どうして……どうして俺たちは牢屋に捕まっているんだ。
いや、うん。分かってるんだけど、分かりたくない。あんな些細なことで喧嘩に乗るんじゃなかったぁ……。
これは俺とゴブタが憲兵に捕まる数時間前のこと。
あまり大人数で入るのは得策ではないと考え、二人の少人数で潜入している。
戦力的にも俺がいるのなら十分だしな。
「おぉっとぉ?ちっぽけのゴブリンと小さい子供がいるじゃねえか。ボコボコにされたくなかったら荷物置いて地元に帰りな」
……忘れてた。俺は魔素を抑えている状況じゃただの子供だし、ゴブタも強そうには見えないよな。
別にぶっ飛ばしても構わないんだが、雑魚相手にあまり労力を使いたくない。
それに、加減を間違えて殺しでもして騒ぎを立てられたら面倒だ。
……どうするかな。やっぱ最低限の威圧で気絶まで追い込むのが得策か?
「沈黙してんじゃねー、っよ!!」
「ぁ?」
〈告。感情の起伏により魔素が少量周囲に放出しております。これ以上個体名リムル=テンペストの魔素に周囲が当たれば混乱に陥るのは間違いないでしょう〉
……だな。
はぁ、最近ヤバいな。昔なら容易にできていた感情の抑制が上手くできていない。
日本人としての感性から魔物に移り変わっている気がする。
弱肉強食の世界では悪いことではないが、良いことでもない。
人間としての理性を失うのは敵対の道に一歩づつ近づいていることを指している。
せめて今を保たないと不味いことになるかもな。
「悪い、気が立っていた。気にしないでくれ」
「なっ……!?おちょくってんのか!」
「してないよ。ただ、最近感情の制御ができないんだ。本当にすまない」
「いや……えっ、はっっ?」
本気で困惑しまくってる若人を置いて前に進もうとすると、仲間の一人に武器を向けられる。
「さすがにそれはやり過ぎ……は?」
さすがに注意の念をこめて言葉を発し、振り返ると周囲の人間が倒れている光景が広がっている。
目の前に広がる情報を認識し、次に襲い掛かる情報は肌を痺れさせるほどの強烈的な威圧感。
しかもコレは全力じゃねえな……!加減してこれとは、なんて化け物だよ。
「弱者が強者を煩わせるものではないぞ。なぁ、スライム」
「……っ、別に俺はそうとは思わないな。確かに強いってアンドバンテージは多くの選択権が訪れるし、チャンスも大量だ。だが、それは弱いやつよりも存在的に格上という証明にはなりはしない」
「かも、しれぬな。ならば、証明してみせろ。この荒んだ世界では勝った方が正義なのだ。あぁ、もちろん加減はしてやろう」
何言っても戦闘に発展する気はしてたが、やっぱりなったな…!!
あの攻撃力が高そうな大剣を抜かなくても戦いが成り立つような気はしないが、とりあえずやるしかない。
「ゴブタ!離れてろ…っ!!」
そこから何やかんやありまして。このおっさんの攻撃を受けて気絶したら牢屋に入ってました。
結構強くなったつもりでいたけど、完膚なきまでにボコボコにされた。
あー、プライドが崩れる音がするんじゃ〜。
「そう気落ちするな、小僧。儂とまともにタイマン張れるのは魔王たちだけじゃ。むしろ、モロに一撃を受けて生きていることに誇りを持った方がよい」
魔王ねえ……確かリグルの兄ちゃんに名付けを行ったのが魔王軍だっけか?
魔王たちって言ってるってことは魔王って複数人いんのか?
魔王が敵になった時、アイツらを守り切れる気がしないな…。もっと、もっと強くならなきゃ。
「しかし、良かったのか?あのポーションを渡しても。長く旅をしてきた儂から見ても中々に効力が高い代物であったろう。見知らぬ人間に渡す必要があるのか?」
「俺は人間と仲良くしたいんだよ。こっちに刃を向けてくるなら与える必要はないが、向けてこないなら与えても良いだろ?」
「ふっ……小僧、お前はあのお方のようだな」
「あのお方……?」
「あぁ…」
「ありがとう!!おかげでみんな助かった!」
「おっ、それは良かったな」
うむうむ、ポーションあげて好感度上げちゃおう大作戦は成功したみたいだな。
おかげであまり時間を掛けなくて脱出ができた。ポーションさまさまである。
洞窟でたくさんヒポクテ草食ってて良かったな。
ポーションで助かった職人、ミルド・ガルム・ドルドは個性あふれる腕がいい職人らしい。
腕がいいなら職人たくさん知ってるよね……紹介してくれないかな。チラッ!チラッ!
期待を言葉に出していたら「職人仲間に聞いてみるよ」という喜ばしい返事が返ってきました。
やっほい!ドワルゴンに来てよかったー!
解放されてから職人トリオから離れ、テッカクがついてきた。
ボコボコにされたからあんまり良い思いはないが、腕のいい鍛冶屋を知っていると言うから仕方なくだ。
「ここだ。ここの鍛冶屋は腕がいい」
「言ってくれるのはありがたいが、今は忙しいんだ……帰って、って!テッカクじゃねえか!久しいな!!」
この暴力おっさんと凄い仲が良いんだな、この人。
結構生きてきてるらしいから妥当なのかもしれない……。
「あっ、リムルさんじゃねえか!カイジンさん、この人だよ!俺たちを助けてくれたの!」
「アンタが……礼を言う!ありがとうっ!……そんな恩人には申し訳ねえんだが、今仕事が受けれる状況じゃねえんだ。この国の大臣に馬鹿みたいな量をクソみてえな期限で作ってこいって言われてな…」
わぁ、そいつはクソだ。質の良いものを短い納期でお願いだなんて舐めているにも程がある。
大賢者、何か手伝えることはないか?
〈解。洞窟で捕食した魔鋼石を使用すれば足りない分の武器を作ることが可能です〉
この剣の分析は?
〈解。すでに完了しています。模倣を開始しますか?〉
あぁ、頼んだぞ。
「ふぅ……うし!完了!!」
「なんて早業だよ…おい」
「俺は打ったわけじゃない。カイジンが打った剣をコピーしただけだよ。これで俺の相談を少し聞いてくれるかい?」
「あぁ……もちろんだ」
そこから全てを話した。ゴブリン村の現状、家の脆さ、衣服の無さ具合。そこを改善するための職人が欲しいって。
「なるほどな……だが、厳しいかもな。ジュラの大森林、多くのものにとっては恐怖の領域だ。進んで行きたいと思える奴は少ない」
魔物の村だからそう簡単に来てくれるとは思ってないが、やっぱりその課題が出てくるよな。
一体の魔物との信頼度を上げても他の魔物を信頼できるかは別の話だ。
そう考えたら魔物の集落って交渉にてんで向いてないよなぁ……。
「まあ、一応探してみるさ。……それじゃ、リムルの旦那ァ!打ち上げで可愛いエルフがいる店行くかァ!」
「なっ、なんですとーー!!!え、エルフ!!行こう行こう!」
俺的には憲兵のカイドウさんも誘いたかったが、あの人は夜の見張りの仕事があるらしいからダメだった。
だからそれ以外のメンバーで行きました。ゴブタ、俺、ミルド、ガルム、ドルド、カイジンだ。
「なるほど、美味いな」
「でしょう♪ここはお酒が上質なことで有名なのっ」
「お姉さんも上質だしね!」
「あらっ♪ずいぶんと口が上手いのね。本当にスライムさん?」
「スライムだよ、ほらっ」
人間の姿を解き、水色のまんまるとしたスライムの姿に戻る。
最近は人間の姿になっていたから不思議な感覚だ。どちらかと言えばこっちの方が本体なのに。
「ゴブタ、楽しんでんな」
多分一番楽しんでんのアイツだよなぁ……。
旦那たちの連れなら簡単な武器打ってやるよ、倉庫にある余った魔物の素材で服作ってやるよ、と言われまくって凄い豪華な服を着ている。
多分ランク的には俺のが上なんだろうけど。
……なんで俺のが上なの?カミアの鬼玉で作ってもらった簡単装備だよな?
〈解。鬼玉は相手への想いが強いほど効力が増します。個体名カミア=テンペストが個体名リムル=テンペストに向ける想いが強かったと想定します〉
……なんかココに来てることに罪悪感感じてきたぞ。
「リムルさん。運命の相手占ってく?」
「占えるのか?」
「うん、占えるよ。どうする?」
「じゃあお願いするよ」
占いのエルフお姉さんの水晶に映るのは三人。カミア、オウマ、シュウ……。
まさかこの世界、妖怪ウォッチぷにぷにも入っているのか…!
ぷにぷに……妖怪ウォッチの中で屈指のインフレソシャゲゲーム。
他のゲームは最高ランクがSランクで統一されている中、ぷにぷにではSランクよりも上なランクが幾つも存在している。
S、SS、SSS、Z、ZZ、ZZZ、UZ、UZ+
最近では新しいランクUZ++とかいうランクまで出てきている。
そのランクの中でZZランクに位置する(オウマとかはZランクもあるけど)妖怪であり、Sランクとは文字通り桁が違う。
「言っておくが、我々はSSを超える出力を出せんぞ小僧」
「どういうことだ…?」
「気づいておるのだろう。儂は前代閻魔大王が一人、閻魔羅王テッカクだ。儂のランクはSSよりも高いが、今の妖魔界レベルではそれ以上の出力は許容されん。我らは主君の恩恵によって生きており、あのお方……カミア様のレベルが上がって我らの力は解放される」
なるほどねえ……なんでカミアが妖怪ウォッチの妖怪の力を使えるのかが疑問だったが、そういうカラクリか。
カミアの存在が妖怪たちの存在を生かしている。なんとも面白おかしい原理だこと。
どうしてその過程に至ったのかよく分からんけど。
「なあ、テッカク。お前にとってカミアは…」
「あぁ、獣臭い。ここには薄汚い戦士も入れるのですか?」
「ぇ、ええ。お金を払ってくれるので…」
「金を払うのなら誰でも入れるのですか?しかもゴブリンもいるじゃないか。店の品位が落ちるというものですよ」
なんだこのヒゲ。テッカクとゴブタをさらっと馬鹿にしやがった。
落ち着け、苛立つな。暴力には走るな。ここで暴れたらママさんたちに迷惑がかかるだろ。
セーブだ、セーブ。
「小僧」
「リムル様…?」
「大丈夫だ、心配いらな」
「ざけてんじゃねえぞ!俺のダチと旦那の配下を馬鹿にしてんじゃねえ!!」
カイジンが殴った。思いっきり殴りやがった。
「リムルの旦那。探してんだろ、職人。俺じゃダメかい?」
「…っ、大歓迎だよ、カイジン」
閻魔羅王テッカク
歴代閻魔大王の中では屈指の大剣使い。豪快と繊細さを持ち合わせる剣技の持ち主であり、妖魔界の中でトップクラスの腕を持つ。武士妖怪や剣士妖怪からは尊敬の対象とされている。
また、テッカクの強さは剣の腕だけではなく、結界術と封印術にもある。フドウ明王が宿った不動雷鳴剣という唯一無二な武器を封じ込めた実績も持つ。
戦闘狂の一面と王としての理性的な一面を持っている。
今作品では「幼少期弱かったけど記憶があった頃のカミアに鍛えられ、カミアを尊敬している」という過去を持つ。
心の底から尊敬を抱き、カミアを様と呼んでるのは多分こいつと暗雲だけ。
全盛期と比べたらクソほど弱体化しているが、剣だけで上位冒険者になっている。
人呼んで「剣帝」のテッカク。
剣だけで戦わせるのならガゼル王やヒナタにも勝てる。
ギィやミリムなどの上位陣には技術では五歩遅れる。うん、化け物。