基地がある街のとある酒屋、今日のベクターさんは指揮官と共にそこに居た。大きめな店内の棚には様々なお酒が並んでおり、それらを彼女は真剣な眼差しで品定めしていく。
この基地のベクターさんはお酒には中々なこだわりがある。とはいってもこの銘柄がとかではなく、シチュエーションで飲むものを決めているという程度ではあるのだが。
ともかく、彼女がいまここに来ている理由はそのお酒を切らしてしまったから買い足し、とちゃっかり指揮官との二人っきりのお出かけというのも混ざっていたりする。
「そう言えば聞いてなかったんだが、どんな場面で飲む酒を買いに来たんだ?」
「一言では足りないわね。任務の前、入浴前に中に後、寝る前、それと貴方と飲む時、色々ね」
「寧ろなんでそこまで足りなくなりまで来なかったんだとなるんだが……まぁお前と出かけられるなら悪くないか」
ともすれば成る程、こうして買い出しに出てくるわけだと指揮官はベクターさんの隣に移動し、同じように商品を眺め始める。
思えば毎日のように呑んでいるお酒は彼女が用意してくれているものであり自分はあまりその辺りに詳しくなかったなと割りと今更なことを口にすれば
「私も詳しいわけじゃないわ。飲みやすさとか、度数とか、その辺で判断してるだけだもの。あとの細かいことは店長のおすすめだったりするわね」
「へぇ、そうだったのか。妻が世話になってるな、店長」
「ハハッ、別に客に聞かれたことを答えることなんざ、対して苦でもないっての。寧ろ見ての通り暇を持て余してんだ、良い時間つぶしになってるからこっちのほうが礼を言いたいよ」
確かにこの店は来る度に自分たち以外の客が入ってるのを見たことがない、繁盛しているのかこれでと思いたくなるが実際は配達などがメインの店らしいのでそっちで儲けているらしい。
寧ろこうして足を運んでくる客のほうが珍しいとか。そんな話を指揮官と店長がしている間もベクターさんは淡々とお酒を選び続ける、が中々買い物かごには入れてないことに気付いたので聞いてみれば
「今カゴに入れてしまうと、それで終わりにしちゃいそうなのよ。やっぱり全部は一度目を通したいじゃない?」
「なるほどね、ところでこれは買わないのか? いつも呑んでるだろ?」
指揮官が手に取ったのはウォッカ、値段はそこそこ張るがベクターさんはこれを好んで呑んでいるし彼もまた好きで彼女が出してくれては一緒に味わっている。
普段であればいの一番にカゴに入れるはずなのだが、なんて思っていたが返ってきた言葉に納得しかなかった。
「暫くは消費を抑えようと思って、会計がちょっとお怒りらしいのよね。特に最近はメカニックの事があったから」
「あ~、そういやG36Cが式自の堪忍袋がそろそろやばい、ゲロマズですとか言ってたな。だったら……これとかどうだ?」
エールビール、この店では手頃な値段のものでありウォッカよりは遥かに費用は抑えることが出来る代物。無論、味が悪いとかはないのでベクターさんはそれを受け取ってから微笑み
「そうね、暫くはこれにしようかしら。『エール』でも私は酔『エール』もの、フフッ」
「……調子が良さそうだな、奥さん」
「あぁ、可愛いだろ?」
皮肉を言ったら惚気を返されれば店長のおっちゃんはこりゃ敵わねぇわと笑うしかない。この世界でもおしどり夫婦とも言える存在は見てて楽しいものであり、思わず自分のところの鬼嫁と比べているとベクターさんがとある棚を見て
「あら、米酒が売り切れてるなんて珍しいわね。今日はそこまで仕入れなかったの?」
「仕入れはいつも通りだったんだがな、他の基地からあるだけくれって連絡が来たんだよ。まぁ一括払いだったから文句はねぇんだが」
「米酒だけをあるだけってそれはそれで珍しいな……」
聞けば注文先の声は子供っぽさが微妙に残る女の声で、しかも涙声だったということを聞けばベクターさんは大量購入の理由を一つ思いつく
「失恋かしら、基地っていうことは初恋だったのかもしれないわね」
「指揮官が人形にってことかぁ、よく聞く話だな」
「それで『自棄』酒、後で喉が『焼け』て大変なことになっちゃうわねきっと、フフッ」
「今日は旦那と居るからか本当に奥さんの調子が良いな」
ドヤ顔でベクターさんがダジャレを披露しているが真相は労基が仕事してないレベルで連勤を強いられ、やっと得た休みが蒸発したが故の自棄酒だと彼らが知ることはない。
ついでに労基が仕事してないというのは彼らの基地の一部事務業も人のことを言えないので仮に真相を知っていたとしても口にすることはない、この世界は甘口だとしても優しいというわけではない、何時だって仕事は情けも容赦も存在しないものなのである。
「ほい、毎度あり! また頼むよお二人とも」
「んじゃ帰るか。だがVector、これで式自達が許してくれると思うか?」
「彼女もお酒は好きだもの、大丈夫よ」
こうして二人はお酒の調達を済ませ基地に戻ってから式自とG36Cへお土産を渡すが彼女から返ってきたのは
「嬉しいですけど今日蒸発した三連休、どこかで下さいよ」
呑む時間をくれ、切実な訴えに指揮官は頭を悩ませることになるのであった。
『64式自さん』(会計)
基地の予算分配や収入や出費の纏めなどなどアレコレを全てを担ってしまったが故に基地きってのブラック動労をすることになっている人形。
最近、一ヶ月ぶりの三連休が連休に化けてキレたしメカニックバカ二人がまた変なのを開発してるという密告を受けて爆発した。
『G36Cさん』(会計)
三度の飯より本が好きだが働かないわけにはいかないということで事務なら読書する時間が出来るだろうと会計に来てしまった戦術人形、現実は何時だって無情である。
最近、趣味で購入した三桁に及び量の本を経費で落とそうとして式自にブチギレられた。
『米酒を大量発注したとある少女』
この世界でもブラック動労から逃れられないんやなって。