ベクターさんの華麗なる日々~甘口~   作:鮪薙

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〝小さな診療所の騒がしい一幕〟

 同業者のと比べると小ぢんまりとし決して目立つような立地でもない場所に建てられたエーアデントの数ある診療所の一つ。

 

 従業員は人形が二人と院長の女性が一人の計二人しかおらず、患者の出入りも潰れない私生活に困らない程度に居るかな程度ではあるし、青い髪の人形【コルフェン】も現状をあまりヨシとしてないらしく。

 

「院長、このままだと潰れますよここ」

 

「潰れるわけ無いじゃん、ちゃんと患者は来てるんだから」

 

 バッサリとはこの事かと言わん勢いで受付の人形【エリンダ】が反論を被せる。実際、閉院の危機を迎える程に患者が来ないというわけではないのでコルフェンの心配は杞憂と言えばその通りではある。

 

 あるがそうではなくてとコルフェン、現状のままじゃ何かあったらどうするんですかと。

 

「何かってなによ」

 

「具体的にだとそうですね、怪我とか病気とかで診療所が開けなくなったとか、ありえなくはないですよね?」

 

「……まぁ、あるかも?」

 

 エーアデントの治安はバカみたいに良いと言っても事故がないとも限らない、病気に関してはどう足掻いても可能性は0にできないとなればコルフェンの危惧も分からなくはないかなとエリンダも思う。

 

 自分やコルフェンはまだ良い、だが院長は人間であり仮にが普通にあり得る、がそこでエリンダの目の色が変わった。或いは変なスイッチが入ったとも言うかもしれない。

 

「病気は百歩譲ってあり得るとしてケガは私と言うかコルフェンが盾になればいいだけでは?」

 

「さらっと私だけを盾扱いしましたよこの受付」

 

「だってコルフェンの方が硬いじゃないですか」

 

「あ、ひっどーい! 見ました院長、エリンダがコルフェンのこと絶壁だって煽ってきましたよ!」

 

「誰もそこまで言ってない、あとお姉ちゃんに泣きつく演技気持ち悪いから止めてくれない?」

 

 端から見ればなんとも微笑ましい姉妹喧嘩というべき光景だろう、そしてそれは院長と呼ばれた女性から見ても同じでありギャーギャーと言い争い始めた二人を微笑みながら眺めつつも流石に止めておくかと口を開く。

 

「二人とも喧嘩は駄目よ」

 

「先に吹っ掛けてきたのはエリンダですけど?」

 

「仮にそうだとしてもコルフェンが乗ったから同罪じゃん」

 

「二人とも?」

 

 言うなれば普段は優しい姉が突如として放った圧、これには二人もこれ以上の口喧嘩は良くないと中断、それを見て院長はふぅと安堵の息を吐き出す。

 

 別にエリンダとコルフェンは仲が悪いというわけではない、ないのだがこうして日常的に口喧嘩になるというのは喧嘩するほど仲がいいと言うべきなのだろうか。

 

 それはそれとして、コルフェンの心配も院長である彼女には理解できる。実入りが悪いわけではないとは言ったが逆に言えば特別に良いというわけでもないので万が一の際には一気に暗礁に乗り上げてしまうのだから。

 

「でもどうするんですか? 宣伝したって今更感ありますし」

 

「貯金を増やす、とかですかね」

 

「それが一番現実的ですかねぇ」

 

 正直な話、今すぐに何か出来るというわけではないので出来ることと言えば月の貯金を少し増やすかなくらいが関の山と言えばそうなる。

 

 その辺りはコルフェンとて理解している、口にしたのも偶々暇だったからと言うのが理由だったので会話さえ成り立てばなんだって良かったというのが本音でもあった。

 

「ねぇ、コルフェン?」

 

「はい、なんですか院長?」

 

 唐突な呼びかけに反応すれば院長の女性は少し悩む素振りを見せる。まるで触れて良いのかどうかという感じの動きにコルフェンのエリンダもどうしたのだろうかと思っていると。

 

「エルモ号からの誘い、断ってよかったの?」

 

「あ~」

 

 質問にコルフェンは目を泳がせ頬を掻く。院長が言うのはエルモ号が修理及び改修の為に寄港した日、向こうの指揮官から衛生兵としてどうかという打診がされていた。

 

 提示された条件としても非常に高待遇であり、自身の成長も見込めそうということで院長も悪くないんじゃないかとコルフェンに話したのだが当の本人は暫し悩みことすれどこれを断った。

 

 それもしっかりと相手の目を見て、エルモ号の指揮官もそれを受けてはそうかと一言告げてから深々と謝罪し出ていったのだが院長としては本当に良かったのかと言う感情が残っていたらしい。

 

「悪くはないかなぁとは思いましたよ? でも私ってほら民生人形ですし向こうはドンパチ上等じゃないですか」

 

「でもエルモ号に行くなら工房で戦術人形に機種変出来るじゃん」

 

「まぁそれはそうなんですけどぉ……うーん」

 

 これ言っても良いのかな、コルフェンは悩む。先程のも理由の一つとしてはそうなのだが主な理由はこっちであり、その内容ははっきりと言えば失礼も良いところなのだ。

 

 悩んでまぁ良いかともう一つの理由を口にすることにコルフェンはエルモ号の指揮官が来た際にその同伴できていた人形二人、確かグローザとローレライと言ってただろうかともかくその二人を見た瞬間ある種の勘が電脳を走った、曰く。

 

「多分、エルモ号って地雷原じゃないかなぁって思っちゃったんですよね」

 

「……あ~、うん、なんか分かるかも」

 

「?」

 

 迂闊にエルモ号所属になった瞬間、恐らくはストレスとの戦いになる。コルフェンの電脳はそれを直感したし当たっている。言ってしまうと指揮官周りがあまりにドロドロし過ぎているのを感じ取ったのだ。

 

 しかもあの二人だけならまぁ良いかなとなりそうな所、多分エルモ号所属の人形ほぼ全員がそれだなと二人の会話から察せてしまったがゆえにコルフェンは断った、私だって命は惜しいのだからと。

 

「あの指揮官、人が良いんでしょうけど良すぎて人形に好かれすぎてるんですよ多分」

 

「本人、そのつもりがなさそうなのが更にアレって感じ」

 

「そ、そうだったのかしら?」

 

 院長はその辺りは疎いらしい、全く無いというわけではないと思いたいがコルフェンとエリンダはまぁ無いんだろうなと断言した。

 

 だって今日までそんな話聴いたこと無いし、エーアデントの若いのがアプローチをしたことはないわけじゃないがその度に反応が友人だし。

 

「まぁあとほら、私って此処が好きですから」

 

「それが一番の理由ならそう言えばいいじゃん」

 

 気取っちゃってさぁとエリンダの言葉にコルフェンが気取ってないですけどと反論しまた口喧嘩が始まるのを院長の女性はあらあらと眺める。

 

 ここはエーアデントの診療所の一つ、【オルフィア診療所】。穏やかで心優しい院長のオルフィアと騒がしくも愛らしい妹二人が人気の診療所である。




【オルフィアさん】
原作だとお労しすぎた退場したけどこの世界では真っ当で普通の院長さん。

エリンダとコルフェンの口喧嘩は見てて楽しいと思ってる。

【エリンダ】
オルフィアの妹その一、長女を語るがコルフェンが断固拒否している。

【コルフェン】
原作だとエルモ号の戦術人形だがこっちではオルフィア診療所所属の民生人形、ただアンフィアとの出会いもあったようだが紆余曲折ありエーアデントに来たらしい。
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