「倉庫の整理をするのね、『そうこ』なくっちゃ。ふふっ」
「開幕から良い根性してるわアンタ」
これから面倒な作業が始まるのに士気を下げてんじゃねぇぞテメェとネゲブさんの無言の圧が場を支配するエーアデントの一角にある倉庫街。
本日は月一で行われる倉庫整理の日、端的に言えばコレ以上ないほどに面倒で膨大な作業なのである、なんたって街の倉庫なのだから言うまでもないだろう。
「場を和ませようとしただけなのだけれど……」
「副官のは場を和ませるのではなく、場を凍らせるの間違いですわ!!」
「あのコレ今日中と言うか午前中に終わるんですよね? じゃないと私たちの仕事が午後悲惨なことになるんですけど」
「面白い冗談ねG36C。そう言って終わった試しあったかしら、今日は楽しい徹夜コースに決まってるじゃない」
嫌だぁ!!! 叫びという悲鳴が倉庫街に響くが誰も気に留めたりはしない。ついでに指揮官はどこに行ったかと言えば現在は責任者と依頼内容の確認をしているのである。
余談はおいておき式自としては一つ気になることがあった。それは彼女の視線の先に居る基地のメカニック二人組、いつもであれば月一のこの作業をG36Cと同じように嫌うはずだと言うのに今日は寧ろ乗る気なのだ。
絶対に何か隠してんだろと思うなという方が無理だし疑うほうが自然だとすら言える。だがここで問い詰めたとしても意味がない、どうせシラを切られるだけだと式自はとりあえず黙っていることに。
その件の二人だが先に言ってしまえば式自の推理が正しい、本当ならばこの時期が来る前に一時的に避難なりなんだりするはずだった発明品の数々がこの倉庫街に保管されており、何が何でも先に確保、そして極秘裏に別の場所へ移送しなくてはならないのだ。
「ステアーちゃん、見つかる前に回収しなくちゃね……!」
「じゃないと今度こそ赤い悪魔に予算停止処分を言い渡される、回収しなきゃ」
「……」
今の聞かなかったことにして良い? 小声だと言うのにはっきりと耳が拾ってしまった問題児二人の会話に広報部担当MDRは作業前だと言うのに凄まじい頭痛を感じるしかなった。
しかし逆に考えようと彼女は閃く、自分が現場を押さえ会計とネゲブに報告すれば広報部の評価が上がってボーナス出るんじゃね? と。
(やるか、それに特ダネなんていくらあっても困らないしな)
思えば締切が近いやつもまだ一面記事決めてなかったしとMDRは一人決意する、あとついでに人員も誰か欲しいしと、いやそもそもなんで一人しか居ないんだよこの部門と今更な疑問を抱えるが原因としては彼女自身が募集を掛けてなく、何だかんだで一人でこなしてしまうからでありベクターさんか指揮官に言えばすぐに人は入ることに彼女は気付いていない。
後日、今回の特ダネ記事が赤い悪魔こと式自の目に止まりメカニック組が泣き叫ぶことになるのは言うまでもないしお陰で人員が増えることになるが未来の話なので置いておこう。ともかくそれから数分後、指揮官が戻り全員に作業内容の確認を行ってから
「じゃあ全員、怪我のないように作業を始めてくれ!」
「まぁ怪我しても私たちが待機してるから安心してよ、あまりフザケた理由だとペーシャ医務長が怒るけどね」
「私はどちらかと言えばおやっさんたちの方が気が気じゃないのですが」
エーアデント医療班【PA-15】と【PPSh-41】、詳しい説明は後日にするとし二人も合流したことで始まった倉庫整理、無論だが人間の作業員もほぼ全員で掛かっているので医療班の役割は彼らの万が一に備えてという方が正しい。
寧ろ人形組は適当な怪我しようとも我慢して働けと言うのが医務長様の考えであり、PA-15もそこは同意としつつまぁまぁと彼女を説得している。なお、善意ではなく人形に有用な薬剤の試験などを行いたいだけなので事情を知っている人形は絶対に世話になりたくないと思っているのは周知の事実である。
「それにしてもっと、普段から倉庫は整理しておきなさいって思うのは私だけなのかしらね」
「いやぁ分かっちゃいるんだがよ、中々時間が取れねぇんだわ」
「ふふっ、でもお陰で実入りは良い依頼が来るんだから悪い話でもないと思うわよ。スチェッキンも商品の仕入れになるって言ってるし」
「ですがその所為で毎月私たちに任されているということはありませんのっとと」
カラビーナの的を得ている言葉におやっさんはガハハと笑い誤魔化す、なお誤魔化しきれるとは言っていないのでネゲブは深い溜息を吐き出すことになるのだが。
またスチェッキンの話も事実であり、倉庫の外では整理してでてきた代物に目を通し、問題ないならと引き取っては商品にしている。曰くこれがまた他の街では中々いい値段で売れたりするらしい、だがそんな彼女にもとあるライバルが居る。
そしてその人形は今日も来た、カラカラとリアカーを引き作業が行われていると確認すると遅刻してしまいましたという表情をしてから足早に向かってきた人物を見てスチェッキンはうげっという表情をしてから
「来たな、スプリングフィールド……」
「あら少し遅れてしまったようですね、こんにちは皆さん、お茶やコーヒーをお持ちしました」
穏やかなほほ笑みを浮かべながらやってきたのは作業員に差し入れを運んできたエーアデントで喫茶店を開いているスプリングフィールド、これだけ書くと他の基地の彼女と変わらないのではとなりそうだが違う。
どういう訳か、エーアデントの彼女は妙な趣味を持ち合わせておりそれがリアカーをこの場に持ってきた理由とスチェッキンがライバルと呼ぶ理由の2つにも繋がる。
「お、毎回すまねぇなマスターさん。アンタが気になりそうなものはそっちに固めてあるから後で見てってくれ」
「ありがとうございます、まぁまた面白そうな物がたくさんありますね」
「ぐぬぬ、あれも結構良さげだったんだけどなぁ」
スプリングフィールドさんの趣味、それは見るからにガラクタ或いは産廃、もしくは使用用途不明のアイテムの収集。彼女の喫茶店や自宅にはそういった代物が所狭しと飾られており、これは何と聞けばそれはもう輝かしい笑顔で解説してくれるとかなんとか。
ともかくそんな感じに毎月エーアデントでは倉庫整理が行われる、今日もまた午後に余裕で食い込むほどの時間を掛けながら……では最後にメカニック組の顛末だけを、彼女たちは作業開始と同時に秘密倉庫に回収に向かった、が背後を付けてきていたMDRに気付けなかったのだ。
端的に言えばMDRの密告で現場を押さえられスプリングフィールドとスチェッキンが徴収しに来たのだが二人に言わせると
「おぉ~、これはこれはどれも上手くすれば高値で売れそうな発明品の数々じゃないか、良いんだね?」
「宝の山ですねこれは、あ、この放熱板や送風機なんか面白そうですよ」
「許して……許して……」
「予算停止だけは、お願いします、それだけは私たちも辛い」
「だったら余計な仕事増やしてんじゃねぇ、殺すわよ」
その後、指揮官とベクターさんの説得で予算停止こそ回避できたが減額は食らってメソメソと泣くメカニック組が居たとかなんとか。
『スプリングフィールドさん』
エーアデントでカフェを営んでいるが何故か妙な道具などを収集するクセが有り、またそれをなんとか売ってみようとする姿が度々目撃される。
こちらもまた中の人ネタ、借金をこさえないだけマシかも知れない。