Be with you!   作:冥華

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ねぇ、マスター?


幕間 -5 years ago-
Interval 1


 

まどろむ意識の中。

少女は遠き過去の記録を回想する。

 

衛宮士郎にとって、忘れらえない記憶というものがいくつか存在する。そのうちの一つが、今の彼にとって初めての記憶である、赤い炎に包まれた5年前の記憶。そして、炎と瓦礫の中から自分を助けだした男との出会い、別れ。そして、今日だ。

初めて空を飛んだ。

初めてアッパーカットをした。

初めて警察に万引き犯を引き渡した。

初めて性別が変わった。

……あぁ、もちろんおかしいなんて気が付いていた。だがそれでも、気が付きたくなくて、目を逸らしてしまう事実というものが存在する。それが彼にとって今だったというだけ。

「いやぁ、それにしても士郎さん。さすがですねぇ、私との相性バッチリです。魔法少女のセンスありますよ、どうですか。今なら、初回月無料で永久契約プランなんていうものもありますよ?」

ジーンズにトレーナを着て、胸におもちゃのステッキを持ちながらすたすたと歩いていく士郎。少し服が大きめに見えるが、周りの人は特に気にすることはない。だが、当の本人は顔を真っ青にしながら人目を避けるように歩を進める。

「ありえない、何で性別が変化するんだ? どう考えてもおかしいだろ。どんな魔術だよ。というか、そんな魔術ってあるの……か?」

「いいじゃないですか、士郎さん。可愛いは正義ですよ? 今のあなたの姿、無茶苦茶可愛いですって」

男子から女子に変化して二時間。可愛いと言われても全く持って嬉しくない。そればかりか、穿いていたズボンは腰のところが緩いし、ただでさえ小さかった背はさらに小さく。

「良くない、全く良くないし、可愛いなんて言われても全く嬉しくない!」

俺は男だ、と消え入りそうな声で言う。そうでもしなければ、今の自分を見失ってしまうそうだ。対して、元凶であるルビーは消極的な士郎の言葉に唇を尖らせる。

「……さっきから文句が多いですね。なっちゃったものは戻せないんですから、諦めて新しい人生歩みましょうよ」

「戻れないのか、これ?!」

「えぇ、私以外の魔力も組み合わさって女の子になってますから、よほどの魔術師、というか魔法使いじゃないと無理ですね、きっと」

きっぱりと衝撃の事実を告げられた士郎は、放心状態で立ち止まる。深山町に向かう坂の途中。これほどまでにこの坂が長く、大きいものだと感じたことは今までなかった。

「そんな……」

絶望に満ち溢れた悲痛な声。彼の目にともっていたハイライトが消えていく。

「だって、女の子じゃ、正義の味方になれない……」

必死に絞り出した言葉を聞いて、ルビーはきょとんとしてみせた。だがすぐに彼の言葉を否定する。

「それは違いますよ士郎さん」

あはは、と笑いながらルビーは続ける。

「女の子だから、男の子だからなんて関係ありません。正義の味方が男子限定なんて決まり、無いでしょう? そもそも、士郎さんはなりたいんでしょう、セイギノミカタに。だったら、なればいいんですよ」

当たり前のことだというように言う。ぱちりと一度瞬きをして、士郎はルビーを見つめる。どう確認しても、このステッキには顔は無いが、顔っぽい五芒星の部分と目を合わせた。

「……なりたい、ううん。ならなきゃいけないんだ。そう……約束したから」

果たさねばならない誓い。

それだけに全てを求め、再びキラキラとしたハイライトを灯した士郎の姿にルビーは笑い声を漏らす。

「ふふふっ……」

「何だよ、気持ち悪い」

「いえ、マスターは何と純粋で……そうですね、悪徳商法に引っかかりやすそうな人間かと改めて思いまして。ブラック企業と知らずに、とある超エリート会社に永久就職して、どよーんと摩耗する未来が見えますよぅ」

随分と具体的な未来像。どこぞの英霊の座のとある赤い人がくしゃみをしていそうなほど具体的だ。褒められてはいないと分かり、ぷくぅと士郎は頬を膨らませる。

「馬鹿にしてるのかよ」

「とんでもない! 絶滅危惧種並みの士郎さんの性格を褒めることはあっても、けなしたり馬鹿にしたりなんかしませんって」

大げさに羽をばたつかせて弁解を始める。

「純粋であることは、悪いことではありませんよ。ですが、見えているものから目を逸らし続けると、グレて爆発した時の反動が大きくなりますから、ほどほどに。士郎さんだと何か、キザで皮肉屋の現実主義者になりそうです」

これまた随分と的を得た……では無く。まるで未来を見てきたような……でも無く。まぁ、再び具体的なことをルビーは言ってくれる。

「…………何が言いたいんだ」

「まぁ、何と言いますか……」

ふむ、と長考し言葉を選ぶ。

「深く考えずともいいです。私は、士郎さんにはなるべく今の士郎さんのままでいて欲しいと思っているだけですから」

ぽかんと口を開けて士郎は驚いているようだった。その様子に訝しげな視線をルビーは向ける。

「どうしました、士郎さん?」

「なんか、それって……。アンタが俺とずっと一緒にいてくれるみたいな言い方だなって思っただけ」

「ははーん、そんなに嬉しいですか? そう簡単には消えなさそうな存在と出会えて」

「なっ……」

ぽっと顔を赤らめさせる彼女。ルビーはからかうような視線と共に言葉を紡ぐ。

「いいですよ、士郎さん。貴女が望むのなら、私は何年でも何十年でも何百年でも一緒にいてあげます。貴女は私を選び、貴女を選んだのもまた、紛れもなく私ですから」

――あなたが意志に組み込まれるまで、ずっと共に。

そう続く言葉を押し殺し、ルビーは士郎の腕にすっぽりと収まった。士郎ももう文句は言わずに、屋敷に向かって無言で足を進める。時刻は午後三時を回っている。そろそろ世話焼きな隣の虎が、一人で年を越すことになる士郎を心配してと突撃してくるだろう。彼女に今の自分の格好をどうやって誤魔化せばいいのかと、頭を悩ませながら。

 

 

 

カレイドステッキ。

魔法使いであり、死徒二十七祖の第四位、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが作り出した魔術礼装。その中には、人工精霊と自称する一つの人格が埋め込まれている。

彼女がそこに宿ったのは十年前。冷たく降りしきる雨の日のこと。しとしとと降る雨が窓ガラスを滴り落ちていくのを見て、人間が流す涙のようだと彼女は感じた。

絶望、落胆、憎悪、空虚。全てを背負い、全てを封じ、ステッキは一つの箱に納められた。そこに入ってしまえば、何も感じることは無い。ただ、運命に導かれ、箱が開くその時を待つのみ。それが何年、何十年、たとえ何百年だとしても、その時間はルビーにとって長くもなんともないものだ。造られた彼女にしてみれば、瞬きをするのと同じくらいの年月。

世界は滑稽だ。

くだらないものの意志によって、潰えそうな寿命を強引に引き延ばしているだけ。

そんな世界に生かされている人間に、興味を持つなど。

ありえないと。

そう、思っていたはずなのに。

 

――興味と関心が湧きました。宇宙の中の一つの惑星に生きる、ちっぽけな存在に。

 

彼女は嗤う。

運命を捻じ曲げられた一人の人間を。

ご愁傷様。

私と出会った時点で、あなたの未来も魂も。

 

『もう逃げることは出来ませんから』




偽タイガー道場

師匠:……え?

弟子1号:え?

二人:ええっ―――――?!

ルビー:どうかしましたか? そんな叫び声上げて。

師匠:い、いえですね、ルビーさん。何故だか、あなたが黒幕みたいな、そんな感じがするのですが――。

ルビー:嫌だなぁ~師匠さんってば。黒幕を務めるのは、ジョージボイスって決まってるじゃないですかぁ。私は、ただのマジカル割烹着ボイスじゃないですか。黒幕なんて、そんなぁ~

弟子1号:そ、そうよね。こんな奴に士郎をこれ以上どうにか出来るわけないもの、うん。

ルビー:えぇ、ですからご心配なく。作者はまどマギ大好きですけど、ご心配なく!

師匠:と、とりあえず次回は聖杯戦争二日目! 私の活躍もあるかも? ないかも!
今回も読んでくださってありがとうございます。次回の更新もまた、よろしくお願いしますぅ!!

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