今回からアニメ2話の内容に入ります。前作とは違った導入になってますので、読み比べるのもまた一興?
お気に入り登録や感想、評価などもモチベに繋がりますので、ぜひよろしくお願いします!
翌日。すっきりとした寝覚めで玄関を出ると、ちょうど前を通りかかろうとしていた歩夢にばったりと出会った。
「あ、ハルくんおはよう。今日は早いね」
「なんか目ぇ覚めちまったからな」
「ふふっ、そうなんだ」
歩夢とマンションの外へ出て、階段の下で侑を待つ。
他愛無い会話の中、歩夢が何かに気づいたようにオレの鞄へ目を向けた。
「あっ、パスケース......もうつけてくれたんだ......!」
「ん、まぁな」
オレの鞄につけられたブラウンのパスケースを見て、歩夢が嬉しそうに言う。
見れば、歩夢もピンクのパスケースを鞄につけていた。
「でもコレ、オレがつけるにはちょっと変じゃないか......?」
歩夢がくれたパスケースは3人お揃いで花柄のものだったが、一介の男子高校生がつけるには少しかわいすぎかとも思う。
「そんなことないよ! すっごく似合ってる!」
「そ、そうか? ならいいけどさ......」
無邪気な笑顔ではっきり言い切るもんだから照れが出てしまい、思わず頬をかく。とはいえ、そう言ってもらえるのは素直に嬉しいし、微妙な反応されるよりかは遥かにマシだ。
「ハルー! 歩夢ー!」
待つこと数分。マンションから出てきた侑が、階段の上からオレたちを呼ぶ。
「待たせてごめんね〜、ってうわぁ!?」
「侑ちゃん!」
「うおっと......!」
慌てて駆け降りていたせいか、階段を踏み外してバランスを失った侑は前のめりに倒れ込む。幸い、オレのすぐそばまで降りてきていたからなんとか抱き止めることができ、ケガに至らずに済んだ。
「おい、大丈夫か?」
「ご、ごめんハル......ありがと......!」
ったく......ケガしなかったとはいえ、もうちょっと落ち着いて動いてほしいもんだ。
「......結構がっしりしてるんだ」
「......侑?」
「えっ、なにっ?」
「いや、離れてほしいんだけど……」
「うわぁ! ご、ごめん!」
慌ててオレから離れる侑。
「あはは......! じゃ、じゃあ行こっか!」
そして首元を抑えるようにはにかみながら、そそくさと先を行ってしまった......急にどうしたんだ?
感覚で行動するアイツの思考はわからないことが多いけど、今のはいつにも増してよくわからなかった。
そんな風に少し離れた侑の後ろ姿を見ていると、背中にぴとっ、と何かが触れる感触があった。
後ろを確認すると、歩夢がオレの背中にぴたりとくっついている......なんで?
「あ、歩夢? どうした?」
「あっ......!」
飛び退くように離れると、歩夢は一瞬もの悲しそうな顔をした後、不満そうに頬を膨らませて、
「......なんでもないもん」
とだけ言って、歩いていった。
オレ、アイツらのこと全然わかんねーよ......
*
時は流れて、昼休み。
用を足して教室に戻る最中で、
「うおっ」「ぷぎゃっ!」
曲がり角のところで女子とぶつかってしまった。相手が小柄な体躯だったんでオレは少しよろける程度で済んだが、女子の方は盛大に尻もちをついていた。
「おい、大丈夫......か」
気にかけながら手を差し伸べたところで、ふとあるものが目に入った。
この子は今、尻もちをついている。予期しなかった衝突で受け身を取ることに精一杯になり、倒れた後の姿勢なんて気にする余裕がなかったんだろう。両手を後ろについて、両膝を立てた体勢。
ところで、この学校の女子制服のスカートは結構丈が短いデザインだ......つまり何が言いたいかというと。
パンツさん、どうも。
「いたた......! すみませ......ん?」
固まったままのオレを不思議に思ったのか、視線を辿る女子。
そして、
「ぎゃあああああ⁉︎」
盛大な叫び声を上げながら、目にも止まらぬ早さで立ち上がり、スカートを押さえた。
「み、見ましたね......このヘンタイ!」
「いやどう考えても事故だろっ。不可抗力だ」
「なーにが不可抗力ですか! 思いっきりガン見してたじゃないですか!」
「それはびっくりして思考停止してたっつーか......とにかく見たくて見てたわけじゃねえよ......!」
威嚇するように俺を睨みつける少女。しかし小柄なその体に威圧感はなく、顔立ちもとても可愛らしいものだった。
くすんだベージュが特徴的なショートヘアに、1年生であることを示す黄色のリボン。
この学園に入学した時から感じていたことだけど、ここは女子生徒の比率が多いし、そんでもって容姿のレベルが高いんだよな......
「うぅ......かすみん、もうお嫁に行けないですぅ......!」
かすみん......? つーかそんな大袈裟な。
「悪かったって、記憶から消しとくから。それじゃ」
「なんですかその雑な対応! かすみんのパンツは記憶に残す価値なしってことですか!」
いや、じゃあどうしてほしいんだよ......? あと女の子が大声でパンツってあまり言わない方がいいと思います。
「というか、このまま行かせるわけないじゃないですか。こうなったらスケベ先輩にはかすみんに協力してもらいますから!」
「協力? つかその呼び方やめろ」
人聞きが悪すぎて余計な誤解が生まれるからやめてくれ......しょうがねえな、話ぐらいは聞くか。
「かすみん、人探しで2年生の階に来たんですけど、全然見つからなくて......」
「人探しって、誰を探してるんだ?」
「この人です」
1年生はその人物の画像が表示されたスマホの画面をオレに見せる。
その顔は、記憶に新しい顔だった。
「優木せつ菜......」
「知ってるんですか! どこにいるかわかりますか⁉︎」
「いや、知ってるのは名前だけだ。会って話したこともないし、どこのクラスかは知らない」
「なんだぁ......もうっ、期待させないでくださいよぉ!」
露骨にがっかりした表情を見るに、それだけ人探しが難航しているのがわかる。それはそれとして、なんでオレが責められてる感じになってんだよ......
しかし、優木せつ菜とこの1年生に、どんな関係があるんだ? 少し興味があるな。
「なんでソイツ探してるんだ?」
「......せつ菜先輩とはいろいろ事情があるんですよ。話したいことがあるんです」
いろいろ、か。まさかとは思うがコイツ......
「お前、まさかスクールアイドルか?」
「ええっ! なんでわかったんですかぁ⁉︎」
「ただの推測だよ。実は───」
オレは先日の、優木せつ菜のライブを見たこと、部室棟での生徒会長との会話のことを説明した。
アイツがスクールアイドルを辞めて、同好会が廃部になったこのタイミングに、優木せつ菜と何か因縁があるらしい1年生。判断材料はそれだけで、至って単純な結びつきだけど、予想は当たっていたようだ。
「そうだったんですか......」
「オレとしては興味なくもないけど、辞めたヤツを追いかけ回すほど執着はないし。お前もそっとしておいた方がいいんじゃないか、いい迷惑だぞ」
「それは......そうですけど......」
しゅんと項垂れるも、納得しきれていない様子の1年生。どのみち、居場所がわからないとどうすることもできないだろうし。
だがこのまま諦めるつもりはなさそうで、すぐに顔を上げて、奮起した表情を見せる。
「じゃあ、予定変更です! 放課後、生徒会室の方まで来てください!」
「はぁ? なんでだよ......イヤに決まってるだろ、めんどくせーな」
「......パンツ見たくせに」
もはや脅迫の類だろ......てかパンツ自重しろ。
「はぁ......わーったよ、行けばいいんだろ」
「さすがっ、話がわかりますねぇ〜!」
くっ、いいようにされてる気もするけど、ここで波風立てるのは悪手になりかねない。不服だが、大人しく従ってやり過ごしてしまおう。
「一応、自己紹介しておきましょう! スクールアイドル同好会、プリティーキュートでかわいいアイドル、
コイツ......かわいいって意味の単語を3回も言いやがった。あのやずやでさえ2回なのに。
よほど可愛さに自信があるのか......自分のことあだ名で呼ぶくらいだし。
「......小日向晴陽」
「では、放課後お待ちしてますねっ。晴陽せーんぱいっ♪」
なんでこんなメンドーなことに......
*
「......なんだよ、ソレ」
言われた通りに放課後、生徒会室の前まで行くと、その近くの柱に、サングラスとマスクをかけた不審者こと中須がいた。おまけにどこから拾ってきたのか白い猫を抱きかかえている。ホントに何やってんだコイツ......
「これから行う作戦に必要なんですっ」
「ならその作戦の概要を教えてくれ......いや、そもそも生徒会室に何しに来たんだよ?」
「それは、かすみんたちの居場所を取り戻しに来たんですよ!」
「居場所?」
「部室です。部室を取り戻すために、まず同好会のネームプレートを回収しなくちゃ!」
そのためにわざわざそんな格好をしたのか......いや、別にネームプレートを取り返したからって、部室が返ってくるわけじゃないだろうに。
「生徒会室には今、生徒会長ともうひとり、人がいるはずです。それでこの子の出番ですよ!」
めちゃくちゃ嫌がってますけど......その猫に一体何させるんだよ。
「......まさかとは思うが、忍び込むつもりじゃないよな?」
「お願いしても、あのカタブツ生徒会長が素直に渡してくれるなんて思いません!」
「だからって、こっそり持ち出すのはやばいだろ。バレたら大目玉だぞ......!」
「ちっちっちっ。
「入ったら終わりだろそれ!」
もしかしなくてもアホだな、コイツ......
「ではいきますよ、作戦開始です......!」
やっぱり引き留めようかとも思ったが、時すでに遅し。次の瞬間には行動に移っていた。
「きゃ〜〜〜‼︎ 猫よ〜〜〜‼︎」
わざとらしい大声を上げる中須。そして扉の方へ猫を構えたまま少し待つと、扉が開かれ、部屋の中から人が出てきた。生徒会長、中川菜々だ。
その瞬間、中須は猫を解き放つ。すると、猫は中須から逃げるように、前方の会長の顔面目掛けて飛びかかった。
「うわぁっ」
もちろん、そんな不測の事態に対応できず、クリティカルヒットし、尻もちをつく会長。
「ああっ、待ちなさい!」
逃走した猫を会長は慌てて追いかけていく。そのまましばらく待つと、中須が言っていたもう1人も生徒会室から出ていった。
「......行ったな」
「突入ですよ!」
......マジでやんのか。
「かすみんは机の中を探すので、晴陽先輩は棚の引き出しをお願いします!」
「はいはい......」
こうなればもう後戻りはできない。ならせめて、会長が戻ってくる前にさっさとネームプレートを見つけ出してずらかるしかない。
「ありました! 見つけましたよ先輩!」
「おっ、見つかったか───」
「何をしているんですか?」
刹那、時が止まったかのように錯覚した。
嬉々とした中須の声に、振り返ったオレの視界に入ったのは、中須の背後に忍び寄っていた生徒会長の姿。
「ぎゃあああああ‼︎ もう戻ってきたんですかぁ⁉︎」
机を挟むようにして会長と相対する。
「しかし、目的は果たしました! 先輩、あとは頼みましたよ! さらばっ!」
「は? おいっ!」
「お待ちなさい!」
マジかよアイツ......置いて行きやがった。
「まったく......それで、小日向晴陽さん」
「......ハイ」
「説明は......もちろんしていただけますよね?」
「......ハイ」
ギラリ、と眼鏡を光らせる会長にオレはそう答えるしかなかった。
「生徒会室に無断で侵入、捜索、そして備品の勝手な持ち出し......一体何を考えているんですか?」
椅子に座った会長は、某特務機関総司令よろしく指を組みながら、目の前に立つオレを問い詰める。
「何って、その目で見たのが全部だよ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
言い訳のしようもない。
叱責を覚悟して黙っていると、会長ははぁ、と息を
「本来なら私が学校側に報告し、厳重に処罰が下されますが、持ち出されたものはもともと処分する予定でしたので、被害は軽微なものです。なので今回は特別に、私から口頭注意ということで済ませます」
「......いいのか?」
「2度目はありません。今後、こんなことがないように......いいですね?」
「......ああ、悪かったよ」
見逃してもらえた......のか? 自業自得とはいえ、胃がキリキリするな......
「ところで、なぜあなたが彼女と一緒に? 知り合いだったんですか?」
「ああ、今日の昼休みからの仲だ」
「......要するに、彼女の思惑に巻き込まれたと」
どうやら会長は察しがいいらしい。
「どうして、あのネームプレートを?」
「さあな。本人は部室を取り戻すためとか言ってたけど」
「......スクールアイドル同好会の部室だった場所はすでに、新設されたワンダーフォーゲル部の部室になっています。部室が返ってくることはありません」
まぁ......そりゃそうだろうな。
だとしても、
「それでも、アイツにとっては大切な場所なんじゃねーのか。スクールアイドル同好会ってのは」
「大切な......」
一瞬だけ、会長の顔が歪んだ。会長自身も、何か思うところがあるといったところか。
「会長、優木せつ菜とは話をしたのか? スクールアイドルを辞めることについて......その結果、同好会がなくなるってことも」
「ええ。それでも彼女は辞めることを選びました。他のみなさんには申し訳ないと思いながらも、苦渋の決断だったようです」
「......そうか」
何かの間違いがあったんじゃないかと思ったけど、改めて事実を突きつけられる。
苦渋の決断か......つまり、アイツは同好会の存続を秤にかけながら、それでもスクールアイドルを辞めてしまう何かがあったということだろう。
......あんなに、いいライブだったのにな。
「すみません、話を長引かせてしまって。今から中須さんのもとへ向かうので、私はこれで」
「ああ。それと会長」
「はい?」
ひとつ頼みたいことがあり、会長を呼び止める。
オレは積年の恨みかのように、低い声で言ってやった。
「