ベクターさんの華麗なる日々~甘口~   作:鮪薙

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エーアデント一の歌姫でありカラオケ大会出禁の人形


〝歌唱とベクターさん〟

 圧巻というのはこういう事を言うのだろう、カラビーナは目の前の光景とこれを作り出している張本人を見てただただ思う。己自身も圧倒され言葉が出ないのだから本物なのだろうと認めるしか無い、見れば隣の指揮官もまた聞き惚れているのがよく分かる表情をしているではない。

 

 言葉を失っている彼女たちの目線の先、小さな舞台の上に居るのは我らが副官ことベクターさん、そして手にはマイクと来れば分かるだろう彼女は歌っているのでありそれだけでこの場に居る観客全員を魅了してしまったのだ。

 

 時は巻き戻り、彼女が歌う数十分前のお話になる。突然ではあるが人間、人形問わず個々には絶対の得意なものというものが存在する。無論、全員が全員というわけではないがその場合は本人が気づいてないとかそういうパターンが大体なので今はおいておく。

 

 エーアデントの面々もそれぞれが得意分野や得意技等などを所持しており、ネゲブなんかはスペシャリストと言う一点であらゆる事ができるのが良い例だろう。

 

「うーん」

 

 またカラビーナも狙撃という一点においてはエーアデントでも一番だと彼女は胸を張って誇れることであり、メカニック二人やPPSh-41のようにそもそも職業にしてしまっているのもそうだろう。

 

 では我らがベクターさんはと言えば彼女にも得意というものは存在する。そしてエーアデントの彼女に限っては寧ろそれが一番の特徴だとも言えるかもしれない特技が。

 

 因みにあのギャグ製造ではと聞くと即答で違うけどと返ってくる。過去にその発言をしたカラビーナはそれを聞き、嘘ですわよねと真顔で言ってしまい少し寝込むベクターさんが居たとか居ないとか。

 

「どうしたんだ、Vector。そんな考え込むなんて珍しい」

 

「いえね、最近ちょっとギャグのキレが悪い気がするのよ」

 

「私は悪いままでいてくれて構いませんわ」

 

「あら、辛辣」

 

 もはや挨拶だと言うカラビーナの言葉に答えつつ、はてさてどうしたものかしらと悩んでいると、ふと3人の耳に歌が聴こえた。

 

 はて、と全員が音の元へと向かえば納得、そこでは広場でのど自慢大会が行われてる光景、最もエーアデントではさして珍しい話ではない。

 

 人々は割りと暇つぶし感覚でこういう大会を開くし、景品もあるのでかなり盛り上がる、カラビーナやMDR、88式、ステアー達も参加してることだってよくある話でもある。

 

「どうやら、のど自慢をしてるようですわね。毎度のことながら人がよく集まりますわね」

 

「歌ってのは何時の時代でも楽しめるものだからな、それにここにはほら、な?」

 

「あら、何かしら指揮官、口にして貰わないと分からないわよ」

 

「急に惚気るの止めてもらえます???」

 

 隙あらば惚気始める夫婦に呆れるカラビーナと言う光景はエーアデントの住人からすると夫婦に呆れる愛娘と言われているのは機密事項である。仮にもバレればカラビーナによる大粛清(銃器フルスイング刑)が引き起こされるのは間違いない。

 

 という話は置いておき、ともかく広場では歌唱力に自信がある住人たちが挙って歌い合っておりベクターさんはそれを見て、そうだわという表情をするが。

 

「ところで副官さん、こちらに名指しで殿堂入りなので出禁と言う看板が置かれておりますわよ」

 

「くっ……!」

 

「そりゃまぁ出る度に優勝を掻っ攫っていくからな、出禁もやむ無しってやつだろ」

 

 何を隠そうこのベクターさん、歌わせたらそんじょそこらのアイドルですら鎧袖一触してしまうと断言できるほどの実力を持ち、これまた惚気になるが指揮官との馴れ初めも彼女の歌がキッカケだったりする。

 

 同時に彼女は歌を歌うことが好きな人形でもあるようでエーアデントに来た当時からこのような大会や集まりがあると必ず顔を出し、その圧倒的歌唱力で薙ぎ払って優勝するを繰り返した結果、見事にエーアデント全域でベクターさん出禁と言うお触れが出てしまったほどだ。

 

「でも大会とかじゃなければ良いんでしょ、じゃあサプライズで出るのは許されるんじゃなくて?」

 

「そこまでして歌いたいのですか……?」

 

「えぇ、だって歌は楽しいじゃない」

 

 本当に素体がVectorなのだろうかこの人はと何度疑問に感じたか分からないことをカラビーナの電脳内で過ぎるが答えは出ないのでそのまま流される、と言うよりもベクターさんの意見にどう答えたものかと考えるほうが先決とも言えるかもしれない。

 

(いえ、そもそも私が考える必要ありますのこれ?)

 

 そういうのは大会の責任者に聞くべき、カラビーナの優秀な電脳は即座に答えを弾き出しテクテクと受け付けへと歩き出してから、即座に指揮官とベクターさんの元へと駆け足で戻りそれから怒りの表情のまま吠えた。

 

「なんで私がそこまでやらないといけないんですの!!!!!」

 

「あら残念、もう少しだったのに……」

 

「残念!? 今、残念と申されましたか!? 人を始めから使うつもりでしたわね!!!」

 

「まぁまぁ、ほら皆が驚いてるから落ち着いてカラビーナ。悪い、みんな、ちょっとウチのカミさんが歌わせてくれないかって」

 

 人を、ダシに、使わないで下さいまし!!! カラビーナちゃんの怒りの咆哮が響く中、指揮官がそう告げれば参加者は絶望の表情を浮かべ、観客はそう言えば最近は副官の歌を聞いてなかったなと乗る気になり始める。

 

 その後、受け付けから管理者が出てきてベクターさんが全部終わってからならどうかと交渉の結果、それならばと承諾されることに。

 

「……私、帰って良いでしょうか?」

 

「なんか騒がしいと思ったら、アンタ達か。またカラビーナを弄って面白がってたんじゃないんでしょうね」

 

「お、ネゲブか。いや、そんなつもりはないんだが今ちょっとVectorが久し振りにライブをするって言うんでな」

 

「ライブって話でしたっけ?」

 

 急に規模が大きくなりましたわとカラビーナが目を丸くする中、それを聞いたネゲブさんはふぅんと言う感じで舞台袖へと向かうベクターさんを見てから

 

「アイツ、出禁にされてから大人しかったと思ったけど割りとストレス溜めてたのかしらね」

 

「かもしれん、今度からは定期的にカラオケにでも誘うことにするよ」

 

「ストレスを、溜めてた……?」

 

 割りと本気でそんな気配しなかったのですかとなるが実際、割りと溜めてたりするので今回の話は彼女的にもウキウキな気持ちになってる。

 

 言ってしまうと久し振りに人前で気持ちよく歌えるということでテンションが今までにないくらいに上ってしまった、同時にギアも初めからフルスロットル、そんなベクターさんが本気を出した歌いますをしたらどうなるか、それが冒頭に繋がるというわけになる。

 

「ネゲブさん、私本当に真面目に疑問に思いますの。なんであの方は戦術人形に?」

 

「さぁね、そこの指揮官に一緒に来てくれって言われたからじゃない」

 

 まるでその光景を見たかのような言葉だが実際にネゲブさんは目の前でそれをやられた、当時のことを思い出し彼女は苦笑のような悔しいような笑みを浮かべながらベクターさんのライブを見守るのであったとさ。




まぁ中の人補正マシマシのベクターさんが本気で歌ったら勝てんのよ
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