ベクターさんの華麗なる日々~甘口~   作:鮪薙

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ここからリハビリで書き始めた頃、なのでちょっとベクターさんのキレが悪いですね……


〝ダイナゲートとベクターさん〟

 街中を歩く二人の男女、その両手には大量の買い物袋を見るに買い出しの途中なのだろう。

 

 その片方、女性ことベクターさんが両手が塞がっている状態でも器用にメモを取り出してから

 

「えっと、さっきの買い物が丁度最後だったようね」

 

「ならさっさと帰るとするか。あまり遅いとネゲブにどやされる」

 

 その光景を想像してしまったのだろう、男性の方、指揮官が渋い顔をしながら呟けばベクターさんも釣られるように苦笑を返し、歩を早め駐車場まであと少しと言うところで足を止めた。

 

 なにかあったのかと指揮官が見れば、彼女は路地裏の入り口辺りを見つめており、どうしたのかと聞くよりも前にベクターさんはその方向に歩き出したので指揮官も後を追えば

 

「これは……」

 

「どうやら迷子のようね。おいで」

 

 ベクターさんが優しい声で呼び掛ければその存在は少しだけ警戒するように動いてから、そっと彼女の手に触れ、その様子を見てから微笑み荷物を指揮官に渡してから抱き抱える。

 

 彼女のその様子を見て指揮官は嬉しそうな表情をする。彼にとって妻たるベクターさんが嬉しいのならば若干重量が増すくらいなんてことはない、ないのだがそれはそれとして

 

「んじゃ、帰るか」

 

「あ、ごめんなさい、荷物少し持つわよ」

 

「別に構わんさ。それよりもその子を落とさないようにしろよ」

 

「フフッ、ありがとう」

 

 こうして買い出しは多少の寄り道こそあれど無事に終わり、基地に戻ってきた二人は現在……

 

「で、拾って連れ帰ってきたと?」

 

 我らがスペシャリストにして基地のオカンであるネゲブを前に正座をさせられていた。これが指揮官と副官の姿か? となるがここでは日常茶飯事の光景なので誰も気にしていない。

 

 ついでにメカニック担当の『88式』と『ステアーTMP』も正座させられているのもよくある光景である。ともかく四人は仲良く説教を受けている最中であり、理由は言わずもがなベクターさんが連れ帰ってきた存在、機械仕掛けの四足歩行、鉄血製の万能ロボ、その名も。

 

「まぁそのいいじゃないか、ネゲブ。今回が初めてってわけじゃないんだから」

 

「初めてじゃないから問題なんだよ、あ゛ぁ゛? それに前回言ってたよな、『ダイナゲート』を保護してくるのは最後にするって、えぇ?」

 

 今のネゲブは控えめに言えば激おこ、控えめじゃなくなれば噴火直前の活火山。そんな様子の彼女を前にしてベクターさんに保護されたダイナゲートは色々と察しの悪いAIなのか事態を飲み込めていないようでベクターさんの側で犬のようにお座りをしながら首? を傾げていた。

 

 なんとも可愛らしい姿ではあるが、この噴火直前のネゲブをどうにか宥めなければと思考を働かせているので誰もその姿を視界に収める余裕はない。

 

 下手に視線を逸らしたりした日には即刻噴火なのは間違いないと言うのは今日までの付き合いで全員分かっているからだ、がベクターさんは何を思ったのかダイナゲートをひょいと抱き上げてから

 

「でもこの寒空の中で『ブル』ちゃんが『ブルブル』って震えてたのよ? フフッ」

 

「あ?」

 

(どうして噴火させに行ったんですか、どうして……)

 

 副官たるベクターさんの唐突な煽りとも取れるギャグの披露に88式は割りと本気で泣きたくなった。ていうか、もう名前まで決めてるってことはここで保護するつもりですねはい、と軽い現実逃避をしていると

 

「それと88式とステアー、今度来たら突き返せって言ったの忘れたのか?」

 

「へ!? あ、いや、勿論覚えてましたよ、はい。ただちょっとその、断りづらかったといいますか~」

 

「ダイナゲートの整備と鉄血システムからの解除で今度の予算増額、チョロい儲けだった」

 

「ステアーちゃん!!!???」

 

 どうにか言い訳しようとした88式だったが同僚からの裏切りによって努力が水の泡になる、いや、それどころではなくなった。

 

「……はぁ? おい、どういうことだ説明しろ、88式」

 

「え~と、その~、開発予算を使い切っちゃいましてぇ、でも指揮官と副官がポケットマネーから予算を出してくれるって、ね?」

 

 この際だ、私だけじゃなくてみんな纏めて噴火に巻き込んでやる。88式は死なば諸共の精神でネゲブに言い訳をしつつ視線を指揮官たちに送れば、一つ頷いてから。

 

「Vectorが喜ぶ顔が見れるなら安いもんだ」

 

「自分の我が儘だもの、これくらいは出せるわ」

 

「お陰でジェットスクランダーの試作機がまた作れます」

 

 ステアーちゃんはちょっと黙っててと言いたかった、言いたかったがその口は背筋に戦場で狙撃手に狙われたかのような悪寒を感じ開くことはなかった。

 

 誰がとか、何がとか言うまでもない、目の前のネゲブの堪忍袋の緒が切れたのだ。そこからは言葉に表せないような噴火と説教の嵐を四人は黙って聞くことしか出来ず、だが結局は大きく息を吐きだしてからネゲブはダイナゲートことブルの頭部に当たる部分を軽く小突いてから。

 

「まぁもういい、そこまでやってるんだったら責任持って世話しろ。ったく」

 

「フフッ、良かったわね、ブルちゃん」

 

「悪いな、ネゲブ」

 

「悪いと思ってんなら拾ってくるなって話なんだけど」

 

 なんだかんだで指揮官とベクターさんに一番甘いのはネゲブですよねと思いつつ、その言葉を飲み込む88式であった。あったが気が緩んでしまった彼女は特大の地雷を踏み抜いてしまうのだった。

 

「でもネゲブが怒るのも無理ないですよね、あれでダイナゲート11体目ですもん」

 

「あはは、その度に私とステアーちゃんで修理して予算を……あっ」

 

「そこの二人はすぐに正座し直せ、話が出来た」

 

 メカニック二人の説教はどうやらまだ続くらしい。




『88式さん』
基地のメカニック担当その1
 戦術人形に搭載できるロケットパンチとブレストファイヤーを(会計には未申告で)開発中。
 つい先週には開発予算の半分で制作した試作ブレストファイヤーを試射するも熱暴走で爆散したとか。

『ステアーさん』
基地のメカニック担当その2
 戦術人形が装備できるジェットスクランダーとグレートブースターを(会計には未申告で)開発中。
 三日前、残りの開発予算半分を使い込み制作した試作ジェットスクランダーが試験飛行するも、開始直後に速度に耐えられずに爆発四散した。
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