ベクターさんの華麗なる日々~甘口~   作:鮪薙

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指揮官も人間だからね、風邪くらいは引く。


〝ベクターさんと看病〟

「まさか、あなたが風邪を引くなんてね」

 

「ははっ、油断したかな」

 

 日々休んでるの彼というレベルで業務をこなし、必要とあらばエーアデントを飛び出して本社に顔を出したりベクターさんの料理を笑顔で完食し、その後の不調を見せないほどに超人とも言える指揮官と言えど彼もまた人間。

 

 怪我もすれば今回のように風邪を引くことも決して有り得ないわけではない。無いがその事実が基地に連絡された時、あのネゲブさんですら嘘だろという表情を晒していたのでかなりのレアケースなのだろう。

 

 と言うか実際レアケースの中でもとびっきりのレアケースであり医務室ではPPSh-41がウキウキで診察し彼の血液検査をするほどだった、まぁ結果としては本当にただの風邪だったので医務長のテンションは平均値に戻ってしまったが。

 

「貴方が風邪を引いたってだけで広報部では一面記事の号外出さなくちゃとか言い出すんだから」

 

「大袈裟な、俺だって風邪を引く時は引くんだが」

 

 何も人生で一度も風邪を引かなかったとかではなく、彼も何度かは引いたこともあればこうして寝込むほどじゃないけど多分コレ風邪気味ってやつだなということを感じたのも一度や二度ではない。

 

 なので自分がこうして寝込むだけで大騒ぎになる基地には苦笑しか無いがそれを見てベクターさんは

 

「それほど貴方を慕ってるってことよ」

 

「なら嬉しいがな……」

 

「とりあえず、薬はPA-15が用意してくれるらしいしPPSh-41が言ってたように今日一日を安静に過ごしてれば治るらしいから、ゆっくり休日にしちゃいましょ」

 

 シャリシャリとリンゴの皮を剥きながらのベクターさん、此処最近を考えればもしかしたら過労の可能性も無きにしもあらずだったりもする。

 

 そこに偶々風邪が刺さって今に至る。それならば指揮官と言えどこうして寝込むくらいの症状になっても不思議じゃない、とまで考えてふぅとベクターさん。

 

「だとしたら今までの働き方は過労にならないってことよねそれ」

 

「ん? どうしたんだ急に」

 

「貴方の超人っぷりを改めて認識して凄いわねって見直したってだけよ」

 

「超人って、エルモ号の指揮官よりはまだまだ未熟な男だと思ってるんだがな」

 

「悪いけど致死量の自白剤を打ち込まれても何となってる人は例外としておくべきだと私は思うわ」

 

 あれはもうそういう怪異だと思うのよとはベクターさんとエーアデント少女の感想だったか。因みに致死量の自白剤を打ち込まれた経緯はエルモ号で放逐される前に鉄血の捕虜になった時だとかなんとか。

 

 何が恐ろしいとすれば救助された直後から戦闘指揮を執っていたという話だろう、普通の人間だったら昏睡か良くても意識が朦朧として指揮を執るなんて不可能だと言うのに。

 

「彼って、風邪とか無縁そうよね。仮に感染病とかに掛かっても症状を出さずに自然治癒でもするんじゃないかしら」

 

「……困ったな、否定できない」

 

 こうして考えれば自分はまだまだ人間の範疇なんだなと妙な納得をしていると彼の眼の前にフォークに刺さった切り分けられたリンゴが差し出され、それからベクターさんから

 

「ま、あれこれ考えるのは今日はもう止めましょ。病人にそんな事考えさせるなってネゲブに怒られそうだし、それよりもはい」

 

 確かにその通りだと差し出されたリンゴを食べる。シャキシャキとした瑞々しい食感と音、しっかりとしたリンゴだと当たり前のことを思いつつ飲み込んでからそう言えばネゲブはと聞けば

 

「今は昼食を用意してくれてるわ。ま、多分おかゆとかその辺りだと思うけど」

 

「本当は自分が作りたかったって顔してるぞ、Vector」

 

「そりゃそうよ。でもネゲブに今回ばかりは止めておけ、殺す気かって怒られたわ」

 

 おかゆくらいなら大丈夫なのではと彼女自身は思っていたようだがネゲブからの許可は全くと言っていいほど降りず、これには流石にショックだったようで落ち込んでますという表情を隠せずにいた。

 

 指揮官としては別に大丈夫なので嫁に作ってもらいたかったがという本音もありつつネゲブがそこまで珍しく人を心配してるんだなというのも分かるのでとりあえず、落ち込んでいるベクターさんの頭を撫でて励ますくらいしかできなかった。

 

「また風邪が治ったら昼飯でも作ってくれ、な?」

 

「ありがと、その時は腕によりをかけて作ってあげるわ」

 

「部屋の前まで来たらイチャつきながらまた私の城を好きに使うぞ宣言されるのを聞かされるのは困るわね」

 

 どうやら昼食のおかゆを運んできたネゲブさんの唐突なエントリー、まぁそれで驚く二人でもなく彼女の怪訝にベクターさんは大丈夫よと告げてから

 

「その時はネゲブにも見てもらうつもりだもの」

 

「……ま、勝手に始められるよりはマシか。それよりもほら、おかゆ出来たから、それと薬も受け取っといたわ」

 

「悪いな、ネゲブ」

 

「ふん、あんたが珍しく風邪を引いたって聞いた驚いたわよ本当に」

 

 言葉はこうだが彼女なりに心配はしていたようで指揮官の顔を見て安堵していたりする。とは言えいざ顔を見たら本当に軽い風邪だったんだなと思わせられて、少々大袈裟に騒ぎすぎだろこの基地とは思ってもいるが。

 

 因みに本日のネゲブさんが作ったおかゆはシンプルイズベストな卵粥、だがシンプルが故に腕前がはっきりと分かる料理でもあるが食べた指揮官曰く。

 

「うん、ネゲブの料理は美味いなやっぱり」

 

「はいはい、あまりそうやって私を褒めると奥さんが嫉妬するわよ」

 

「あら、そこまで嫉妬深くないんだけど私?」

 

 正直、ネゲブとベクターさんは付き合いが長いというのもありあまり彼女に嫉妬するようなこともなく、何だったら料理に関してはそもそもがそもそもなので嫉妬のしようがないとも言える。

 

 もし他の女が指揮官にとなってもコレまたさほど嫉妬しないものベクターさん、だって彼は私の夫だし、彼が浮気するなんて絶対に有り得ないしと信頼しているからと本人が言うが

 

「(つまるところ正妻の余裕ってやつよね)食べ終わったらVector、あんたが片付けておいて。私は業務に戻るから……いや、そもそもあんたも業務に戻りなさいよ」

 

「分かってるわよ。でももう少しだけ、ダメ?」

 

「駄目じゃないけど、書類が溜まるわよ」

 

 言われ指揮官は明日が大変だなと他人事のように思う。一日でも休むというのはつまりはそういう事であり、彼がワーカホリック気味に働いている理由でもあるのだとベクターさんもため息を吐き出すのであった。




原作指揮官なら風邪とか一時間もあれば治癒しそうだよね(偏見
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