ここは射撃訓練場、人形といえど日々の訓練は欠かせないものであり当然ながらこの甘口に緩い世界線でも戦闘はあるのでベクターさんが所属しているこの基地にもそこは存在している。
今日も朝から訓練をしていることを知らせる銃声が鳴り響き、それから
「ふふん、今日も私の調子は万全ですわね!」
満足げな声と表情で射撃の主である『Kar98k』ことカラビーナ、本来の個体よりも小柄ながらも愛銃のライフルを己の腕のように扱い放たれる弾丸は射程距離内ならば百発百中を誇るほどの腕前を持っている。
また戦場での判断力などもこの基地では精鋭と言っても過言ではない実力を持ち、それ故か態度が少々尊大になってしまっているが小柄な体型と合わさって少女が背伸びをしているという印象を生んでいるので基地や街の住民と軋轢などは出ていない。
寧ろ上記のように子どもの背伸びとして見られているので可愛がられていたりする。本人的には非常に不満ではあったのだがそれを表に出さないことこそお嬢様であると誰かが(ベクターさん)が吹き込んでからは寧ろ受け入れているとかなんとか。
「さて、もう少しやっておきましょうか。何時出撃があるともわかりませんからね」
「おはようカラビーナ、朝から『銃』の射撃訓練を『がん』ばるわね……フフッ」
ふらっと現れ毎度のごとくダジャレをぶっ放してくるは我らが副官ことベクターさんにカラビーナはゲンナリとした表情を隠さずに見せる。
はっきりと言えばカラビーナはベクターさんが苦手である。正確にはこの基地のベクターさんが苦手である。こうして寒すぎるギャグを言っては自分で笑うところも変だと思っているし、事あるごとに自分を子供扱いしてくるのも彼女にとってはこのベクターさんに苦手意識を持っている原因でもある。
だが同時に自分よりも更に優秀である部分も、自分が何か悩んでいればさり気なく聞いてくれる気遣い上手な部分はカラビーナも認めているしだからこそ〝嫌い〟ではなく〝苦手〟で済んでいるる部分も存在している、がそれはそれとして。
「毎回毎回、私と会う度にそのくっだらないダジャレを言うのを止めてくださいませと何度も申し上げていますでしょ!!!」
「あら、でもきちんと反応してくれるじゃない。ネゲブなんて最近はもう反応すら返してくれないのよ」
「それはもう半ば呆れられているか、諦められているのではと思いますわ」
実際、ネゲブは反応すると面倒だなと思いってるし反応すれば向こうが無駄に喜んで更にギャグもしくはダジャレを持ち込んでくると悟っているので最近はかなり雑にベクターさんには対処している。
対してカラビーナは毎回、ベクターさんのダジャレにきちんと反応してくれるので一日に一度は彼女と顔を合わせている、向こうからしたらいい迷惑である。
「それで何をしに来たのですか?」
「カラビーナの顔を見に来ただけよ、挨拶は大事でしょ?」
「……その挨拶代わりにダジャレを聞かされる身にもなってほしいのですが」
はぁと深い深い溜め息を吐き出す彼女に微笑みを浮かべつつ、自身の銃を軽くチェックを始める。どうやらただ挨拶に来ただけではないということらしいとカラビーナにも分かり、ふむと唸ってから。
「副官さんも訓練を?」
「『偶』には『弾』を撃たないと銃の調子も見れないもの、フフッ」
刹那、カラビーナはキレた。やめろと言った側から繰り出されたダジャレに対して彼女は手元の端末を乱暴に操作し出てきたターゲットはベクターさんの持つ銃よりも長い約70mの地点。
要は嫌がらせである。だがベクターさんはそれを見ても特に無理などという表情も出さずに定位置に立ってから
「随分と『的』が『まぁ遠い』わねっと」
「だから畳み掛けるなと言って……」
この期に及んでまだダジャレを言うのかこの人形はと抗議をしようとしたカラビーナの口は、直後にベクターさんが放った銃声で黙ることになる。
完璧に制御された連発された銃声と一切ブレることのない身体、それがワンマガジン分鳴り響いてからカラビーナが見れば、あったのは中央をで貫かれている複数体のターゲット、そして視線を戻せば普段と変わらない様子でマガジンを変えているベクターさんの姿。
「問題なさそうね」
記録が表示されているモニターを見ればミスショットはゼロと映されており、それを見た彼女はさっきまでよく分からないダジャレをしていたのと同一人物だとは思えないほどにクールという言葉が似合う姿のベクターさんを見てカラビーナは流石だと思うと同時に腹の底から怒りが湧いてきた。
無論、これが八つ当たりとかの類だというのは理解している、しているのだがやっぱりこれは叫びたくなってしまったのだから仕方がない。
「ほんっとうに、腹が立つくらいに優秀なのがムカつきますわ貴女!!」
「フフッ、でもここまでが限界ね。これ以上の距離は間違いなくブレてしまうわ、さてとカラビーナ、少し良いかしら?」
「なんですの、そもそも私はまだ訓練をしていくつもりですわよ」
ツーンと言う効果音が似合う表情と態度を取るカラビーナにあら、残念と口にしながら告げた彼女の言葉でカラビーナは手のひらを返すことになった。
「これから街に出て揚げたてのフライドポテトを食べに行こうかと思ったのだけれど」
「行きますわ!!!」
カラビーナと言う製造時にちょっと不具合があり身長が小柄にされながらも狙撃手として優秀な人形が居る。自分に厳しく、他人にもそれなりに厳しく、ベクターさんのダジャレには人一倍厳しく反応する基地のお嬢様人形が。
「おいしいですわ~」
「フフッ」
アイツまた餌付けしてるんだけど。その様子を目撃したネゲブの言葉が全てであり、平時の彼女の扱いは末っ子ちゃんのようなものでありベクターさんはそんな彼女をよく街に誘っては好物の揚げたてのフライドポテトを食べている様子が目撃されている。
『カラビーナちゃん』
通常のカラビーナと比べると二回りほど身体が小さいエラーロッド個体、でも優秀だし精鋭の一人だし努力家なので愛されてる。
なお、お嬢様を自認しているが特にそういった出の人形でもなく、好きな物はファストフード店の揚げたてのフライドポテトというくらいには庶民的な娘である。