薬師アレンとエルフのリズレ   作:飽きやすい創作隊

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店番

「リズレさん、受け取ってください」

 

「リズレさん、プレゼントです」

 

「うちの畑で採れた野菜です!」

 

「これは妻が焼いた菓子でして!」

 

 朝からひっきりなしにやって来る客たちに囲まれ、リズレは頭を抱えた。

 

「いらない」

 

 即答する。

 

「そんなこと言わずに!」

 

「受け取ってください!」

 

「いらない」

 

 再び断る。

 

 だが客たちは満面の笑みで品物をカウンターに置くと、そのまま逃げるように店を出て行った。

 

「……」

 

 リズレは無言で荷物を見つめた。

 

 野菜。

 

 果物。

 

 焼き菓子。

 

 干し肉。

 

 よく分からない置物。

 

 なぜ置物。

 

 理解できない。

 

 銀色の前髪をかき上げ、小さく溜息を吐く。

 

 長い耳が僅かに揺れた。

 

 とりあえず店の隅へ寄せる。

 

 するとまた扉が開いた。

 

「リズレさん!」

 

「今度は何」

 

「薬をください!」

 

 ようやくまともな客だった。

 

 リズレは少しだけ安心する。

 

「どれ」

 

「いつもの胃薬を三つ」

 

「銀貨三枚」

 

「はい!」

 

 代金を受け取る。

 

 客は薬を受け取り、満足そうに頷いた。

 

「あの、本当に助かりました」

 

「そう」

 

「先生のおかげで仕事に復帰できまして」

 

「そう」

 

 またアレンの知り合いだろうか。

 

 アレンは顔が広い。

 

 薬舗を訪れる客も多い。

 

 今日もその一人なのだろう。

 

「ありがとうございます!」

 

「そう」

 

 客は深々と頭を下げると、帰り際に小さな包みを置いた。

 

「では!」

 

「あ」

 

 逃げた。

 

 また逃げた。

 

 包みの中には高級そうな茶葉が入っていた。

 

 意味が分からない。

 

 さらに次の客が入ってくる。

 

「リズレさん!」

 

「何」

 

「傷薬を五つください!」

 

「五つ?」

 

「村のみんなの分です!」

 

「そう」

 

 傷薬を渡す。

 

 代金を受け取る。

 

 すると客は感極まったような顔をした。

 

「本当にありがとうございます!」

 

「そう」

 

「息子の怪我が治りまして!」

 

「そう」

 

「助かりました!」

 

「そう」

 

 客は何度も頭を下げる。

 

 そして帰り際に籠を置いた。

 

「あの、これ!」

 

「いらない」

 

「じゃあ失礼します!」

 

「待っ――」

 

 逃げた。

 

 中には林檎がぎっしり詰まっていた。

 

 意味が分からない。

 

 昼頃になると薬は飛ぶように売れ始めた。

 

「咳止め十個」

 

「十個?」

 

「知り合いの分もありますので」

 

「そう」

 

「軟膏も五つ」

 

「そう」

 

「解熱薬も」

 

「そう」

 

 棚の中身がみるみる減っていく。

 

 リズレは淡々と会計を続けた。

 

 次の客。

 

「胃薬を八つ」

 

「そんなに?」

 

「親戚に頼まれました!」

 

「そう」

 

 次の客。

 

「解熱薬ありますか!」

 

「ある」

 

「全部ください!」

 

「全部?」

 

「全部です!」

 

「そう」

 

 薬が減る。

 

 また減る。

 

 どんどん減る。

 

 客は増え続けた。

 

 薬は減り続けた。

 

 贈り物は積み上がり続けた。

 

 そして夕方。

 

 店の扉が開いた。

 

「戻ったぞ」

 

 仕入れから帰ってきたアレンが店内へ足を踏み入れる。

 

 そして固まった。

 

「なんだ、コレは」

 

 カウンターが見えない。

 

 贈り物の山で埋まっている。

 

 その奥でリズレが頬杖をついていた。

 

「リズレ、客がまた置いていったのか?」

 

「そう」

 

 面倒くさそうに答える。

 

「断れよ!」

 

「断った」

 

「断れてねえじゃねえか!」

 

「置いて逃げた」

 

「なんで逃げるんだよ!」

 

「知らない」

 

 本当に知らないらしい。

 

 アレンは額を押さえた。

 

「で? 薬の方は……」

 

「完売」

 

「おい」

 

「在庫もない」

 

「おい!」

 

 アレンは勢いよく棚を見る。

 

 本当に空だった。

 

 見事なまでに空だった。

 

「何で」

 

「みんな買ってくれた」

 

「おかしいだろ」

 

 アレンは苦笑した。

 

 普通、個人経営の薬舗で一日でここまで売り切れることはない。

 

 だが目の前の銀髪のエルフは、その異常さをまるで理解していなかった。

 

 贈り物の山の向こうで、金色の瞳をぼんやりと細めている。

 

「そうだね」

 

 不意にリズレがふっと笑った。

 

 滅多に見せない穏やかな笑みだった。

 

 アレンは肩をすくめる。

 

「お前は凄いな」

 

「凄くない」

 

「そうか?」

 

「普通」

 

 即答だった。

 

「普通じゃないだろ」

 

「そう?」

 

「そうだ」

 

 アレンは店内を見回した。

 

 薬は完売。

 

 棚は空。

 

 贈り物は山積み。

 

 どう考えても異常事態である。

 

「みんな、お前に会いに来てるんだぞ」

 

「違う」

 

「何で言い切れる」

 

「アレンの店だから」

 

 当然のようにリズレは答えた。

 

「薬を買いに来てるだけ」

 

「……」

 

「アレンは顔が広いし」

 

 アレンは思わず天井を見上げた。

 

 駄目だ。

 

 全く分かっていない。

 

 客が誰に礼を言っているのか。

 

 誰に会いに来ているのか。

 

 誰に贈り物を渡そうとしているのか。

 

 このエルフは本気で理解していない。

 

「お前なぁ……」

 

 その瞬間、店の扉が勢いよく開いた。

 

「あっ、リズレさん!」

 

 新しい客だった。

 

 両手に大きな籠を抱えている。

 

 嫌な予感しかしない。

 

「今日は何だ」

 

 アレンが尋ねる。

 

 客は満面の笑みを浮かべた。

 

「卵です!」

 

「帰れ!」

 

 アレンの叫びが薬舗中に響き渡った。

 

「新鮮ですよ!」

 

「そういう問題じゃねえ!」

 

「十個ほど!」

 

「量の問題でもねえ!」

 

 客は困ったようにリズレを見る。

 

「でも、お礼を……」

 

「いらない」

 

 リズレは即答した。

 

「ほら見ろ!」

 

 アレンが指を差す。

 

「本人もいらないって言ってるだろ!」

 

 だが客は少し考えたあと、

 

「では、ここに置いておきます!」

 

 籠を置いた。

 

「待て!」

 

 そして逃げた。

 

「あっ!」

 

 扉が閉まる。

 

 沈黙。

 

 アレンはゆっくりと振り返った。

 

 贈り物の山。

 

 さらに追加された卵。

 

 頬杖をつくリズレ。

 

「……だから言ったでしょう」

 

「何を」

 

「置いて逃げるって」

 

 リズレはそう言って卵を一つ手に取る。

 

「卵は好き」

 

「だからそういう問題じゃねえ!」

 

 薬舗の外まで響くアレンの叫び声に、リズレは少しだけ楽しそうに笑った。

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