ベクターさんの華麗なる日々~甘口~   作:鮪薙

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(ドルフロの投稿は3年ぶりなので)初投稿です


〝帽子とベクターさん〟

「……」

 

かれこれ一時間近く、Vectorは帽子屋の帽子を手に持ちそれを真剣な眼差しで見つめていた。

 

そして彼女は一人ではなく、その様子を近くのベンチで座り眺めている軍服の男性と気怠げに見つめる戦術人形【ネゲブ】

 

「ねぇ、あいつあの帽子を眺めてかれこれ一時間は経つんだけど?」

 

「経つな」

 

「経つな、じゃないわよ、あんたの妻でしょ何かわからないの?」

 

無茶振りを仰ると軍服の男性、彼女たち戦術人形の指揮官である【レイモンド・アダー】は苦笑を浮かべる。因みにネゲブの言う通り彼とVectorは誓約を交わしており彼の基地唯一の組である。

 

それで揉めないのかと言われそうだが、彼が選んだVectorがあまりに特殊すぎてそれに惚れるって、と周りが思ってるが故に彼を狙ってる人物が居なかったというのも手伝い全く揉めることはなかった。

 

「妻、と言っても俺だって彼女のことを十全に分かってるわけじゃないからなぁ」

 

「ふぅん、まぁどうでもいいけどさ、これ以上あそこで詰まられるとこの後の予定押すわよ?」

 

「それもそうだな、仕方ない、少し行ってくる」

 

さっさと行けと少々辛辣な声援を背にレイモンドは手を振って答えながら妻たるVectorの側に行き、彼女の背後から手に持って眺めている帽子を見てみる。

 

なんて変哲のない大きなつばが特徴的な白の【キャペリンハット】似合いか似合わないかで聞かれれば彼は間違いなく似合いと答えるそれを彼女はじっと見つめていた。

 

「あ~、Vector?」

 

「っ!?驚かせないで指揮官……あっ、ふふっ」

 

何かを思いついたのか、突如意味深な笑みを浮かべた彼女を見て、そこでレイモンドは気付いた。

 

どうやら彼女のいつもの癖が始まってて、それで悩むように帽子を見つめていたらしいと……そう、この基地のVectorは周りの彼女たちとは何が原因だったのかは不明だが色々と違う部分がある。

 

無論、見た目は普通のVectorと変わりはない、変わっているのはメンタルモデルの部分、性格を司る部分がずいぶんと違う、それも誤差とか差異と言えるレベルではなく根本が違うんじゃないかと言うレベルで。

 

「やれやれ、何を思い付いたんだい?」

 

「『帽子』を見つめていたら貴方に声を掛けられて『ハット』した、ふふっ」

 

瞬間、店の店員も、周りの客も、通行人も、ベンチでそれを眺めていたネゲブも周囲の気温がそれなりに下がった錯覚に襲われた、ネゲブに至っては電脳がバグったのかあの夫婦の周囲だけが本当に気温が数度下がったと表示される始末である。

 

そう、これが彼の基地のVectorの特徴の一つと言っていい物、何故か妙なギャグを口走り、あまつさえそれを自分で笑うのだ。しかもそれは自嘲と言った感じの笑いではなく面白いと自信持っての笑いだから微妙に始末に負えない。

 

だが旦那たるレイモンドは特にそういう錯覚に襲われるわけもなく、寧ろ割と得意げな彼女の顔を見つめて笑い返しつつ

 

「今回は結構苦戦を強いられてたようだな」

 

「中々出てこなかったのよ……でも貴方のお陰で閃いたわ」

 

「それは光栄だな」

 

ポンポンと彼女の頭を撫でつつ彼女を苦戦させた、白いキャペリンハットを手に店内のレジに向かい支払いを済ませる。

 

この間、レジを担当した店員は彼を物凄く微妙な表情で見つめていた、それはそうだろうなと彼自身も思いつつも気付かないふりをしてあげ、またVectorの元に戻って買った帽子を被せる。

 

「思った通り、似合っているよVector」

 

「ありがたいけど、どういう風の吹き回しかしら?」

 

「ふむ、君を苦戦させた帽子には敬意を払おうと思ってね、記念品という形だよ」

 

「なるほどね……まぁでも今日は日差しが強いからこの『帽子』で日差しを『防止』するのも悪くないわね、ふふっ」

 

また一段だけ気温が下がる錯覚に陥る周囲、ネゲブの電脳でも二人の周囲の温度だけが下がったとバグ表記するのだからもしかしたら本当に下がっていたのかもしれないと思わず引き攣った笑みが溢れる。

 

しかし、いくらそんなギャグで誤魔化そうと指揮官とネゲブの目だけは誤魔化せない、帽子を買ってもらって更に彼の手で被らせてもらい似合っていると言われた時、その顔を赤らめてわざと深く被り直してから誤魔化すようにギャグを口走ったことを。

 

(何だかんだ言いながら指揮官もVectorの事は十分に理解してるからああいう言葉が出てくる、羨ましい夫婦よね~)

 

でもあのギャグだけはない、ネゲブはそれだけは譲れないとばかりに頷いてベンチから立ち上がり

 

「で、悪いけどまだまだ予定はあるわ、この後は食材を買わないといけないし、そもそもまだ生活雑貨だって買い揃えてないの、分かってるの?」

 

「まぁまぁ、時間はまだあるんだ、ゆっくりと」

 

何を呑気なこと言い出すんだこの指揮官はと若干のイライラを募らせつつ否、募らせる必要はないと判断して振り向いてニッコリと笑みを浮かべ

 

「ゆっくりとした結果がお宅の奥さんなのよ、あそこで一時間とか考えないわよ普通!」

 

「あまり『怒る』とメンタルモデルに不調が『起こる』わよ、ふふっ」

 

即座にネゲブさん怒りの雷が落ちたのは言うまでもないだろう。

 

これはそんなちょっとおかしなベクターさんとその旦那である指揮官と個性的な人形達のお話




簡易キャラ紹介
『ベクターさん』
この作品の主人公、本編の通り通常のVectorとは比べるまでもなくバグ個体であり基本的に中の人ネタで暴れる戦術人形。

故に【Vector】でも【ヴェクター】でもなく【ベクターさん】と呼ぶのが正しい。

『レイモンド・アダー』
指揮官、嫁バカ、名前に深い意味はなく響きだけで決めたという裏話。

『ネゲブさん』
基地が誇るスペシャリストさん

戦闘は勿論のこと家事全てもスペシャリストなので基地のオカン役。

ちな、今日から9日分はストックがありますまる。
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