、などと考えていると。
「衛宮?」
呼ばれることの無い名前を呼ばれた。
「!」
自分の後ろから聞こえた声に勢いよく振り返る。赤茶色の髪がふわりと弾け、それと同時に制服のスカートも揺れる。彼女の瞳に、衛宮士郎の友人である柳洞一成が映った。
対する一成はというと。
「あ、いや。すまない、ええっと。人違いだ」
思わず呼びかけてしまった名前の主。毎日のように見ている彼の色と同じものを目の前の少女から感じた。そう思った時に、自然とその名が口から出てしまった。実際、彼とは見るだけで分かるように性別が違うのだが。そのへんの若干の気まずさからコホンと咳払いをして、目の前の転校生である彼女に自己紹介をしていく。
「俺は柳洞一成。この学園の生徒会長を務めている。藤村先生から、君に案内を頼むと言われたのだが、うむ」
ぐっと顔を近付けて、彼女を至近距離から見つめる。
「どうか、しましたか?」
で、その反応に驚くのはもちろん士郎であって。一成の眼鏡のフレームがすぐ近くにあることにドキドキしながら、自分の名を呼んだ訳を聞いてみる。
「君が少し友人と似ていてな。友人の名を、思わず無意識に呼んでしまった」
苦笑しながら言った一成を見て、士郎の悪戯心が疼く。
「その友人って、男の子?」
士郎の口から出た問いかけに、一成は目を丸くして驚く。
「え、あ」
歯切れの悪い返事。滅多にそんな顔を見せない一成が見れて、少しだけ得をしたと思ってしまう。ついでに、もう少し彼の焦った顔がみたいと思ってしまう。
「ふーん。柳洞君は、出会ったばっかりの女の子を、友達の男の子と見間違えちゃうような人なんだ。へーえ?」
「う、あ、っと。すまない、女性に対して失礼だったとは思っているのだが」
顔を赤くしたり青くしたりと変えた後、一成はしょんぼりと肩を落として謝る。その本気度合いに驚き、士郎は慌ててフォーローする。
「じょ、冗談だ。落ち込まないでくれ」
士郎の言葉で顔を上げた。
「そういえば、君の名前をまだ、聞いていなかったな」
「おれ、じゃなくて。コホン、私はシェロ。シェロ・ペンドラゴン。よろしく」
見た目は日本人なのに、外国の名前という点に突っ込まれるかと思ったが、一成が気になったのはそちらではなかった。
「よろしく。あー、呼び方はペンドラゴンさん、でいいのか」
「まぁ、それでもいいんだけど。シェロって呼んでほしいかな、なんて」
いつもは衛宮、と呼び捨てにされているのだ。自分の姿が違うことは分かっているが、よそよそしい呼び方を彼にされることは少し辛い。
そう思って言ったのだが、一成の眼鏡の奥の瞳が僅かに見開かれるのが見える。とたんに、彼の頬が紅潮していった。
「しかし、会って間もない女性のファーストネームを、いきなり呼び捨てにするというのはだな」
どうかと思う、と消え入りそうな声で続けられた。ころころと表情の変わる一成を見て、小悪魔のような笑みを浮かべた。
「一成にだったら、シェロって呼んでもらいたいな、なんて」
ぐっと彼の手を掴んで言う士郎。彼女のオネガイに、あたふたとした様子を見せる。こういった彼を見られるのも、本当に珍しいものだ。
「君がそう言うのなら、か、構わないというか。俺のことはその、名前で呼んでくれるのだな」
「ダメ、だったか?」
若干上目使い気味で尋ねられ、少しだけ視線を逸らす。だが、すぐに彼女に向き直った。
「いや、君のような
ふっと見せられた彼の笑顔。それが他の誰でもない自分に向けられていることに気が付き。
「っ……」
油断していた。
「よろしく、一成。く、クラスまで案内してくれると助かるっ!」
声が裏返りそうなくらいの勢いでまくしたてると、彼の手を取って廊下を歩き出す。
「あ、あぁ、分かった。承ろう」
彼もまた声が上ずりながら早足で士郎と共に歩いていく。
その二人のやり取りを余すところなく見ていた、一人の男の存在があるとも気が付かずに。
――放課後。
いつもならば学校内を回って、備品の修理などの必要が無いか聞いて回ったりもするものなのだが、転校生の自分がいきなり衛宮士郎のようなことをしては、怪しまれること間違いなし。それに、連続殺人事件などの影響で校内の居残りも認められていない。
少し物足りない気もするが、今日の所はセイバーもいることだし早く家に帰って、と思っていた。学生カバンを持って教室を出る。と、ここでいつもカバンの中の面積をかなり取る魔法ステッキの存在が入っていないことに気が付いた。
「嘘だろ……」
あの魔法ステッキが動いてしゃべっている姿が、この学園の人間に見つかってしまったら。「怪奇! 穂群原に出現した喋るステッキ」などという見出しの学内新聞が発行される日も遠くない。
「探し物はこれかしら? 衛宮さん」
自分一人だけだと思った廊下で声を掛けられた。
「遠坂」
昨日の朝会った少女、彼女の手には士郎が今まさに探しに行こうとしていたステッキがあった。
「遠坂が見つけてくれたのか、ルビーのこと。ありが……」
お礼を言い彼女に近づこうとした彼女の足元に、一発のガンドが撃ち込まれる。
「っ!?」
廊下の地面が抉れ、ひび割れているのを視認する。自分の足にこのガンドが当たっていたら。そう考えるだけで血の気が引く。
「見つけたんじゃない。私が取って、調べていたの。朝、学校に来るときにステッキが一本だけでふよふよ浮いてたんだから! 私がどんなにびっくりしたと思ってるのよ。魔術は秘匿されるべきものっていうのは魔術師ならアンタでも知ってるでしょ!」
「う、ごめん」
このステッキに自由行動権を与えたのは自分だ。自分に非があるのが分かり、素直に謝る。
「まぁ、いいわ。この魔術礼装を見ることが出来たのは、私にとってプラスなことだったもの。それで、衛宮さん、あなた、昨日私が言ったこと。もう忘れちゃった?」
忘れたつもりはなかった。それを受け入れるかどうかは別として。
「次に会った時は敵同士。そう言ったはずよ。それなのに、セイバー連れてこないわ、あなたの魔術礼装であるこのステッキすら持ち歩いていない。それじゃあまるで、殺してくれって頼まれてる気がするわ」
「人目の多い場所で、魔術を使ったりはしないだろ。それなら、学校なんて大勢の人がいるところでいきなり襲われたりは……」
「えぇ、でも、今のここだったらどうかしら?」
凛が辺りを見回す。
下校時間が早められ、生徒たちは帰宅している。教師たちも仕事は家で片づけるように言われたと、大河が終礼時に言っていた。自ずと導き出された答えに、彼女は悲鳴のような声を上げて否定する。
「待って、私は遠坂と戦いたくなんかっ……!」
無情にも凛は士郎の言葉を最後まで聞くことなく、左指に集まった魔力を放った。
「あなたは戦いたくなくてもね、私にはあなたと戦う理由がある!!」
真っ直ぐ自分に向かって来たガンド。咄嗟に無を翻すことでその一撃は避けることが出来た。しかし、凛から打ち出されるガンドは止まることを知らない。彼女の左腕のシャツの袖から覗き見えた魔術刻印。魔力を通すだけで展開される無限にも感じられるガンド撃ち。それに太刀打ちする術を、今の士郎は持っていない。
それを理解すると、士郎は階段を目指して一気に走り出す。
「ちょこまかと、逃げるなッ!」
士郎に続いて廊下を駆ける凛。乱れ撃ちされたガンドを全て避けきることが出来ず、左腕の制服のシャツを切り裂く。
「っぁ……」
ガンドが命中したことの衝撃で、バランスを崩してしまう。足がもつれ、床に倒れた士郎。痛む左腕を押さえるとシャツにじわじわと血が滲んでいく。だが、ここで時間を費やすことは出来ない。
「覚悟なさい!」
今日で何度目になるか分からない凛の怒声。彼女の気配をすぐそばまで感じる。動け、と自身の足を叱咤し、もう一度立ち上がる。階段を踊り場まで駆け下り、窓を開けた。危険だと分かってはいるが、これくらいしか思いつかない。
「ここから飛び降りる?! 馬鹿じゃないのっ!!」
追いついた凛は、士郎が窓の枠に足を掛けているのを見て目を見開く。一度だけ凛を振り返るが、それ以上士郎は気にすることなく宙へと駆け出した。
「嘘っ?!」
慌てて窓に駆け寄ると、どさりという音が聞こえた。血の気が引きながら窓の下を見ると、花壇の茂みの中で腰をさすっている士郎の姿が見えた。
「よ、よかった……」
突拍子もないことをされて、このまま彼女が死んでしまったら。きっと、あの子も悲しむ。そこまで考えたところではっと気が付いた。
「って、何考えてるのよ。私……」
今、すぐ前まで殺そうとしていた少女の安否を気にして、一喜一憂するなど。つくづく自分の甘さを思い知らされる。非情になり切れない自分の掌に爪を立てた。
「っう……いたた」
あのまま廊下を追いかけっこしても勝ち目はない。そう考えたからゆえの行動だったが、ぎりぎり生き残れたようだった。下も見ずに飛び出してしまったが、運よく花壇の茂みがクッションのようになって衝撃を防いでくれたようだ。
「大丈夫、だいじょう、ぶ」
腕の痛みも、打ち付けた腰の痛みも、捻ってしまった足首の痛みも。全部全部、このくらいなら耐えることが出来る。よろよろと立ちあがり、校門を目指して駆け出した。
早く、早く。
世界が闇に覆われる前に。
夜が、魔術師の刻が訪れる前に。
前へ。
「あ……」
あと少し、士郎が感じた時、目の前の風景が滲み出す。それと同時に感じる殺気。身を翻す間もなく、気が付いた時には士郎の首元には双剣の片割れが添えられていた。
「動くな、衛宮士郎。動けばその首を落とす」
赤い弓兵。嫌というほどに目に焼き付くその姿は、まぎれもない。
「アンタ、遠坂のサーヴァント」
失念していた。自分はセイバーを連れておらず、凛の方から一人で仕掛けてきたため彼女だけから逃げきれればそれでいいのだと勘違いをしていた。
「凛はあんなことを言ってはいたが、君を殺すことは出来ない。最優のサーヴァントを従える半人前の魔術師。殺さずして、どうしろというのだね」
ひやりとした剣の刃はいつでも自分の喉を切り裂ける。対する自分は戦う術を持っていない。ここで彼に殺されるのは決定事項だろう。
それなのに。
――まだ、ここで終わりたくない。
義務を、約束を、何一つ為すこと無く、ここで肉塊となるのは御免だ。
――それなら、いつもみたいに私のこと、呼んでくださいよ。士郎さん。
そう、彼女の声が聞こえた気がした。
「どうした、命乞いでもするのか」
顔を伏せたまま何も言わなくなった士郎にアーチャーは問いかける。
「ふふっ、あはは、あはっ……」
その笑い声に、違和感を覚える。
「何が可笑しい、衛宮士郎」
アーチャーの問いかけに、俯いていた士郎は顔を上げる。その表情には張り付けたような笑みと、背筋を凍らせるような笑み。
「だって、笑っちゃいますよ、アーチャーさん」
その口調に、違和感を覚える。
彼の脳内に警告音が鳴り響く。
「掃除屋ごときが、この私に勝てるとでも?」
例えるならば、氷のように冷ややかな声だと誰もが言うだろう。すっと血の気が引くような冷酷さを含んだ声音。少女はゆらりと体を動かした。その動きは、動かぬ体を目の前の少女の中のあるものが、無理やり動かしている。壊れた玩具を、電池を入れ替えることで強制的に動かそうとする、そんなものに見えた。
自分のマスターやセイバーに見せていた柔らかい色をした瞳はそこには無く。目の前のアーチャーを敵とみなした、殺意が交わる『琥珀』の瞳。
そこでようやく気が付く。これは衛宮士郎であって、衛宮士郎でない。
アーチャーが彼女の喉元から剣を引き、間合いを取った瞬間。悍ましいほどの魔力が彼女を包み込む。
「さあ、始めましょう」
偽タイガー道場
師匠:やっと、追いかけっこまで来たわね~
弟子1号:ちょっとだけ、今回は長いのに気が付いたかしら? 一成とのやりとり書いてたら思いの外長くなっちゃったみたいなのよね。
師匠:それよりも、見ましたかUBW2nd!!
ルビー:その話題を、イリヤさんの前で振る大河さんは凄まじい存在だと思いますよ。
弟子1号:私、天使じゃなかった?! OPであーんなに可愛くしてもらえて、マジ感激ッス! まぁ……次回予告のあの男の声を聞いた瞬間に、こう胸が、きゅーってしたんすけどね!
ルビー:恋ですよそれ。
師匠:うむ、恋だな弟子よ!
弟子1号:わーい、二人の微妙な優しさが更に胸をきゅーっとするッス。と、今回も読んでくださってありがとうございます。別に、アニメ始まったから執筆速度上がったりしませんけど、これからもよろしくお願いします!!
あと、この小説もUBWっぽいけど、私大丈夫よね?! だれか、大丈夫って言って!?