当然ながらベクターさん達にも日常業務と言うものは存在するし街と提携している関係上、毎日のように書類などが大量に運び込まれる。
運び込まれる書類の種類は多岐に渡り基地内からで言えば物資の搬入や設備の更新要望、予算の再申請等など、そして街からは主に基地と同じく物資の搬入や街工房にて新規製造品の申請、施設の建設及び修繕の協力要請といった具合のものが大体である。
「あら、開発部門から予算申請来てるわよ」
「うーん、まぁ通しちゃったら式自に今度こそ俺達が説教されるだろうから心苦しいが却下で」
「分かったわ、この『予算』の申請は『よさん』かってね、ふふっ」
どこかでカラビーナが何故か苛ついたらしいが置いておくとし、確かに書類の量は膨大とも言えるほどではあるが行う作業自体は判を押すかサインをするか程度の内容であり、二人からすれば流れ作業で行えるので苦では無いというのが本音であったりする。
「それにしても平和なものね、ここ最近なんかは大きい戦闘も無いし」
「良いことだなって言いたいが組織間同士の小競り合いはしょっちゅう起こってるらしいけどな」
取り出した一枚の新聞には大小問わず様々な地域での戦闘情報が載せられており決して完全な平和ではないということを嫌でも見せつけてくる内容。
とは言え大戦と言えるほどでもなければこの世界の住人からすれば平和でしか無いだろう、なんだったら民間人でも逞しいのでさも当たり前のように近所から襲撃してきたヴァリャーグを殲滅するくらいには元気である。
「小競り合いと言えば、エルモ号の方でもあったとか向こうの私から聞いたわね」
「そうなのか? まぁあの指揮官のことだし戦力も充実してるだろうから問題はないだろうが」
エルモ号自体に被害がなければいいがと心配をする指揮官にベクターさんは微笑みつつ、向こうからは連絡がないってことは大丈夫ってことだと思うわよと答える。
そもそもにして指揮官も言っているが戦力は充実してるのもあれば、エルモ号のし機関である彼女の手腕も一流と言っても過言ではないのでエルモ号を陥落させることはほぼ不可能と断言できるレベルだし、仮にそれが出来たら世界を掌握出来るので止めてほしいというのがグリフィンの本音である。
なので彼の心配はほぼ杞憂でしかなく、それはそれとして仕事の方に集中するべきじゃないかしらと言おうとして時計を見れば休憩を挟むには丁度いい頃を針が指し示していた。
「指揮官、一旦休憩にしましょうか? そうね、『ホット』コーヒーで『ほっと』一息しましょ」
「もうそんな時間だったか。あぁそうだ思い出した、冷蔵庫に『ケーキ』があるんだ『景気』よく食べてしまおう」
まさかの返しにベクターさんは驚いたような表情をしてから今日一番の微笑みを浮かべて、コーヒーの準備のために備え付きのキッチンへと姿を消す、その最中、ご機嫌な鼻歌が聴こえるのでかなり浮かれているのが分かる。
因みにこの会話をもしネゲブが聞いてたとすればそれはもう凄まじい表情を晒すしカラビーナだとすれば猛ツッコミが入るだろう、まぁ居ないので意味のない話なのだが。
何より今のやり取りがこの二人にとってはイチャつきであるし、二人っきりの時でしかしない会話なので実を言うと今の二人も知らないことだったりするし知ったとしても見なかったことにするだろう。
「ところで指揮官、街工房からの報告書見たかしら?」
「新開発した放熱板のことか? なんか妙に耐熱性能が高かった気がするがそれがどうかしたか?」
「どうってわけじゃないんだけど、前に88式が熱耐性の素材がとかなんとかで悩んでたのを思い出して」
曰くラボでステアーと共にそんな事を悩んでいたらしいとのことであり、そこで指揮官もふと思い出したことがあった。
彼女らが悩む一週間前と三日前にエーアデント郊外にて野良鉄血と生骸が大爆発に巻き込まれたという事案が発生していたことを。
「もしかして関係性が? あの二人もしかしてまた未申告で開発をしてるんじゃ」
「ありえるかもなぁってそうだとしたら街工房のおやっさん達も絡んでるってことにならないかそれ」
仮にそうだとしよう、いよいよもって開発部門の暴走は止まらないことになる。あの二人は確かに有用なものを作り出し、16Labと協力しエーアデントの収入になるような物も開発したりとしているが同時に会計主任である式自の悩みのタネでもある。
まず未申告で新兵器の開発を平然と行う、続いてその予算確保のために嘘ではないが真実でもないという絶妙なラインでの予算申請を会計に出す、未申告開発品で部門の予算を消し飛ばすと書き連ねるとキリがないくらいには問題を起こしてもいる。
そんな中、街工房とも手を組んで開発を始めた言う疑惑が浮上した。これには指揮官とベクターさんは苦笑を浮かべつつさてどうするかと考える、一応の前提をつければ二人もエーアデントの不利益になるような開発をするようなことはない。
仮に被害が出たとしても周囲にとかではなくそれは二人だけか、或いは協力した者たちだけでその上で改善もするので結果的に将来の開発に役立たてることもしている。
そこまで考えてから互いに合わせたかのようにコーヒーを一口飲んでから微笑みあい、そして結論を出した〝見なかったことにしよう〟と。
「……まぁ、とりあえずはこのままでいいか。あいつらも余程のことはしないだろうし」
「そもそも街工房の話で開発部門が関わってる証拠が無いから突きようがないわよね」
うん、だから気にしても仕方がないなとこの会話が式自の耳に入ったのならば即座にブチギレそうな流れで二人はその話を打ち切りコーヒーブレイクと洒落込む。
これは別に現実逃避だとかそういう安いものではない、信頼しているからこそ問題が起きたら動けば良いやという放任主義の現れである、多分ネゲブ辺りが説教するでしょとかも思ってる。
十分な休息の後、二人また業務を再開しながら指揮官は窓から外を眺めこう締めくくる。
(本日もエーアデントは平和だな)
後日、笑顔の式自に開発部門と街工房がやっぱり手を組んでいたことが発覚、指揮官とベクターさんなら分かってましたよねと詰められた模様。
『エーアデント街工房』
腕は一流、技術力も確かであり度々新素材や兵器の開発を行うのだが基地のメカニック組と共謀して兵器や装備を勝手に開発しては式自をよくブチギレさせる。